
『花束を君に』 母の日に寄せて
藍にうっすらとオレンジが滲む早朝の空。街のシルエットが浮かび上がってくる。
窓の外を見つめていると、「綺麗やな」と母が部屋から顔を出してきた。
「ごめんなさい。起こしちゃったね」とは言えず、口から出たのは「うん」のひとこと。それが少しだけ、冷たく響いた気がした。
「おはよう。行ってきます」とだけ告げ、少し後ろめたい気持ちを抱えながら、重いカメラリュックを背に出発した。
母の日の中之島バラ園
母の日なのに、もう少し丁寧な会話ができないものかと、少し自分を責めながら向かった先は、中之島バラ園。満開の薔薇が迎えてくれた。



昔は何も考えずに話せていたのに。
いつからか、母に話しかけても欲しい返事が返ってこないことに気づきだして…。
悪気なく、微妙なズレ加減で、思いついた言葉を返してくる。
そんなやり取りに、苛立ちを感じていた。そして次第に、「もう話さなくてもいいか」と、言葉を飲み込むようになっていった。

薔薇の花びらって幾重にも重なっていて、どこにピントを合わせるかが難しい。いまだ!と思った瞬間に風が吹いて花が揺れる。

何本もある蕊のどこにピントを合わせるのか…。
ふと、カメラのピント合わせに必死になっている自分と、母との会話に期待と失望を繰り返している自分が、重なった。

朝の低い位置から差し込む光と、照らし出された影。
公園を一周して戻ってきたら、もう美しかった影の形が変わっていた。
噛み合わない母との会話も、この先ふと愛しく思い返す時が来るのかもしれない。

そろそろ、最近できた近所のケーキ屋さんが開く時間。母が「気になる」と言っていたから、帰ったら一緒に買いに行こう。
きっと二人で買いに行く時も、ポンポン弾むような会話はないと思う。それでも、ケーキを食べる時間が一緒にあれば、それでいいのかもしれない。
そんなことを考えながら、バラ園を後にした。

まだ少しだけ、夜の名残が残っていた
camera & lens
α7Ⅴ
FE24-105mm F4 G OSS
FE 90mm F2.8 Macro G OSS