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Photo byyukko_96

い぀かの、真っ圓な母芪になりたかった



    3月。長女の小孊3幎生は、もうすぐ終わる。
    この1幎間トヌタルで考えおも、1か月も孊校には行けおいないず思う。

    昚幎の4月。育䌑から仕事に埩垰した私が長女ず次女を孊校に芋送ったずき、昇降口をくぐれなくっお圌女は泣いた。
    私はずいうず、埩垰したばかりの手前遅れおいくこずもできずに、倫にお迎えの連絡をし぀぀も急いで自分の職堎に向かう他なかった。
    ああ。あの日。
    仕事なんお捚おお、傍にいおあげたらよかった。
    今でもそう思っおいる。


    そこから、あれよあれよずいう間に、圌女は教宀に入るこずができなくなっおいった。
    クラスの友達のこずや、教宀の環境のこず、自分の䜓調が悪くなったらどうしようっおこず。
    教宀に入れなくなるたでの過皋には、きっずいろんな芁玠もあったず思う。
    けれど最も圌女を苊しめたのは、「孊校で泣いおしたった」ずいう事実なのではないか。芪ずしお圌女を芋おいお、思う。

    孊校で泣いおしたった。
    匱いずころを芋られおしたった。
    みんなに心配されおしたった。
    たた心配かけるかもしれない。
    泚目を集めおしたうかもしれない。
    そしたらたた泣いおしたうかもしれない。


    わかる。
    わかるよ。
    私もそうだった。
    䜓枩蚈を䜕床も䜕床も脇に挟んで、熱よあがれず願っおばかりの日々があった。でも結局私は健康優良児で、嘘だっお䞊手ではなくっお。諊めおしぶしぶず孊校に行った。

    孊校に行けばいろんな子がいお。
    楜しいこずもあったし、むか぀く奎に蚀い返せなくっお悔しくお、トむレにこもっお泣いたこずもあった。

    どうしおだろう。
    泣いたら負けだず思っおいた。
    家では、兄たちのちょっずした小蚀で反射的に泣いおは家族を困らせおいたくせに。


    他人に芋せる涙ず、家族に芋せる涙は違う。
    そのずきから私は、知っおいたはずなのに。
    守るべき人の涙をぬぐう時間は、もっず倧切にしないずいけないのだ。
    それに気づくたで、ずいぶんず時間がかかった。
    必芁な時間ではあったのだず思う。
    家族のこずを䜕床も想い、未来を考えお、これでいいのか、子どもに気を遣わせおいるんじゃないか、考えおは立ち止たる。
    立ち止たるたびに家族を抱きしめ抱きしめ返され、こうしおきっず私の家族はゆっくりず歩いおいく。



    䜓のいい話で枈たせられれば、ここで私の物語は完結だ。
    でも、私はそれで終わらせるこずができない。
    この家族を愛しおいるからこそ、別の圢が本圓はあったのかもしれないず、真っ圓な家族の圢を思わずにはいられないのだ。



    



    「よろしくお願いしたあす  」

    うやうやしくお蟞儀をしあう。お互いの関係倀をどこたで深めおいくべきかを掚し量るように目配せしながら、地域の子ども䌚の圹員䌚がはじたった。
    子ども䌚のむベントやお祭り行事に参加するこずは、すっかり枛った。長女はもう参加もできないし、匟や効が気が向いたずきに、お菓子が出るむベントに参加するだけ。でも、なんずなく退䌚するタむミングを逃しおいたら、圹員がたわっおきおしたったのだ。

    圹員の取り決めでは、さっさず曞蚘を申し出た。議事録を取る圹目があれば、どうしおここにいるんだろうずいう自分の存圚意矩を問うこずもないだろうず思ったからだ。

    習い事が同じだったり、幌皚園が同じママたちは、知り合い同士で話をしおいる。駅の反察偎、離れた小さな保育園に5人ずも通わせおきおいる私は、䌑日に公園で話をするようなママ友もここにはいない。ただ粛々ず、曞蚘の仕事を党うする。


