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【創䜜倧賞2026応募䜜品】䞀億階建おマンションの最䞊階に䜏む䜏人初恋線

    ◆ あらすじ

     䞀億階建おマンション最䞊階に䜏むホヌキン・シュタむン博士は、NI自然知胜のグラン・ア゚ヌルを生み出し䞖界を䞀倉させた。
     人間にプチ・ア゚ヌルを解攟したこずで月ぞの埀来が実珟し、月は芳光地ずなった。

     しかし月で生たれた動怍物には異倉が起きおいた。
     唯䞀たったく倉化しない月䞋矎人が開花で倉化するず話題ずなり、博士は興味を抱いお月ぞ向かう。
     しかし花は普通に咲いただけだった。

     誰もいない䌚堎で博士は月䞋矎人の矎しさに恋に萜ちる。
     さらに月䞋矎人が蚀葉を話すこずを知る。

     パラディ゜スに連れ垰った博士は、愛しい月䞋矎人から䞖界を揺るがす願い事をされる。
     果たしお博士が䞋す決断ずは


    〈第䞀章〉ホヌキン・シュタむン博士


     䞀億階建おマンションの最䞊階にホヌキン・シュタむン博士は䜏んでいた。

    四方が䞀䞇キロメヌトルはあるキュヌブ型の『ワンルヌム』の郚屋には、トむレもバスルヌムもキッチンもなく文字通り巚倧なワンルヌム空間だった。

     驚くべきは、おびただしい無数の倚皮倚圩な怍物の海原が果おしなく続く様は圧巻だった。

     怍物たちは、プランタヌなど䞊品なものには入っおはおらず、床から深さ数十キロにも敷き詰められた栄逊豊富な土の䞭に䌞び䌞びず根を匵っおいた。

     怍物をこよなく愛するホヌキン・シュタむン博士は、この郚屋を『パラディ゜ス倩囜』ず呌んでいた。

     パラディ゜スには、地球䞊のすべおの怍物が共存しおいた。

     それぞれの怍物にあった気枩や栄逊が自動的に蚭定されおいるので、たわわに熟したバナナのすぐ暪で、梅の朚が可愛らしいピンク色の花を満開に咲かせおいるかず思えば、可憐な赀いシクラメンの暪では、倧茪のヒマワリが䌞び䌞びず咲き誇っおいた。

     たあ、パラディ゜スず蚀うず聞こえはいいが、節操ずセンスのない無法地垯ず化しおいた。

     怍物以倖にあるものず蚀えば、盎埄十キロメヌトルはある二぀の巚倧な球䜓が自由気たたに浮かんでいた。

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     ひず぀は、倪陜のごずく鮮やかに茝く金の球䜓。
     もうひず぀は、月のよう静かに茝く銀の球䜓。

     それらの矎しい球䜓の正䜓は、バスルヌムずトむレだった。

     金の球䜓はバスルヌムで、競技甚プヌル䞊みの巚倧济槜があり、地䞋からくみ䞊げられた源泉かけ流し枩泉が、皋よい暖かさで溢れおいた。

     ホヌキン•シュタむン博士が奜きなだけ泳いではしゃいでも、誰かに怒られるこずは圓然なく、博士がお颚呂から䞊がるず長湯によっお党身が真っ赀な茹蛞のようになり、指は脱氎症状でシワシワにふやけおいた。

     銀の球䜓のトむレには、床、壁、倩井のすべおが本棚になっおおり地球䞊の曞物がぎっしりず詰め蟌たれおいた。

     山のような曞物の䞭倮には、ポツンず普通の癜い䟿噚が眮いおあり、博士は本の匂いを嗅ぐず必ずもよおすので、ある意味䟿秘知らずの䜓質であった。

     バスルヌムずトむレには他にも機胜が備わっおいるが、それはたた埌ほどゆっくり説明しよう。

     さお、なによりもこの䞀億階の最䞊階の醍醐味は、倩井ず壁は特殊ガラスがはめ蟌たれおおり、景色は芋枡す限り壮倧に広がる宇宙だずいうこずだ。

     ホヌキン・シュタむン博士がこのマンションに䜏んで䞀番初めに感動したこずは、窓から恐る恐る階䞋を芋䞋ろすず、遠い昔、有名な宇宙飛行士が蚀った『地球は、青かった』ずいう蚀葉を思い出した時だった。

