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【中学受験#3】中学受験で学力を伸ばし切ることは正解なのか

    中受ネタが続いてます……
    塾で働くようになってから、日々思うことがたくさんあってね……、
    今回書くことが、自分も子供たちも中学受験を経験させて、中学受験業界で働く私が強く感じていること。
    ちょっと長くなるのだけど、最後までお付き合いいただければと思います。

    中学受験というと思い浮かぶのが、御三家をはじめとした偏差値の高い学校の受験。
    また、塾通いを続ければ続けるほど、「できるだけ良い(偏差値が)学校に」という思いがムクムクと生まれてしまうこともあるだろう。

    私自身、長男の中学受験の真っ只中にいる頃は、やるからには偏差値が上の学校を狙いたいという欲があった。言い訳になるが、長男の学年は今思い返しても「なぜ?」と思うくらい、教育熱心なご家庭、そして優秀なお子さんが多かった。(同じ公立校だったのに次男の学年は全くカラーが違った。長男の学年は異質だった)
    しかも受験をする同級生のほとんどがSAPIXの同じ校舎に通っていた。そのため、どうしても他のお子さんの成績事情もわかってしまう。他の子と比較するのは御法度とわかっていても、比べては落ち込んだり、変な欲がでたり、自分を律することが難しかった。

    でも、その一方で「中学受験で限界まで伸ばし切って合格を掴み取った、その後がハッピーとは限らない」ということも知っている。
    というのも私自身が、合格した中学に進学した後、ある程度勉強しないとすぐに成績下層組に落ちてしまうという不安を常に抱えた6年間を過ごしたからだ。

    合格後に待ち受ける環境の変化は、時に厳しい

    40年以上前、私の受験の時、母は御三家の一つを第一志望に考えていたらしい。
    しかし、志望校を決める面談の際、担当の先生が「合格する可能性は0ではありませんが、入れたとしても、学校での成績は最下層になると思います。それはお嬢さんのためになりません」と諭してくれたのだという。
    それで、母は偏差値を下げて志望校を決め、私は無事合格をいただき進学した。
    だが、しかし。
    その学校でもなお、私は定期試験で上位層にはいけなかった。

    埼玉郊外の小学校では成績がよく、自他ともに認める優等生だった。塾でも最上位は無理でも上位層のクラスにいた。
    それなのに中学生になった途端、学校の中で成績の良くない層に入ることになり、鼻っ柱を折られた私の自己肯定感はかなり下がった。「私にはもう取り柄がない……」と本気で思った。
    しかも、私は中学受験で燃え尽きていて、勉強にはうんざりしていた。宿題や課題はこなしたものの、勉強はほとんどせず、試験一週間前からの定期試験対策だけ必死にやった。それで、なんとか中の下あたりの成績をキープしていた。

    だから、私は母を諭してくれた塾の先生に心から感謝している。
    偏差値を下げてもあの有様だったのだから、万が一御三家に合格していたらと思うとゾッとするのだ。
    成績の面では苦労したけれど、穏やかで自由と規律がほどよく混じる校風が合っていたのと、友達に恵まれたことで私は6年間の中高生活を楽しんだ。
    でも、せっかく受験を乗り切ったのに、途中でやめてしまうお子さんの話も耳にすることがある。

    校風が合わなかった、勉強についていけなかった、通学時間が長すぎた……。
    そんな理由だったと漏れ聞こえてくるが、こういった理由の場合は、受験前の学校選びにもう少しきちんと向き合っていたら、防げたことなのではないかなと思ったりする。
    (ちなみに、あくまで私が聞く話の中ではいじめられて通えなくなったと言う事例はない。逆にいじめ加害者と認定されて、自主退学を促されたという話は聞いたことがある)

