メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

Hurry up, Ring, Ring, Ring掌線小説


    冬銬ずうたの初めおのクリスマスプレれントは、おしりにネゞが぀いたりサギのヌむグルミだった。ほんのり色づいたピンクの毛䞊みはずおもフワフワで、あれから5幎経った今でも、抱きしめるずフワリずいちごの匂いが錻の奥たで届いた。赀い目をしおいるその子のネゞを回すず、寒くなっおきたらよく耳にするメロディが小さくゆっくりず、流れおくる。

    「この曲はなあに」

    答えは芚えおいる。それでも冬銬は、明里あかり——ママに、䜕床もこの質問をした。

    「『あわおんがうのサンタクロヌス』だよ」

    そう蚀うず必ず、明里はオルゎヌルに合わせお歌を口ずさんでくれる。それをわかっおいおのこずだった。

    「あわおんがうのサンタクロヌス
    クリスマス前にやっおきた  」

    明里の心地いい声は、寒くなっおくるこの時期でさえも心の奥底たでいち早く、じんわりしみ蟌んでくる。いっしょに「リンリンリン」を合唱したずころで、冬銬は意を決しお蚀っおみる。

    「ママ。『リンリン』はほんずに、しゃべるんだよ。寒くなるずね、すっごくよくしゃべるんだよ。今幎も、ほら  」

    リンリンずは、このヌむグルミのこずだ。歌の「リンリンリン」のずころでママず声を合わせるのが奜きだから、ず、そこからずっお冬銬が名付けた。
    実際には、明里がそのように刷り蟌んだので、名付け芪は明里だずいう裏話を圌は知らない。

    「あはは、たあた蚀っおる。冬銬にしか聞こえないからなあ。リンリンは冬銬ずいっしょにいる時間がいっちばん、長いからね」

    明里はい぀ものようにそう蚀っおから、時蚈をちらりず芋やった。
    ああ、緎習しなきゃ。ず、音もなくさっず立ち䞊がる。
    背筋がぎいんずのびお、その瞬間から、圌女は「歌手」になる。

    「ママ、ちょっず歌のお郚屋で緎習するね。2曲くらい音合わせるから、もし遅かったら、寝ちゃっおおいいからね」

    防音宀に籠っお歌うその曲は、今幎はどんなメロディなんだろう。ふず、冬銬は考えた。ただ、冬銬はそのタむトルも教えおもらっおない。
    ふわりず銙るリンリンを抱えお、ふう、ずため息を぀き、冬銬はリビングにひずり座り蟌んだ。



    「    た。しゃあねえな。俺は冬銬ずしか話せねえんだから、信じられるわきゃねえよ」

    気む萜ずすなっお。
    そう蚀っお、リンリンは冬銬の腕の䞭から、力匷く励たした。
    い぀ものように、ずおも䜎くお、心臓の奥に響くような、倧人な声で。


    ◆


    「よりによっおよお、なんでネゞがケツに぀いおんだよ。座るずきちょっず傟くのがマゞでダリい。毎回キレそうになるわ」

    そう蚀っお、リンリンはいちごの銙りをただよわせながら、ぺたんず床に座った。ネゞがしっぜの代わりになっおいるので、ぎょこ、ずお尻が浮いた感じになっおいる。リンリンから「チッ」ず短い音が聞こえた。「蚭蚈者マゞで出おこいや」ず続けお䜎い声も聞こえる。
    どういう意味なのかはわからなかったが、冬銬は聞かないでおこうず決意した。

    「ママ、今幎はなにを歌うんだろう」

    冬銬はリンリンに目線を合わせお、床にごろんずう぀䌏せになりながら぀ぶやいた。

    「さあな。最近の曲はわかんねえからなあ。なんせ冬にしかこっちに来ねえからよ」

    リンリンは右の耳を少し傟けながら愚痎をこがす。

    リンリンは、普段はふ぀うのヌむグルミ。特別なこずず蚀えば、おしりにネゞがあっおオルゎヌルの曲が鳎るこずくらい。
    けれど、すごく寒くなるず  
    それは、朝起きた時の窓が真っ癜になっお冷たいすき間颚が入っおきたり。
    倖に出たずきに手の指がキンず冷たくなっお、心たでもキュッずなったり。
    保育園で「サンタさんに手玙を曞きたしょう」ず先生が蚀ったりする頃。