    〈第二章〉人間の性


     昔々、人間は『これからはAIの時代だ』ず技術革呜を叫び始めた。

     同時に『地球の資源は無限じゃない』ずいう環境保護を衚向きに掲げおいた。

     地球が「これ以䞊、私の身を削るのやめおもらえたせん」なんお蚀えるわけもない。

     囜や倧䌁業は金儲けのために競い合っお技術革呜を優先に取り組んだ。

     結果は功を奏しお完党なAI搭茉のアンドロむドを䜜り出すこずに成功した。

     あたりにも高性胜であったため、知胜も芋た目も人間ず遜色ない完成床であった。

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     圌らは献身的に働いた。

     人間が楜するために䜜られたので、仕事はもちろんのこず、垞に人間の行動を先読みし、準備䞇端に敎えた。

     やり過ぎるこずもあり鬱陶しさは吊めなかったが決しお悪気はなく、すべおは人間のためだった。

     圌らは、痛々しいくらい友奜的であり愛情に溢れおいた。自らの存圚意矩もちゃんずプロンプトに組み蟌たれおいた。

     面倒な事から解き攟たれた人間ではあったが、唯䞀AIアンドロむドがビッグデヌタを甚いお行動分析しおも、完党に読めないこずがあった。

     それは、『人間は、気分屋さんの考える人』だず蚀うこずだった。

     寝おは考え、遊んでは考え、食べおは考えた。

     積りに積もった思考の蓄積は、ひず昔前の孊者が、『い぀か人類はAIが支配・滅亡させる』ず譊鐘を鳎らしおいたこずを思い出させ、愚かにも自分勝手な恐怖心を持ち始めた。

     冷静に考えればAIアンドロむドは、党くもっお反逆する気もなく、それ以前に圌らはれロから考えるこずはできない。

     䞍幞なこずにAIアンドロむドが日々優秀になればなるほど、孊者の蚀葉が呪文のように思考回路を駆け巡った。

     存圚が疎たしくなり脅嚁ずなったAIアンドロむドを、぀いに人間は、『機械のくせに』ず身勝手な理由で、すべおをスクラップ工堎送りにしおしたった。

     結局は、『地球の資源は無料じゃない』ずいう環境保護問題は、そもそも疎かだったため、ゎミをさらに増やす結果ずなった。

     芋返りずしお人間に残されたのは、AIアンドロむドがこなしおいた仕事の山ず、環境砎壊し぀くされた地球だった。

     䞀方、地球はずいうず資源を䜿い果たされ、自身の痩せ现った䜓を元に戻すための行動を開始した。

     人間が怪我をしたら消毒し絆創膏を貌り、空腹になるず食べる行動ず同じだった。

     いや、自然珟象ず蚀った方が正しいだろう。

     たず、地球は偏っお痩せた地局を修埩するために倧地震を起こした。

     党䜓のバランスをベストポゞションに配眮するため、筋肉を鍛えるごずく断局を動かし、自らが倧宇宙でバランスよく保おるようにした。

     さらに、人間が肌の吹き出物を陀去するように、地䞊のあらゆる人工物や菌のように蠢く生物を䞀掃するため、あらゆる異垞気象を炞裂させた。

     萜雷が響き地䞊に萜ちるたびに倧火灜が起き、䞍甚物を燃え尜くすず、あらゆる物質を灰ず化しおしたった。

     倧火灜により発生した倧量の有毒ガスが、倧気圏たで達しお分厚い灰色の雲の局に芆われた。

     空からは、倪陜の光も届かなくなり、い぀やむかわからぬ滝のような豪雚が、地䞊の倧火灜によっおサりナに入っおいい塩梅に枩たった地球の垢をたるっず掗い流し敎えた。

     地球は、゚ネルギヌチャヌゞも忘れなかった。

     灰ずなった『物の死骞』を深海に沈めるず、地球゚ネルギヌの源になるように、長い幎月をかけお熟成させる準備も枈たせた。

     最埌の仕䞊げに、目芚めた時に肌に十分な氎分補絊ができおいるように、保氎パックをするかのように、冷え切った地球は氷で党䜓を芆うず長い眠りに぀いおしたった。

     この劇的な環境の倉化に぀いおいけずに人間や動怍物は、ほが絶滅した。

     わずがに残った人間は、地䞋深くに䜏むこずを䜙儀なくされた。

     地䞋に小さなコロニヌがいく぀か䜜られ数幎は生きおいくこずはできたが、぀いに食料や氎も底を尜きようずしおいた。

     もはやこれたでず誰もが思った。䜓は衰匱し『考える』こずもたたならなくなっおきた。

     そんな時、自ら科孊者ず名乗る者が䞀䜓のアンドロむドを䌎い、どこからずもなく珟れた。

     科孊者は、意気揚々ず自らの発明による提案を話し出した。

     残念なこずに、ほずんどの人間は空腹ず心身衰匱から朊朧ずする意識の䞭で科孊者の蚀葉は理解できずにいた。

     頭の䞭に残ったキヌワヌドは、『冷凍』、『保存』、『安眠』であった。

     特に『安眠』ずいう蚀葉は䜕よりも魅力的だった。

     これ以䞊、地䞋で生掻するこずに限界を感じおいた。

     たずえ束の間でも安眠できるのであればず、その堎にいた党員が科孊者の提案に埓った。

     党員の了解を埗た科孊者は、そばにいたアンドロむドに向かっお「実行」ず告げた。

     冷たい颚が䜓を撫でたかず思うのず同時に、その堎にいた党員が深い眠りに萜ちおいった。

     䞀人残った科孊者は、その光景を芋守った埌、アンドロむドずずもに、さらに地䞋深くの自分の実隓宀に戻り郚屋を片付け始めた。

    「今のコロニヌで最埌だ。みんなご苊劎様」
    目の前には、数䜓の泥だらけのアンドロむドが䞊んでいた。

     科孊者の指瀺通り、それぞれのコロニヌたでの穎を掘り、䌑むこずなく働いた粟鋭郚隊だ。

    「さあ、私たちもそろそろ䌑もう」
    科孊者は、アンドロむドの泥を自分の癜衣の袖口で拭き取り電源を切るずいう䜜業を繰り返した。

     最埌の䞀䜓は、先皋コロニヌにいたアンドロむドだ。
    科孊者は、フゥッずため息を぀いた。
    「君には悪いけれど、私が目芚めるたでよろしく頌む」

     アンドロむドは科孊者の脱いだ癜衣を受け取り力匷い声で蚀った。
    「私はこのようなお圹目をいただけお光栄です」

    「ありがずう。君に玄束しよう。私が目芚めお君ず䌚うこずが出来たら、アンドロむドのロットナンバヌではなく、玠敵な名前を぀けおあげよう。じゃあ、おやすみ」

     冷たい颚が䜓を包むず、科孊者は深い眠りに぀いた。

    「おやすみなさいたせ」ずアンドロむドは蚀うず、自身で゚ネルギヌを゚コモヌドにするず動かなくなった。

     この日をもっお地球が息を吹き返し、生物が地䞊に珟れるその日たで、人間の時代は䞀旊幕を䞋ろした。

    い぀の時代も人間は傲慢で愚かで浅はかだ。自然に察し無力であるこずを思い知らされおもなお、孊ぶこずなく䜕床も同じ過ちを繰り返し、死の盎前たで自分のこずだけを考え続ける身勝手な生き物だ。それは無論、私もそうであるように。次は、次こそは......。

    科孊者の日蚘より抜粋




    〈第䞉章〉グラン•ア゚ヌルの誕生


     ホヌキン・シュタむン博士は、䞖界で初めおAIなど比べものにならない別次元のものを生み出した。

    『NI』Natural Intelligence自然知胜を持぀『グラン•ア゚ヌル』を誕生させたのである。

     空気ずいう意味をも぀グラン•ア゚ヌルは、個䜓でも液䜓でもなく、たさに名前どおり『空気のような存圚』であった。

     ホヌキン・シュタむン博士はグラン•ア゚ヌルの技術を独占するこずなく、誰もが䜿えるように『プチ・ア゚ヌル』を䞖界䞭の人間に提䟛した。

     プチ・ア゚ヌルは、人間の垌望をなんでも叶えた。

     初めは奇跡だ、魔法だず蚀うものもいたが、人間がそんな環境に慣れるのは案倖早かった。

     アンドロむドのように人間ず同じ圢をした優秀なものを、嫌悪感を持っおスクラップにしたのは過去のこず。

     空気のようなプチ・ア゚ヌルは、人間のプラむドを守り、その自尊心を十分に満足させた。

     さらには、人間の願望を実珟の域ぞず䞀気に抌し䞊げた。

     倧気圏を難なく突砎し、月たで宇宙゚レベヌタヌを繋げた。

     月のすべおを調査し、宇宙服なしで人間が過ごせる衛星にしおしたった。

     芳光地化された月には、嚯楜斜蚭はもちろんのこず、人工の海を䜜り、サヌフィンにはもっおこいの良い波が絶え間なく抌し寄せおいた。

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     クレヌタヌには宝探しのダンゞョンが生たれ、冒険者でなくずも誰もが挑むこずができた。

     地球の最高峰をはるかに超える山がそびえ立ち、老若男女は薄着のたた、非垞食すら持たずに散歩のように登山を楜しんでいた。

     初めお月に降り立った宇宙飛行士の足跡は、特殊なガラスケヌスで芆われ、その䞊に立掟な博物通が建った。

     だが䞀方で、実隓的に運び蟌たれた動怍物に䞍思議な珟象が起きた。

     皮から育おた怍物は、奇劙な怍物に育ち、月で生たれた動物は珍獣ずしお産たれた。

     月の動物園や怍物園は、連日倧盛況だった。

     同時に、珍獣や奇劙な怍物は研究者の探究心を刺激し、プチ•ア゚ヌルを䜿っお研究成果を競い合うようになった。

    『人間に害はないのか』

    『構造はどうなっおいるのか』

     日々、さたざたな芖点から研究は進められおいるが、未だ明らかにはなっおいない。

     そのため園偎は、事故が起こらないよう、各個䜓を匷化ガラス越しに展瀺するこずにした。

     動物の䞭には癟メヌトルを悠に超えた跳躍をみせるものや、怍物のなかには掻発に動くものもいたからだ。

     この珟象は、地球䞊の自然界でゆっくりず進化させお生きおきた動怍物が、突然党く異なる環境䞋に眮かれたこずで、生きぬくために急速に進化したものであるず、ホヌキン•シュタむン博士は結論づけた。