    本来の学力より上の学校に進学して起きたこと

    極端な例かもしれないが、次男の学年の女の子の話で考えさせられた話がある。
    その女の子(Aちゃんとする)は、偏差値60弱の強めの管理型の学校に進学した。
    彼女はその学校での成績は良くなかった。当初は這いあがろうと頑張ったようだが、どうにもならなくて少しずつ気持ちが荒んでいったらしい。課題や宿題が多く、時間的余裕がなかったのも大きかったようで、親に対しても学校に対しても反抗的な態度をとるようになっていった。結局、成績不振と素行に問題が多いということで、高校への内部進学ができず、外部の高校を受験し、進学することになった。

    その話を風の噂で聞いた時は、他人事ながらしんどくなった。
    せっかく大変な中受を乗り切ったのに、また高校受験をしなくてはいけないなんて……。しかも準備も十分ではなかっただろうし、満足いく結果を得ることは難しいだろうなあ……と。
    本人はもちろん、親御さんの精神的な負担も大変だろうなと思うと胸が痛んだ。

    結局、彼女は中学受験の偏差値だと10くらい下になる学校に進学したと聞いた。(多分、当時の志望校の範囲には入らなかったくらい)

    それから数年後、次男が大学生になった頃に、Aちゃんのその後の話が伝わってきた。

    内部進学ができずに、別の高校に進学したAちゃんだったが、その学校では成績上位層に躍り出ることになった。元々利発で、負けず嫌いなお子さんだったAちゃんはそこでやる気を発揮し、定期テストでは上位常連となった。そしてMARCHの中でも人気のある学部に指定校推薦で進学したと言うのだ。

    「中学ではうちの子の方が成績が良かったけどね。指定校の推薦をもらえる基準には至らなかったのよね……、」
    その話を聞かせてくれたのは、Aちゃんと同じ中学に進学し、高校へもスムーズに内部進学した娘さんを持つママだった。

    「また同じ学校になったって、娘は喜んでたけど、親としては若干複雑な気持ち」と彼女は言った。

    自分の娘は学校の指導通りに勉強し、ドロップアウトすることなく過ごしたのに、結果、ついていけずに偏差値的に落ちる学校に出ていった生徒と同じ大学に進学することになった。
    しかも、出されたAちゃんは指定校推薦で受験の苦労を味わうことなく進学している……。
    なんだか理不尽というか、腑に落ちないというか。
    言葉にしづらい、ネガティブなモヤモヤとした気持ちが生まれてしまうのは、十分理解できた。

    その方の娘さんも大学生活を謳歌しているようだったし、まあとりあえず子供達の受験も全部終わってひと安心だね、よかったねと言い合って別れたが、少しほろ苦い思いが心の中に残った。

    中学受験で第三志望くらいの学校に進学し、最初は不完全燃焼な気持ちでいたけれど(親が)、実際行ってみたらそこで安定して上位の成績をキープし、6年間でさらに学力を伸ばし大学受験で難関大学の合格を手にした、指定校推薦で希望の大学に進学できたなんて話は中学受験あるあるだと思う。

    また、猛勉強して、第一志望に受かったのに、そこで底辺層になってしまい、苦しんで勉強への意欲をなくしてしまうという話も、恐ろしいことだけれどあるあるだ。

    そんな話を聞いていて思う、中学受験で学力を伸ばしに伸ばして、少しでも偏差値の高い学校に入れることは正解なんだろうか、と。

    私も昔は四谷大塚の偏差値で50以下の学校に進学させる意味ってあるのだろうか?なんて不遜なことを考えていた人間なのだが、次男の受験をきっかけにその感覚が変わった。
    偏差値に関わらず、私立の学校にはそれぞれの教育方針があり、ビジョンがある。カリキュラムの組み方や、課外活動にも創意工夫があって、そこにはやはり公立とは違う魅力がある。
    また、それくらいの偏差値帯の学校でも、早慶やMARCHへ進学する割合が想像以上に高いことにも驚いた。昔からある伝統校だったりすると指定校推薦も多かったりする。

