
一輪の赤いガーベラ
4月14日今日は70歳になる恩師の誕生日だった。
前日までプレゼントで何を買うか悩んだ。
師弟関係だからと言って余りにも高価なものも、余りにも安いものもなんだし、身に付けるものはこだわりがある人だし、僕の持ってる技術は教授から貰ったものだからそれもあげられないし…。
悩んだ結果、無難な食べ物のGODIVAのチョコレートにした。
自分じゃ頻繁に買うものでもないだろうし、食べなくても人にあげられるし、コーヒー好きだし。
でもチョコだけ手渡すのもアレだと思って花もついでに見た。
一緒についてきてくれた彼女は「男の人が男の人に花かぁ…」とあまり乗り気じゃない。
うーん。
僕もちょっとそう思った。
でもチョコだけだとカッコがつかない。
かといって仰々しく花束だとちょっとやり過ぎ感が否めない。
かなり迷った挙げ句、赤色のガーベラを一輪だけ買うことにした。
女性以外に花をあげるのは初めてかもしれない。
ラッピングを済ませるころ、外はもう陽が暮れていた。
一言「おめでとうございます」が言えれば良いと思ったし、わざわざ何時に会えますかと連絡するのも恥ずかしいから、何も言わずにうちから15分のご自宅へアポなしで向かった。
教授は大学から帰宅したばかりのようだった。
一言挨拶のつもりだったけど「まぁ、家にあがんなよ」と言ってコーヒーを出してくれた。
教授は70歳に見えない。
ずっとITの仕事でパソコンを見てるはずなのに視力もそんなに悪くない、腰も曲がっていないし、健康そのもの。
なぜゆえそういられるのかを聞いた。
「好きなことをやることだよな」
あまりにもシンプルな答えだった。
続けて
「僕はね、仕事をしてる感覚がないんだよ。だから疲れないの。何時に寝て何時に起きるって決めてもいない、お酒飲みながらつまみ食べながら、モノづくりしたり、企画書いたりして、眠くなったら眠る。自分が好きなことしてるから、ストレスもないんだよ。だから怒ったことも全然ないんだよ。緊張もしないんだよ。」
なるほど。
教授はいつも機嫌が良い。
12年お付き合いをしているが怒ったところも一度も見たことがない。
登壇する時、プレゼンする時、どんな時もマイペースで緊張した様子を見たことも一度もなかった。
40年以上教師をやっているからだと思っていたが
”好きなことやってるだけだから”
とてもシンプルだけど納得できる答えだった。
教授は続けて
あとな、一度好きで始めたことは辞めないことだな。辞めるんだったらやらないこと。
色んな事に手を付けて辞めてを繰り返している自分には耳が痛い話だ。
教授は書家であり、陶芸家であり、大学教授であり、コンサルタントであり、プログラマーであり、クリエイターであり、経営者でもある。
そしてそれを今でもずっと続けて体現している。
ADHDとは知らない頃から教授と馬が合うのは、多動な僕の目指す理想の人だからだった。
多動なのに不注意もなく、怒らずいつも優しくて、困っている経営者や人を企画で助ける、まるでスーパーマンみたいだった。
出会いもとても運命的だった。
近いからという理由で進学した高校時代。
ITで有名な部活があって、兄のパソコンをいじっていた僕は興味があってその部活に入部した。
先輩から「この部を創立した顧問の先生は凄いんだよ」といつも自慢されていて、会ったこともない僕からすれば「へぇそうなんですか」って感じだった。
やりたいことがなかった僕は、親の手を借りて大学に行くことになる。
意志もないから、自分が推薦で行けて、近くて、兄も通っていたというテキトーな理由で大学進学を決めた。
大学に入学して「君も社長にならないか」そんなポスターが目に留まって、面白そうだと思った僕は、事務所の扉を叩いた。
そこにいたのが12年の付き合いになる今の恩師だった。
コンコンと、扉を開けるときの緊張を今でも覚えてる。
それが自分の運命を変えることになるなんて思わなかった。
出身の高校を聞かれたから答えた。
ITの部活に入ってましたって言うと、目を丸くして
それは僕が作った部活だよ
なんてことを言う。
僕は一切このベンチャー企業の存在を知らずにこの大学に進学した。
大人になった今、新聞記者に取材された時に、カッコつけて「このベンチャー企業を目指して入学しました」なんて書いてもらったことがあったが、本当は何も知らずにテキトーに入学したなんて言えない。
僕の経営者への道は、高校の頃から続いていたんだと今になって分かる。
運命の出会いってこういうことを言うんだな。
・・・
「教授、あのこれ、大したものではないのですが、お誕生日おめでとうございます。今の僕があるのは教授のおかげです。ありがとうございます。」
教授は感情をあまり表に出す人じゃないけど、プレゼントを喜んでくれた。
こんなことをしてるからいつも仕事が沢山来てるんじゃないの?
ありがとうありがとう。
なんて自分の照れを隠すように言う。
こういうものは値段じゃなくて気持ちなんだよね。嬉しいよ。
喜んでくれて良かった。
ひと言挨拶を交わすだけのはずが、すっかり辺りは真っ暗だった。
ご家族の時間もあるだろうと思い席を立つ。
「教授、ガーベラの花言葉は”常に前進”、赤いガーベラの花言葉は”限りなき挑戦”なんです。教授にピッタリだと思って」そう伝えると、ラッピングした花をまじまじと見ながら。
芸が細かいねぇ。今日はわざわざありがとう。
また筍でも取りに来なよ。
そう言って別れた。
教授の口癖は「僕は止まってないから」だった。
いつも新しいことを企画していつも何かに挑戦している。
立ち止まってばかりの僕には、到底追いつけそうにない。
でも、そんな背中に憧れたから、今も歩き続けられているんだ。
恥ずかしくて教授には言えないが、”一輪”の本数の赤いガーベラの花言葉にはもう一つ意味がある。
”あなたが私の運命の人です”
人の運命は、出会いで大きく変わることを知った。
お金も時間も豊かさも、心も愛も勇気も、人同士が紡ぐものだ。
文字通り、教授から「教え授かった」ものをこれからも紡いで生きたい。
これからも出会いを大切にして生きたい。
そして9年の付き合いにもなる今の彼女との出会いも、教授の紹介がきっかけだ。
僕もいつか親になり「運命」の文字通り、いつか命を運ぶ日がくるかもしれない。
これから出会う人々の為にも、赤いガーベラの花言葉のように”常に前進” ”限りなき挑戦”をして生きていきたい。
まだ肌寒い季節なのに、今日はなんだか温かい1日だった。