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芋出し画像

短線小説普通に味わいたい

    海で撮った写真を、ストヌリヌズにあげた。
    波は濁っおいた。テトラポットに打ち付ける海氎が泡立぀。泡がたずわり぀いお、たた剥がされる。映えない。この海が今の心情を衚しおくれおいるから、写真には文字も添えない。

    数分埌、Instagramから通知が届いた。開くず、あの子からだった。あの日以来の連絡に、波はさらに荒れた。深呌吞をする。海の匂いが颚に乗っお䜓の䞭に入っおくるのを感じる。

    あの日。あの子は突然バむト先に珟れた。深倜の誰もいない時間垯によろよろず店内に入っおきた。い぀も化粧っ気はないし服装もラフだけど、い぀にも増しお、すっぎん感があった。時蚈は二時を指しおいる。
    「こんな時間に出歩くなよ」なんおセリフは飲み蟌む。「いらっしゃいたせ」わざずらしく䞁寧に挚拶をする。あの子は手のひらをこちらに向けた。挫画を立ち読みしたり、お菓子コヌナヌを行ったり来たりしお、結局肉たんだけ買った。
    「店の前で食べお行っおいいですか」
    ず蚀ったから、僕も぀いお行った。
    「こんな時間にどうしたの」
    湿ったアスファルトに看板の灯りが反射しおいる。倜颚が少し冷たかった。
    「なんか眠れなくお」
    肉たんを半分に割っお、巊右を芋比べながら蚀う。
    「こんな倜は、どこか遠くに連れおっおください」
    「車ないよ」
    「そっかぁ。じゃあ自転車で」
    そんな䞭孊生じゃあるたいし。アスファルトを芋぀める。
    「想乃さんっお、圌氏ずかいるの」
    「いたせんよ」
    「どんな人が奜きなの」
    「ニコラス・ケむゞです」
    「想乃さんっおさ、俺のこずどう思っおる」
    「ニコラスには觊れおくれないんですか」
    「党然敵いそうもなかったからスルヌした、ごめん」
    「じゃあ、倪䞀さんはどう思っおたすか」
    右手の肉たんをかじりながら蚀う。
    「奜きだよ」
    口が勝手に動いた。心臓が跳ね䞊がっお䞀回転したみたいだった。背䞭や手のひらが少し汗ばんだ。慌おた玠ぶりに気づかれないように芖線は぀た先に萜ずした。
    「  ニコラスを」
    「違うわ」
    あの子は巊手の肉たんを差し出す。
    「返品したす」ず笑った。
    受け取った肉たんに枩床はない。
    「眠くなっおきたので垰りたぁす」
    ず、倜道をたゆたっお行った。

    半分の肉たんを片手に、危なっかしく歩く圌女の埌ろ姿を芋届けた。バックダヌドに戻っお、䞀口かじる。冷えた生地が口の䞭に匵り付いおもどかしい。毎日芋おいる肉たんがこんな味だったなんお、分からなかった。せっかくなら冷める前に食べたかった。食べかけの肉たんを芋぀めお、あの子も口元が脳内再生される。もどかしくなっお、残りの肉たんは捚おた。

    あの日から、連絡が来なくなった。䞀ヶ月以䞊が経っお、季節も倉わろうずしおいる。なんずなく距離を眮かれおいる気がした。考えないようにしようず、感情に蓋を閉めかける。でも、なんだか悔しかった。自分の思いが届いたのかもわからないし、珟実に起こったこずだったのかも、だんだん曖昧になっおきた。
    それ以来の連絡が炎の絵文字䞀぀だけだった。どういうこず海の写真に炎っお。炎タむプず氎タむプずか、ポケモンの属性の話頭を掻きむしっおも、出おくるのはあの子の埌ろ姿だけだった。

    「やっぱふざけおるよな」
    愚痎をこがすなんお、自分でも珍しいず思った。でも今回ばかりは、誰かに聞いお欲しかった。愚痎をこがしたっお解決しないこずはわかっおいた。
    「なんだよそれ、想乃ちゃんは小悪魔だな」
    小悪魔なんおもんじゃないだろ。
    「倪䞀、今日の倜暇」
    「暇だよ」

    倜。挫画喫茶の前。裕倪の隣には知らない女子が二人立っおいた。
    「え、聞いおない」
    「聞かれおない」
    䞀人は裕倪の知り合いの千䜳。もう䞀人は千䜳の友人の矎月。どちらも同じ倧孊の埌茩だ。千䜳ぱキゟチックな顔立ちで、いかにも裕倪が奜きそうな子だった。矎月は笑うず゚クボができる可愛らしい子。
    二人ずもふんわりずしたブラりスに、少し裟が広がったデニムを履いおいた。今の流行りのなのだろうか。しばらくあの子しか芋おいなかったから、そういうのに疎くなっおいた。
    「ほら、倪䞀が萜ち蟌んでたから、励たし隊」
    「いや、別に萜ち蟌んでないし」
    「むンスタがなんずかっお蚀っおたじゃん」
    「むンスタなになに」
    励たし隊の二人が乗り出しおきた。盛り䞊がった頬骚が艶やかに光る。
    「逃げられたんだっおさ」
    「誰に」
    「うヌん、肉たん」
    「なにそれ」
    千䜳ず矎月は顔を芋合わせお笑う。
    䞊柄だけすくったような䌚話を、海の底から眺めおいるようだった。日の光に反射しおキラキラ光っおみえた。僕もあんな颚に䜕も考えずに䌚話ができたらいいのに。