    大体、中学受験の偏差値は高校受験になると、10〜15跳ね上がる。45の学校が60になったりする。一部の子供だけが参加する中学受験と違い、ほとんどが受験する高校受験となると偏差値がそれほど変化するのだ。
    偏差値50より下だと「我が子は平均より下なのか」と思ってしまいがちだが、そんなことはない。現実社会との乖離があることを知っておいた方がいい。

    そんな中で、中学受験で5〜10も上の理想の偏差値を目指して、課金しまくって子供をしごくより、お子さんの適正な偏差値(今までの模試の平均値)±3くらいの幅で、その性格や個性にあった校風の学校をいくつか吟味してしっかり選び、受験し、合格を勝ち取ったという経験にすることが大事なんじゃないかと思う。

    また、もう一つ違うタイプの例をお伝えしたい。

    環境につぶされそうだった男の子が、中学受験にトライして得た変化

    これは私の親戚の話だ。

    その男の子、Bくんはいわゆるグレーゾーンの子だった。
    こだわりが強めで、空気を読むこと、集団行動が苦手なタイプ。
    知能に問題はないけれど、学校の成績は可もなく不可もなくという感じ。
    優しくて、穏やかな子だったのだけれど、若干風変わりなところがあったので、小学校の中学年くらいから、一部の男子からいじめられるようになってしまった。

    彼のことはパパママはもちろん、祖父母である私の伯父夫婦もとても心配していた。

    私も度々Bくんに会う機会があったが、成長するにつれて、おどおどした雰囲気、引っ込み思案な面が目立つようになっているのが心配だった。学校で何かとからかわれたりするせいで、自信を失っているのかもしれないと、胸が痛んだ。

    地元の公立校に進学させると、Bくんをいじめるグループの子たちも同じ学校になる可能性が高いとわかり、Bくんの両親は中学受験を決めた。

    私はBくんも中学受験をするらしいよと聞いた時、少し驚いた。彼に中学受験が向いているとは、思えなかったからだ。

    彼は始めたのが遅かったし、勉強が得意というわけでもなかったので、塾通いも当初はかなり嫌がったと聞いた。でも、パパが根気強く勉強に付き添い、ママも教材の整理などBくんが好むような形を作ったりして、受験を遂行。偏差値40台前半の附属校に進学が決まった。

    彼が中一の夏、久しぶりに会って、その変貌ぶりに驚いた。オドオドした感じが抜け、明るい笑顔で人と接するようになっていたのだ。聞くと、進学した学校が穏やかな校風で、先生も生徒も大らかで優しいとのこと。彼がちょっと空気を読まないことをしようと、言葉に詰まろうと、誰も笑ったりからかったりしないのだという。
    大好きな将棋部があることが受験のきっかけになったのだけれど、部活で好きなことに没頭して、なお友達もできて学校生活をかなり楽しんでいた。

    以前は私が話しかけても、もごもごと文章が尻切れトンボになってしまうことが多かった。でも、この時は私の目を見ながら楽しく会話してくれた。彼の内側の成長をしっかり感じた。
    環境でここまで人は変わるんだ!!!と、本当に目から鱗が落ちるようなそんな経験だった。

    中学受験をさせたことも、学校選びも、Bくんの両親の決断は全て大成功の例だと思う。

    いとこであるBくんのパパに「中学受験大成功だったね!今の学校に行って、Bくんすごく変わったよね」と話しかけると、彼は真剣な顔で答えた。「正直、中学受験なんて無理かなとも思ったんだけどさ……、あのまま地元の学校に行かせたら、途中で潰されちゃうんじゃないかって心配になっちゃったんだよ」
    彼が親としてそこまで不安を抱えていたことに驚いたし、その重さを思い知って胸が痛んだ。
    私立に進学したとてしても、同じことの繰り返しになっていた可能性もある。
    ただ学校説明会のとき、附属校特有ののんびりした、ガツガツした感じが全くない雰囲気に、「ここならBくんも過ごしやすいかも」と感じたのだと、Bくんのパパは言っていた。Bくんの中学生活を少しでも良いものにしたいという、彼の真剣な思いが、ぴったりの学校を探しあてたのだと思う。