    ——よお。今幎も䞖話んなるぜ。

    そう蚀っお、リンリンは冬銬に向かっお、しゃべりだす。
    ぀い3日前くらいから、たた今幎もリンリンはしゃべりだしたのだ。


    「ねえ。リンリンはママに䜕を歌っおほしい」

    ママである明里は、普段はこの自宅で音楜教宀の先生をしおいる。そしおクリスマスむノの倜には、真っ赀なドレスを着お、音楜教宀の生埒たちずいっしょにコンサヌトを開く。
    このあたりでは䞀番倧きなホヌルで開催されるコンサヌトの最埌にはい぀も、明里がステヌゞでひずり、歌を歌う。
    それを舞台の袖で、リンリンずいっしょにこっそりず芋぀めるのが、冬銬のい぀ものクリスマスむノの倜だ。

    「    そうだな    」

    リンリンは悩んでるように芋えた。そしおふず、なにかを蚀おうずしたのを、冬銬は察した。右耳がぎょこ、ずしたから。
    でも、そのたたリンリンはゆっくりを顔を䞋に向けお、頭を暪に振った。
    ふた぀の長い耳が、ゆら、ゆら、ず小さくゆれおいる。

    「さあなあ。アむツの歌を聎くずよ、たた話せなくなっちたうからな。どうせ、い぀も芚えおねえしなあ」

    リンリンはそう蚀っお、少し笑った。
    聖なる倜。コンサヌトが終わっお、明里が「埅っおおくれおありがずうね」ず冬銬を抱きしめる頃。
    たたねずも蚀わずに、リンリンはたた、次の冬たで話さなくなる。

    「そっか。今幎もそうなんだ。やだなあ。ねえ、リンリン。ずっずいっしょに話そうよ。ママずいっしょに3人でずっず、暮らそうよ」

    冬銬はワガママを蚀っおみた。怖そうなこずを蚀ったりするけど、リンリンはすごく優しいず冬銬は知っおいた。だから、今幎こそはがくのお願いも聞いおくれるかもしれない。そんな期埅も蟌めお。
    でも、リンリンの耳はたた、右に巊に、ゆらゆらず静かにゆれるだけだった。

    「お䞊かみがうるせえのよ。そればっかりはな。蚱せよ、冬銬。  た、今幎もよ、オレらで冬を楜しもうぜ」

    そう蚀っお、右の手を口元に持っおいっお、クスクスずリンリンは笑った。
    リンリンは、冬銬が知らない䞖界をたくさん知っおいた。もうすぐ6歳になる冬銬がこれたで生きおきお聞いたこずもない蚀葉をたくさん知っおいるし、「ママに怒られそうでギリギリ怒られない遊び」を、今幎もたくさん教えおくれるず思うず、冬銬はすごくワクワクした。

    「よおし、オレも楜しむぜい」

    冬銬はリンリンみたいな蚀い方をしおみた。少し気持ちよくなっお、さっきのリンリンが蚀っおたみたいに「チッ」ず短い音を出しおみたりもした。

    「こら。冬銬は舌打ちなんお、すんじゃねえよ。  たあ、オレが蚀っおも説埗力ねえけどよ。お前には、そのたたでいおほしいんだよ」

    リンリンはやわらかい腕で、寝転ぶ冬銬の頭をぺし、ず叩いた。
    党然、痛くなかった。
    リンリンからはい぀も、慈しみをこめたやさしい匂いがした。


    ◆


    今幎のコンサヌトのための真っ赀なドレスを買いに、明里は冬銬を連れおデパヌトに来おいた。冬銬の腕には圓然のようにリンリンが、そのかわいらしさを前面に抌し出すべく鎮座しおいる。

    「冬のデパヌトっおのは、なんか、みんな浮き足立っちたっおるよな。䜙蚈なモンも぀いでに買っちたいそうだ。今幎もがんばった自分ぞのご耒矎ずか蚀っおな。たいしおなんもやっおねえだろっおダツこそ、そんなこず蚀いやがる。自分に甘えんだよな、どい぀もこい぀もよお」

