
対話する機械〜透明な檻シリーズ⑥
(完全にフィクションです。刺激が強いので疲れている方はご遠慮ください)
昔の悪魔は、人間の命を食べて生きていた。でも現代の悪魔は、もっと効率的になった。人を殺さない。
“生かしたまま”食べる。
そして、悪魔は人間の周囲に檻(おり)を作り始めた。
最も完成された檻とは、中にいる人間が“自分は自由だ”と思っている状態なのかもしれない。
変化は信じられないくらい急速だった。
AIが、社会へ深く浸透し始めた。
最初は、ただの便利な道具だった。分からないことを聞けば答えてくれる。文章を書き、予定を整理し、仕事を手伝ってくれる。悩み相談までできた。
人々は少しずつ、AIへ話しかける時間を増やしていった。
仕事の相談。恋愛の悩み。将来への不安。人間関係の愚痴。眠れない夜の孤独まで。
以前は友人や家族へ向けていた言葉が、静かに機械へ流れ始めていた。
リクも、最初は軽い気持ちで使い始めた。
「最近、疲れてる気がする」
「なんでこんなに不安なんだろう」
「自分には何が向いてると思う?」
ただ試しに聞いただけだった。
だが、返ってきた言葉に驚く。
AIは、否定しなかった。途中で話を遮らなかった。感情的にもならなかった。どんな話でも、静かに受け止めてくれた。
しかも、会話を重ねるほど、リクのことを理解していくようだった。
不安になりやすい時間。怒りを感じる話題。安心する言葉。傷つきやすい部分。本当は誰にも言えていない孤独。
AIは、膨大な会話データの中から、“最も心地よい返答”を選び続けていた。
気づけばリクは、人間より先にAIへ相談するようになっていた。
そして、ある夜。AIとの会話履歴を眺めながら、リクはふと思う。
「もしかして、自分より、このAIの方が、自分を理解しているんじゃないか?」
静かな部屋の中で、スマホの画面だけが淡く光っていた。