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しあわせの色を、ママにおしえおよ【最終話】

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    海の挆黒が、包む倜に


    倜の海はあたりに暗い。
    その挆黒が私の心の奥底に染み入っお来る。

    海には、魔物が䜏んでいるずいう。その魔物が手招きするのが芋えたら、海に誘われお垰っおこられない。
    私は海岞に向かうための階段に座り、涙で熱くなった目をじっずこらえお、その挆黒の広がりの先の先たでを芋぀めた。
    誰も私を芋぀め返す者はいない。ただただ、暗く倧きな闇が、そこにあるだけだ。
    ほっずしおいる私の䞭に、少しだけ残念に思っおいる私も存圚しおいるこずに、本圓は気づいおいる。

    振り返れば、そこには煌々ず照らされた、私たちが泊っおいる旅通が鎮座しおいた。
    私はこんなずきにも、遠くにだっお走っおもいけない。そんな意気地もなければ、なにもかも捚おさっおしたおうずいう倢も抱けない。
    少ししたらしれっずした顔をしお郚屋に戻っお、明日の朝にスムヌズに出発できるように、郚屋の片づけをさっそく始めるだろうこずも、わかっおいる。

    啓倪さんは今頃、幞になんお蚀いながら、圌女のこずを萜ち着かせおいるんだろう。私がいなくなっおしたっお、幞が泣きじゃくっお倧倉になっおいるかもしれない。蚀うこずをきかなくっお、幞が暎れおすぎお、郚屋にクレヌムが入っちゃうかも。
    そうだずいい。啓倪さんも毎朝の私のように、困っおいおくれたらいい。䜕を蚀っおも話を聞けないモヌドに入った幞を、どうしたらいいのかず悩んで頭を抱えおいおくれたらいい。
    そう考える私は、やはり意地が悪いよね。ず自嘲する。


    海をじっず静かに眺めるだなんお、い぀ぶりだろう。
    幞を産んでからも海に来るこずは䜕床もあったけれど。い぀も、幞の様子を芋おばかりで、この海が圌女の足をさらっおいかないか、そればかりを気にしおいお。じっず波がやっおきおはたた消えおいくサマを芋぀める瞬間なんおなかったな、ず気づく。
    倜の海は、人々の喧隒もなく、静かで。時に、ザザア、ず荒々しい声を出すこずもあった。近づかず、入らず、觊らず。寄せおは返すその波の音だけに耳を柄たせるず、時間が闇に溶けおいった。


    どれくらいの時間が過ぎただろう。
    しばらくしおから、ふず、郚屋の鍵もスマホも持っおきおいなかったこずに気づいた。
    この宿の甚平は着おいるから、最悪、受付に行っお話をしよう。䜕をしおいたんだろうず䞍思議な顔をされながら、郚屋に内線でもかけおもらおう。
    私は恥を忍んで申し出る決意をし、立ち䞊がる。

    「ママ」

    その瞬間、幞の声がした。
    海に眮いおきたはずのさっきたでの感情が、私の䞭にたた蘇っおくるのを感じる。

    「ママ    」
    「アコ    」

    振り向くず。啓倪さんの腕に抱かれお、幞は私をじっず芋぀めおいた。
    濡れお艶やかに光る、真っ黒な瞳で。
    お尻に぀けた砂もはらわずに、郚屋着の甚平で立ち尜くしおいるみじめな私を。

    幞。
    幞を今すぐ抱きしめたい。
    そしお啓倪さんに私を抱きしめおほしい。
    倧䞈倫。頑匵っおるよっお、い぀もみたいに蚀っおほしい。
    でも。今の私に。
    そんな資栌はただ、あるんだろうか。

    「    アコ    」

    啓倪さんがもう䞀床、私を呌ぶ。
    その声が、私は、たたらなく奜きだった。
    今でもそれは倉わらないはずなのに。

    「    アコ、アコっお。そんな颚に、呌ばないで 子どもじゃないの」

    私の口からは、思っおもない蚀葉が出る。子どもじゃないっお蚀いだすのは、子どもな蚌拠なのに。

    「    幞の靎䞋、靎のそばに眮いおおいたでしょう。靎もどうしお履いおないの。䞊着もないし    倜に倖に出たら、い぀も颚邪をひいちゃうんだから、気を぀けないずいけないのに    」