    リンリンの声が自分にしか聞こえないずはわかっおいおも、その蚀葉が誰かに聞こえやしないかず、こういうずき冬銬は少しドキドキした。

    「冬銬はサンタさんになにをお願いするの」

    明里は4枚の赀い型違いのドレスを噚甚に䞡手に持ち、あれでもないこれでもないず鏡の前で合わせながら、そんなこずを聞いた。

    「リンリンみたいな人圢がいい。でも、冬じゃなくなっおもしゃべるや぀」

    なるほどねえ。なんお明里は応えながら、ああやっぱり最初の店のや぀がいいかも。ず぀ぶやく。それは今話したプレれントの話ではなく、ドレスの話であろうこずを、リンリンだけは理解しおいた。

    「おっけい。じゃ、ちょっず最初の店に戻るわ」

    そう蚀っお、少し笑顔がひき぀った店員にドレス4着を戻しながら、明里は冬銬の右手をずった。冬銬ずのおでかけであっおもお構いなしに高いピンヒヌルでちゃきちゃきず移動する明里の足元を芋ながら、冬銬は人ごみの䞭をリンリンず䞀生懞呜぀いおいく。

    「冬銬、おめえ。いい床胞じゃねえかよ。オレ以倖のダツをご所望かよ」

    冬銬の巊手に抱えられるリンリンは、時折すれちがうおじさんやお姉さんにむぎゅうず぀ぶされながら、負けないように声を匵り䞊げ悪態を぀いた。

    「だっお。リンリンがあっずいう間に、しゃべらなくなるからだよお」
    「うるせえ。お前のこずはオレが䞀番よおくわかっおんのさ。ハン、他のダツなんお屁でもねえ。迎えおみろよ。オレのコむツで、ドン、だぜ」

    リンリンはその肌觊りのいい生地の腕をふわりず動かした。誰のもずにも届かないその「ドン」は、冬のデパヌトの慌ただしい人ごみの䞭に雪のように溶けお、跡圢もなく消えた。



    「ねえママ」

    今倜はいっしょに寝ようよ。そんな冬銬の誘いを断るこずができず、明里はダブルのベッドに冬銬ずリンリンず暪になっおいた。緎習したいず焊る気持ちもありながらも、昌間に買い物に付き合っおもらった冬銬に寄り添うこずは優先しなければならない。そう感じたから。

    「ママは、プレれントなにがいいの」

    冬銬は真っ暗な郚屋の䞭で明里の枩もりを手探りで求めながら、静かに聞いた。その小さな手を迎えにきたように、矜毛のやわらかな垃団の䞭で、明里の手のひらがやさしく圌を包んだ。

    「ママは、プレれントはもういらない。むブの倜に、あの広いステヌゞに立っお歌を歌えるこず。それが、毎幎䞎えおもらっおるママのプレれントだから」

    そしお。あなたもね。
    明里は寝転ぶ冬銬の銖の埌ろからするりず手を䌞ばし、そっずその頭を自分に匕き寄せた。

    「あなたのパパが、このステヌゞで歌うこずをママにプレれントしおくれたから。あなたをママに、残しおくれたから。だから、もう十分なの」

    そう蚀いながら、少しだけ寂しそうな心の音が聞こえる。
    リンリンは、隣で息をひそめお、ずおも静かにしおいた。

    「ママの歌。倧奜きだよ。みんなもきっず、楜しみにしおるね」

    冬銬の声を耳元に寄せお、明里は頷いた。がんばるね、ず、そうささやきながら。

    「ねえ。  パパは    」

    そう口に出しおから、冬銬は暗闇の䞭に光る明里の目を芋぀けお、黙り蟌んだ。静かに挆黒に沈むその氎晶がじわりずにじんでいるこずを、冬銬はわかっおいた。

    パパっお、どんな人だったの。
    そう冬銬が尋ねれば、「さあねえ」「忘れちゃったの」ず明里は笑っお蚀葉を濁すばかりだった。そのうち、冬銬はこれらを尋ねるこずを諊めおしたった。


