
【事業再生#7】この決算、どこか怪しい。融資8億円の裏にあった違和感|農業法人再生プロジェクト|vol.2
破産寸前の会社に、希望の道は残されているのか──。
実際に再生支援の現場に立ち会った私が、再建に挑んだ企業の「リアル」を記録します。
今回のクライアントは関東地方の農業法人。
その事業再生を5話に渡って綴ります。
家族経営で年商6億。
再生スキームや、経理・総務体制の再構築といった実務も含め、"机上の空論ではない"企業再生の記録です。
第2話では「銀行10行×借入8億×年商6億」という非対称な構造。
なぜこれだけの資金調達が可能だったのか?
再生支援の中で浮かび上がってきた“違和感の正体”に迫ります。
経営に悩む方、再建を模索する方、支援を仕事にする方にとって、現場感のあるヒントとなれば幸いです。
▼農業法人事業再生事例の第1話はこちらから▼
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不自然な融資の痕跡ー要注意先なのに直近まで融資が下りたのはなぜ?
最初にお預かりしたのは、2社分・それぞれ1期分の決算書だった。
追加で過去2年分を依頼し、まずはグループ全体の実態把握に着手する。
2社合算のBS/PLを時系列で整理し、借入条件の資料も全行分を一覧化。
眺めれば眺めるほど、ある“違和感”が浮かび上がってきた。
・営業利益は黒字
・税金の滞納は見られない
・担保も一部に限られている
一見すると、特段問題があるようには見えない。
だが、現預金残高はこの年商規模としては明らかに乏しい。
資金繰りが破綻寸前であることは、明白だった。
そして、何よりも不自然だったのが融資の構成。
10行からの借入がいずれも1億円前後に分散されており、明確なメインバンクが見えてこない。
まるで、意図的にバランスを取るように調整されたような“資金調達構造”だった。
農業法人は保証協会の利用が難しく、基本的に全てプロパー融資だ。
それでいて、直近まで新規の融資が実行されている。
<プロパー融資とは?>
金融機関が独自の判断で、保証なしで直接貸し出す融資のことです。
たとえば中小企業が銀行から融資を受ける際、多くは信用保証協会の「保証付き融資」を利用します。
これは、万が一返済できなくなったとき、保証協会が一定割合を肩代わりしてくれる仕組みです。
一方で「プロパー融資」は、保証がつかないぶん銀行のリスクが高いですが、信用がある企業に対して、より柔軟な条件で貸し出されることがあります。
つまり、金融機関がその企業の信用力を評価して「自分の責任で貸す」融資です。
(まとめ)
・保証付き融資:保証協会の支援あり。リスクが少ない。
・プロパー融資:保証なし。銀行の判断で直接貸す。信用力が必要。
決算書上は、格付けで言えば“要注意先”相当。
普通なら、新規融資などまず通らない。にもかかわらず、なぜ?
──私が見ている決算書と、銀行が見ていた決算書は、同じものなのか?
その違和感を確かめるため、私は現地を訪ねることにした。
言葉の途中で、声が詰まり、目に涙が浮かんだー決算書の真実
代表はとても優しい顔をしていた。
お茶を出し、お菓子を出し、私のことをもてなしてくれる。
どこにでもいる普通の農家のおじさんという感じだった。
だが、現地で代表が語ったのは、想像していた以上に重い“現実”だった。
なぜ、ここまで借入が通っていたのか?そしてその背後にあった決断とは──
現地で代表と向き合ったときの、あの沈黙は今も忘れられない。
何気ない会話の流れで、銀行とのやりとりについて尋ねた瞬間だった。
代表の目が伏せられ、静かにこう漏らした。
「実は、銀行ごとに提出していた決算が……違っていたんです」
言葉の途中で、声が詰まり、目に涙が浮かんだ。──ああ、そういうことか。すべてが腑に落ちた瞬間だった。
詳細を確認すると、実際に行われていたのは、各銀行の融資審査を通すために、数字の一部を調整した決算資料を個別に作って提出していた、ということだった。
売上、利益、借入残高……実際の数字よりも見栄えをよくしたものを、金融機関ごとに“分けて”提出していたのだ。
「最初は、一度きりのつもりだったんです。でも、それをやってしまうと……もう後戻りできなくて」
そう語った代表は、ただの“嘘つき”ではなかった。
そこには、責任感、焦り、孤独、そして“誰にも相談できなかった”苦しさが滲んでいた。
利益率を上げる資金と、その返済サイクルのジレンマの間で。
農業という業種特有の資金繰りの長期性──仕入れてから回収までに、数ヶ月以上かかることもある。その間をつなぐには、どうしても資金が必要だった。
「この面積をフルに使うには、まとまった仕入れ資金が必要で。売上をつくるために、あえて回転の早い商品を優先していたんです」
本来は、利益率の高い商品に力を入れたかった。
でも、そうすると仕入れてから収穫・出荷・回収までの期間が長く、資金繰りに詰まる。
そのジレンマの中で、金融機関からの融資を引き出すことが「唯一の手段」になっていたのだろう。
誰にも相談できなかった。税理士にも、従業員にも、もちろん家族にも。
私はこの状況に、他人事とは思えない感情を抱いた。
経営判断としては誤りだったかもしれない。けれど、それを糾弾することは意味をなさない。
問題は、ここからどう立て直すか。
──第二会社方式の再生スキームに進む決断をしたのは、この日だった。
次回・第3話では、
第二会社方式でどのように事業を移行させ、
農業特有の資金繰りとどう向き合ったのか。
再生フェーズの実行に入った“その第一歩”を描きます。
🙌終わりに
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