
「じゃあ、パンツ見ていいよ…」
長男には特別な友人がいる。東京で通っていた保育園でとっても仲良くしていた女の子が2人。以下、便宜上、ひとりを「ひーちゃん」、もうひとりを「ちーちゃん」と呼ぼう。
もしこのまま関係が断絶しなければ、長男、ひーちゃん、ちーちゃんの3人は"幼馴染み"になるだろう。OSANA・NAJIMI。なんて魅力的な響きなんだ。でも、彼ら自身がその尊さに気づくにはかなり時間がかかる。
今、彼らがお互いに、そして園内で友達と呼ぶ子たちのほとんどはどこかのタイミングで疎遠になり、関係が途切れてしまうのが世の常。大人になった今でも…というのは余程、環境と運に恵まれていなければ成立しない。だからこそ、幼馴染みには不思議とプライスレスな味わいがある。
「あー俺、〇〇と幼馴染みなんだわ」
〇〇には適宜、世代と好みに合わせて吉永小百合とか吉岡里帆とかインリン・オブ・ジョイトイを挿入し、よりリアルなところでかつての学年のマドンナ、アイドルやアナウンサーになった同級生を当ててくれれば分かりやすい。生きていれば、急にこんなフレーズを聞かされて唇を噛み血を流した経験があってもおかしくはない。
こういう体験、言葉にできない想いがたまたま備わっていた作家的才能とリンクして、幾人かは後に
「冴えない高校生の俺にも、めちゃ可愛いで有名な幼馴染みがいていつも彼女だけが気安く声をかけてくれるのだが、突然異世界転生してしまい女剣士に惚れられた結果、色々迷うよ」
そんなファンシーな主題のライトノベルや漫画を書き始めることがあるかもしれない。
話を戻すが、ずっと3人仲良くしてほしい、そんな叶いそうもない大望を僕は結構真剣に抱いている。叶いそうもない、というのはまず長男は金沢、ひーちゃんは青森、ちーちゃんは東京で、とにかく遠い。
子どもたちが忙しくなり、そのマインドも思春期に至れば、年に一回会う程度の幼馴染みなんてのはあっという間に馴染みのない存在になってしまう。特に、長男は紅一点ならぬ漢一竿なわけで
「女子と馴れ合うなんてマジだるいっしょ」
的な言動に代表されるような中2の煮凝りみたいな思考で脳内を埋めてしまうに違いない。そもそも、たまに会うだけの思春期の男女が交友を維持するなんて、夢のまた夢。これが大人の乾いた経験則というやつだ。
先日、青森に3家族が集合したときも大人が見ていて照れるくらいの初速で再会を喜び合ったかと思えば、特段会話など挟まなくとも、すぐに和気あいあいと遊び始めていた。これが近い将来…
妻「ほら、久しぶりにちーちゃんに会ったんだから挨拶くらいしなよ!」
長「…ちわす…」
ち「…どうも…」
こんなしどけない関係になっていき、やがて途切れてしまうのは割とリアルに想像できる。
だが、人生はそれなりに長い。縁は異なもの味なもの。一度は切れたかと思った繋がりもいつかまたどこかで交わることがある。そういうものであってほしい。
ひ「ねえ、りつくんは何色が好きなの?」
長「青色!」
ひ「……一緒だ!ほかには?」
長「黄色かな!」
ひ「…え、それも同じね!」
長「でも青色が1番だよ!」
ひ「ひーの1番は…りつくん色かな…」
ひーちゃんは長男のことが好きだ。ここ3年くらいずっと。長男にはもったいないくらいに可愛らしく素直な子だが、やけに女子感が増してきた。
一方、ちーちゃんはどこか孤高の風を纏っている。理知的でマイペース。なにか大物になる素質がある。
車の後部座席。並びは決まって、長男を女子2人で挟む。ちーちゃんが寝てしまい長男の左肩にもたれかかっているその真横で、長男とひーちゃんはほっぺた触り合ってイチャイチャしていたらしい。
3人が青森の広大な自然の中で駆け回る姿には、神々しさすら感じる。
長「ハハハ!おい!やめろぉ!」
ひ「キャハハ!りつくん!りつくん!」
長「やめろって!おい!やめないと!パンツ見るぞ!」
ひ「…じゃあ、パンツ見ていいよ…」
おい!やめろバカ息子!ひーちゃんアンタもアンタだ…
神々しい天使たちの戯れを肴に、親たちは酒を酌み交わす。
どうかこの縁が途切れませんように。