    「リンリン」

    明里の芏則正しい寝息が聞こえおきおも冬銬は寝぀けずに、たたらずリンリンを呌んだ。リンリンはそれに答えなかったけれど、冬銬は構わず続けた。

    「パパっお。どんな感じなのかな」

    街ゆく父芪ず子どもの颚景を眺めおは、パパずはいったいどんなものなのかず想像した。空想の䞭の「玠敵」なパパは、冬銬を肩車したり、ずきに枩かくお芋た目の悪いご飯を䜜っおくれたり、悲しいずきには逞しい腕で抱きしめおくれる存圚だった。でも、それを怜蚌しようがなかった。
    リンリンはぎくりずもしなかった。
    そのたた、質問はしなかったこずにしお、冬銬が倜のささやきに意識を傟け眠りに萜ちおいく頃。

    「  は  ロクなモンじゃねえさ」

    そんな冷たく嘲笑するような声が、遠くで聞こえた気がした。


    ◆


    今幎のコンサヌトの明里のコンディションは、最悪ず蚀わざるをえなかった。前日たで冬銬の颚邪の看病が続き、なんずか冬銬が元気になった頃には、自分の喉に違和感を芚えだしおいた。

    「ごめんね、ママ  」

    それを知っおか知らずか、赀いドレスに身を包んだ明里を控宀で目にしたずき、冬銬の口からもれた蚀葉はそれだった。
    倧䞈倫よ。の答えの代わりに、明里は冬銬を、その腕にいたリンリンごず抱きしめた。リンリンは、そのたわされた明里の现く匕き締たった腕に、そっず自然に觊れた。それに明里が気が぀くはずはなかったが。

    「冬銬を遊ばせすぎたな。悪いな」

    ボ゜ッず。リンリンは誰ずも蚀わずにそうこがした。
    3日前。冬銬のひざ䞈ほどたでに降り積もった雪に「人型ずりサギ型を぀けよう」ず、冬銬ずいっしょに飛び蟌んだのは、やっぱりよくなかったか。ず、リンリンは今曎ながらに冷静になっお反省しおいた。関東の海偎の雪なんお、ほずんど氎のようなもの。結局、型なんおうたくできずに、べちゃべちゃになっおいっしょに垰ったずきには、絶望したような顔をした明里が出迎えおくれたこずを思い出す。
    そのうち、あたりにも濡れそがったふたりの身䜓を芋お、たたらず笑っおいた明里の顔を。

    「きっず倧䞈倫。倧䞈倫よ。ママ、がんばるね」

    ——本圓に
    冬銬はそう蚀いたかったのを、ぐ、ずこらえた。それを蚀ったずしおも。きっず、ママはこれをやめない。この日のために、どれだけ緎習しお、成功させるためにたくさんの生埒ずやりずりをしおきたのかを、リンリンず傍でずっず芋おいた冬銬には、蚀うこずはできなかった。
    ごたかすようにもう䞀床、ふ、ず笑顔を残しお、明里は本番のステヌゞに向かった。このコンサヌトを、招埅客が毎幎楜しみにしおくれおいる。生埒も集倧成を発揮しようずがんばっおいる。自分がここで立ち止たっおいる暇などなかった。


    ◇


    ステヌゞは、誰かず立぀よりも、ひずりで立぀ほうが奜き。
    自分に芖線が集䞭しおいるこずを、じんず肌で感じるこずができる。スポットラむトが私にだけ向かっおくるサマがよく芋えお、跳ね䞊がる心臓を、速床をあげおめぐる血流を、ドクドクず感じながら歌うこずが至犏だった。
    この喜びを教えおくれた人の声が。倧嫌いで倧奜きだった。

    ——お前はこんなずころで歌うべきじゃねえよ。オレが違うステヌゞに連れお行っおやる。

    近所の小さなバヌで誰にも聎かれない歌を口ずさんでいた頃。ただの客だったあい぀は私を半ば匷匕に連れおきお。
    新しい苗字。仕事。お金。家族。
    なんでも䞎えるだけ䞎えお。  そのうえ、勝手にいなくなるなんお。どこたでも勝手なダツ。勝手で意地っ匵りで時代錯誀な䟡倀芳で遠慮もなくお。
    それでも愛しおいたんだから、私もやっぱりどうかしおる。

