
【短編】無人島だった
しばらく見ないうちに、かなり工事が進んでいる。
立ち止まって顔を上げてみても、もう先端は見えない。
「これはなんだい? 話してた謁見場っていうのは、この建物かい?」
男がいった。
彼はたったいま東海岸に流れついたのだ。知らなくてあたりまえだ。
「ちがうよ。これは、無人塔さ」
はっきりといったつもりだったけれど、男はすこし首をひねり、
「ここが無人島だということはわかっているんだ」
「なんだ、知ってたの?」
「だって、君から聞いたから」
いや、というか、と続けて
「無人島にしては人が多いよね。って、この表現もどうかと思うけど……さっきから普通に人とすれ違っている」
「彼らも、ほとんど東海岸に流れついた人たちだよ」
「東海岸?」
「そう。あそこで流入者を迎え入れるのが僕の仕事なんだ」
「君もあの海岸から?」
男は落ち着かないのか、きょろきょろとあたりを見回している。
「僕はちがうよ。ここの生まれだ」
「えっ? ここって無人島だよね」
「そうだよ。さっきいったじゃん」
じっとこちらに視線を向けてくる男を、僕も見つめ返す。
「でも、西じゃなくて良かったね」
「他にも海岸があるんだね……そちらには、なにかあるのかい?」
「あっちは地獄だ、って父が」
「父……かい?」
「そう。僕は行ったことないんだけどね」
「そういえば、君は家族と住んでいるのかい? 母親は?」
「家族? 母親……? まあいいや。父だけだよ。謁見場で生まれてからずっと」
「なるほど……ね」
続けてなにかを呟いていたけれど、男の言葉は聞きとれない。ひとりごとだろうか。
「そういえば、女がいないな」
「もしいたとしても謁見場だよ」
「どうして?」
「それはそうだよ」
「そう、なのか……」
まっすぐに続く石畳の道。その先へ、男は顔を向けている。
「その……謁見場って、どこにあるの? ここから近いのかい?」
「もうすこし歩くよ」
そうか、と小さく頷いて下を向く男。
僕は、ふと思いついて、
「無人塔にも面白いところはあるんだけどね」
「えっと……ここが、その無人島だよね」
「そうだよ。すこしだけ寄っていく?」
「どこに?」
「だ、か、ら、無人塔」
僕が一言一言、丁寧にいってやると、
「よくわからないけど、寄り道はいいよ」
と、男は手であごを触りながら、
「ここって、無人島なんだよね?」
またそう呟いて、無人塔を見上げる。