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越境するコミュニケーション──関係者が仲間に、仲間がチームになる

    「なんで、こんなに分かり合えないんだろう? 良かれとおもって関わってきただけなのに……」

    そう思いながら、今日も誰かと向き合っている人がいるかもしれません。

    話しているのに、伝わらない。良かれと思ってやっているのに、受け入れてもらえない。「分かり合えた」と思った瞬間、また新しいすれ違いが生まれる。その結果、理想に向かってひとつのチームになれない──。

    そのたびに、「自分のやり方が悪いのかな」「相手が頑固なだけじゃないのかな」と、どちらかのせいにしてみる。でも、それで何かが解決するわけでもなく、また同じことが繰り返される。

    もしあなたがいま、そんな状況の中にいるとしたら、この記事はあなたに向けて書いています。

    結論から言ってしまうと、うまくいかないのは、必ずしもあなたが悪いわけではありません。

    うまくいかないのは「境界」があるからです。境界を乗り越えるためには、その構造とプロセスを知る必要があるのではないかと、ボクは、これまでの経験の中から学んできました。これを知れば、あの「うまくいかない感覚」は、少し違って見えてくるはずです。

    この記事では、あらゆるビジネスシーンの中で、組織や一人ひとりの中にある「境界」(違い)を乗り越え、いままで「関係者」だった人たちが「仲間」になり、「チーム」として成果を出していく作法のお話。つまり「越境」のお話をしたいと思っています。

    「越境」とは?

    「越境」という言葉を聞いて、これをお読みのあなたは、「ピン」ときているかもしれませんし、「何それ?」と思っているかもしれません。

    そこで、まず「越境とは何か?」について、お話させてください。

    近年、ビジネス領域において「越境」という言葉が注目を集めています。ここでいう「越境」とは、自分が普段所属している組織や役職、業界といった境界(既存の枠組み)を越えて、異なる環境やコミュニティに一歩踏み出すことを指します。つまり、普段とは「異質」な環境に身を置くわけですね。

    とはいえ、「既存の枠組みを越える」なんていうと、大げさに聞こえるかもしれません。でも、安心してください。わたしたちは日常的に、この「越境」を経験しています。

    たとえば、わたしたちの身近にある「境界」には……

    • 若手のメンバーと1on1ミーティングを行う(立場・年齢の境界)

    • 情報システム部門の人が、製造部門といっしょにDXを推進する(部署の境界)

    • 初めて会う取引先に連絡を取る(会社の境界)

    • 年上のベテランに、新しいやり方を提案する(年齢・経験の境界)

    • 転職して、まったく違う文化の会社に入る(組織・文化の境界)

    このように、多少の差こそあれ「普段仕事をしている環境とは、違う人と関わる」というケースは、日常でよくあることだと思います。ひょっとしたら、あまり意識することはないけれど「自分とパートナー」「親と子」「彼氏と彼女」といった関係も、もっと身近な境界かもしれません。

    一方、相手との違いが大きくなればなるほど、関わるのが難しくなります。たとえば……

    • 部長に直談判する

    • 社長に新たな企画を持ち込む

    • 関連会社に不具合を伝える

    • 顧客に飛び込み営業に行く

    • まったく違う業界の人と関わる

    • 都市部の人が、地方の人と協働する(あるいは、その逆も)

    • 民間企業の人が、行政機関の人と仕事をする

    このような場合は、「こんな言い方をして大丈夫かな?」のように、ちょっと緊張しますよね。

    そして、おたがいの間にすれ違いが生じてしまうと……

    • 「部長はいつも聞く耳を持ってくれないから……」

    • 「社長は頭が固いから……」

    • 「下請けが生意気に……」

    • 「飛び込み営業なんてさせるなよ。無理に決まってるだろ……」

    • 「そもそも、立ち位置が違うから……」

    • 「これだから田舎は……」「これだから街の人は……」

    • 「行政は頭が固い……」「企業の論理とは違うんだよ。行政は……」

    のように、誰かや何かのせいにすることが、よくあると思います。もちろん、ボクもそうです。

    これらの「境界」を乗り越える、つまり、「越境」するためには、どうすればいいのでしょうか?