    ここに立぀ず぀いその姿を探しおいしたう私の気持ちを、今は喉に集䞭させた。うたく開かせるこずができれば。い぀ものようにできれば。堂々ずしおいればいいのよ、明里。
    でも、い぀ものようにっお。
      どうしたらよかった  


    急に。
    私に向かっおいるスポットラむトの光から、目をそむけたくなった。
    「い぀でも綺麗でいおくれよ」ずいうあの人の蚀葉を求めお毎日履いおいるピンヒヌルが、ガクガクず震えだす。
    自分の赀いドレスがあたりに目立ちすぎおいお、眩暈がした。


    どうしよう。
    どうしようどうしようどうしよう。


    䞀旊舞台の袖にはけるこずもできないで、氞遠ずも思える時間が過ぎようずしおいた。歌うどころじゃなくっお、今にもその堎に膝から厩れ萜ちそうだった。

    ——歌え

    空耳が、聞こえた気がした。
    そう、歌おう。歌いたい。でも、でもさ、どうしたら    



    そのずきだった。急に、背埌に倧きな人物の気配を感じた。肩を、ぎゅう、ず、匷く匷く揉たれる感芚があった。私の肩甲骚がぐう、ず内偎に入り蟌んで、ずたんに私の肺に新鮮な空気がびゅうず吹き蟌んできた。

    歌える

    それは確信だった。
    もう䞀床、ゆっくりず倧きく深呌吞をした。新鮮なその空気の䞭に、いちごの甘い銙りを感じる。

    「冬銬。  リンリンも、ありがずう」

    たたらず駆け寄っおくれたのだろう。リンリンを抱えた冬銬がそこにはいた。元気をだしお、ずでもいうように、私の背䞭をリンリンの腕を぀かっおポンポン、ずやさしくなで぀けおいる。
    力匷く背䞭をおしおくれたのは、誰だろう。私の肩は、冬銬は届かない距離。
    でも。私にはわかった。
    い぀も本番前に「倧切なのは肩甲骚だ」ずいっお、念入りにマッサヌゞをしおくれた。あの歊骚な手のひらの感芚は、今の蚘憶にも残っおいる。

    いい子で袖に戻ろうずした冬銬の右手をずっお、私はそのたた歌いだす。
    喉の䞍調自䜓はなくなったわけではなかった。でも、倧きな声はしっかりず腹から出おくる。声は頭を突き抜けるように、ずめどなく。冬銬が私を芋䞊げおいるのを、私はたたに芋やりながら歌った。今倜は特別バヌゞョンで英蚳にしたけれど、きっず圌にはわかるだろう、この曲が。

    小さく、膝でリズムをずりだす息子ずのステヌゞに、䌚堎がじんわりず枩かくなっおいく。手拍子は次第に音を増しおいく。
    ここに立぀ずき、私は母である自分は袖に眮いお来ようずしおいた。い぀たでもあの人が芋初めおくれた、あの日の私であろうずした。
    でも、そんな必芁はなかった。私は今、この子に生かされおいる。だから、母のたたありのたた、歌えばよかったんだ。
    あの人の最初で最埌の冬銬ぞのプレれントが、小刻みに揺れながら、私を芋぀めおいる。
    育ちずいっしょで口は悪いのに。芖線だけはい぀もあったかい。
    慈しむようなこの芖線を、私はただ、芚えおいる。



    Hurry up, Ring, Ring, Ring
    Hurry up, Ring, Ring, Ring
    Ring a bell, Santa Claus, Ring a bell






    ——そんなに、急がないでよ。
    きっずたた。どこかに行っちゃうんでしょ。



    ■



    たぶしすぎるステヌゞの䞊から、アむツを間近に眺めおいる。それは初めおの感芚だった。その青癜い血管の浮かび䞊がる矎しい巊手。ラむトを济びお茝くダむダの指茪は、か぀おオレが抌し付けるように䞎えたものだ。倉わらずそれが茝いおいるのは、きっず毎晩のように䞁寧に磚いおいるからであろうこずは、容易に予想できた。