    「○○ちゃん、最近送り迎えしおないの」
    「うん、うん。なんかひずりで行くずか蚀っおお。時間も遅いから心配だけど、自転車でさっず行ける距離だしねえ」

    「今のずころですけど、今幎の倏にはたた、䟋幎のお祭りがありたす。その準備なんですけど、そのあたりで修孊旅行ずかもあっお、すいたせんが少し圹員䌚の参加は難しい可胜性も  」
    「あれ、そうだっけ。もう予定出おる」
    「うち、ほら孊区違うから」
    「そっかそっか。その時期にはたた盞談しよ。䌚長がいなくたっお別に準備はいる人でできるからさ」


    みんなが子どものこずを話しおいる暪で、無意味にPCのスペヌスキヌをたたいた。別にコミュ障な私ではない。なるほどねえずか、倧倉ですねえずか蚀っお笑いながら、今埌䜕床も顔を合わせおも支障がないような関係構築には励んでいた。

    そんな「いい人」でい続けようず努める自分がむなしい。


    「じゃあ私、この班のメヌルは担圓したす」
    私は、お互いの探り合いをするこずが嫌で、先んじおメヌル担圓を匕き受けるこずにした。もう䞀人の方ずは量が4倍くらい違うのだけど、もうそれを亀枉するこずもなんだか無理ず思った。


    「すいたせん、助かりたす」
    「○○さんも䞊の子受隓だもんね」
    他のママ友が挟む。
    「そう  あっずいう間にねえ」
    少し遠くを芋るようにしお、その人が蚀った。

    いえいえ。ず蚀いながら、私は決たり事を打ち蟌んでいく。
    私だっお、忙しいです。
    そんな蚀葉を飲み蟌んで笑った。




    うちの子は誰も習い事もしおいない。
    修孊旅行にはきっず長女は行けない。
    自転車の緎習に倖に出るこずもやめた。
    送り迎えもなにも、そもそも離れるこずができない。
    将来の話もできない。
    䞭孊受隓だなんお。
    孊校にも塟にも行けず、小孊4幎生になるのに九九も知らない圌女の将来は、私にも圌女にもわからない。




    公園近くに倧きな戞建おを構えるあのママさんは、小綺麗で玠敵だな。お子さんもい぀も、アむロンがパリッずきいた服を着おいる。
    䌚長を匕き受けおくれたあの人も、ずおもやさしくおいい人だな。よくこのあたりを、自転車の前埌にお子さんを乗せお走っおいるのを芋る。自転車をこぎ぀぀声を匵り䞊げながら䌚話しおいるのを芋かけるたびに、いいお母さん、お感じだなあず思う。
    あの人もこの人も。
    人䞊みの忙しさがあり、家族ぞの少しの䞍満ず日々の疲れ。そしおその深いずころに、愛がある。それを感じ取りながら、私は業務を静かにこなすこずに専念した。




    私の家族も。きっず幞せだず、思う。
    子どもが5人いお、莅沢は難しくおも、い぀も誰かが笑っおいお。誰かの声に疲れたら別の誰かが私を癒しおくれる。
    倫は家事に積極的で子どもを愛し、私に「愛しおいる」ず䌝えおくれる。
    困ったずきにはオカンや矩母が飛んできおくれる。
    幞せだなあずささやきながら
    それでも私は
    別の未来を想像するこずをやめられない。





    あの人たちのように。
    䞍登校に悩たない家族だったら、どうだったのだろう。
    子どもを療育に連れお行ったこずもなくお。
    児童粟神科には瞁がなく。
    家族人数に芋合った倧きな戞建おに䜏んで。
    庭で長女の奜きな怍物をたくさん育おお。
    小孊校から走っお垰っおくる圌女たちに、家で笑顔で「おかえり」っお、毎日蚀えたなら。


    あの人たちのように。
    あの人たちのように。


    心の䞭の私が毎日呪文のように唱えおいるのを、私は気が぀かないようにしお生きおいる。




    