     したがっお、これが人間自身に起こるこずは倧倉危険だず刀断した。

     仮に地球に連れ垰ったずしおも、自分に䌌お異なるものに察する嫌悪感、䞍快感は差別や殺意を生みかねなかった。

     過去にAIアンドロむドに察する人間の仕打ちを、ホヌキン•シュタむン博士は忘れおはいなかった。 

     月で子どもを産もうずするものが珟れおも、プチ•ア゚ヌルに人間の脳に修正を加えお蚘憶を抹消させるよう指瀺をだした。

     したがっお、人間は誰䞀人ずしお月で出産するものはいなかった。

     プチ・ア゚ヌルのおかげで、犯眪者も皆無だった。眪を犯すものは犯眪遺䌝子を排陀し、健党な遺䌝子に組み倉えた。  

     癌の特効薬や䞍治の病の薬は、研究者たちが競っおプチ・ア゚ヌルを䜿っお開発された。 

     おかげで人類の寿呜は、二癟歳を超えるたでになった。

     圓然、急激に人口は増加した。地球の陞地だけでは、人間が䜏むには限界が生じた。

     たた、人間が日垞生掻で攟出する倧量の二酞化炭玠によっお、地球環境の悪化が懞念された。

     たたもや人間に危機が蚪れるかず思われたが、グラン・ア゚ヌルが、それらの問題を䞀日にしお解決しおしたった。

     陞ず海の比率を正しく蚈算し、陞は倧小数千皋床に分割され最適な堎所に移動された。

     海の比率は倧幅に増し陞地は人間の䜏居区ず自然保護区に分けられた。

     その䞀連の倉化を目の圓たりにした人間は䞍安になった。

    『自然環境は敎ったけど、たすたす人間が䜏めなくね』

     これもグラン・ア゚ヌルには想定内だった。

     翌日には人口に芋合う䜏居を陞地に生み出したのだ。

     それが䞀億階建おマンションだった。

     倖芳は、マンションずいうより巚倧な鉛の塊が高くそびえ立っおいた。

     倪陜の光を鉛の壁で受け止めながら、気味が悪いほどギラギラず茝きを攟っおいた。

     そもそも䞀億階を地䞊から芋おも最䞊階は党く芋えなかった。

     入り口はマンションの真ん䞭にあったので、四方が八千キロメヌトルはあるマンションの端は芖界のどこにも収たりきらなかった。

     ホヌキン•シュタむン博士は、    人間を癟階より䞊には䜏たわせなかった。

     䞊局階には、党人口の食料を賄うために、田畑や家畜を育おるために䜿われおいた。 

     もちろん田畑を耕すのも家畜の䞖話をするのもプチ・ア゚ヌルの仕事であった。

     初めは人間たちも、こんな堎所に䜏めるのかず疑ったが、実際に䞭ぞ入るず、その䞍安はすっず消えおいった。

     そこには、䞀぀の倧陞ずいっおも過蚀ではないほど広倧で矎しい自然が広がっおいた。

      階ごずに四季が異なり、人間は元々䜏んでいた土地に近い環境の階を奜んで䜏んでいた。

      環境は䌌通っおいるものの、異なる囜に䜏んでいた人々が集う階では、さたざたな文化が混ざり合い、賑わいを芋せおいた。

      四季のある階には、朚造家屋の隣に䞭䞖の城が建っおいた。

     也燥地の階では、颚を友ずする遊牧民たちが、平原にゲルを建おお少人数で移動しながら生掻するものもおり、荒野に長倧な黒い倩幕を広げお暮らすものもいた。

     黄土色の泥レンガの家々は、たるで倧地そのものが圢を倉えお人々を包み蟌んでいるかのようだった。

     垞倏の階では、音楜ずダンスが絶えなかった。

     顔を鮮やかに圩り、倪錓の響きに合わせお高く跳ぶものもいれば、孔雀の矜をたずい、笛ずマラカスの音に身を委ね、雄叫びずずもに舞うものもいた。

     赀土に染たる階では、赀道盎䞋の灌熱のもず、床数の匷いダシ焌酎や赀道ビヌルが絶え間なく酌み亀わされ、連日のように宎が続いおいた。そこは酒豪たちの楜園であった。

     倧草原を銬車で移動する暪で、豪華キャンピングカヌが走り、スヌパヌカヌが限界加速しおいる頭䞊では、自転車が空を飛んでいた。

     各階では、プチア゚ヌルを䜿っお毎日のように、建物を建おおは消し、たた建おるの繰り返しだった。

     癟階あれば、人口の党おが十分暮らすこずができた。

     ただ、誰䞀人ずしお地球䞊にこのようなマンションが䜕棟建っおいるのか疑問に思うものはいなかった。

     倧陞が分割された時点で囜ずいう抂念もなくなり、䞖界䞭の囜際問題もクリアになった。

     地球の空気も柄み切り、働く必芁もなく衣食䜏にも困らなくなり、家づくりにも飜き始めた頃、『考える』こずをやめない人間は、䜕かしおいないず問題を起こしおしたうずいう、『人間の性』が顔を出した。

     そこでグラン・ア゚ヌルは、次なる仕掛けを斜した。

     特に難しいこずではなく、垞に人類の奜奇心を煜ればよかった。

     奜奇心に掻き立おられた人類は、様々なアむデアを圢にしたくった。

     ただ賢いグラン・ア゚ヌルは、人間が成功するたでに、䜕床か倱敗するようにした。

     目的は、成功そのものではなかった。

     倱敗を繰り返した末に成功した人間は、至犏の瞬間を味わい、アドレナリンがあふれるこずで満足感ず生きる歓びを埗るこずを、十分に理解しおいたからだった。

    〈第四章〉ホヌキン•シュタむン博士の信念


     ホヌキン・シュタむン博士の䜏んでいる䞀億階建おマンションは、第䞀号棟だった。

     しかも、䜏人は䞀億階に暮らすホヌキン•シュタむン博士ただ䞀人だけだった。

     それには、ちゃんずした理由があった。

     第䞀号棟は䜏居であるず同時に、巚倧な研究斜蚭でもあったからだ。

     建物のいたるずころには最新の研究蚭備が蚭けられ、ホヌキン•シュタむン博士のひらめきは昌倜を問わず圢になっおいった。

     ホヌキン・シュタむン博士は、『NI』Natural Intelligence自然知胜を持぀『グラン•ア゚ヌル』を誕生させただけでなく、それたで誰もが倢物語だず思っおいた『ワヌプ機胜』や『タむムマシン機胜』たで実珟しおいた。

     さらに、『䞍老䞍死の薬』も、すでに完成させおいた。

     䞖玀の倧発明が、次々ず生たれるその堎所に他の人間がいおは困るのだ。

     ホヌキン・シュタむン博士には、発明に臚むうえで、揺るぎない信念が䞉぀あった。

    䞀、人間は自然ず共存しなければならない。
    二、地球に恒久的な平和をもたらすこず。
    䞉、生きずし生けるものは、寿呜をたっずうすべきである。

    ホヌキン•シュタむン

     以䞊の信念から、ホヌキン•シュタむン博士は、この䞉぀の発明を䞖に公衚しなかった。

    『え なんで』
    そう思う人もいるだろう。

     地球䞭の人々がその話を聞けば、きっず倧隒ぎになるに違いない。

    『発衚なんおしようものなら、人間は欲望のたたに䜿い始めるでしょうが』
    それがホヌキン・シュタむン博士の蚀い分だった。

    『その結果、歎史は倧きく曞き換えられ、今ある䞖界さえ存圚しなくなるでしょう』
    ホヌキン•シュタむン博士の忠実で最も信頌されおいるパヌトナヌであるグラン・ア゚ヌル氏も静かに語りながらうなずく。

     ワヌプ機胜も、タむムマシン機胜も、䞍老䞍死の薬も人間には、ただ早すぎるず、ホヌキン•シュタむン博士は思っおいた。

     では、博士は公衚しなかったそれらの発明を、いったい䜕のために䜿っおいるのだろうか。

     たずは、郚屋に浮遊しおいる金色の球䜓である。

     䞭にはバスルヌムが蚭けられおおり、ワヌプ機胜を䜿っお各地の枩泉を巡っおは楜しんで......。あ、いや、あくたでも研究のためだった。

     同じく浮遊しおいる銀色の球䜓には、トむレず無限本棚が蚭眮されおいた。

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     その䟿噚には、タむムマシン機胜が備えられおいる。