    違うの。そういうこず、今蚀いたいわけじゃない。
    倖に来おくれたのだっお。私がいなくなったせい。
    わかっおる。わかっおお、蚀っおる。
    どこたでも私。子どものように、啓倪さんを困らせたいのかな。

    「えっず    。じゃあ   アむちゃん」

    啓倪さんが、私の機嫌を手繰り寄せるように、そっずその名を呌んだ。
    アむちゃん。
    ずおも懐かしい響きが、海の銙りに乗っお私の蚘憶に静かに届いた。


    


    私が圌ず出䌚っお。飲み䌚で初めお話をしお。
    お互いを探る䌚話の䞭で、ご䞁寧に苗字で呌ばれたのが、なんだか寂しくお。
    「䞋の名前は、愛っおいいたす」
    私が自ら仕掛けたずき。
    「そうなんですね。ええず。     アむちゃん、で、よろしいんですか 僕がみんなのように、そう呌んでしたっおも」
    私は、ニコニコしお頷いおみせたっけ。なんお、はしゃいで調子にのった女だったのだろう。今思い出しおも恥ずかしい。

    それからふたりきりで䌚うようになったずき。
    圌は、䜕床目かのデヌトで、今日でアむちゃんはもうやめるず蚀った。

    「え どうしお」
    少し寂しそうにする私に、圌は蚀っおくれたっけ。

    「みんなず同じ呌び方は、なんだか、぀たらないです。僕ずあなたに流れる空気のように、特別な圢がほしい。  アコっおどうですか。けっこう、気に入っおいるんですけど」

    アコ。
    そうだ、その時から圌は、私のこずを「アコ」ずいうようになった。
    特別なその響き。特別な圢の関係。
    それっお、どういう意味 
    ハッキリさせたい私ず、少しオブラヌトにしおおきたい啓倪さん。結局ハッキリした蚀葉は、プロポヌズたでなかったけれど    

    アコ。

    啓倪さんがそう呌んでくれる限り。私は圌の「特別」なんだず、い぀でも思わせおくれおいた。
    私はそれを、い぀から「圓たり前」だず思っお、忘れおしたっおいたんだろう。


    


    「靎䞋ずか䞊着は、ごめんなさい。わからなくっお。泣いおいる幞はずっず、ママ、ママっお蚀っおいたものだから。慌おおしたったんです。急いで远いかけようにも、幞はもう寝る時間だしず思い぀぀、けれど、ぜったい寝ないずいうし」

    「たあ    そうだろうね」

    懐かしさに錻の奥を぀んずさせながら、私は぀ぶやいた。
    幞は、パパ降りるヌず蚀っお、蚀い終わる前には啓倪さんの腕の䞭からするりず降りた。しっかり抱っこしおいおも、あっずいう間に腕の䞭からすり抜けおしたう。こんな技をいったいどこで磚いおきたのかず、毎回驚く。

    「幞。靎も履いおないんだから    」
    私が蚀っお抱き䞊げようずするず、裞足で地面に力匷く立ち䞊がった圌女は、私に向かっお倧きく腕を広げおみせた。

    「ママ おいで」

    小さな腕の、その指の先たで力を入れお、笑顔で圌女は蚀った。
    よく芋るず幞は、泣いおいた。
    煌々ず光る旅通の逆光で暗くなっおいる衚情の䞭にも、きらりず茝く雫が私の瞳に入っおきた。


    ――――毎朝、毎朝。
    玄関たでなんずか連れお来おは「やっぱり行きたくない」ずごねる幞。私は振り絞った笑顔を芋せお、圌女に腕を広げお蚀う。

    「幞 おいで ほら、ママが抱っこするから」
    そしお腕の䞭に入っお来る圌女を抱きしめお、そっず䌝える。
    「幞。かわいいね。今日も倧奜き。いっしょに頑匵ろうね」

        ああ。忙しくっお私。最近、それもできおいなかったね。

    小さな腕を倧きく広げおいるその姿を、私は涙がにじんでうたく芋぀められない。

    「ママ おいで」

    もう䞀床、倧きな声で幞が蚀った。
    私は膝を぀いお、圌女の腕の䞭に入っおいく。
    「ぎゅ」
    幞が匷く、匷く抱きしめおくれる。

    「ママ。えらいね、えらいね」

    い぀も私がやるように。指で私の髪の毛を掬いながら、幞がそっずささやく。

    「ママ。    サトちゃんにいじわるしおごめんね。キラむになった さっちゃんのこず、キラむ」

    嗚咜が混じっお、私はもう声にならない。銖をふっお「キラむじゃない」「そんなわけない」っお䌝えるけれど。
    うたく、䌝わっおくれるだろうか。
    この気持ちが。
    あなたのこずを䞀生キラむになるはずないっお心が。

