
【企業再生#16】第二会社方式を成功させるために必要な正しい着手の順番とは?|印刷・看板制作会社の再生プロジェクトVol.3
破産寸前の会社に、希望の道は残されているのか──。実際に再生支援の現場に立ち会った私が、再建に挑んだ企業の「リアル」を記録します。
今回のクライアントは印刷・看板制作会社の事例です。
その事業再生事例を5話に渡って綴ります。"机上の空論ではない"事業再生の記録です。
経営に悩む方、再建を模索する方、支援を仕事にする方にとって、現場感のあるヒントとなれば幸いです。
▼印刷・看板制作会社の再生プロジェクトの第1話~はこちらから▼
▼過去の事業再生事例はマガジンからご覧ください▼
第3話:移行の現場──第二会社方式、実行フェーズへ
■「順番を間違えない」ことの重要性。
第二会社方式で再生を進める際、多くの人が誤解しているのが「最初に人材を移す」という判断だ。
だが、実務上、これは極めて危険である。
給与原資が確保できていない状態で人材だけを移しても、すぐに資金が詰まり、新会社自体が機能停止する。
実際に私がこれまで見てきた案件でも、「人から移した」ことで再生に失敗した例は少なくない。
今回、我々が最初に手をつけたのは、**「取引先の切り替え」**だった。
■地道な切り替え交渉──「会社が変わる理由」をどう説明するか
取引先に「今後は別会社に請求・入金してほしい」と伝えるのは、簡単なことではない。
特に地場の建築会社や不動産管理会社など、昔ながらの看板発注主は保守的な傾向が強い。
「もしかして倒産?」「うちのデータは大丈夫?」
そんな不安を抱かせずに、切り替えを依頼するためには、コミュニケーション設計が重要だ。
また、旧会社との関係についても、第二会社と実質同一だとみなされるような説明は避けなければいけない。
登記簿謄本・代表者略歴・主要スタッフのプロフィール資料を添付。
安心していただくための「情報開示」も欠かさなかった。
■人材の移動は「キャッシュフローが見えてから」
こうして一定の取引先からの入金が第二会社に移り、2ヶ月分の売上見込みと、3ヶ月分の給与原資が確保できた段階で、初めて人材の切り替えに着手した。
当然ながら、全員を一気に移すわけではない。
まずは営業・現場のコア人材から、段階的に。
労務トラブルを防ぐため、就業規則や雇用契約の見直しも同時に進めていった。
■設備問題:「使いたい」が「持ち出せない」
今回、もっとも厄介だったのが印刷設備の扱いだ。
• シルクスクリーン印刷機
• 大判インクジェット
• ラミネーター
• フィルム加工機
これらの設備がなければ、現場は回らない。
一方で、これらはすべて第一会社名義のリース物件であり、名義変更には応じてもらえないことが多い。
■「延滞」から逆算するスケジュール設計
そこで我々が取った選択は、「延滞を前提に時間を稼ぐ」ことだった。
つまり、第一会社でリース料の支払いを止めることで、リース会社側のリース物件の引き上げ対応までの“猶予”を得るのだ。
このタイムラグは、通常3か月~半年程度は確保できる。
その間に、第二会社側でキャッシュフローを安定させ、新たな設備投資を準備する。
リース物件が引き上げられるタイミングで、速やかに代替設備の手配ができるよう、資金調達を先行しておく必要がある。
原則は自前で用意する方針だが、今回は必要であれば関係会社からのつなぎ資金の提供も視野に入れていた。
余談であるが、第二会社方式での再生の場合、第二会社では基本的には金融機関の融資は利用できないと思っていた方がよい。
とはいってもどうしても運転資金や設備資金などが必要になるケースはどうしてもある。
なので第二会社方式での再生の場合、スポンサーがいるのが不可欠である。
しかし、通常の中小企業で、そもそも現在に至るまでに大きな負債を抱えている場合がほとんどであるため、スポンサーを探すのはなかなか骨が折れる。
その為我々の再生チームでは、一時的な運転資金、設備資金、リースバックのために資金を用意できるスポンサーを用意している。
第二会社方式を活用した再生サポートを行う企業は多くあると思うが、資金手当てまでサポートできるところはなかなかないと思う。
■リース切り替えよりも「スキーム構築」
話は戻ってリース料の滞納の件だが、リース料が支払できなければ、数か月~半年でリース物件は引き上げられてしまう。
しかし、リース物件を完全に引き上げられる前は、第二会社で設備を使用することが必要になる。
名義は第一会社のままであっても、第二会社側で使えなければ、事業は止まってしまう。
そこで採用したのが以下の形式だった:
• 設備は旧会社が保有
• 第二会社が「業務委託契約」に基づいて使用
• 使用料・保守料を支払うことで、名義上の独立性と費用発生を可視化
• 再生が進んだタイミングで、適正価格での譲渡またはサブリース契約へ切り替え
このスキームにより、資産の私的流用とみなされるリスクを回避し、あくまでも“実需に基づいた契約”として成立させた。
■旧会社の銀行対応は「交渉」ではなく「管理」
一方、第一会社の方では、金融機関への返済をすべて止めていた。
当然、督促は矢のように届く。
だが、ここで重要なのは、“交渉しない”というスタンスだった。
感情的な対応や電話交渉は、かえって状況を悪化させる。
代表には、
• 「電話は一切出ない」
• 「来訪者には名刺だけをもらって、何も答えない」
• 「郵便物は全て中身を確認後、私に送る」
と徹底し、我々の側で以下の管理体制を構築した:
• 督促状・内容証明はすべてスキャンしてクラウド管理
• 返信が必要なものは、必ず弁護士レビューのうえで発送
• 対応記録をすべて時系列で残す
この“淡々とした無対応”こそが、第二会社の再建時間をつくる鍵だった。
■住宅リースバックのスキーム構築
そしてもう一つ、代表個人にも切実な課題があった。
それが、自宅の住宅ローンの延滞だ。
実はこの再生と並行して、我々は代表の自宅に関するリースバックスキームを極秘裏に進めていた。
• 近隣の売買相場を調査
• 賃貸相場と照らし合わせ、リース料の設定可能水準を確認
• ローン残高が売却予想額を上回っていないか精査
この3点を精密に分析した上で、今回は物件の場所が悪くなかったため、買主が投資するうえでも魅力的な条件を構築することができ、かつ、売主も売却金額、賃料設定も悪くない条件で設定することができた。
幸い、我々が長年連携している法人が、今回もリースバック案件として投資判断を内諾してくれた。
近年問題となっているような、仕入れ目的の悪質なリースバックではなく、「中長期での保有」を前提とした健全なスキームが組成できたのは、再生実務の経験と信頼関係があってこそだった。
■焦らず、急がず、確実に
こうして、第二会社の基盤は整いつつある。
• 売上の移行
• 人材の移動
• 設備使用のスキーム
• 代表個人の住まいの確保
• 第一会社の金融債権管理
すべての工程が同時並行で進みながらも、ひとつずつ着実に形にしていく──
それが再生の本質だ。
次回、第4話では、第二会社の新たな営業戦略、取引先との関係再構築、そして**代表の「再起の兆し」**について綴っていく。
いよいよ、再生は「内政」から「攻勢」へと移る。
🙌終わりに
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
この記事が少しでもあなたのお役に立てたらうれしいです!
スキ・コメント・フォローなどいただけますと嬉しいです。
今後とも有益な情報を発信していきますのでよろしくお願いいたします。
もし、
今まさに資金繰りが苦しい
税や社保の滞納がある
経理が属人化していて、現金の流れが不透明
社内に不正の可能性がある
といった悩みを抱えている方がいれば、ぜひ一度ご相談ください。匿名でも構いません。まずは、無料の個別相談であなたの状況を整理し、次の一手を共に考えませんか?
~進撃の事業再生屋 プロフィール~
~以下掲載中のマガジン・有料記事です~
①事業再生事例
事業が失敗した、破産・倒産したい、弁護士に相談しても断られてしまった・・・そんな方に読んでいただきたい、事業再生の事例をまとめました。
【有料記事:第二会社方式”完全ガイド”】
上記の事業再生事例は第二会社方式を活用した再生事例が大半です。その第二会社方式を使った事業再生方法のガイドを作成しました。
このガイドを読むことで、破産せずに、会社を守り抜くための現実的な方法を知っていただくことができます(有料記事になります)
②数字は語る、経理の不正
実際の経理の現場で起こった不正から考える、管理体制のあり方とは?
一人経理の多い中小企業、信頼関係だけで決済できる体制になっていませんか?
私が実際に行ってきた横領調査や相談内容をもとに、バックオフィスをどのように構築すればいいのかを書いていきます。
③「倒産寸前からの逆転劇」——経営者のための再生ノート
「会社が潰れそう」「差押え通知が届いた」「銀行から電話が鳴り止まない」――。
そんな経営者にこそ読んでほしい、リアルな再生の知恵と選択肢をまとめました。
自己破産、第二会社方式、競売、任意売却、リースバック…実務経験をもとに、現場で使える情報をお届けします。