メインコンテンツへスキップ
見出し画像

#028 仕事が速くなったら、何か変わるのか?

    仕事を速くする技術は、急速に進んでいます。
    その変化が十分に大きくなったとき、私たちは「効率化」の先で何を考えることになるのでしょうか。


    仕事が速い人には、仕事が集まる

    チームの中に、仕事の速い人がいる。

    毎週半日かかっていた集計作業を、その人が自分で工夫して、30分で終わるようにした。Excelの処理を自動化し、資料のつくり方も見直した結果だ。

    「かなり時間が空いたね。じゃあ、これもお願いできる?」

    上司としては、ごく自然な判断だと思う。担当者にとっても、自分の改善が認められ、仕事を任されること自体は悪いことではない。

    新しく任された仕事にも慣れ、やり方を工夫する。すると、それも以前より速く終わるようになる。そして、また別の仕事が集まってくる。

    気づけば、その人は以前よりずっと多くの仕事を、同じ時間の中で処理できるようになっている。

    上司は、仕事ができる人に仕事を任せた。
    担当者は、任された仕事をもっと効率よくできるようにした。

    どちらも、間違ったことをしていない。

    それでも、少し引いて眺めてみると、不思議なことに気づく。

    仕事はずいぶん速くなった。でも、その人がやっている「仕事」は、それほど変わっていない。


    仕事を増やすことが、問題なのではない

    時間が空いたのだから、別の仕事をする。会社で働いている以上、それ自体はごく自然なことだ。

    10の仕事しかできなかった人が、同じ時間で20できるようになれば、生産性は上がる。処理能力そのものが価値になる仕事なら、それこそが効率化の目的になることもある。

    だから、「仕事ができる人に仕事を振るのはおかしい」という話ではない。

    ただ、効率化によって時間が生まれた瞬間には、実はもう一つの可能性が現れている。

    同じ種類の仕事を、もっと多くこなすこともできる。

    一方で、その時間を使って、これまでできなかった仕事へ踏み出すこともできる。

    たとえば、毎週つくっていた集計資料が半日から30分になったとする。

    空いた時間でもう一つ集計を担当すれば、チーム全体で処理できる仕事は増える。

    でも、その時間を使って、

    「そもそも、なぜ毎週この資料をつくっているのだろう」

    「この数字を見て、本当は何を判断したいのだろう」

    「資料をつくるのではなく、必要な人が必要なときに数字を見られるようにできないだろうか」

    と考えることもできる。

    どちらが正しい、ということではない。

    違うのは、その先だ。

    一方では、仕事の量が変わる。
    もう一方では、仕事そのものが変わり始める。

    画像
    余力の向け先



    これまでの改善では、見えにくかった問い

    効率化そのものは、AIが登場するずっと前から続いてきた。

    1時間かかっていた仕事を50分にする。10工程あったものを8工程にする。人によってバラついていた仕事を、標準化できるところから標準化していく。

    そうやって企業は、長い時間をかけて生産性を高めてきた。

    もちろん、その積み重ねは大きい。

    ただ、一つひとつの改善を見れば、多くの場合、改善したあとも「その仕事をする」という前提そのものは残っていた。

    1時間が50分になっても、その仕事はある。
    10工程が8工程になっても、その仕事を担う人の役割まで、すぐに問い直す必要はない。

    だから、生まれた時間を既存の仕事へ戻すことにも、それほど大きな違和感はなかったのだと思う。

    仕事の中身を少しずつ改善しながら、同じ仕事をより速く、より安定してできるようにする。

    これまでの効率化は、多くの場合、その延長線上にあった。


    でも、AIは変化の大きさが違う

    ところが、AIによって起き始めている変化は、少し様子が違う。

    2時間かかっていた仕事が30分になる。人が一からつくっていたものを、AIが最初の形までつくる。専門知識を持つ人に聞かなければ進められなかった仕事を、自分で調べ、考えながら進められるようになる。

    もちろん、すべての仕事がそうなるわけではない。

    それでも、これまでの改善とは桁の違う変化が、一部の仕事では現実になり始めている。

    もし、これまで仕事の大部分を占めていた作業が大きく減ったらどうなるだろう。

    「空いた時間で、あと何件できるか」

    だけでは、少し問いが小さすぎる。

    なぜなら、それほど大きな余地が生まれたのなら、

    「そもそも、この人は何をするためにいるのか」

    まで戻って考えられるからだ。

    この仕事は、本当は何のためにあるのか。
    人が担うべき部分は、これからも同じなのか。
    顧客に価値を届けるために、人の時間をもっと別のところへ使えないのか。