    「      倧奜き     」

    かろうじお絞り出した蚀葉が、どうか、この子に届きたすように。私は祈るように、嚘を匷く抱きしめかえす。

    「さっちゃんも。倧奜き」

    幞の腕が。心が。い぀の間にこんなにも倧きくなっおいたんだろう。
    い぀もそばにいるのに。い぀もいるからこそ私は、あなたの心を「芋よう」ずしおいなかったのかもしれないね。

    私ず幞を包み蟌むように、そっず啓倪さんがしゃがみこんだ。

    「離れおいおも    家族は家族だっお、僕にはきっず、蚀う資栌はないです。でも    ただ、信じおほしい。信じおいたい。幞の芪は僕ずアコ。あ、えっずアむちゃん、か。    これから先、どうなるかはわからないです。でも、幞はこんなに優しい。人のこずをこんな颚に抱きしめおあげるこずができるんです。この子は倧䞈倫です。そしおなにがあっおも、僕たちで守り切りたしょう。    専門家に盞談したら、幞が生きやすくなる可胜性があるなら。たずは盞談しおみたしょうよ。幞がこれから、もっずもっずお友達ず、笑っお生きおいけるよう。私たちは、できるこず片っ端から、やっおいきたしょう」

    啓倪さんは私のおでこに頭をこ぀んず突き合わた。背の高い啓倪さんが、圌の元に甘えおきた私にい぀もやっおくれるように。

    「幞の個性にどんな名前が぀いおも。幞は、幞です。私たちの倧切な嚘に倉わりはありたせん。怖がるこずはないんです。    この前も、そういうこずを蚀いたかったのだけど    い぀も決断をあなたに任せおしたっお。だからきっず、いけなかったね。ごめん。
    僕が単身赎任で忙しいからっお。気を遣っおくれるのはもう、やめおくださいね。いっしょに盞談も行きたすし  い぀でも、飛んでいく。必ずなんでも、話し合っお決めたしょう。いっしょにこの先を、考えおいこう。だっお、家族なんですから」

    あの、その、アむちゃん    
    口ごもる啓倪さんに、思わず笑みがこがれおしたった。
    「パパ、アむちゃんっおママのこず」
    私の肩に埋もれおいた幞は顔をあげお、きょずんずした声で蚀う。

    「どうしおアむちゃんっお呌んでるの」
    「それは  さっき怒られちゃったから    」

    あはは、ず声に出しお笑った埌で。もういいよ。自然ず私は口に出しおいた。
    あなたに呌ばれるなら。やっぱり、アコがいい。
    私ずあなたの、特別な関係。

    「アむちゃんっお 倉なの」

    そしお私ずあなたの、からからず楜しそうに笑っおる、特別な宝物がここにいる。
    それだけで。もうよかったのだ。
    私はすべおの感情をこの海に吐き出し、眮いおいく。
    いや。きっず心の䞭にはただ知らない私も残っおいる。
    今か今かず、その出番を埅っおいる感情たちが。
    でも、その時は玠盎にたっすぐ、それを啓倪さんに䌝えよう。蚀葉にしお初めお、浄化しおいく感情がある。それを私は知ったから。
    もう。倧䞈倫。
    ひずりじゃないっお、わかったから。


    癜シャツの第䞀ボタン


    䞀教員ずしお、こんなこず蚀っおはいけないずは思う。
    それでも。坂神さんの内定の報告は、私にずっお誰が内定するよりもうれしかったのは間違いない。

    「朚䞋先生    」

    い぀ものように、職員宀の自垭で経理曞類をたずめおいるずき。い぀かず同じように、私の元にやっおきた圌女は泣いおいた。その手には、倧切そうにスマホが握られおいた。

    「坂神さん、どうし    」
    「内定のお電話、先ほど頂戎したした    」
    私が蚀い終わるのを埅たずしお、圌女は泣き厩れるようにそう蚀った。

    「お、お、おめでずう」

    私の口から思わず倧声が出た拍子に、職員宀にいた先生たちからも拍手が沞き起こった。
    坂神さんおめでずう がんばったね
    いたるずころから、祝犏の蚀葉が飛び亀った。
    い぀も頑匵っおいる圌女の姿は、ここの職員なら誰もが知っおいた。
    自分の話をしすぎる。䜙蚈な蚀葉が出おしたう。あたりにも速くしゃべっおしたう。萜ち着きがない。
    その個性から、就職は難しいかもしれないずいう声さえ、䞀時期はあがっおいた。コミュニケヌションがどうかな、ずか。面接は圌女は䞍利だね、ずか。
    でも、圌女はやり遂げた。自分の色の花をしっかり、咲かせたのだ。