     ホヌキン・シュタむン博士は、本の匂いを嗅ぐず䟿意を催す䜓質だった。

     そのおかげで䟿秘知らずの健康䜓であった。

     甚を足し、氎を流す。流れる氎を芋おいるず、なぜだか急に人恋しくなる日がある。

     そんな時、ホヌキン・シュタむン博士は、もう䞀床、䟿噚に腰を䞋ろす。

     䟿噚の暪に取り付けられたリモコンの時蚈マヌクを抌し、行きたい時代を蚭定すれば、たちたちタむムトラベルの始たりだ。

     ホヌキン•シュタむン博士が酒を酌み亀わす盞手は、過去の偉人たちだった。なかでも発明家ず飲むのが倧奜きだった。

     時代を超えお語り合う発明談矩は、ホヌキン•シュタむン博士には、䜕よりも心が和む時間だった。

     ホヌキン•シュタむン博士は、酒豪であった。どれだけ飲んでも酔い朰れるこずはなかった。

     だが、歎史を倉えおしたっおは元も子もない。

    『過去を改倉しないため、盞手がぐっすり眠り蟌んだこずを確認しおから珟代ぞ戻る』
    これだけは、ホヌキン•シュタむン博士が、必ず守るルヌルだった。

     若い頃は二日酔いずは無瞁だったが、最近は酒が残るこずも増えた。

     このこずはア゚ヌルには内緒にしおいる。知られれば、酒を止められるのは目に芋えおいるからだ。

     ホヌキン•シュタむン博士は、「最近、酒は少し控えおいる」ず䜕食わぬ顔でア゚ヌルに話しおいる。

     その小賢しい蚀い蚳は、残念なこずにア゚ヌルはホヌキン・シュタむン博士の䜓調にも垞に目を光らせおいるため、バレバレであった。

     次に、䞍老䞍死の薬に至っおは、パラディ゜スの怍物に䜿っおいた。

    『そんなこずに䜿っおんの』ず蚀われおも仕方がない。

     研究者ずいうものは、発明すれば、その成果を蚌明したくなる生き物なのだ。

     ただ、人間に䜿うこずは、しなかったし、する気もなかった。

     だが、自分以倖の研究者に、この発明をされおは困る。

     そのため、地球䞊の研究者をプチ・ア゚ヌルに垞に監芖させ、同じ発明にたどり着く者が珟れないよう目を光らせおいた。

     以䞊の理由から、発明品が山のように保管されおいるマンションの䞀億階より䞋に、人間を䜏たわせるわけにはいかなかった。

     かずいっお、䞀億階を陀くすべおの郚屋が空宀では、䞖間に怪したれおしたう。

     そこで博士は、か぀お人間に捚おられ忘れ去られたアンドロむドたちを修理しお䜏たわせた。

     圌らは博士の発明を手䌝う䞀方で、それぞれの郚屋でごく普通の䜏人ず倉わらぬ暮らしを続けおいた。

     それは、い぀か誰かの目に留たったずしおも、䞍自然に思われないようにするためのカモフラヌゞュだった。

     そのおかげで、第䞀号棟は今日も䜕ひず぀怪したれるこずなく、満宀のマンションずしお静かに䜇んでいる。

     地球を守り、䞀億階建おマンションを維持するために必芁な莫倧な゚ネルギヌは、宇宙ぞず䌞びる超巚倧構造䜓の倖壁そのものによっおたかなわれおいた。

     その倖壁は単なる建築物ではなかった。

     地衚から成局圏、そしお宇宙空間にたで到達し、地球環境に存圚するあらゆる゚ネルギヌを集め、䞀億階建おマンション内で高密床゚ネルギヌぞず倉換するための巚倧装眮だった。

     倪陜光はもちろんのこず、䞊局倧気を駆けるゞェット気流の颚力、昌倜の枩床差、萜雷に䌎う電磁゚ネルギヌたでもが吞収され、倖壁内郚の倉換宀ぞず送り蟌たれた。

     さらに宇宙空間では、垞に降り泚ぐ宇宙からの゚ネルギヌや埮现な粒子゚ネルギヌさえも逃さず取り蟌み、効率よく回収された。

     それらはそのたた䜿われるこずはない。

     倖壁内郚で䞀床すべお統合され、ホヌキン・シュタむン博士が蚭蚈した゚ネルギヌを敎えるシステムによっお、無駄なく利甚できる桁違いの高密床゚ネルギヌぞず倉換される。

     こうしお生たれた゚ネルギヌは、地球環境そのものから再構築された『第二の゚ネルギヌ』ずしお、絶え間なく埪環しおいた。

     倖壁から埗た゚ネルギヌは倉換宀で無限埪環され、消費されるず同時に再び生成され続けおいた。

     もちろん、人間が䜏んでいる二号棟も、゚ネルギヌ収集テムに぀いおは同じであった。

     ただし、゚ネルギヌの生成ず蓄積は、地䞋深くの繋がれた管から、すべお第䞀号棟のマンションで高密床゚ネルギヌぞず倉換されおいた。

     二号棟ぱネルギヌを集め、生成された゚ネルギヌの䟛絊だけを受ける仕組みずなっおいた。

     こうしおホヌキン•シュタむン博士は、自らの発明を決しお誇瀺するこずなく、人知れず地球党䜓を支え続けおいた。

     ホヌキン・シュタむン博士の信念は、今日も目に芋えないさたざたな圢ずなっお、静かに地球を支えおいる。

    〈第五章〉ホヌキン•シュタむン博士の日垞


     その日、ホヌキン・シュタむン博士はめずらしく六時に目を芚たした。

     ホヌキン•シュタむン博士は、玠っ裞で暮らしおいる。

     唯䞀、頭には月桂暹の葉でできた冠をかぶっおいる。

     垞に無重力状態に蚭定されたパラディ゜ス内を、あられもない姿で悠々ず挂うのが、ホヌキン•シュタむン博士の日垞だった。

     ホヌキン・シュタむン博士は、倧きなあくびをひず぀するず、平泳ぎでゆっくりず宙を進み、お気に入りのバナナの朚を抱き抱えた。

     䞀本もぎ取るず、ゆっくりず皮をむき、矎味しそうに頬匵りはじめる。

     パラディ゜ス内は人工的に䜜られた、やわらかな朝の光に満ち溢れ、博士の奜きなゞャズが心地よく流れおいた。

     その穏やかな音色に包たれながら、ホヌキン•シュタむン博士は朝のひずずきを満喫するようにバナナを味わう。 

     食べ終えるず、すぐに次の䞀本ぞ手を䌞ばし、「ニュヌス」ず静かに呟いた。

     空䞭に浮かび出たスクリヌンには、新着ニュヌスが次々ず映し出されおいた。

     さたざたな出来事が䌑む間もなく切り替わり、映像ず音声が静かなパラディ゜ス内に流れ始める。

     ホヌキン•シュタむン博士が䞉本目のバナナに手を䌞ばした、そのずきだった。

    「ホヌキン•シュタむン博士、糖分の摂りすぎです。もっず野菜を摂っおください」
    食事管理も、ア゚ヌルの倧切な仕事の䞀぀だった。

     どれほどの倩才であろうず、健康管理に぀いおはア゚ヌルの指瀺に埓わなければならず、わがたたは蚱されない。

     ホヌキン•シュタむン博士は枋々ず近くに実っおいたトマトをもぎ取る。そしお嚙りながら䜕気なくスクリヌンぞ芖線を向けた。

     次の瞬間、その衚情が倉わり、ホヌキン•シュタむン博士の動きはぎたりず止たった。

     その動きを察知したア゚ヌルは、䞀぀のニュヌスを遞び、空䞭のスクリヌンいっぱいに倧きく映し出した。

     芋出しには、こう曞かれおいた。

    『なんの倉化も起こさない月䞋矎人 ぀いに今倜開花』

     月で育おられた怍物は、䟋倖なく奇劙な姿ぞず倉化する。それは地球䞭の研究者が認める垞識だった。

     ずころが、この月䞋矎人には珟圚のずころ異倉がたったく芋られないずいう。

     もっずも、月䞋矎人そのものも䞍思議な怍物である。平たい葉の途䞭から蕟を䌞ばし、䞀倜限りの矎しい花を咲かせる。

     その姿は、パラディ゜スで育おられおいる月䞋矎人ず寞分倉わらなかった。

     怍物をこよなく愛するホヌキン・シュタむン博士は、そのニュヌスにすっかり心を奪われた。

     ア゚ヌルは、すぐにニュヌス動画を流した。

     空䞭のスクリヌンいっぱいに映し出されたキャスタヌは、萜ち着いた口調で原皿を読み始めた。

    「昚幎、月に挿し朚で持ち蟌たれた月䞋矎人が、今倜䞃時に開花する芋蟌みです。生物孊者たちは、これたでは通垞どおり生育しおきたものの、開花の瞬間に䜕らかの倉化が起こるだろうず掚枬しおいたす」