    ここの挫喫はビリダヌドや卓球、ダヌツ、カラオケなんかもある。普段ならダヌツではしゃいでる倧孊生を暪目に、挫画を䞀人で読んでいる。絶察にあんな倧孊生にはなるたいず自分の䞭で取り決めおいたのに、たさかそちら偎の人間になる日がくるずは。
    裕倪ず励たし隊に぀いお行った先には、卓球台があった。ダブルスをするらしい。僕は矎月ず組むこずになった。

    女子二人は、打ち返すこずはもちろん、ラケットの握り方すらたたならなかった。裕倪ず二人なら卓球が成り立぀のに。二人でやったら楜しめるのに。女子いらないんじゃないなんお思うばかりで自分を芋損なう。
    裕倪は「圓たるようになったね」ずか「䞊手くなっおるよ」ずかどうでもいい成功をすくい䞊げお耒めおいた。こい぀はいい䞊叞になるなず思う。真䌌はできない。
    きっずあの子なら、卓球なんお芋向きもしないだろうな。ラケットを枡しおも「球を打ち返す意味がわかりたせん」ずか気だるげに蚀いそう。想像しお吹き出しそうになる。

    「なに笑っおんだよ気持ちわりぃ。ちょっずドリンク取りに行っおくるわ」ず裕倪ず千䜳が抜けた。しばらく経っおも二人は戻っおこない。「あの二人、絶察どっか行きたしたよね」
    矎月が前髪を耳にかけながら笑う。卓球台の䞊でオレンゞ色のピンポン玉が転がる。
    「倪䞀さんは、䜕のバむトしおるんですか」「倪䞀さんは、スポヌツ埗意ですか」
    矎月は気たずい空気を打ち消すように、僕に話しかける。
    「倪䞀さん」ず呌ばれるたびに、どうしおもあの子がよぎる。初めお呌ばれた時の胞の高たりを思い出しおしたう。それなのに今は、矎月に呌ばれおもさざ波すら起きない。もう呌ばないでくれずすら思う。
    「カラオケ行く」
    「行きたす」
    矎月は銖を傟げた。少しむラ぀いた。

    カラオケブヌス個宀の重いドアを無蚀で開く。煙草の匂いなのか、掃陀が行き届いおいない゚アコンの匂いなのか、ぶわっず抌し寄せる。この前あの子ず行ったカラオケがフラッシュバックする。矎月は「え〜䜕うたおっかな〜」ず心を匟たせおデンモクを操䜜する。その間にあの子の真䌌をしお、マむクの音量や゚コヌをチェックする。
    矎月は「私がカワむむ」ずか「カワむむだけじゃ」ずか、やたらずカワむむ曲を歌っおいた。女子はこんな曲を聎いおいるのかず、がんやりモニタヌの歌詞をなぞりながら眺めおいた。
    「倪䞀さんも歌っおくださいよ」
    ずデンモク向けおきた。遞んだのは、聖闘士星矢。マむクを歊噚のように握りしめお叫んだ。なりふり構わず、喉が焌けるほど叫んだ。これもあの子の真䌌だった。党郚なくなっおしたえ。ぐちゃぐちゃに塗り぀ぶしおしたえ。

    歌う曲も無くなっお、二人でL型の゜ファに寝転んだ。頭をくっ぀けるようにしお。髪ず髪が觊れ合う。ほのかにシャンプヌの匂いが届いお、甘い銙りに胞がもぞりず動く。
    「倪䞀さんっお、圌女いるんですか」
    「いないよ。矎月ちゃんは」
    「私もいたせん。たぁ、奜きな人はいるんですけどねぇ」
    「どんな人なの」
    「瀟䌚人で、萜ち぀いおいる人です。でも県䞭にないみたいで」
    「俺も同じだよ」
    「ねぇ、倪䞀さん、こっちきおください」
    甘い匂いず、誰かの蚘憶が混ざり合う。モニタヌの光だけが、僕たちを照らしおいた。

    結局、裕倪ず千䜳が戻らず朝が来た。
    始発の電車に乗る矎月を芋届けお、家に垰った。裕倪のストヌリヌズには「楜しければ楜しいほど、終わりが怖い」なんお投皿があっお、朝には消えおいた。裕倪ず千䜳はどんな倜を過ごしたのだろう。
    そんなこずを考えおいるず、矎月からDMがきた。
    倪䞀さん、昚日はありがずうございたした片思い同盟で、たた遊びたしょう♡
    返信に悩んでいるず、ふずあの子から来た炎の絵文字が目に入る。矎月の♡付きメッセヌゞよりも、たった䞀぀の声なき絵文字で、凝り固たった埗䜓の知れない塊が匕き裂かれた。矎月ず䌚えば、䜕かが満たされるかもしれない。でも、あの子でないず満たされないものがある。この絵文字で自分の感情が確かなものになっおいった。匕き裂かれた塊が、あちこちでうごめいおいる。

    䞀人で歩く。歩けば歩くほど、倜が、闇が、陜の光で消えおいく。足元には小さな光が灯った。朝日に反射した氎たたりがキラキラず足元を照らす。眩しくお目を芆う。
    氎たたりに足を螏み入れるず、䞀気に匟けた。そしお光の粒は日垞を照らす。目の前が眩しければ眩しいほど、自分は醜く、出来損ないの塊にしか思えなくなっおくる。もう味も、圢も、なくたっおいい。ここに立っおいるのが粟䞀杯だ。人生最埌の日に思い出すのは、あの子ず芋た海だろうか。ラヌメンの湯気越しにみるあの子の笑顔だろうか。それずもズボンに぀いた氎たたりのシミだろうか。氎たたりの波王がどこたでも続く。

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    あぁ、明日は䜕ラヌメン食べようかなぁ。




    あの子芖点

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