    AIによって生まれるのは、単なる「空き時間」だけではないのかもしれない。

    仕事のやり方ではなく、仕事そのものを問い直せるほどの余地が生まれ始めている。


    では、それを誰が決めるのだろう

    ここまで考えると、別の問題が見えてくる。

    誰が、仕事を再設計するのだろう。

    担当者は、自分の仕事をよく知っている。何に時間がかかり、どこに無駄があり、何を変えられそうかという景色は、現場にいる人だからこそ見える。

    一方で、自分の役割そのものを、事業全体との関係まで含めて一人で決めるのは難しい。

    上司には、人と組織が見えている。誰が何を得意とし、どんな役割を担えるのかを考える立場にもいる。

    しかし、AIによってその仕事がどこまで変わり得るのかを、最もよく知っているとは限らない。

    AIやDXを推進する人には、技術から見える景色がある。何を自動化できるのか、何が新しくできるようになったのかは分かる。

    でも、その仕事が顧客や事業にとってどんな意味を持っているのかは、現場や事業を担う人ほどには見えないかもしれない。

    事業を考える側には、さらに違う景色がある。これからどこで価値をつくり、何を競争力にしていくのかを考えている。

    つまり、「次の仕事」を考えるために必要な景色は、一か所には集まっていない。

    業務を見る。
    技術を見る。
    人と組織を見る。
    事業を見る。

    それぞれを重ねた先に、

    「では、人は次に何をするのか」

    という問いがある。

    そして、ここで少し厄介なことが起きる。

    それぞれの視点を持つ人はいるのに、その全体を横断して「次」を決めることが、誰の仕事なのかは曖昧なままになりやすい。


    1万時間削減した。その先は?

    AI導入の成果として、「年間1万時間を削減した」という数字を見ることがある。

    それは間違いなく成果だ。

    ただ、AIによる変化がこれほど大きくなってきた今、その数字のところで見るのをやめずに、もう少し先まで追ってみたい。

    その1万時間は、その後、何に変わったのだろう。

    同じ仕事をもっと多くこなせるようになったのかもしれない。それが事業にとって必要なら、十分に価値がある。

    あるいは、担当する範囲が広がったのかもしれない。

    それとも、これまで時間がなくてできなかった顧客との対話や、難しい判断、新しい仕組みづくりに、人の時間を使えるようになったのだろうか。

    削減時間を測れば、AIがどれだけ仕事を速くしたかは分かる。

    でも、それだけでは、人の仕事がどう変わったのかまでは分からない。

    これまでなら、それでもよかったのかもしれない。

    一つひとつの改善が、仕事の前提を揺らすほど大きくなかったからだ。

    でも今、AIによって地殻変動のような変化を起こせる領域が生まれている。

    ならば、見るべきものも変わる。

    何時間削減したかだけではなく、その時間によって何を変えたのか。

    そして、その変化を誰が考え、誰が決めたのか。

    そこまで見なければ、AIで仕事は劇的に速くなったのに、人の仕事だけは昨日の延長線上に残り続ける、ということも起こり得る。


    仕事を変えるのは、誰の仕事だろう

    AIが仕事を変えてくれるわけではない。

    AIができるのは、これまで当たり前だった仕事を大きく削り、変えられる可能性をつくるところまでだ。

    そこに生まれた余地を、また昨日までの仕事で埋めることもできる。

    その余地を使って、仕事そのものを問い直すこともできる。

    AIが仕事を変えるのではない。
    AIは、仕事を変えられる余地をつくる。


    変化が小さかった時代には、見えにくかった問いがある。

    業務、技術、人・組織、事業。

    それぞれから見える景色を重ねて、「人は次に何をするのか」を考える。AIによる変化が大きくなるほど、その仕事は重要になっていく。

    だから、AIで何ができるのかと同じくらい、早く気づいた方がいい問いがあるのだと思う。

    画像
    仕事を変える人


    仕事を変えるのは、誰の仕事だろう。


    次に読むなら

    仕事を速くするだけでは、仕事そのものは変わらない。
    では、AIによって生まれた「余白」に、何を置けばいいのでしょうか。

    次は、効率化のその先にある仕事を考えます。

    もう少し考えるなら

    AIで生まれた余白を、個人ではなく「組織全体」で見たらどうなるでしょうか。1万時間を削減できたとして、その時間は、本当に新しい価値へ変わっているのか。

    次は、「削減した時間の行き先」を考えます。

    このテーマをもう少し広く読むなら


    あなたの「問い」も、聞かせてください。

    仕事や組織、AI、これからのこと。
    まだ言葉になっていない違和感でも構いません。


    Layer Zeroをもっと見る

    複雑なことを、構造からシンプルに。
    Layer Zeroの記事を、テーマや関心から探せます。

    この記事が参加している募集

     
     
     
    仕事のモヤモヤには、たぶん理由がある。 上司、会議、組織、AI。「なんでこうなる?」を整理すると、少し気持ちが楽になります。 そんなキッカケになれれば良いなと、 転職も経験した40代会社員が、 論理と感性を行き来しながら考えています。

    あなたへのおすすめ