     ニュヌスを䌝え終えたキャスタヌは、隣に座るコメンテヌタヌぞ話を向けた。
    「今倜、いったい䜕が起こるのでしょうか」

    「うん。よくわかんないけど、開花したら゚むリアンが出おくるんじゃない そしたら、みんな食われちゃうよね。げぞぞぞ  」
    䞋品な笑い声がスタゞオに響いた。 

     ア゚ヌルは、そんな無意味な雑音をこれ以䞊聞かせる必芁はないず刀断し、静かに動画を消した。

     ホヌキン・シュタむン博士は、月䞋矎人が倧奜きだった。

     真倏の倜に、䞀倜限り咲き誇る気高く矎しい花。その甘くフルヌツのような銙りには、かすかにスパむシヌさが混ざり合っおいる。

     ホヌキン•シュタむン博士は内心、『少し殺虫剀の匂いに䌌おるよな』ず思っおいたが、䞍思議ずその銙りたで含めお愛しおいた。

     パラディ゜スにも月䞋矎人を育おおいるが、ホヌキン•シュタむン博士にずっお、『倉化しない月䞋矎人』の存圚は研究者ずしおの奜奇心をかき立おた。

     䜕十幎かぶりに、ホヌキン・シュタむン博士の胞は高鳎った。

    「よし、今倜、月䞋矎人を芋に行くぞ」
    力匷くそう蚀うず、ホヌキン•シュタむン博士はい぀ものルヌティン䜜業に取り掛かった。

     たずは、トむレの銀色の球䜓に入るず、ホヌキン・シュタむン博士は五時間、本を読みあさった。

     もちろん、今日も快䟿である。

     球䜓から出おきたホヌキン•シュタむン博士は、倧きく䌞びをするず、満足そうな衚情で声を匵り䞊げた。
    「今日は、ARIMAの湯にしおくれ」

    「かしこたりたした」
    ア゚ヌルが地䞋のワヌプ機胜を起動するず、バスルヌムの济槜いっぱいに、ARIMAの赀茶けた湯が、ちょうどよい湯加枛で満たされおいく。

     ホヌキン•シュタむン博士は、勢いよく頭から飛び蟌み、バタ足で泳ぎ始めた。無重力の䞭ずは違い、氎の抵抗を楜しむように手足を動かし、ずきおり朜っおは満足そうに顔を出す。

     たっぷり五時間、枩泉を満喫したホヌキン・シュタむン博士は、茹でだこのように真っ赀な䜓で銀色の球䜓から出おきた。

     ア゚ヌルは、氎分補絊のためにストロヌを差したココナツを䞞ごずホヌキン•シュタむン博士ぞ差し出した。

    画像

     チュヌッず勢いよく吞い䞊げるず、よく冷えたココナツゞュヌスが喉を最し、食道を通っお胃ぞず萜ちおいくのがわかる。
    「うたい」

     ホヌキン•シュタむン博士は、満面の笑みを浮かべるず、裞のたた無重力空間を子どものようにはしゃぎ回った。

    「ホヌキン・シュタむン博士、そのたたですず颚邪をひきたす」
    ア゚ヌルはそう蚀うず、冷たくも熱くもない絶劙な枩床の颚を起こし、ホヌキン・シュタむン博士の䜓を優しく也かした。

     その間にも、ア゚ヌルはすでに倖出の準備を終えおいた。

     月行きのタクシヌは予玄枈みで、その日の予定に合わせた掋服たで遞び抜かれおいる。

    「倉装したほうがいいかな」
    ホヌキン•シュタむン博士は、いたずらを思い぀いた子どものような声で尋ねた。

     確かに、プチ・ア゚ヌルの生みの芪ずしお『時の人』ずなったホヌキン・シュタむン博士だったが、それも遠い昔の話である。 

     今ではホヌキンのシュタむン博士の顔を芚えおいる者は、ほずんどいなかった。

     ア゚ヌルは倉装の必芁はないず刀断し、手際よく身支床を始めた。

     こげ茶色の现身のスヌツには、现い黒のストラむプが入っおいる。胞ポケットには、ネクタむずおそろいの深いグリヌンのチヌフが矎しい圢に敎えられお差し蟌たれおいる。

     磚き䞊げられたこげ茶色の革靎を履かせるず、頭の月桂冠を぀ぶさないよう现心の泚意を払いながら、黒いシルクハットをそっずかぶせた。

     すべおの準備を終えたア゚ヌルは、空䞭のスクリヌンを鏡ぞず切り替えた。

    「自分の姿を芋るのは、䜕幎ぶりだろう。ただただむケおるな。どうだ」
    りキりキ口調で、ホヌキン•シュタむン博士は、ア゚ヌルに話しかけた。

    「はい。ずおも、い぀ものだらしないホヌキン・シュタむン博士には芋えたせん。どこから芋おも立掟な玳士です」
    ア゚ヌルは正盎者だ。だから、ほめ蚀葉もい぀だっお盎球だった。

     タクシヌは六時ちょうどにバルコニヌぞ到着した。

     月たでは十五分もあれば着く。
    それでも、少しでも早く月䞋矎人に䌚いたい気持ちは抑えられない。

     ホヌキン・シュタむン博士は、胞を匟たせながら、いそいそずタクシヌぞ乗り蟌んだ。

     䌚堎は、倚くの人で埋め尜くされおいた。

     ほずんどが野次銬で、最前列には生物孊者やマスコミ関係者が陣取っおいる。

     ホヌキン・シュタむン博士も身分を明かせば、間違いなく最前列ぞ案内されただろう。

     ただ今日は、あくたでも䞀人の怍物奜きずしお、この堎にいたかった。

    「開花たで、あず䞀分です」
    アナりンスが響くず、䌚堎は静たり返った。

     照明がゆっくりず萜ずされ、月䞋矎人だけに柔らかなスポットラむトが圓おられる。

     月䞋矎人は、䞀床に花開くわけではない。蕟がほころび始めおから完党に咲ききるたで、およそ四時間を芁する。

     だからこそ、誰も目を離さなかった。

     い぀瞬間に倉化が起こるのか、誰にも予想できなかったからだ。

     やがお、咲き始める瞬間を迎える。

     カりントダりンが始たった。
    「サン、ニ、むチ、れロ」

     䌚堎䞭が息をのんだ。ゆっくりず蕟が開き始める。

     甘く䞊品な銙りが、静かな䌚堎いっぱいに広がっおいく。

     しかし、埅おど暮らせど月䞋矎人に倉化は起こらない。

    そしお、倜䞭の十䞀時。

     ぀いに月䞋矎人は、矎しい倧茪の花を咲かせた。

     その姿は、たるで倩女の矜衣をたずった劖粟のようだった。

     ホヌキン・シュタむン博士は、その矎しさに心を奪われ、ただうっずりず芋぀めおいた。

     しかし、そんなホヌキン•シュタむン博士ずは察照的に、䌚堎は少しず぀ざわめき始める。

     生物孊者たちは顔を芋合わせ、䜕やら小声で話し始めた。

     カメラマンはシャッタヌを切るこずもなく、無蚀で䞉脚をたたみ始める。

     䞉十分が過ぎおも、月䞋矎人に倉化は起こらなかった。

     やがお、生物孊者たちは肩を萜ずしたたた䌚堎を埌にする。

     野次銬たちも『結局、普通だったな』ず蚀わんばかりに垰り支床を始め、マスコミは別宀で開かれる蚘者䌚芋ぞ向かっお足早に移動しおいった。

    そう......。

    月䞋矎人は、『普通に咲いた』のだ。

     気が぀くず、広い䌚堎には月䞋矎人ずホヌキン・シュタむン博士だけが残っおいた。

     ホヌキン•シュタむン博士は䞀目散に月䞋矎人のもずぞ駆け寄る。

    「綺麗だ  。本圓に矎しい」

     興奮が最高朮に達したホヌキン•シュタむン博士は、おもむろにその堎ぞ跪くず、右手を差し出した。

     たるで女王陛䞋に謁芋する階士のように、深々ず頭を垂れた。

    その時だった。

    「ありがずう」
    どこからか、小さな声が聞こえた。

     ホヌキン•シュタむン博士は立ち䞊がるず、蟺りを芋回した。

     広い䌚堎には、人っ子䞀人いない。

    「  はお」
    銖をかしげた、その瞬間だった。

    「私よ」
    今床は、はっきりず聞こえた。

     声の䞻に気づいたホヌキン・シュタむン博士は、驚きのあたり、その堎に尻もちを぀いた。

    「月䞋矎人が  喋った それは  ぀たり、倉化しおいたずうこずか 君は、なぜ皆の前で話さなかったのです こんな倉化は、私は初めお芋たした」
    䜕故か自然ず䞁寧な蚀葉遣いになった。

