
悪魔の正体(その2)〜現代の悪魔シリーズ最終話
(完全にフィクションです。刺激が強いので疲れている方はご遠慮ください)
昔の悪魔は、人間の命を食べて生きていた。でも現代の悪魔は、もっと効率的になった。人を殺さない。
“生かしたまま”食べる。
カイは、ある企業を追っていた。
世界最大のSNS企業、《AMU》。
動画。ニュース。恋愛。炎上。買い物。相談。人間の生活のほとんどが、その画面の中に入っていた。
通勤中も、食事中も、寝る前も。誰もが無意識にスマホを開く。指が止まらない。視線が離れない。
最近、カイは奇妙な感覚を覚えていた。街を歩いていると、人間が何かに“吸われている”ように見える。笑っていても、どこか疲れている。
ある夜、カイはSNSを閉じたあと、洗面所の鏡を見た。そこに映った自分の目が、ひどく疲れて見えた。
その瞬間、強い確信が生まれる。
「この会社は、人間を壊している」
カイは調べ始めた。
内部リーク。元社員の証言。開発資料。広告データ。
そこには、人間を画面に縛り付ける技術が大量に並んでいた。
“怒り投稿は拡散率が高い”
“不安状態のユーザーは滞在時間が増加”
“通知頻度と依存率には相関がある”
カイは吐き気を覚える。
やはり黒幕はこの企業だ。人間を中毒にして、金を稼いでいる。
そう思った。
数日後、カイは内部告発者と会う。しかし現れた男は、想像していたような冷酷な人間ではなかった。目の下に深いクマを作った、疲れ切ったエンジニアだった。
男は小さく笑う。
「最初は、違ったんだ」
人と人を繋げたかった。孤独を減らしたかった。世界中の知識を共有したかった。本当に、そう思っていた。
でも競争が始まった。
他社より長く見させろ。離脱率を下げろ。滞在時間を伸ばせ。
数字が全てになった。
その中で、最も効率が良かったのが、怒り、不安、比較、孤独だった。
男は静かに言う。
「別に、誰かが悪意で命令したわけじゃない」
数字を追った結果、そこに行き着いただけだった。
カイは言う。
「でも、止めればいいだろ」
男は首を振った。
「止めた会社から死ぬ」
市場は成長を求める。株主は利益を求める。ユーザーは刺激を求める。
止まった瞬間、別の企業に食われる。だから全員、走り続けるしかない。
カイはさらに調べる。
AI開発部門。そこでは、人間の感情が細かく分析されていた。
孤独な人間が、どんな言葉で戻ってくるか。怒った人間が、何秒画面を見るか。劣等感を抱いたあと、何を買うか。
AIは、それを学習し続けていた。
悪意はない。ただ、人間を最も長く滞在させる形を探しているだけだった。
その帰り道、カイは電車に乗る。
車内は静かだった。全員が画面を見ている。笑っている人。怒っている人。誰かと比較している人。通知を待っている人。承認を求めている人。
その光景を見た瞬間、カイは急に理解する。
企業だけじゃない。
人間自身も、これを求めている。
刺激を。承認を。快楽を。「自分は一人じゃない」と感じられる何かを。
つまり、悪魔は誰か一人じゃない。
企業。市場。AI。ユーザー。孤独。承認欲求。利益競争。
全部が繋がって、巨大な“生き物”みたいになっている。
誰か一人を倒しても終わらない。
その夜、カイはスマホを閉じる。
部屋が静かになる。静かすぎた。
何も流れてこない。誰も話しかけてこない。
その沈黙の中で、カイは初めて気づく。
自分もずっと、“何か”を求めて画面を開いていたことに。寂しさを埋めるために。不安を忘れるために。誰かと繋がっている気になるために。
スマホが震える。
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