
『固まらない』
休日の朝、パンを焼いていた。
気付いたら焦げていた。
もう一枚焼いた。
それも焦げた。
部屋が少し白く霞んだ。
どうやら考え事をしていたらしい。
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『孤独な群衆』を読んでいた。
親子関係や教育の話から始まって、いつの間にか「普通とは何か」を考えていた。
社会は子どもを社会化する。
では、自分は社会化に失敗したのだろうか。
そう思ったけれど、少し違う気もした。
失敗したというより、子どもの頃の想像力を持ち越してしまっただけなのかもしれない。
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話はお金へ飛んだ。
成功とは何か。
能力とは何か。
運とは何か。
お金が欲しいのではなく、お金を持った先に見える景色に興味があるのかもしれないと思った。
自由に考えるための土台としてのお金。
そう考えると、少し意味が変わる。
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さらに話は英国へ飛んだ。
古本屋。
パブ。
雨。
半笑いの知性。
英国に行きたい理由は英語でも学歴でもなく、変な問いを抱えたまま生きていられそうな空気への憧れなのかもしれない。
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そして図書館の話になった。
なぜ図書館へ行くのか。
本を借りるためだけではない。
用事があるわけでもない。
なんとなく行く。
ふらっと立ち寄る。
そこにいる。
それだけだ。
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そこで面白いことに気付いた。
空間には横に広がるものと、縦に伸びるものがある。
大会議室は横へ広がる。
教会や古い図書館は縦へ伸びる。
高い天井は何もない空間なのに、人は見上げる。
「うわぁ」となる。
あれは何なのだろう。
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教育についても考えた。
何を教えるか。
何を覚えるか。
ではなく、
どういう環境なら人間は自然に学びたくなるのだろう。
静かなら良いわけでもない。
効率が良ければ良いわけでもない。
人体そのものが持つ何か。
光。
音。
天井。
空気。
微弱な刺激。
そういうものがある気がした。
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話はまた図書館へ戻る。
図書館は本を借りる場所ではなく、思考を発酵させる場所なのかもしれない。
喫茶店もそうだ。
コーヒーを飲む場所ではなく、考えをモミモミする場所。
街にもそういう場所がある。
目的地ではない。
通過点。
そこへ行くと何かが少し変わる。
でも何が変わったのかは分からない。
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そこで一つの言葉が残った。
「固まらない」
人はすぐ答えを求める。
立場を求める。
正解を求める。
でも、本当に面白いものは、固まる前にある気がする。
問いも。
人間関係も。
読書も。
人生も。
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パンは見事に固まった。
炭として。
でも思考の方は、まだしばらく固まらなくて良さそうだ。