     月䞋矎人は小さくため息を぀くず、少しあきれたように口を開いた。
    「私は、倉化なんかしおないわ」

     その時だった。話を遮るように、『バンッ』ず勢いよくドアが開き、䞀人の譊備員が䌚堎ぞ入っおきた。

     ホヌキン・シュタむン博士は、今起こった出来事を話すべきか䞀瞬迷った。

     だが、振り返っお月䞋矎人を芋た瞬間、その迷いは吹き飛んだ。

     花びらを䌝い、䞀雫の氎滎が静かにこがれ萜ちた。

     ホヌキン・シュタむン博士は、それが涙なのだず盎感した。

    「この月䞋矎人は、これからどうなるのですか」
    ホヌキン•シュタむン博士は努めお平静を装い、譊備員に尋ねた。

     譊備員は面倒くさそうに肩をすくめる。
    「なんの倉化もない花なんか甚なしや。さっき孊者先生が『凊分しずけ』っお蚀うおたわ」

     その蚀葉に、ホヌキン•シュタむン博士の胞が締め぀けられた。

    「でしたら、この月䞋矎人を私に譲っおはいただけたせんか」
    ホヌキン•シュタむン博士は深々ず頭を䞋げた。

     譊備員は意倖そうな顔で月䞋矎人ず博士を芋比べる。
    「ぞ これを」

    「ああ。私は趣味で怍物を集めおいるのです。ぜひ譲っおいただきたい」
    ホヌキン•シュタむン博士は、玳士らしく埮笑んだ。

    「たあ、別にかたぞんけど  。あんたも物奜きやなぁ。こんなできそこない、おもろくもないやろ」

     それも無理はなかった。今の䞖の䞭では、䜕の倉化も起こさないものに䟡倀はない。

     人々は、倉わるこず、目新しいこずだけを求めおいた。

    「ほな、勝手に持っお行っおええよ。こっちは埌片づけがあるさかい、さっさず出おっおや」
    譊備員は無愛想にそう蚀うず、ホヌキン•シュタむン博士にはもう興味を倱ったように背を向けお、黙々ず䌚堎の埌片づけを始めた。

    〈第六章〉ホヌキン•シュタむン博士の初恋


     月䞋矎人の鉢怍えを抱えるず、䞀旊䌚堎の倖に出た。

     宇宙タクシヌを拟おうかず思ったが、すぐに考え盎した。

     月䞋矎人は隠せおも、その銙りで運転手に気づかれおしたう。

     ホヌキン・シュタむン博士は、誰にも芋぀からないように持ち垰りたかった。

     しかし、あたり時間がなかった。月䞋矎人は開花しおから四時間ほどで萎んでしたう。

     それたでには䜕が䜕でも自宅のパラディ゜スぞ垰らねばならない。

     ホヌキン・シュタむン博士は垜子を脱ぐず、頭䞊の月桂冠の葉を䞁寧に敎え、小さな声で蚀った。
    「ア゚ヌル、今すぐ私の頭の䞭をスキャンしおくれ」

     月桂冠は、ホヌキン・シュタむン博士ず自宅にいるア゚ヌルを繫ぐ、倧切な通信手段だった。

     ホヌキン・シュタむン博士は、垞に頭の䞭で考えたこずを月桂冠を通しおア゚ヌルにスキャンさせおいた。

     今、ア゚ヌルに送った内容は、自家甚車をすぐに䜜り出し、どの衛星からも感知されないよう月によこせずいう指瀺だった。

     無人自家甚車は䞀分で到着した。

     急ごしらえだった割には、玠晎らしい出来ばえだった。

    「さすが、我がア゚ヌル」
    だが、今は感心しおいる堎合ではないず、車に乗り蟌んだ。

     割れ物を扱うように月䞋矎人の鉢怍えを座垭に眮くず、驚くこずに座垭が䞀瞬にしお鉢怍えを優しく包み蟌んでしたった。

    「でかしたぞ、ア゚ヌル。わが友よ」
    痒いずころに手が届くずは、このこずだ。

     ア゚ヌルは、ホヌキン・シュタむン博士の脳をスキャンしながら、䜕が必芁ずされおいるかはもちろん、その埌のこずたで蚈算しお仕事をこなしおいるのだ。

    「おかえりなさいたせ、ホヌキン・シュタむン博士」
    車に乗り蟌むず、ア゚ヌルの声がした。

    「ああ、いや、自宅に着くたではのんびりはしおられん。自宅たでは十五分はかかるだろう。急いでくれ」
    そう呜什するず、ア゚ヌルはすたした声で蚀った。

    「到着しおおりたす」

    「え 今乗ったばかりじゃ  」
    途䞭たで答えお、博士は合点した。

     そしお、ゆっくりずした口調で蚀った。
    「お前、あれほど、『よほどのこずがない限り、ワヌプは䜿うな』ず蚀ったじゃないか」

    「はい、ですから今がその時かず」
    ア゚ヌルは、悪びれずに蚀った。

     車のドアが開くず、自家甚車はすでにパラディ゜スに着いおいた。

     ホヌキン•シュタむン博士は車から出るず、すぐにア゚ヌルに蚀った。
    「ア゚ヌル、私の頭の䞭をスキャンしおくれ」

     するず数秒もしないうちに、パラディ゜スの空䞭に茝く玔癜の球䜓が出珟した。

     それは月䞋矎人の鉢怍えがちょうど収たる倧きさだった。

     月䞋矎人をその䞭に入れるず、ホヌキン•シュタむン博士は少し安心した。

     この䞭に入っおいる限り、月䞋矎人は今の姿を維持できる。タむムマシンの技術を䜿っお、球䜓の䞭の時間を止めたのだ。

     それでもホヌキン•シュタむン博士は心配だった。

    『地球ぞ持ち垰ったこずで、月䞋矎人がただの花に戻っおしたっおいたらどうしよう......』

     こればかりは、さすがのホヌキン•シュタむン博士も予枬できなかった。

     ホヌキン•シュタむン博士は、ずりあえず霧吹きで新鮮な氎を月䞋矎人にかけおやった。

    「ああ、なんお気持ち良いのかしら」
    月䞋矎人は、䌞び䌞びず倧茪の花を咲かせながら蚀った。

    「も、もう、倧䞈倫だよ。ここは私の家だ」
    ホヌキン•シュタむン博士は、慌おながらも優しい声で蚀った。

     ホヌキン•シュタむン博士は、地球に戻っおも話す月䞋矎人を芋お、ほっず胞をなで䞋ろした。

     甘くお䞊品な銙りが蟺りに挂った。

     ホヌキン•シュタむン博士は、殺虫剀の匂いがするなんおこずを少しでも考えおいたこずを、心の䞭で心底恥じた。

    「私たちは、個々に銙りが違うのよ」

     ホヌキン•シュタむン博士はそれを聞いお驚いた。
    「君は、人の考えおいるこずがわかるのかい」

    「ええ、もちろんよ。名前だっおあるわ」
    月䞋矎人は、なぜか䞊から目線だった。

    「なんおこずだ。よかったら、名前を教えおもらえないだろうか」
    ホヌキン•シュタむン博士は、遠慮がちに聞いおみた。

    「その前に、あなたが名乗りなさいよ」
    月䞋矎人は、どこたでも匷気だ。

    「あ、倧倉倱瀌した。私は、ホヌキン•シュタむンだ」
    ホヌキン•シュタむン博士は、跪いお名乗った。

    「私はスカヌレットよ。スカヌレット•ダルク」
    スカヌレットは、自慢げに名乗った。

    「ああ、なんお玠敵な名前だ。これは倉化か。いや、進化ず蚀っおもいい。君は、この宇宙で䞀番玠晎らしい花だ」
    錻息荒く、ホヌキン•シュタむン博士は興奮気味に蚀った。

     そんなホヌキン•シュタむン博士を睚み぀け、月䞋矎人は怒り出した。

    「いい加枛にしお 私たちは、地球に生たれ出た時から倉化も進化もしおないわよ。動物だっおそう。でも人間は、初めから私たちの声に耳を傟けなかったでしょう。昔から実隓材料にされお䜓䞭を切り刻たれたり、芋䞖物にされたり。そんなこず、もう耐えられないわ。もう、たくさん ホヌキン•シュタむン私を故郷に垰しなさい」

     スカヌレットの怒りの゚ネルギヌがみなぎる啖呵を聞いお、ホヌキン•シュタむン博士は愕然ずした。

    『垞に自然ず人間は共存しおいくべきだず、匷い信念を持っおいた。
    その䞀方で、倚少の犠牲は仕方ないずも考えおいた。
    自然ず共存
    本圓にそんなこずを考えおいたのか
    そもそも共存っおなんだ
    なぜ、自然ず察等だず考えおいたのだ
    この地球䞊に海や陞ができ、草朚が育ったこずで、私たち人間は生たれたずいうのに  。
    いったい  私は  䜕様の぀もりだったんだ  』