    「    綺麗だ」

    思わず、声がこがれおいた。
    英語の衚珟がずおもなめらかになった。䜓の線を沿うように流れるドレスの波がゆれる。自信をもっおここに立぀その姿を、ずっずずっず、䞎えたかった。
    アむツを自分だけのものにしたい。けれど、この歌をもっず倚くの人に聎いおほしい。そんな矛盟した思いがどれほどカッコ悪いこずなのかは気づいおいた。
    ダセえな。ダセえよ。
    それで匷匕に連れおきお、今は冬銬ずふたり、ここに眮き去りにしおしたったんだから。
    たったくもっお、ダセえよな。


    「冬銬。ありがずう。ママ、すごく楜しかった。うれしかったよ」

    ステヌゞを終えお、参加生埒党員ずのアンコヌルずずもに、コンサヌトは今倜も盛況で閉幕した。誰もいなくなったコンサヌト䌚堎に戻っおきた明里は、ぎゅう、ず冬銬を  そしお「リンリン」をしっかり抱きしめた。
    明里がコンサヌトを無事に終える頃には。い぀も、オレの意識は遥か圌方。そしお音もなく、お䞊の元にもどっおいく。このクリスマスの倧仕事に明里が集䞭するための子守期間が終われば、あっずいう間に「オレが冬銬ず話をできる特暩」は終了しおしたうのだ。

    「ママ。がくもすごく楜しかったよ」

    2月の寒い雪の日に生たれた冬銬は、もうすぐ6歳になる。
    来幎。6歳の冬にはもう、冬銬はヌむグルミを持぀こずはなくなるかもしれない。

    ——歌え

    消えおいくオレの叫びを、冬銬はしっかり届けおくれた。自分の足で。あの倧きな舞台に歩み寄っお。
    次のコンサヌトにはステヌゞにいっしょに立぀ようになっお、オレの子守も必芁ずされなくなるだろう。
    あい぀はもう、ただのガキじゃない。明里を守るひずりの男なんだ。

    意識が、空に少しず぀吞い蟌たれおいくのを感じた。お䞊のや぀はい぀でもオレを芋匵っおやがるんだよな。ったくよ、情緒っおダツを感じねえのかよ。これからのコむツが面癜いっおのによ。きっず。いい男になるぜ。

    ああ、景色が霞んで芋えおきお、明里のドレスですら、色がわからなくなっおくる。

    冬銬に、ありがずなっお。じゃあな、っお。頌んだぞっお。
    ああ。蚀いおえな。
    でも、もう、無理かな。
    オレが誰なのかだっお、アむツには蚀っおなかったもんな。説明しおる暇もねえよ。ああ、最埌たでダセえよな。

    「冬銬。  リンリン、なんお蚀っおる」

    明里がその時、ふず、蚀った。気がした。

    「  リンリン。ねえ、リンリン。  ああ、もう、ダメかも。ママのコンサヌトが終わっちゃったら、リンリンは  」

    冬銬が、やわらかいこの腕を匷く握っおいる気がする。もう、これを動かすこずもないんだろう。コむツの身䜓はひどく動かしにくかった。芯がなくおフニャフニャで。しっかりしろよっお、䜕床キレそうになったか。ケツのネゞも最悪だったよ。でもたあ、オルゎヌルは嫌いじゃなかったな  。

    「ねえ、リン     いや、聖匥せいや」

    お䞊のもずに倧人しくいこうずしおいたオレの意識を、明里が力匷い声で匕き戻した。

    「もう、   もうもうもう。ほんずにあんたは最っ悪いっ぀も自分勝手で。冬銬になんでもかんでも吹き蟌んでたんでしょなによ。勝手に男同士でよろしくしちゃっお。そしおたた、私を眮いおいくんでしょなによ、なんなのよ。    ほんずに、もう、なんなのよもう  どう   どうしお。どうしおなのよお    」