    ボクが日常的に行き来している「境界」

    ここで、少しだけボクの自己紹介をさせてください。

    ボクは、しごとのみらいというNPO法人を経営しながら、サイボウズというIT企業でも働いています。いわゆる「複業」というやつですね。新潟県妙高市という中山間地に住みながら、東京の会社とも関わる。そういう「地域をまたいだ働き方」を、2017年から経験してきました。

    サイボウスの複業採用で入社したのは、ボクがはじめての社員です。なので「複業のはしり」といってもいいかもしれません。過去には、テレビ東京のガイアの夜明け「どう働く?"人生100年"時代〜15周年企画 ニッポン転換のとき〜」にも取り上げていただきました。

    また、地域の中では、地元企業と、都市部ではたらくビジネスパーソンのみなさんとを接続し、地域課題を解決しながらリーダー層の人材育成を行う「越境学習」というプログラムの運営にも関わっています。

    さらに、しごとのみらいでは、世代間ギャップをはじめ、組織づくりやコミュニケーションに関する企業研修や講演に携わっているほか、地域の行政機関や民間事業者のみなさまといっしょに、地域課題を解決する「地域の人事部」という取り組み、IT系のメディアとタイアップして、難しいDXを推進している企業の取材などにも関わっています。

    ボクが日常的に行き来している「境界」はこんな感じです。

    • 都市と地方:東京の会社で働きながら、新潟の中山間地に住む

    • 大企業と小企業:大企業の研修を担当しながら、地域の中小企業にも関わる

    • 行政と民間:自治体の仕事と、民間企業の仕事を行き来する

    • ベテランと若手:世代や立場が異なる人同士の関係を良好にする

    • デジタルとアナログ:DXの現場を取材しながら、デジタル化が進まない現場の支援も行う

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    このような境界を日常的に行き来するうちに、気づいたことがあります。それは、「どの境界を越えるときも、大なり小なり、同じ問題が起きる」ということ。

    たとえば、立場が違えば、言葉が通じない。価値観が違えば、何を大切にしているかが見えない。そして、ほぼ必ず対立が生まれ「なんでうまくいかないんだろう」という場面がやってくる。普段過ごしている環境が違うのですから、当たり前と言えば、当たり前なのかもしれません。

    でも、何かしらの対立が生まれたとき、多くの場合「あの人は〇〇だから」のように、関わるのを諦めてしまうケースが多いと思います。

    しかし、ほかの人はあまり経験していないであろう、さまざまな「境界」を行ったり来たりしてきたからこそ、気づいたことがあります。それは「越境がうまくいくときは、ある共通のプロセスがある」ということです。

    ボクが経験してきた「越境4つの実体験」

    ここから先は、ボクが経験してきた4つの実体験から、「共通のプロセス」について探っていきます。これからお話する内容は、以下に分類できます。

    1. 外から中へ(支援・コンサル型)

    2. 中から中へ(内部変革型) 

    3. 中から外へ(受入・連携型)

    4. 外から外へ(越境共創型) 

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    ボクが実際に経験してきたこれらの実体験をお話したあとで、越境がうまく「共通のプロセス」についてお話します。

    では、4つの実体験について、一つずつお話していきましょう。

    ①外から中へ(支援・コンサル型)──NPO法人が一体になった瞬間

    ボクが地元、新潟県妙高市で関わっている、日本能率協会マネジメントセンターが主催している「ことこらぼ」での体験です。ことこらぼは、先行きが不透明な社会の中で、課題に立ち向かうリーダーを育成する越境学習のプログラムで、地域の事業者の課題を、都市部の企業で働く人たちとチームを組んで解決していく、約半年間の取り組みです。

    地域の事業者として、あるNPO法人と協働することになりました。法人の課題は「自律的な法人を運営していくためには、どうすればいいか」でした。

    NPO法人は、「特定非営利活動法人」という特性上、ボランティア団体が多くあります。しかし、法人を経営していくためには相応の経費が掛かります。そのため、自主財源を確保できる事業を行うことが大切になってきます。