    「先生    本圓にありがずうござたした」

    にぎやかになった職員宀から移動しお、い぀もの空き教宀で圌女ず向き合った。䜕床もここで話をした蚘憶がよみがえっおくる。

    「私はなあんにも。坂神さんが頑匵ったんだよ」

    「いえ。実際、先生が調べおくださらなかったら    私、このカスタマヌ゚ンゞニアずいう職皮も怜蚎しなかったず思いたすので、正盎、ハむ。仕事内容を考えた限りは、私自身は、自分にはおそらくできない、難しいず思っおいたしたから。お客様に盎接ご提案したりサポヌトするだなんお、倧䞈倫かなずいう懞念がありたした正盎。しかしながら、先生がさたざたな䌁業のカスタマヌ゚ンゞニアを調べおくださったり、OBの方に連絡をずっお情報収集しおくださったり    
    『坂神さんなら倧䞈倫』『あなただからできるこずがある』ず信じ続けおくださったから    私、やり抜くこずができたした。ハむ。あの、本圓に、そう思っおいるのです」

    だから先生。ありがずうござたした。
    そう蚀っお、坂神さんがきれいに折りたたたれたハンカチで目元を抌さえながら、深々ず頭を䞋げた。

    その矎しい所䜜を芋お。私も熱いものが、胞の内偎からこみ䞊げおきた。
    この熱さを私は、忘れおはいなかった。いっしょに囜家資栌に向かっお頑匵る孊生を指導しおきた、あの頃ず同じ熱さだった。
    より胞の奥深いずころから湧き䞊がる、この感情。
    それは私の、教員ずしおの情熱を呌び戻すには、十分すぎるものだった。


    あのね。そんなこずないんだよ本圓に、坂神さん。
    私。最初は坂神さんの頑匵りに、頌っおいただけだったず思う。偉そうに面接や話し方のアドバむスするだけで、あなたのためを思った気になっおいた。それでもあなたの苊劎は続いたよね。うたくいかないこずもたくさん、あったよね。倧倉だったね。
    でも。あなたは自分で調べ続けるこずを諊めなかった。腐らず、めげずに、真摯に、メモを取り続けた。
    そしお、こんな私をずっず、たっすぐに玠盎に、信じ続けおくれた。
    だからあなたは、瞁をたぐり寄せるこずができたんだよ。

    『圌女の未来ぞの道を照らすこずができた』
    この教員ずしお、ひずりの人間ずしおの自信を私にくれたのは。
    坂神さん。あなたなんだよ。

    「本圓に   本圓に、頑匵ったよね」

    個人的な私のその思いは、胞に秘めおおくけれど。
    圌女の頑匵りは、䜕床も、䜕床でも称賛したい。

    ふず思い立っお、坂神さんに「あのメモ、たた芋せおくれる」ず聞いおみる。
    はい、ありたす。
    圌女はハンカチを持っおいない方の手で、カバンを探る。
    手枡しおもらったそのメモは、あれからさらにくすみがかっお、元の黄色の鮮やかさはない。けれど。私にはその色が、ずおも矎しく芋える。

    「このメモ。坂神さんの人生のバむブルになるず思うよ。蟛いずきに、芋返したりしおさ。きっず支えになる。ぜひ倧切にずっおおいおね」

    はい、そうしたす。
    坂神さんはずおもいい笑顔を芋せた。圌女のい぀もの癜シャツの第䞀ボタンは、もう閉たっおいない。癜い肌の銖元がなんずも涌しげだ。

    私はペヌゞをパラパラずめくっおいく。圌女の努力が詰たった、分厚いメモ甚玙。
    私は「ちょっず倱瀌」ず䌝え、い぀ものペンを取り出す。

    圌女の内定先の䌁業のメモに倧きく、はなたるを描いた。
    隣には「おめでずう ありがずう」ず蚀葉を添えお。

    「はい 坂神さん。本圓におめでずう。あずは卒業研究を終わらせお  あっずいう間に。卒業だね」

    メモを閉じ、圌女に戻しながら、私は蚀った。

    その「ありがずう」は、はなたるを぀けた䌁業に宛おた蚀葉だろうず、圌女は掚枬するかもしれない。圌女を芋出しおくれお、ありがずう。もちろん、その気持ちもある。
    でも、それは私から圌女ぞの、心からの「ありがずう」だった。
    私の教員ずしおの情熱を呌び芚たしおくれた圌女ぞの、玠盎には䌝えきれない私からの感謝のしるしずしお。

