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「考えるパース」と「伝えるパース」──建築知識と『手で練る建築デザイン』から考える

    Shinji

    CGやAIによるパース生成が当たり前になった今でも、
    建築におけるパースの役割は失われていないと感じている。

    むしろ、
    空間を理解し、考え、他者に伝えるための思考ツールとしての価値は、
    以前よりもはっきりしてきたように思う。

    今回は、

    • 『建築知識 2019年10月号』

    • 『手で練る建築デザイン』(中山繁信)

    この2冊を通して、
    建築におけるパースの意味をあらためて整理してみたい。


    「常にそばにあった雑誌」──建築知識という存在

    『建築知識』は、日本にいた頃から常に手の届く場所に置いていた雑誌のひとつだった。
    特定の号だけではなく、必要なときに開き、気になる特集があれば読み返す、
    そんな距離感の本である。

    韓国に拠点を移してからは、
    法規や制度の違いもあり、次第にページを開く機会が減っていった。
    実務上、直接参照する場面が少なくなったというのが正直なところだ。

    それでも、日本へ行き、久しぶりに書店に立ち寄ったとき、
    この「パース・背景画」を扱った号が目に留まった。
    その場では購入しなかったものの、内容とビジュアルが頭から離れず、
    帰国後にあらためてAmazonで購入することになった。


    建築知識が示す「伝えるためのパース」

    この号の『建築知識』は、分厚い特集号ではない。
    しかしその分、情報はよく整理され、
    背景画・パース表現のエッセンスが非常に密度高く詰め込まれている。

    色鉛筆、水彩、ハッチングによる素材表現。
    建築を「正確に描く」ことよりも、
    質感や奥行き、空気感をどう伝えるかに重きが置かれている点が印象的だった。

    読み進めるうちに感じたのは、
    その世界観が、近年のアニメーションに見られる
    芸術性の高い映像表現とどこか通じているということだ。

    建築、イラスト、アニメ。
    分野は違っても、
    「空間をどう見せ、どう感じさせるか」という問いは共通している。


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    『建築知識』2019年10月号。 アニメ背景画と建築パースを横断的に扱った特集号。


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    『建築知識』2019年10月号より。 色鉛筆とハッチングによって、素材感と立体感を描き分ける手法の整理。

    もう一冊の原点──『手で練る建築デザイン』

    一方、もう一冊の『手で練る建築デザイン』は、
    2006年に初版が発行された書籍である。

    これは、日本にいた十数年前に購入したもので、
    パースを描くうえで、かなりお世話になった本だ。

    視覚的にとても分かりやすく、
    はじめのうちは掲載されているスケッチを真似しながら、
    何度も何度も描いて練習していた。

    この本は、
    「きれいに描くための本」ではない。
    描きながら、空間をどう捉え、どう整理するかを学ぶための本だと思う。


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    『手で練る建築デザイン』(中山繁信)。 長年手元に置き、実際に使い込んできた一冊。 表紙に残るコーヒーの染みも、この本と過ごした時間の痕跡として、むしろ印象深い。


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    曲がった道や階段空間のスケッチ。 消失点を意識しつつも、まず体感的な違和感を整理するための描写。


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    樹木の描き分けによる空間スケールの表現。 線の密度と省略が、環境の奥行きをつくっている。

    描くこと=考えること

    『手で練る建築デザイン』を通して強く意識するようになったのは、
    描くことそのものが思考のプロセスであるという感覚だった。

    一本の樹木をどう描くか。
    街路の奥行きをどう処理するか。
    点景として人をどう配置するか。

    これらは装飾ではなく、
    空間のスケールや性格を理解するための作業である。

    著者の中山繁信先生は、宮脇檀先生の事務所にいらっしゃった建築家で、
    以前に書いた書籍紹介の記事でも触れたことがある。
    この本によって、パースの重要性だけでなく、
    点景が空間理解に果たす役割の大きさを知ったと言っても過言ではない。


    「見せるパース」と「考えるパース」

    今回あらためて2冊を読み返して感じたのは、
    両者がまったく異なる役割を担っているということだ。

    • 建築知識
      → 他者に伝えるためのパース

    • 手で練る建築デザイン
      → 設計者が考えるためのパース

    どちらか一方だけでは足りない。
    考えた痕跡があるから、説得力のあるパースになる。

    消失点や作図理論は重要だが、
    それはあくまで後から整理できるものだ。
    まず描き、違和感を覚え、そこから理屈を確認する。
    その順序が、実務ではしっくりくる。

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    線だけで構成された立面パース。 装飾や陰影を加えなくても、プロポーションと構造の理解が成立している例。

    おわりに|パースは建築を見る力を育てる

    パースは、単なる表現技法ではない。
    空間をどう見ているかが、そのまま表れる。

    今回紹介した2冊は、
    「どう描くか」以前に、
    「どう見ているか」「何を理解しようとしているか」を問いかけてくる本だった。

    以前書いた記事では、
    空間をどう体験し、どう見るかについて整理したが、
    今回の内容はその延長線上にある。

    見る → 描く → 伝える。

    この循環を意識することが、
    今でも変わらず、建築において大切なのだと思っている。


    ※本記事にはAmazonアソシエイト・プログラムによるアフィリエイトリンクが含まれています。


     
     
     

    Shinji

     
     
    建築家・文筆家|韓国在住 日韓の住まいと建築文化を、設計実務の視点から考察。韓国の温かさと日本のミニマリズム、その間にある暮らし、時間の記憶、建築の余白を綴ります。「時間建築論」連載中。

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