    地域の事業者と企業からのプログラム参加者がはじめて対面したオンラインミーティングでは、おたがい期待感であふれていました。事業者は「都市部からサポートに来てくれる!」と期待し、参加者も「自分の経験を地域で活かせたら!」とワクワクしていました。「おたがい、いいプロジェクトにしましょう!」と。

    しばらくして、フィールドワークで現地を訪れました。参加者は、事業者が抱える「事業に関わってくれる地域住民は多いが、思いに差がある」「収益事業も行いたいが、さまざまな意見がある」といった切実な課題を耳にしました。

    すると、最初のワクワク感はどこへやら、次第に雰囲気が変わってきました。

    大手の企業では、明確な役割分担があり、意思決定のプロセスや権限が明確です。一方、NPO法人は意思決定の仕方も、お金の考え方も、関係者の巻き込み方も、何もかもが違う。「モヤモヤする」「何をすればいいのか分からない」──そんな言葉があふれました。

    また、対話を重ねる中で、最初に聞いていた「法人の自律的な運営」という課題の奥に、もっと根深い問題が見えてきました。それは、法人の経営方針や人間関係に関するものでした。つまり、いままで表には見えていなかった「真の問題」が表面化したのです。

    プログラムが中盤に差し迫ったある日、事業者の一人が、ポツリとこう言いました。

    「正直、ちょっとしんどいです。しばらく、プログラム離れてもいいでしょうか?」

    参加者からは「それって、どういうことですか?」と、混乱の声が聞こえてきました。事業者が離れてしまっては、プログラムが止まってしまいます。

    「この場をどうすればいいか?」──参加者同士、解決策を探ろうと対話を重ねました。

    すると議論は、「そもそも、この法人は何のために存在しているのか?」という問いに移行しました。そこで、理事長にたずねてみると、その想いを静かに語り始めました。法人を作ったときの「地域の中で、誰かの力になりたい」という気持ち。そしてそれは、いまも変わりないこと──。参加者は事業に対する理事長の「想い」と、その背景にある「目的や意味、価値」を共有したのです。

    その後、参加者は「関わっている方々が、どんな想いなのかを知ろう」と、NPO法人に関わっている会員の方々にヒアリングをしたり、法人が行っているイベントに参加したりしながら、さまざまな情報、体験を共有していきました。

    すると、参加者は「なるほど、そういうことか!」「その想いには共感できる!」「それなら、ボクたちにもできることがあるかもしれない」と、「自分たちに何ができるか?」を模索しはじめました。その結果「改めて、法人のビジョンを決めてはどうか?」という意見が出てきました。

    その後、法人のビジョンが言語化され「わたしたちは、このために存在しているんだよね」という想いが法人内で共有された結果、一体感が生まれました。ここで、当初予定の期間が終了し、プログラムは終了となりました。

    先日、久しぶりにそのNPO法人に伺いました。理事長から、こんな言葉がありました。

    「あの取り組みのおかげで、わたしたちは一体になれました。ありがとうございました」

    ②中から中へ(内部変革型)──物流企業が取り組んだDX

    取材で伺った、ある物流企業の話です。

    なお、この物語は、アイティメディア株式会社の連載「ITのチカラ」でボクが取材した、IT担当者不在の物流企業が、4年かけてたどり着いた「自走するDX」という記事から、引用・抜粋・編集したものです。原文は、ぜひリンク先の記事を読んでみてください。

    その会社では、社内の情報管理をExcelで行っていました。でも、いろんな人がそれぞれファイルをコピーし、それをまとめるために、また新しいExcelファイルをつくる……といった状況が繰り返され、「何が最新なのか分からない」という問題が慢性化していました。

    この問題を「何とかしたい」と、事業推進課のOさんは立ち上がりました。しかし、Oさんは特別ITに詳しいわけではありません。

    そんな折、Oさんは会社の上司から「最近は、ノーコードというやり方があるらしい」という話を聞きました。ノーコードとは、プログラミングの知識がなくても、自社の業務に合わせた情報システムが作れるクラウドサービスです。

    「ノーコードのサービスを使えば、現場に合った仕組みを自分たちで作れるかもしれない」──そう考えたOさんは、自走型の現場づくりを目指して動き始めました。

    でも、現実はそう簡単ではありませんでした。

    配送部門のデジタル化から始めようとしたものの、現場の担当者は外出が多い。忙しくてフィードバックをもらう時間もなかなか取れない。ITが苦手な人も多く、なかなか前に進まない。

