【ひよりの小説】1ページ目 相談部、はじめました?

コン、コン。
ドアをノックする音がした。
「どうぞ~」
返事をすると、ドアが少しだけ開いて、すきまから見慣れたお団子頭がのぞいた。
「ひよりちゃん、遊びに来たよ~」
「あ、りこちゃん! いらっしゃ~い!」
藤野りこちゃん。本と雑貨が大好きで、その話になると、つい声が弾んじゃう子。
りこちゃんは部屋に一歩入ったところで、きょろきょろと中を見回した。
「わあ……思ってたより、ずっときれい」
「でしょ!」
部屋の真ん中には、木の丸いテーブル。椅子は6脚あるけど、座っているのは私たち3人だけ。
「ひよりちゃんからメッセージが来たとき、びっくりしたよ。『相談部作った!』って。作ったのって、私がバイトのことで相談した次の日だったよね?」
「そう! やっちった!」
「いや、行動力ありすぎない!?」
「だって、思い立ったが吉日だよ! すぐやらないと、もったいないじゃん!」
「うぅ、それ、私が一番苦手なやつだ……」
りこちゃんが、しゅんと肩を落とす。いやいや、そんなに落ち込まなくても。りこちゃんだって、あのあとちゃんと自分で決めて、バイトを始めたんだから。
あ、私は小日向ひより。相談部を作ろうって言い出したのは、この私! 思いついたら、すぐやってみる。それが私のいいところ……だと思う。たぶん。
「ところで、りこちゃん。今日はどうしたの? もしかして、相談?」
「あ、ううん。相談部ができたって聞いたから、覗きに来ただけ」
「きゃー、覗き魔!」
「……え? ひよりちゃんって、そういうキャラなの?」
「いえ、違います。ごめんなさい。忘れてください」
すべった。完全にすべった。
隣の席で、くすっと笑う声がした。
「ひより、りこちゃんが困ってる」
七瀬みお。私の幼馴染で親友。小さいころから、ずっと私の隣にいる。落ち着いていて、しっかりしていて、たぶん私より私のことに詳しい。……なんで?
「りこ、久しぶりー。バイトどう?」
テーブルの向こう側で、ひらひら手を振っているのが、桃瀬まな。大学で仲良くなった友達で、幅広く物事を知っている。しかもそれをつなげて、私が思いつきもしない方向に話を広げてくる。ずるい。
「うん、まだ覚えることばっかりだけど……楽しい、かな」
「そっかー、いいなー。ほら、座って座って」
まなが隣の椅子を引くと、りこちゃんはほっとしたように笑って腰を下ろした。それから、部屋の中をもう一度見回した。
「それで相談って、もう何件くらい来たの?」
うっ。
「えっとね……数えるほどもない、かな」
「そっか。何件?」
「……0件」
りこちゃんの目が、まんまるになった。
「え、でも、作ったのって2週間くらい前だよね?」
こうなったら、開き直るしかない。
「そうだね!」
「その間、何してたの?」
「待ちぼうけ!」
胸を張って答えた私を見て、りこちゃんは、ゆっくりみおの方を向いた。
「みおちゃん、ほんと?」
「うん、ほんと」
みおは手帳から顔も上げずに、さらっと言った。
りこちゃんは困ったように、今度はまなの方を向く。
「まぁ、来ないものはしょうがないよねー」
まなが、あっけらかんと言った。
「え? それで本当にいいの!?」
りこちゃんは小さくため息をついて、それから首をかしげた。
「ねえ、ひよりちゃん。そもそも、相談部のこと知ってる人っているの?」
「え?」
「告知とか、した?」
「したよ! りこちゃんに伝えたじゃん!」
「……私だけ?」
「え?」
「『相談部、はじめました』って、いろんな人に伝えたり、掲示板に貼り紙したり」
「貼り紙……」
貼り紙。もちろん知ってる。掲示板に、サークルの勧誘とか、いっぱい貼ってるやつ。
……でも、自分で貼るなんて、考えたこともなかった。
「もしかして、してないの?」
「……うん」
「それじゃあ、誰も来ないよ。だって、私しか知らないんだもん」
……。
…………あ。
「そっか! 知らなかったら、来られないんだ!」
「え、今気づいたの?」
「うん、今気づいた!」
私が力いっぱい答えると、りこちゃんは頭を抱えた。
と、そこで気づいた。みおもまなも、ぜんぜん驚いていない。
「ちょっと待って。みおもまなも、告知のこと知ってたでしょ!」
「まぁ、ねー」
まなは、あっさりうなずいた。
「……知ってた」
みおも、小さな声で続ける。
「なんで黙ってたの!?」
私がそう聞くと、まなは頬杖をついて、
「んー、3人でのんびりしてるのも悪くなかったし?」
と言ってのけた。
「それは……私もだけど!」
まなは「あはは」と笑った。
すると、みおが手帳を開いて、ページのあいだから1枚の紙を取り出した。
「実は、ポスターは作ってあるの」
『相談部 はじめました』
丁寧な字。かわいいイラストつき。しかも、部屋の場所と、相談できる時間まで書いてある。

「えっ、すごい! なんで貼ってないの!?」
「……まだ、完成してないから」
「どこが!?」
みおは、ポスターの端を指さした。
「ここの線、ちょっとだけ曲がってる」
「わかんないよ!?」
「なんか、盛り上がってるところ悪いんだけど」
りこちゃんが、遠慮がちに手を挙げた。
「ポスターを貼って、もし相談が来たとして、みんな、ちゃんと答えられるの?」
「え?」
「相談って、いろいろあるでしょ? 私のバイトのときみたいなのもあれば、もっと難しいのもあるだろうし。全部に答えられるわけじゃないよね?」
……たしかに。
りこちゃんのときは、みんなで話しているうちに、なんとかなった。でも、それはりこちゃんの相談だったからかもしれない。次の人も同じようにいくとは限らない。
じゃあ、どうすればいい? 相談に乗れるようになるには——
「ふっふっふ。いいこと思いついた!」
3人が、そろって私を見た。
「勉強会! 勉強会しよう! 相談に乗れるように、先に勉強しておけばいいんだよ!」
「勉強会かー」
まなが、少しだけ首をかしげた。
「うん、いいかも。相談が来ないうちに、練習しとくってことでしょ?」
「そう! それ!」
みおも、小さくうなずいた。
「準備しておくのは、賛成」
よし、みんな乗り気!
「それじゃあ、今から勉強会を始めちゃおう!」
りこちゃんが、また目をまんまるにした。
「……え? 今からやるの!?」
「鉄は熱いうちに打て! ってね」
丸いテーブルを囲んで、みんなであれこれ話し合う。空いていた椅子には、相談に来た誰かが座っている。そして、どんな相談にも「私に任せて!」って胸を張る、私。
……うん、完璧!
「それで、ひより。何について勉強するの?」
みおが、手帳の新しいページを開いた。
「えっとね……」
…………。
「……それは、今から考える!」

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