    12歳と言う多感な時期に、彼にあった環境に身を置けたことが良かったのだろう、Bくんはのびのびと成長した。附属校だったので、勉強の進度も早くないこともあり、じっくりと学ぶこともできた。希望の学部への推薦を得て、附属大学に進学し、就職もしっかり決めて、この春から立派に社会人になった。
    何よりもBくんにとって、12歳から18歳までの中高6年間が楽しく充実した時間として記憶に残ったことが、何よりの宝物だと思う。この経験がきっと彼自身を支え、強くしてくれるとエネルギーになるはずだ。

    中学受験はあくまでも成長の過程における一つのイベントでしかない

    小学生で立ち向かう中学受験では、学力はもちろんだが、精神的な成長にもお子さんによってかなり差がある。
    偏差値60をこえる難関校に行くようなお子さんが賢いのはもちろんなのだけれど、やっぱりやるべきこと、塾で言われたことをちゃんとやれる子が多い。小6でも、合格をつかみ取るのだという意思がしっかりあったり、自分の生活や勉強計画をコントロールできる力が同世代の子に比べて身についているというか……。(もしくは、それをしっかり親御さんがサポートしているか)。

    でも、それができないお子さんが不出来だというわけではない。
    だって、まだ小学生なのだから。
    たいていのお子さんは中高6年をかけて成長していくうちに、自分を管理する能力、自分を律する能力が身についていくものだ。
    だから、その子の学力や個性にあった学校を選んであげて、中高六年間を楽しく過ごせる環境に置いてあげれば、今はできなくても、そういった能力が育ち、それに伴い学力もしっかり伸びてくるケースが多いように思う。

    子供にいい環境を与えたい、と思う親御さんは多い。
    実際、塾で働くようになってから「高いレベルで揉まれて、成長してほしいから」と言って、中学受験を希望される親御さんが多いことを実感する。

    でも、じゃあ偏差値が高ければ高いほど、ご自身のお子さんにとっていい環境なのか? ということは、ぜひ一度じっくり考えてみていただきたい。
    中学受験でギリギリまで学力を伸ばしに伸ばしてやっと入った学校で、そこについて行こうとしたら、そのお子さんはまた6年間フルで走らなければいけないことになる。
    よっぽど好きなことじゃない限り、全力で走り続けるのは無理がある。体も内面も未熟なこの時期に、無理やりフルで走らせ続けたら燃料不足になるのは必至だ。体や心に負担のしわ寄せがくる可能性を案じるのは、決して大袈裟なことではない。

    せっかく中学受験をして進学するのなら、頑張りすぎてガス欠になってしまうような環境ではなく、待ち構える大学受験に自発的に立ち向かい、そして社会に出てから自分で道を切り開き、理想や夢と現実の間でもがくような時期に、しっかりと踏ん張れるような心の足腰を鍛えることじゃないだろうか。
    そしてその心の足腰を鍛えるために必要なことは、体育祭や文化祭などの行事を目一杯楽しんだり、部活に没頭したり、友達とのたわいもないおしゃべり、好きなことを突き詰めたり、時にはぼんやりと時を過ごしたり……。
    学業以外のそんな時間もとても大切な要素なのは間違いない。

    人生の中で、学生でいられる期間は短い。勉強はもちろん大事なのだけれど、それ以外の学生らしい楽しみもしっかり味わって、内面もしっかり育てることができるような学校選びを、私は心からおすすめしたい。

    学校選びをするのに、偏差値表だけを見つめるだけでは全然足りない。ご自身のお子さんと向き合って、どんな中高生活を送るのが幸せか、どんな環境を一番お子さんを伸ばしてくれるのか。それをとことん考える機会を持っていただけたらいいなと思う。


     
     

    新葉

     
     
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