    「うふふ。はなたる、ありがずうございたす。光栄です、ハむ」
    圌女は笑った。

    坂神さん。こちらこそ。ありがずう。


    「朚䞋先生、よかったね」

    自垭に戻るず、い぀ものように䞊叞がすっず隣に立぀。なにか、䟝頌事項があるずきの流れだな。ず、私はこれたでの経隓で盎感する。

    「はい、本圓によかったです  。それで、なにかご䟝頌が  」
    「はは、ばれたか。いや、非垞にタむムリヌな報告もあったけれど    朚䞋先生。倏䌑み明けの埌期。次幎床の就掻生向けに、就職察策講座を行っおほしいんだ」
    「え。次幎床就掻生、党員に、ですか」
    「もちろんそうだよ。次幎床就掻生八十六名の、埌期のカリキュラムに組み蟌みたい。あなたの行っおいる就掻サポヌトの実瞟は、みんなが認めおいるんだ。ぜひ、そのノりハりを他の教員にも芋孊しおもらいたいずも思っおる。お願いできるかな     お子さんのこずもあるけど、資料さえ毎回準備しおおいおくれたら、代講も可胜だから」

    䞊叞は、私が驚いお無反応でいたせいか、慌おるように最埌の蚀葉を付け加えた。でも、私の心は最初から決たっおいた。

    「はい、ぜひやらせおください」
    「そうか。あんたり授業開始たで、期間がないかもしれないけど    倧䞈倫かな」
    「倧䞈倫です。任せおください」

    任せおください。
    私の口からその蚀葉が最埌に出たのは、い぀だっけ。考えおみおも蚘憶にない。
    ああ私。こんなこず、蚀えるんだ。
    私の知らない私に。ワクワクが止たらない。
    母になっおも私は、自分の可胜性をもっずもっず、広げおいけるんだ。

    「では頌んだよ。朚䞋先生」

    䞊叞は満足そうに奥の自垭ぞず戻っおいく。
    圌をびっくりさせたい。さすがだねっお蚀われたい。
    そしお、坂神さんのように。たくさんの孊生を、垌望の道に進めおあげたい。
    心臓が高鳎り぀づけおいる。ありずあらゆる䜓内の血流が䞀気に流れだすのを感じる。その勢いに任せお、さっそく私は参考資料を自垭に広げ、埌期カリキュラムを曞き出す。
    なにをするかなんおただ、わからない。でも。この䞀から考え出す瞬間が。
    授業を受ける孊生を想像しお。さあ、䜕をしようかず䜜戊を考えるこのずきが。
    やっぱり私はたたらなく、奜きだ。


    しあわせの色


    「さっちゃん、雚奜きなんだ―――」

    久しぶりの真倏の雚に、幞のご機嫌は朝からずおもいい調子だ。食事䞭に䜕床も垭を立っお窓の倖を確認しおは、そう蚀っおいる。

    「私も雚は奜きですよ。雚の日は、幞がいい笑顔になるからね」

    啓倪さんは䞁寧に焌き鮭の骚を取りながら、さあ、わかったから座ろうね。ずいたっお冷静に食事を進行しようずする。
    パパも奜きかあず蚀いながら、幞は戻っおきお、ほぐしおもらった鮭を手づかみしようずする。

    「幞。ほら、保育園でならったお箞。パパに芋せおあげよう。できるようになったもんね」

    冷静な人がいるず、私も圌女を萜ち着いお導くこずができる。
    そうだった パパ、芋おお 
    幞は埗意げに、ピンクの箞を持っお、その腕前を披露する。
    クロス箞になっおはいるけれど、䞊手にご飯を぀かめるようになった。前進しおいる郚分を、たずは耒めおいく。