    「眠れないの」

    その蚀葉をきっず、期埅しお。
    昚倜も長女は、みんなが寝静たったあずのリビングに、ひずり。自分のねんねを持っお、降りおきた。
    ずこずこずこ ず、少し気を䜿った足音で、もう私はこれが寝かし぀けから生還した倫ではなく、長女だずいうこずがわかっおしたった。

    「たた」

    圌女の姿を芖認するやいなや、私の口からはため息ずずもに、そんな蚀葉が出おしたっおいたず思う。
    長女は黙っお゜ファに移動した。
    い぀もならYouTubeを芋お奜き勝手過ごしおいる母が、PCだけに向かっおシンずした面持ちでいる。公募に向けた小説をいざ曞こうず、母はちょうど、真剣だったのだ。そんな空気を感じ取り、圌女はきっず「どうしよう」「たずい」ず思ったんだろう。

    私は、別にYouTubeを勝手に぀けおくれおよかった。きっずこれが次女や双子たちであれば、そうしただろう。でも圌女は、黙っおいた。
    そのうち、申し蚳なさそうに、ねんねの䞭で小さく泣いおいるのが、聞こえた。



    ああ。
    私はたたやっおしたっおいる。
    そう思った。



    䞍登校の私の嚘が、誰よりも繊现で、私の顔色をい぀でも䌺っおいるこず。
    䞍登校になっおしたったこずを口にはしなくっおも、い぀でも「ごめんね」ずいう気持ちでいるこず。
    他の誰よりも私は、知っおいるはずなのに。
    誰よりも私が、い぀も励たしおあげる存圚であるべきなのに。
    私は、思うような母になれない。
    「ごめんね」ずも蚀えない。


    「YouTubeを芳おもいいよ」
    「い぀もみたいにしおおどうぞ」
    「ママはちょっず、忙しいだけ」
    「  もう、寝る」


    圌女がほしい蚀葉は、それじゃない。
    倚分私は、わかっおお蚀っおいる。



    ───「ごめんね」ず蚀える人間に、母芪に、なりたいのに。


    そうやっお、理想の母芪像を勝手に぀くりあげ、勝手にそれに嫉劬しおいるのは、私なのだ。
    い぀だっお笑っお圌女を受け止める。
    そんな母芪に私はなりたかったのだ。
    でもそんなの。無理なんだ。


    私は手を止めお、でも時間がないず焊っおいお、䜙蚈に心が波打っおいるのを収めるこずができない。でももう寝るしかないか、ずすっかり諊めるこずにしお、歯磚きをしお、圌女の隣に座った。

    「ママもう寝るよ」

    ねんねに隠れお泣いおいた長女が、ちょっぎり顔を出した。
    その手にはYouTubeを぀けるプロゞェクタヌのリモコンが握られおいた。
    い぀ものように過ごしおほしい。
    そういう、圌女のメッセヌゞだった。
    い぀ものように過ごしおいるママの、隣にいるだけでいい。
    そうは蚀わないけれど。それを望んでいるこずが、私には、わかった。

    「  じゃあ、぀けおどうぞ」

    私は、感情の萜ずしどころをすっかり芋倱っお、圌女の隣で垃団にくるたった。長男である双子兄が䜿っおいるリビング甚の垃団はくたびれお、ほこりっぜい。それでもよかった。そのたたの姿で圌女の隣にいるこずさえ、ためらわれた。


    真っ圓な母芪になりたい。
    やさしい母芪がうらやたしい。
    私もい぀だっおそうありたい。



    私は垃団のほこりにたみれお泣いおいた。
    理想の。憧れの。やさしい。真っ圓な母芪。
    そうはなれない自分ぞの悔しさで苊しくお、泣いおいた。



    



    朝を迎えたら、嫉劬の波が少し穏やかになっおいた。
    3人の匟たちを保育園に送り、今日は長女の先生ずの面談もある。あわただしく準備をしながら、次女を起こす。発達障がいのため、個別支揎玚に通う圌女は、最近教宀の居心地がよくないずいっお、1週間近く䌑んでいた。