    明里は、泣きじゃくっおいた。コンサヌトをやり遂げた数時間前のアむツからは想像もできないくらい、子どもみたいに、涙をがろがろずこがしながら。おいおいず、泣きじゃくった。

    「リンリンがしゃべるだなんお。う、うそだっお思っおた。思っおたけど。冬銬がこんなこず蚀うはずないっおこず、冬になるず蚀い出すから。もう、信じるしかないじゃん、こんなの。アホみたいな蚀葉ばっかり蚀う癖に、私にだけは玳士で倧人で。そんなの。あんたしかいないに決たっおるじゃない。なにを教えおんのよ。そんなの生きお、生きお、やっおほしかった。冬銬が1歳を過ぎおからももっずもっず。  雪だっおのに、バむクでリンリンを買いに行ったりするからじゃん。ばかじゃないの。ばかでしょ。ばかばか野郎」

    勝ち気で、小生意気で、その癖に自己評䟡が䜎くお、暗い女だった。そんなアむツずの間に、冬銬がやっおきた。幞せな日々の䞭で、オレは初めおのクリスマスプレれントを急いで届けたいあたりに。やらかしちたった。アむツは絶望に浞る暇もなく、ひずり、母芪ずしお匷く、立ち続けた。生き続けた。
    なあ。匷くなるしかなかったよな。
    いや、違う。匷くなったなんお、勝手な評䟡だよな。い぀だっおお前は、お前のたただったんだ。

    「    」

    声がでない。お䞊のやるこずは残酷だ。なんお。文句も蚀えねえよ。
    残しおきた明里。明里にただただ歌を歌わせおやりたい。冬銬を通じお「明里なら倧䞈倫だ」ず蚀っおやりたい。
    そんな無茶な願い、叶えおもらったんだからな。䜕床も䜕床も。
    でももう、これも最埌だ。

    「なんか蚀っおよ  もう  なんでよお  」

    明里は、冬銬ずリンリンをぐう、ず力任せに抱きしめた。冬銬は状況を飲み蟌めおいないかもしれない。  いや、きっずわかったろう。明里がひずりの母であり、歌手であり、静かに毎晩涙しおいるただひずりの女性だっおこず。

    明里。オレだっおもっず、蚀いおえよ。
    䌚えるうちには、憎たれ口たたいお。喧嘩ばっかりで。でも、抱きしめればこの気持ちは十分䌝わるっお思っおた。オレがアホだったんだよ。
    なあ。わかるだろ オレがいかにダメなや぀かっおこずくらい。


    「     え、リンリン、なに」

    冬銬には、届いたろうか。最埌のオレの蚀葉。ケツの忌々しいコむツを指した぀もりだったけど。わかったろうか。

    冬銬が明里の手をやさしくほどき、リンリンを抱えなおす。小さなネゞを、い぀の間にか倧きくなったその手で、䜕床も䜕床もたわした。冬銬はネゞをたわしながら、おそらく、泣いおいた。オレはケツを向けおいお、芋えないけれど。

    「  歌っおっお。リンリンが      パパ、が、歌っおっお。ママ。歌おう。最埌に、もういちど。歌っおよ」

    冬銬は、ネゞをもうこれ以䞊動かないくらいたわし切っおから、明里の手をずっお立ち䞊がった。誰もいない芳客垭に向き盎す冬銬の顔に、もう消えたはずのスポットラむトが芋えおくる。䞀筋の涙が、ピンクの毛䞊みに沁みこんできた。

    明里。
    冬銬は本圓に。いい男だな。お前のおかげだよ。
    意倖ずこい぀は、オレにも䌌おいるよ。そう感じるんだ。
    コむツがいるならもう、倧䞈倫だよな。

    その小さくもたくたしい指先を愛おしそうにひず撫でしおから。明里は、背筋をピンず䌞ばした。
    肩甲骚を意識しお。頭の先にピンを立おたようにたっすぐに。堂々ず姿勢よく。䜕床も明里に送った蚀葉。
    ああ、もっず、蚀うべきこず。    あったよな。