    「幞、すごいですね。ここたで箞を䜿えるなら、もう倧人の仲間入りですねえ」
    「ええ さっちゃん、ただ五歳ですけど」
    「そうですねえ。五歳でこれはすごいですねえ」

    幞は、からからず楜しそうに笑っおいる。その様子を芋守りながら、私はい぀もの黄色いカッパの準備を進めおいく。
    今日はこれから、みんなで駅前の圹所に発達盞談に行く予定だ。倏䌑みを啓倪さんが前倒しにしおくれたので、平日に䞀緒にそろっお向かう日を調敎するこずができた。
    圌女にどんな蚺断が䞋ったずしおも。もう私には、恐れるものはなにもない。圌女が自分でもおさえきれないものが「なに」からきおいるのか。それがハッキリずわかったずき、きっず私たちは、今よりもっず笑っおいられる。そう信じるこずができるから。


    ご飯を終えお。幞が着替えをするずきに、
    「あ パパ、今日、あれを着おいきたいよお」
    そう啓倪さんにささやくのが聞こえた。
    なんだろう。新しい服、買っおいないけど。
    そう思いながらも、私は聞こえないふりをしお、母子手垳をカバンに突っ蟌む。

    こそこそこそ  
    パパ、せヌの、でだよ。
    わかりたした    

    小声で、でも私の真埌ろで盞談しおいる声に笑顔が挏れおしたうのをこらえお、私はびっくりする準備をする。

      いっせヌの  
    「「ママ、い぀も、ありがず」」

    私は、「埌ろにいたの」ずいう衚情を携えお、埌ろを振り返った。
    そしお、振り向いた盎埌。本圓に驚いた。

    「   え、その服   」

    「ぞぞ。さっちゃんず、パパで䜜ったんだよ どこにも売っおないんだよ 特別、なんだよ」

    啓倪さんず幞が、同じ柄のTシャツを着お䞊んでいた。
    色はそれぞれ違う。幞のTシャツはピンク。啓倪さんが癜。二人の手には、氎色のTシャツ。二人の胞元ず手に掲げおいる氎色のTシャツには、同じ四葉のクロヌバヌが描かれおいた。それぞれの葉っぱには、緑ではなく様々な色が䜿われおいる。

    「クロヌバヌはパパが描いお、さっちゃんが色を塗ったんだよ」

    誇らしげにTシャツを匕っ匵っお芋せる幞の顔が、私にはじんわりず、にじんで芋える。

    「描いた絵をTシャツにできるサむトを芋぀けお。泚文しおみたんです。みんなで、お揃いで。はは、どこのアトラクションに行くんだっお感じですが。たあ、今日の発達盞談が、初お披露目でもいいかもしれたせんよね」

    少し照れくさそうに、啓倪さんが蚀った。
    ありがずう  。私はぜろりず蚀葉をこがしながら、そのきれいな氎色のTシャツを受け取った。
    ふたりず同じ、カラフルなクロヌバヌが胞元に茝いおいる。

    「これはねヌ、ママの色なの。お仕事のママは、赀。ずっおも楜しそうだし、今のママは、匷い先生 っお、感じがするの。ピンクは、お家のママ。い぀もさっちゃん、抱っこしおくれお、ママ倧奜き っおなるから、さっちゃんの奜きなピンク。氎色は、雚の日のママ。さっちゃんのこず、い぀もタオルでぐるっお巻いお、濡れちゃったねっお拭いおくれるの。さっちゃん、あの拭いおもらうのが奜きなの。氎色のタオルで。だから氎色。オレンゞは、お垃団干しおるママ。お垃団お郚屋にいれお、そのたたそのお垃団の䞊で寝おるずきのママは、ぜかぜかのオレンゞ」

    赀。ピンク。氎色。オレンゞ。
    私の色のクロヌバヌ。そしおそれは私たちの、たったひず぀のクロヌバヌ。

    幞。氎色のママ、ちゃんず笑っおた すごく怒っおいる顔の日も、きっずあったけど。雚の日のママ、氎色なんだね。綺麗な色だよね。
    オレンゞのママのこず、ばれおたんだね。でも、あの時間はやっぱり奜きなんだよね。いっしょに垃団に転がるず、幞せな気持ちになるもんね。

    「幞、ありがずう。ママ、この服が䞀番、奜きになったよ。ママもこれ着お、今日はいっしょに、お話しに行こうか」

    うん 
    うれしそうな幞の笑顔を芋぀めおいたら、たた涙が出そうになる。けれど私はそれを止めようずも考えずに、その身をゆだねおみた。
    涙は頬を䞀筋、静かに䌝った。ずおも心地はよかった。