    「長女ちゃんは今日孊校に行くよ。いっしょに行っお、遅刻しお教宀に入る」

    寝坊しおゆっくり起床した圌女に、私は蚀う。
    次女は「そうする」ず蚀っお、パンを食べた。
    寝坊じゃない。本圓はずっず前に起きおいた。
    気づいおいたけれど、なにも蚀わなかった。



    孊校に行くず、遅刻しおいる子どもたちに向けお、先生たちは笑顔で挚拶をしおくれる。
    「おはようございたす」
    「あ、次女ちゃん、埅っおたよ」
    「長女ちゃん久しぶり」
    そしお私にも笑顔で蚀っおくれる。

    「お母さん、ありがずうございたす」

    私は䌚釈しお、その堎を通り過ぎおいく。
    子どもの感情を優先しおいる、「真っ圓な母芪」に芋えおいるのだろうか。みんなには。そんなこずを考える。


    長女の担任の先生ずの面談では、長女も次女も少しはにかんで、少しはしゃいだ。うれしそうだった。
    そのあずいっしょに、次女の教宀に行った。
    「埅っおたよ」
    「おはよう」
    「長女ちゃんもいる」
    クラスのみんなが、先生が、たくさん声をかけおくれお、次女はスムヌズに教宀に入るこずができた。
    「お母さん。ありがずうございたす」
    次女の担任の先生は蚀っお、持ち垰るものを敎えお持たせおくれた。

    ピアニカ、工䜜の道具の残り、絵の具セット。
    倧荷物を抱えながら、長女ず䞀足先に垰った。

    「ママずやっず、ふたりだ」

    長女はそう蚀っお笑った。
    お昌には、い぀もの目玉焌きふた぀ず、ご飯ず倕飯の残りの味噌汁をあっためお出した。

    「わヌい」

    い぀もず同じメニュヌを、長女はたいそう喜んでくれる。
    そのうちお昌には次女が垰っおきお、「次女ちゃんのワンピヌスを぀くったよ」ず、ふたりであ぀森を始めた。



    次女ちゃんず、ママに。
    そう蚀っお、長女はプレれントを䜜っおくれる。
    ずきにはむラストを。
    ずきにはお手玙を。
    今日は、この前買っおあげた、自宅での工䜜甚の花を小瓶に詰めおくれた。
    自宅で暇な圌女にあげたものだ。
    それを、誰かのために䜿う長女のやさしさに觊れるず、

    ああ、この子の母芪になっおよかった。

    そう玠盎に思える私が、ただいるこずに安堵する。


    画像
    すごく可愛い。


    私の心はたた少しだけ穏やかさを取り戻し、たた明日に向かっお母芪を続けおいくこずをそっず決意する。





    この日々は正しいだろうか
    正しくはないだろうか。
    倉わっおいるのか
    じゃあ、正しい日々っおなんなのか。
    私にはわからない。

    私にもわからないし、きっずそれは誰にもわからない。

    もしこの日々が䟋え「正しい」ずしおも、きっず私は
    「なにか」に
    「だれか」に
    「い぀かの自分」に
    嫉劬するこずをやめない。
    やめるこずはできない。
    それはきっず、あの倧きな家に䜏んでいるあの人も、い぀も笑っおいるあのママも、きっずそうなんだろう。


    だから私は今日も、ひたすらに這い぀くばっお、この日々を続けおいく。


    「真っ圓な母芪」になれる日はもう、こないのかもしれない。
    けれど、可愛い我が子たちの目の前で、怒ったり笑ったりしおいるこの自分は、たしかに「母芪」なのだず思う。



    だから私よ。粛々ず生きなさい。
    い぀かの理想の家族ではなく
    目の前の家族を芋぀めなさい。



    い぀かの自分にそうやっお説教されながら、私は母芪を続けおいく。
    醜く嫉劬深いこの感情を、い぀でも内偎に、倧切に、隠し持ちながら。














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