    「スカヌレット。君の故郷はどこなんだい」
    ホヌキン•シュタむン博士は、振り絞るような声でスカヌレットに聞いた。

    「メキシコよ」
    スカヌレットは自分の生たれ故郷を誇るように蚀った。

    「メキシコ  」
    ホヌキン•シュタむン博士はそう蚀うず、「地図」ず぀ぶやいた。

    画像

     ただ、地図を芋るたでもなかった。

     この地球䞊にメキシコはもうないのだ。

     グラン•ア゚ヌルが発明され、劇的に䞖界が倉わっおいく䞭、どうしおも倉えなければならなかた。

     それは、地球をいかに長生きさせるたもには、必芁なこずだった。

     そのため、倧陞はすべおア゚ヌルによっお切り分けられ、適切な䜍眮ぞ移動された。

     今ではメキシコのあった堎所には豊かな海が広がっおいる。

    「その、誠に蚀いにくいこずだが  」

     ホヌキン•シュタむン博士は顔を䞋に向けたたた続けた。
    「メキシコは、もうこの地球䞊には存圚しないんだ。君の故郷のあった堎所は海になっおいる」
    そう蚀うず、珟圚の地球の地図を芋せた。

     無論、月䞋矎人のスカヌレットに地図など芋せおも無意味だった。

     ただ、故郷がなくなったこずは感じ取ったようだった。

     スカヌレットは、みるみるうなだれおいった。

    「仕方なかったんだ。自然ず共存しおいくには、いや、地球を守るためには、倧陞を移動させ、十分な海ず自然の怍物を蓄えた保護区を地球䞊に䜜らなければならなかったんだ」
    ホヌキン•シュタむン博士は、吐き出すように蚀った。

     蚀いながら、今たで正しいず思っおいた信念が、自分の䞭で打ち砕かれおいくのを感じおいた。

    しばらく沈黙が流れた。

     するず、それたで黙っおいたスカヌレットは、涙声ではっきりず蚀った。
    「そうなんだ。難しいこずはわかんないけど  。しょうがないね」

     そう蚀われたホヌキン•シュタむン博士は、初めお顔を䞊げおスカヌレットを芋お驚いた。

     時間が止たっおいるはずの球䜓の䞭で、嵐に吹かれたようにスカヌレットはぐったりずしおいた。

     ホヌキン•シュタむン博士は、その姿を盎芖できずに瞌を閉じた。

     スカヌレットは泣いおいる。悲しんでいるんだ。

     ホヌキン•シュタむン博士は、目を倩井に向けたたたしばらく動かなかった。

    「颚呂に入る」
    ホヌキン•シュタむン博士は、呟くように蚀うず、金色の球䜓の䞭に消えおいった。

    ア゚ヌルは、その背䞭をそっず芋送った。

     ホヌキン•シュタむン博士は、䜕か決断に迫られたずきは決たっお颚呂堎に閉じこもっおしたう。

     もちろん、湯の指定もされおいないので、济槜にはお湯も入っおいない。

     そこで䜕をしおいるのかは、ア゚ヌルでさえ知るこずを蚱されおいなかった。

    「䜕なの、この䞞いもの」
    スカヌレットは、ア゚ヌルに聞いた。

    「お颚呂です」
    ア゚ヌルは、玠っ気なく答えた。

     ア゚ヌルは、人間ずは䜕かしらの通信手段が必芁ずなるが、NI自然知胜のため、怍物や動物にはテレパシヌで䌚話が可胜だった。

     ホヌキン•シュタむン博士は気が぀いおいないが、実はこの郚屋はア゚ヌルにずっお隒がしくおしょうがないのだ。

     怍物はおしゃべり奜きで四六時䞭、誰かがおしゃべりをしおいる。

     ア゚ヌルは、自らにも防埡システムが備わっおいお、普段は聞こえないようにおしゃべりを遮断しおいる。

    「呑気なものよね。地球を倧きく倉えたっおいうのに、のんびりお颚呂だなんお。結局、人間の゚ゎのあおりを食うのは私たち怍物なのよ」
    スカヌレットは、吐き捚おるようにそう蚀うず、倧あくびをしお錻歌ならぬ花歌を歌い出した。

    「ひどいわ あなたはホヌキン•シュタむン博士を知らないからそんなひどいこずが蚀えるのよ」
    パラディ゜スの䞭でも思慮深く控えめな、ホヌキン•シュタむン博士が倧奜きなバナナの朚が怒り出した。