    幞せっお。なんなのだろうず思う。
    仕事を頑匵っお、認められるこず
    家族ずいっしょにご飯を食べられるこず
    倧切な人ずいっしょに笑えるこず

    ――――きっず。どれも正解。どれも幞せ。
    そう、「私にずっおは」。私はこれを幞せだず信じおいる。
    でも、別の人にずっおは、これは幞せずは蚀えないのかもしれない。
    それでいい。
    幞せには定矩もないように、色も決たっおない。
    だからこそこの䞖界には、こんなにもたくさんの色が溢れおいる。

    幞の瞳には。䞖界はこうも矎しく芋えおいたんだね。
    色にも、幞せにも。決たりなんお、ないよね。
    圌女がこの先も教えおくれる幞せの数は、きっず生涯数えきるこずはできないだろう。それが楜しみで仕方ない。
    毎日がいろんな色の愛で埋め尜くされおいる圌女の䞖界を、今日も明日も芋せおもらおう。

    幞。今日のママの色は、䜕色なのかな。
    あわく透明なブルヌだったらいいな。
    あなたが奜きな、今日の雚ず、空の色のように。広い広い海のように。
    穏やかでやさしい色で、ふたりを包み蟌みたい。


    「やったあ 雚だあ」

    幞は雚の䞋、やっぱりその身を捧げ党身で倩の恵みを受けおいた。
    カッパの䞋の新しい服も、きっず駅に到着したらびしゃびしゃ。やっぱりねっおいいながら、私は圌女を氎色のタオルでくるんで、着替えようか、ず蚀うんだろう。
    手間のかかる話だ。そう。幞せっお、手間のかかるものなんだ。

    「あはは、幞、楜しそうですねえ」

    「仕事の前にやられちゃうず本圓にたいっちゃうけどね  たあ、私が着替え持っお、い぀も早めに出れればいいんだけどさあ」

    「アコ、い぀もありがずうございたす。おかげで僕も、自分のこずを頑匵れる。でも本圓にいいの 単身赎任、いったんやめさせおもらう盞談をしなくお    」

    「今のプロゞェクトが楜しいっお、い぀も話しおくれるじゃない。なら、やれるずころたでやっおきお。私もこれから、授業準備だなんだで、そっちに匕っ蟌む぀もりは圓然ないしさ。お互い、やれるずこたでやろう」

    啓倪さんが私の顔を芗き蟌んで、確認しおくる。それは、本心の蚀葉 っお、口にはせずにささやいおくる。

    「倧䞈倫だっお蚀ったでしょ。    もう、倧䞈倫。幞ずいっしょだから」

    びしょ濡れの幞は、はやくこっちに来お ず私たちを手招きする。安心したように啓倪さんは笑っお、傘をたたんで幞に駆け寄った。

    「ええ ちょっずお。啓倪さん」
    「だっお。幞がすごく楜しそうだから」
    啓倪さんは駆け寄っお、びしょ濡れの幞を抱き䞊げお笑った。圌の胞元の四色のクロヌバヌは、雚に濡れお茝いお芋える。

    「ああヌあ。    たあ。いっか」

    私も傘を閉じお、ふたりに駆け寄った。
    盎接肌で感じる倏の雚の匂いが、ずっしりず錻を぀く。Tシャツの䞊からしみ蟌んでくる雚は、䞍思議ず私の心を、前ぞ前ぞず埌抌ししおくれるのを感じる。
    朝の静かな雚の䞭ではしゃぐ芪子は、呚りからしたらどう芋えおいるんだろう。でもそれは、気にする必芁なんおない。
    駅でたた服をかわかしたら、再出発だ。



    もう、私は倧䞈倫。
    い぀だっお私たちは、自分たちの幞せを塗りなおせるから。





    おわり


     
     
     
    すぐ飲む系䞻婊犁酒䞭 創䜜倧賞2025䞭間遞考通過。 11æ­³9歳女子、7歳双子男子、3歳男子、0歳䞉女、県鏡SE旊那ず8人家族🍀 長女は䞍登校。次女・長男は発達障がい。 たあ、なんずかなるの粟神。 同人雑誌優秀賞受賞「文孞界」掲茉歎。 #曞く人生がはじたった瞬間🏆グランプリ

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