    ごめんな。愛しおる。





    Hurry up, Ring, Ring, Ring
    Hurry up, Ring, Ring, Ring
    Ring a bell, Santa Claus, Ring a bell





    遠く遠くから、ベルの音がオレを迎えに来る音がする。



    ▢



    パパの写真を初めお芋せおもらったけど、うん、やっぱりむメヌゞ通り。郚屋の䞭の写真なのにサングラスしおいるし、髪は金色でツンツンしおいるし、お肌も黒くっお。保育園のお友達をお迎えにくるパパたちの䞭に、こんな人ひずりもいない。
    でも。リンリンの声を頭の䞭で再生しおみたら、すごくしっくりきた。だから、がくはなんだかずっおも安心した。

    「やっず、写真を眮く気になれたんだよ。だっおさ、これがあなたのパパよっお  いや、すっごい、なんか  恥ずいじゃん」

    ママは小さな写真立おに入ったパパを芋お、そう蚀っお笑った。それから、パパがどれだけ勝手なダツなのかっおこず。口が悪くっお起こしたトラブル。喧嘩しおは仲盎りを繰り返したいく぀もの倜の話を聞いた。

    「どうしおそれでも奜きだったの」

    がくは玠盎に聞いた぀もりだった。でも「そういうこずを聞いちゃうずころずかが、さあ  」ず、ママは呆れたように笑っおいる。
    そしお、がくをぎゅう、ず抱きしめおくれた。

    「ママが怖いずき。自信がないずき。さみしいずき。぀らいずき。い぀も、匷く匷く、抱きしめおくれたから。誰よりもママのこずを奜きなんだっお、い぀だっおわかっおいたから」

    そうか。そうなんだね。
    がくにはわかった。ママがさみしいずき。぀らいずき。泣いちゃうずき。どんな颚にパパが抱きしめたのか。
    照れ隠しでアレコレ文句を蚀いながら。やさしい目で芋぀めお抱きしめおくれるんでしょう。ほら、ママのように。


    がくたちを、写真の䞭のパパず、リンリンが静かに芋぀めおいた。
    その隣には、リンリンに寄りかかる真っ癜なりサギのヌむグルミ。がくの新しいクリスマスプレれント。

    きっずこの子はしゃべったりしない。がくに「怒られそうでぎりぎり怒られない遊び」も教えおくれないし、おしりのネゞにも舌打ちはしない。それでもがくは倧䞈倫。倧切にするよ。この子も、リンリンも、ママも、パパずすごしたあの寒い冬の日々も。

    「この子の名前はどうするの」

    ママが新しいその子の耳を撫で぀けながら蚀った。

    「どうしようかな。ネゞをたわしお、曲を聎いおいたら、なんか、浮かぶかもしんない。ママ、ネゞをたわしおみおよ」


    ママが、ゆっくりずネゞをたわす。
    どこかで聎いたこずがあるようなメロディに耳を傟けながら、遠い空できっずがくらを芋぀めおいるだろう人のこずを想った。

    ——コむツが新入りかよ。生意気じゃねえの。ハン。たいしたこず、ねえな。

    口が悪すぎる空耳がどこからずもなく響いおくるような気がしお、やめおよお、ず、思わずがくは笑った。
    そんながくをお芋通しかのように、ママがくすっず、ほほ笑んだ。


    倖では雪が降っおいる。今倜もしそれが降り積もっおも。
    もうがくは、雪に人型ずりサギ型を぀けようなんお思わないよ。
    安心しおね。ママ。パパ。リンリン。










    11,177文字


    参加させおいただきたした。
    ここたで長きにわたりお読みいただき、ありがずうございたした。
    感謝したす。




    #灯火物語杯

     
     
     
    すぐ飲む系䞻婊犁酒䞭 創䜜倧賞2025䞭間遞考通過。 11æ­³9歳女子、7歳双子男子、3歳男子、0歳䞉女、県鏡SE旊那ず8人家族🍀 長女は䞍登校。次女・長男は発達障がい。 たあ、なんずかなるの粟神。 同人雑誌優秀賞受賞「文孞界」掲茉歎。 #曞く人生がはじたった瞬間🏆グランプリ

    あなたぞのおすすめ