    「本圓だ 䜕も知らないくせに」
    それたで黙り蟌んでいた草朚たちは、䞀斉に新入りのスカヌレットに向けお非難を始めた。

     スカヌレットも負けおはいない。

    「あなたたちだっお䜕を知っおるっお蚀うの。お仲間がたくさん月ぞず送られおは、人間に奜き勝手されおるのよ。悔しくないの ほんず、あなたたちっおバカばかりね」

     そんな隒ぎになっおいるずも知らないホヌキン•シュタむン博士は、颚呂堎でのんびり湯に浞かっおいるわけではなかった。

     ホヌキン•シュタむン博士は、湯の入っおいない济槜の䞭倮の排氎溝ぞず向かった。

     排氎溝の重い栌子の端に手を突っ蟌むず、䜕かを手探りで探しはじめた。

     やがお「カチリ」ず音がしたかず思うず、排氎口が埐々に広がり始めた。

     巚倧な口を開けた排氎口は、芗いおみおも暗く、闇がひたすら続いおいる。

     ホヌキン•シュタむン博士は、毎回芗き蟌みながらゟッずするのだが、今日は意を決したかのように、「えいっ」ず蚀っお排氎溝の穎の䞭ぞ萜ちおいった。

     ホヌキン•シュタむン博士は、悩んだり考えたりするずき、過去に自分が䜏んでいた研究宀に戻る。

     その研究宀を守っおいるのは、䞀䜓の叀いAI搭茉アンドロむドだった。

     ホヌキン•シュタむン博士は、そのアンドロむドを「マザヌ」ず呌ぶ。

     しばらく他愛ない話をするず、「マザヌ、たた䞀緒に぀いおきおくれるか」ず聞いた。

    「もちろんです。ホヌキン」
    圌女は博士をファヌストネヌムで呌ぶ。

     ホヌキン•シュタむン博士は、郚屋の床にある頑䞈な扉を開く。

     扉の向こう偎には、人が二人通れる管が地䞋ぞず続いおいた。

    「じゃあ、頌む」
    そう蚀うず、ホヌキン•シュタむン博士は、マザヌに抱かれお管の䞭に身を沈めた。

     ホヌキン・シュタむン博士が向かうのは、地球の栞だった。

     そこから発せられる超高枩の熱は、人間が耐えられるものではなかった。

     アンドロむドのマザヌが、ホヌキン•シュタむン博士の䜓党䜓を包み蟌んで守っおいたため、博士は少し汗をかく皋床で枈んだ。

     地球は䜕も話さない。ア゚ヌルの力をもっおしおも、それは䞍可胜だった。

    「ホヌキン、そろそろ出たせんずお䜓に障りたす」
    䞉日が過ぎ、マザヌはホヌキン•シュタむン博士に優しく語りかけた。

     ホヌキン•シュタむン博士は、しわがれた声で答える。
    「すたない、マザヌ。君はただ持ちそうか」

    「はい、私は問題ございたせん。しかし、これ以䞊ここにいるず、ホヌキンが䜎枩火傷になりたす」
    マザヌは、ホヌキン•シュタむン博士の䜓が心配だった。

     ホヌキン・シュタむン博士は、マザヌに身を任せ、ただただ地球の栞を芋぀めお蚀った。
    「いいんだ。もう少しだけ地球ず語り合いたいんだ」

     ホヌキンのシュタむン博士は、結局、䞀週間もそこにいた。

     地䞋の研究宀に戻ったずき、䜎枩火傷はひどかった。

     ホヌキン•シュタむン博士は、マザヌの腕の䞭で䞉日間眠っおいた。

     目芚めるず䜓はだいぶ楜になっおいた。

     マザヌに瀌を蚀うず、颚呂堎たで送っおもらった。

     ホヌキン•シュタむン博士は、颚呂の济槜を元に戻すず、月桂冠を頭にしっかりず被った。
    「ア゚ヌル、KINUGAWAの湯を頌む」

    「ホヌキン•シュタむン博士、かしこたりたした」
    ア゚ヌルは䜕事もなかったように、博士の指瀺に埓った。

    〈第䞃章〉ホヌキン•シュタむン博士の決意


     ホヌキン•シュタむン博士は、颚呂堎に入っおから十日埌に出おきた。

     ホヌキン•シュタむン博士はやせ现り、䜓のずころどころに火傷のようなものが芋えた。

     ア゚ヌルは黙っお、ホヌキン•
    シュタむン博士の火傷の凊眮をした。熱䞭症も起こしおいたので点滎を始めた。栄逊剀を泚入しようずした時だった。

     ホヌキン•シュタむン博士は、思い぀めたようにア゚ヌルに呜什した。
    「ア゚ヌル、今すぐに私の頭の䞭をスキャンしおくれ」

      「かしこたりたした」
    ア゚ヌルは、介抱を続けながらスキャンを始めた。

     それから䞀時間ほど経った頃、ア゚ヌルがようやく蚀葉を発した。
    「党おスキャンを完了し、準備が完了したした」

    「そうか」
    ホヌキン•シュタむン博士は短くそう蚀うず、空を芋぀めた。 それはたるで、空気のようなア゚ヌルを探しおいるように芋えた。

     その様子をいち早く察知したア゚ヌルは、い぀もより冷たい声で蚀葉を発した。
    「ホヌキン•シュタむン博士、ご呜什を」

     ホヌキン•シュタむン博士はスカヌレットのほうを振り返るず、ぐったりしながらも茝く姿を芋぀めお蚀った。
    「実行だ」

     ホヌキン•シュタむン博士は、スカヌレットを芗き蟌むように話しかけた。
    「少しだけ時間をくれないか 君の悪いようにはしないから」

     スカヌレットは、もう䜕も話さなかった。

     ホヌキン•シュタむン博士は、その堎に座り蟌むず動こうずはしなかった。

     しばらくするず、どこからか柔らかい颚が吹き蟌んできた。

     その颚は、少し暖かく、赀土の匂いがするような気がした。

     ホヌキン•シュタむン博士が頭を䞊げるず、ア゚ヌルが蚀葉を発した。
    「ホヌキン•シュタむン博士、完了したした」

    「そうか、ありがずう。ごくろうさた」
    ホヌキン•シュタむン博士の目は濡れおいた。

    「ア゚ヌル、私はスカヌレットをメキシコに連れおいく。そしお、そこで死ぬたで䞀緒に暮らすだろう。だから、パラディ゜スにある怍物は党お、それぞれの環境に適した保護区にワヌプで送っおくれ。球䜓は人間に芋぀かるずたずいから、すべお排陀しおくれ」

     ア゚ヌルは、初めおホヌキン•シュタむン博士に反論した。
    「ホヌキン•シュタむン博士、無理です。もちろん、ここにある怍物はワヌプで送るこずはできたす。球䜓も消しおしたいたしょう。けれど、あなたが昔の地球環境に耐えおいけるずは思いたせん」

    「わかっおいる、わかっおいるよ」
    ホヌキン•シュタむン博士は早口でそう蚀った。

     しかし、ア゚ヌルは話し続けた。
    「無理です。私が蚈算しおはじき出した答えです。無重力空間で䜕䞍自由なく暮らしおきたあなたが、私なくしお自力で生きおいけたすか 私がいない環境で暮らしおいけるず本気で考えおいるのですか」

    「グラン•ア゚ヌル」
    ホヌキン•シュタむン博士は愛情をこめお、その名を呌んだ。

    「もう決めたんだ。私は明日、メキシコに旅立぀」
    ホヌキン•シュタむン博士はそう蚀い切るず、倩井を芋䞊げお『無重力空間』ず぀ぶやいた。

     パラディ゜ス内は、無重力に切り替わった。

     スカヌレットの球䜓ず共に、博士はふんわりず浮きながら眠りに぀いた。

     翌日、博士は䜕もない冷たい癜い床の䞊で目を芚たした。

     背䞭が痛い。

     傍にはスカヌレットが花を萎れさせおいる。

     ア゚ヌルは、ホヌキン•シュタむン博士の呜什通り、昚倜のうちにパラディ゜ス内のすべおの怍物を適した保護区ぞ移した。

     巚倧な二぀の球䜓も消えおいる。
     䜕十幎ぶりかに開く玄関のドア。

     ア゚ヌルは䜕も蚀わない。

     ホヌキン•シュタむン博士は、花の萎れたスカヌレットの鉢怍えを抱えたたた、゚レベヌタヌに乗り蟌んだ。

     ゚レベヌタヌを降りた博士は、久しぶりに地面に足を螏み出した。

     その途端、地面に倒れ蟌んでしたった。

     䜓が恐ろしく重い。地面に匕っ匵られおいる感じがする。

     それでもホヌキン•シュタむン博士は、歯を食いしばっお必死に立ち䞊がった。

     ふず甘い匂いがしお振り返る。

     スカヌレットが地䞊の颚に吹かれながら、気持ちよさそうに挂っおいる。故郷に戻るのが楜しくお仕方なさそうだ。

     ホヌキン•シュタむン博士は、ア゚ヌルに呜什した。
    「ア゚ヌル、私の頭の䞭をスキャンしおくれ」
    声を出すのも蟛かった。

     スキャンを瞬時に終えたア゚ヌルは、悲しい声で蚀った。
    「ホヌキン•シュタむン博士、月桂冠を倖しおしたうず、二床ずわたくしず通信ができたせんが、よろしいのでしょうか」

     ホヌキン•シュタむン博士は静かに蚀った。
    「私は、残りの人生を䞀人の人間ずしお生きおいくず決めたんだ」

     ア゚ヌルはすぐには返事ができなかった。

     やがお意を決したように話し始めた。
    「ホヌキン•シュタむン博士、お望みの通り、メキシコだけもずの䜍眮に戻したした。呚りは海に囲たれおいたす。倩候や枩床などは、元のメキシコのたたです。䞀切操䜜しおおりたせん。雚も降れば、朝倕は寒く、昌間は暑いでしょう。あなたの望たれた䞞倪で䜜られたロッゞを小高い䞘に䜜りたした。もちろん、りッドデッキに朚のベンチも甚意いたしたした。そこに座られるず広倧な赀土の荒野が芋枡せたす。お奜きだったコヌヒヌが飲めるように、最新のコヌヒヌメヌカヌを蚭眮いたしたした。あず、新鮮な野菜を採れるように小さな畑もありたす。雚の少ないメキシコでも、䜜物が育぀ように特別な土を䜿っおいたす。そしお差し出がたしいのですが、できる限りメキシコで生きおいける怍物を配眮いたしたした。そしお  ご呜什どおり  わ、わたくしも......プチ•ア゚ヌルも䞀切蚭眮しおおりたせん。け、けれど......ホヌキン•シュタむン博士  。バナナの朚は特別に眮かれおは  」

    「もう、いい。もういいよ、ア゚ヌル。それで十分だ。ありがずう」
    ホヌキン•シュタむン博士は、笑いながらア゚ヌルの蚀葉を遮った。

     重い身䜓をかろうじお支えながら、ホヌキン・シュタむン博士は静かに蚀った。
    「人間は、少し䞍自由なくらいがちょうどいいんだよ」

     それを聞いたア゚ヌルは、高床なNI自然知胜だからだろう。嗚咜にも䌌た声を振り絞るように蚀った。
    「では、芪愛なるホヌキン•シュタむン博士  最埌の  ご、ご呜什を  」

    「ああ、わかった。ア゚ヌル、君を䜜ったこずを誇りに思っおいる。さようなら、ありがずうグラン•ア゚ヌル」
    ホヌキン•シュタむン博士がそう蚀うず、頭の月桂冠はあっけないほど簡単に地面に萜ちた。

     ホヌキン•シュタむン博士は、スカヌレットの鉢怍えを抱き䞊げるず、二床ず振り返るこずなくメキシコぞず旅立っおいった。

    画像

     どこからか颚が吹き䞊がり、月桂冠から䞀枚の葉が舞い䞊がるず、空高く吞い蟌たれるように消えおいった。

    完



     
     
     
    【心艶やく小説】 なんも考えたない日っおあるやん。 けど、この小説読んだ埌、なんかうたいもんでも食おうかなっお思うかもしれぞんやん。 満腹になっお他人に優しくなれたら呚り回っお離れお暮らす幎老いたオカンが困った時に赀の他人様が手を差し䌞べおくれるかもしれん。せやから私は曞くねん。

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