
【事業再生#9】督促の対応策を打つことで、事業再生のための時間を稼ぐ|農業法人の再生プロジェクトvol.4
破産寸前の会社に、希望の道は残されているのか──。
実際に再生支援の現場に立ち会った私が、再建に挑んだ企業の「リアル」を記録します。
今回のクライアントは関東地方の農業法人。
その事業再生を5話に渡って綴ります。
家族経営で年商6億。
再生スキームや、経理・総務体制の再構築といった実務も含め、"机上の空論ではない"企業再生の記録です。
経営に悩む方、再建を模索する方、支援を仕事にする方にとって、現場感のあるヒントとなれば幸いです
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借入総額8億円。督促と“横の情報連携”をどう乗り切ったか──再生のための時間稼ぎ
「どこも1億未満なんです。けれど、全部で10行もあります──」
最初の面談で、代表から融資状況を聞いたときの正直な感想は、「よくこれだけの借入が通ったな」だった。
送付されていた正規の決算書では、金融機関は10行、2法人合計で借入総額は約8億円。
売上の規模からすれば、どう考えても借入過多だ。
金融機関がそんなにこぞってプロパー融資をするような財務状況ではないのは一目瞭然だった。
さらに詳細を聞いていく中で分かったのは、金融機関ごとに異なる数字の決算書を提出していたという実態だった。
「帳簿を二重に作っていた」わけではない。
だが、銀行ごとに見せていた決算の内容が“微妙に違っていた”ことは事実だった。
そして、その“違い”が、ある意味でここまで資金を引き出せた要因でもあった。
いずれにしても、これらの取引が表面化すれば、金融機関の心象は極めて悪くなる。
破産を選ばず、第二会社方式で再建するなら──時間を稼ぐしかない。
問題は、どうやって金融機関同士で情報を交換する“横の情報共有”を防ぎながら、金融機関の対応をしのいでいくかだった。
督促の対応方法|スピード感と心理戦
今回の借入はすべてプロパー融資だった。
プロパー融資は、保証協会付き融資と違い、回収リスクが直接銀行に跳ね返るため、督促も強めになりやすい。
私は、かなり強引な対応をされる可能性も覚悟していた。
<プロパー融資とは?>
金融機関が独自の判断で、保証なしで直接貸し出す融資のことです。
たとえば中小企業が銀行から融資を受ける際、多くは信用保証協会の「保証付き融資」を利用します。
これは、万が一返済できなくなったとき、保証協会が一定割合を肩代わりしてくれる仕組みです。
一方で「プロパー融資」は、保証がつかないぶん銀行のリスクが高いですが、信用がある企業に対して、より柔軟な条件で貸し出されることがあります。
つまり、金融機関がその企業の信用力を評価して「自分の責任で貸す」融資です。
(まとめ)
・保証付き融資:保証協会の支援あり。金融機関側のリスクが少ない。
・プロパー融資:保証なし。銀行の判断で直接貸す。信用力が必要。
実際、返済が滞れば、金融機関は数回は会社や自宅に訪問してくる。
そのとき、家族や従業員が直接対応してしまえば、会話の中で余計な情報が出てしまうリスクがある。
だからこそ、今回はすべての督促対応を書面ベースに切り替えるように徹底した。代表者や家族、従業員には以下を周知した:
督促への対応方法
・訪問があっても「今手が離せない」とだけ伝える
・必ず名刺をもらい、何も答えない
・「手紙でやり取りしてください」と伝える
すると、多くの金融機関は書面に切り替えてきた。
こちらも同様に、期日どおりの返済ができないこと、現状では対応が困難であることを丁寧に伝える文書を送る。
その後、「試算表を出してほしい」「来店してほしい」といった内容の手紙が届きはじめる。
無視することもできたが、あえてそれらにも簡潔な文面で対応を返し、時間を稼ぐ。
それでも、やがて内容証明郵便が届くようになる。
弁護士名義で「このままでは法的手続きに進まざるを得ない」という文面だ。
だが、これはいわば“最後通告”ではあっても、強制力のあるものではない。
実際に訴訟や支払督促に進むまでには、もう一段階、時間がかかる。
その間に、こちらは第二会社の売上体制を整え、資金繰りに余裕を持たせていく。
金融機関同士の横の情報連携を“起こさせない”ための対策
もうひとつのリスクは、「複数の金融機関が現地に押しかけて鉢合わせすること」だった。
その場で名刺交換などされてしまえば、「あれ?そちらも取引あるんですか?」という話になりかねない。
それが“決定的な信用失墜”につながる。
したがって、最重要の対策は「絶対に対面対応をさせない」ことだった。
<横の情報連携を起こさせない対策>
・書面でのみ対応
・電話や対面は一切禁止
・受け取るのは名刺のみ、発言は一切しない
このルールを徹底した。
代表者もご家族も、金融機関対応の経験はほとんどない。
だからこそ、金融機関の担当者が少し強い口調で来ただけで、つい本音や不要な情報を話してしまいかねない。
すべてのやり取りを言質が残る書面に統一することで、感情的な交渉を避ける。
そして、情報のコントロールをこちらが握り続ける。
これは、再生プロジェクトにおいては非常に重要なポイントだ。
督促対応は手続きの“流れ”を理解していれば怖くない。
督促対応における基本的な流れは、次のとおりだ。
【1】返済遅延
→ 返済期日に入金がないと、電話や郵送で督促が届く
【2】期限の利益の喪失
→ 数回の滞納で、残債の一括返済を求められる
【3】内容証明郵便の送付
→ 弁護士名義で「法的手続きに進む」という通知が届く
【4】訴訟や支払督促
→ 対応しないと、差押えなどの強制執行に進む
【5】財産差押え
→ 銀行口座・不動産・給与などが対象に
※このうち【3】〜【5】までは、相応の時間がかかる。
今回は、取引行数は多かったが、1行あたりの借入がそこまで大きくなかった(すべて1億円未満)。
そのため、1社あたりの回収インセンティブはそこまで強くなかったと考えられる。
「金融機関が勝手に動いてくれるなら、どうぞ進めてください」
──それくらいのスタンスで構わない。
そして、その間に私たちは、第二会社での受注・入金体制を整え、経営基盤を安定させていく。
不幸中の幸い:税金の滞納がなかった。税金の滞納は金融機関よりも差し押さえが早い。
今回は、税金の滞納がほぼなかった。
これは、非常に大きなアドバンテージだった。
もし税金の滞納がある場合、金融機関よりも早いスピードで差押えに進まれる可能性がある。
以下は、無視していると一瞬で預金口座が差押えられる。
・法人税・消費税の滞納
・社会保険料・源泉所得税の未納
今回はこのリスクがなかった分、金融機関対応に専念できた。
その意味でも、“時間稼ぎの勝負”に集中できる再生案件だった。
次回は最終話。
第二会社方式に切り替えてから2年──
この企業がどう変わったのか、そして今後の展望について記します。
🙌終わりに
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