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Photo bynon_file

CanonのAiAFへのノスタルジー

    キヤノンのコンパクトカメラ、とりわけ「Autoboy」や初期の「IXY」を手にしたことがある者なら、ボディの片隅に誇らしくプリントされたロゴを覚えているはずだ。「AiAF」。Artificial Intelligence Auto Focus。

    直訳すれば「人工知能オートフォーカス」。今にして思えば、なんと大胆不敵で、甘美な響きだろうか。

    現代においてAIといえば、ChatGPTのような大規模言語モデルや、自ら学習し生成するディープラーニングを指す。それに対し、90年代のキヤノンが搭載していたAiAFは、構造がまったく異なる。それは学習する知能ではなく、あらかじめ書き込まれた膨大な「IF-THEN(もし~ならば)」ルールの集合体であり、そこに「ファジィ制御」という曖昧さを許容する数学的アプローチを掛け合わせたものだった。

    当時のマニュアルを紐解けば、その仕組みが透けて見える。「中央の距離が遠く、周辺が近い場合は、二人の人物が並んでいると判断し、周辺にピントを合わせる」といった具合だ。これは、現代の視点で見れば「高度なアルゴリズム」に過ぎない。

    だが、これを単なる「マーケティング用語のあや」と断じるのは、あまりに無粋だ。

    なぜなら、当時の技術者たちにとって、それは紛れもなく「知能」への挑戦だったからだ。それまでのカメラは、画面中央しか見ていなかった。撮影者は「日の丸構図」を強いられるか、フォーカスロックという儀式を行う必要があった。そこへ現れたAiAFは、3点、あるいは5点といった複数の測距点を持ち、カメラ自身が「撮影者が何を撮ろうとしているか」を推論しようとした。

    ハードウェア(センサー)が得た断片的な距離情報から、撮影者の意図(コンテキスト)を読み解く。これは、計算機が人間の思考プロセスを模倣しようとする、初期AIの正当な系譜である。

    もちろん、その知能は完璧ではなかった。時として、二人の人物の間にある遠くの背景にピントが抜ける「中抜け」を起こし、撮影者を落胆させた。だが、ファインダーの中で緑色の測距フレームがチカチカと点滅し、カメラが一生懸命に被写体を探している様は、どこか健気で、愛嬌があった。

    あれは、「機械との対話」だったのだ。

    現代のスマホカメラやミラーレス機のAFは、被写体の瞳をナノ秒単位で追い続け、失敗することを許さない。あまりに賢すぎて、そこに機械の「迷い」や「思考」を感じる隙間はない。

    対してAiAFは、不完全であるがゆえに、カメラの意思を感じさせた。「お前はそこを撮りたいのか? 俺はこっちだと思うぞ」という、カメラからの提案があった。我々はフィルムの残り枚数を気にしながら、その提案を受け入れたり、あえて拒否してフォーカスロックし直したりした。

    AiAFとはなんだったのか。
    それは、アルゴリズムという名の「ルールブック」を携え、人間の曖昧な意図に寄り添おうとした、技術者たちの夢の結晶だ。そして、デジタル全盛の今、あの時代の「少しお節介で、時々間違える人工知能」が妙に恋しくなるのは、そこに人間臭い温度が宿っていたからに他ならない。

    フィルムを巻き上げるモーター音とともに、あの緑色のランプが脳裏に灯る。あれは確かに、僕らのポケットの中にあった「未来」だったのだ。

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    The View from Nowhere.─どこでもないところからの眺め。

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