    そこで、Oさんは、現場の業務プロセスを理解することから始めようと考えました。

    業務を洗い出していくと、紙による作業の多さや、属人化が多いことに驚きました。また、現場の担当者に、業務の目的や手順を確認したところ、「前からやっているから」「何に使う書類か分からないけれど、取りあえずやっている」など、部門をまたいだコミュニケーション不足や、業務のつながりへの意識の低さが想像以上に根深いことを感じました。

    また、最初はもの珍しさで触れてくれたノーコードツールも、すぐに停滞してしまいました。「以前のままでいいんじゃないか?」といった空気も、大きな壁だったそうです。

    仕方がないので、Oさんは「なぜいま、この取り組みが必要なのか」を現場の社員さんにていねいに伝えることからはじめました。また、現場に入り込んで、業務プロセスを一つひとつ確認していきました。さらに、デジタル化をテーマにした社内会議を月1回開催。各部署の困りごとを共有する場を作りました。

    このような対話を重ねていく中で、あるとき、現場からこんな言葉が出てきました。

    「こうしてあげると、あの部署も楽だよね」

    それまで、自分の部署しか見えておらず、自分たちの仕事に何の疑問も持っていなかった現場の方々が、部署を超えた視点を持ち始め、「こうすればもっと便利になる」という意見を持ち始めたのです。

    結果的に、会議も少しずつ活発になっていきました。

    「以前だったら誰も疑問に思わなかった自分たちの行動に、疑問を持つ人が増えてきた。これが一番大きい変化だと思っています」とOさんは言います。

    この状態になるまでに、4年の月日が経っていました。

    ③中から外へ(受入・連携型)──方向感が一致しなかったワーケーション

    2020年、コロナ禍のことです。

    ボクはその頃、妙高市でワーケーション事業の立ち上げに関わっていました。

    ワーケーションとは、「ワークとバケーションの組み合わせ」とし、テレワークを活用し、普段の職場や自宅とは異なるリゾート地や地方都市などで、余暇を楽しみながらリモートで業務を行う働き方とされています。ボクは、サイボウズの業務をテレワークで行っていたこともあり、この取り組みに関わることになりました。

    コロナ禍によって経済が停滞していたことから、国や行政機関は「新たな観光の形として、ワーケーションを推進する」とし、さまざまな支援策が出されました。そこで、ボクが関わっていた法人では、こうした支援策を使い、地域の事業者と旅行会社がタッグを組んだワーケーションプログラムをつくることになりました。

    「余暇を楽しみながらリモートで業務を行う」というワーケーションの捉え方に、個人的には「ワーケーションのような働き方ができる人は、どれだけいるのだろうか?」と、モヤモヤした気持ちを抱いていました。なぜなら、自身がテレワークを数年行っていた経験からしても、「余暇を楽しみながら仕事をする」というイメージがわかなかったからです。

    そこで、ボクたちは「企業研修型のワーケーション」を目指すことにしました。つまり、チームビルディングや合宿研修のようなイメージです。これなら、会社としても目的や意味が明確です。

    早速、プログラム開発がはじまりました。

    プログラム開発における国や行政の支援策は、「大手の旅行会社が指導社となり、地域の事業者といっしょになって開発すること」となっていました。そこで、旅行会社との打ち合わせがはじまりました。

    ところが、旅行会社との打ち合わせを重ねるうちに、ある違和感が積み重なってきました。

    「仕事の合間に温泉に入れますよ。気分転換になりますよね」 「せっかく地域に来るんだから、観光スポットも回りたいですよね」──ボクたちが実現したいことを幾度説明しても、旅行会社から出てくる言葉はこうした内容でした。

    もっとも、それも無理はなかったのかもしれません。ワーケーションという、いままで多くの人が経験のない商品の開発をするのですから。旅行会社の担当者さんも悪意はなかったでしょう。でも、こちらが目指しているのは「研修」です。打ち合わせのたびに、同じようなすれ違いが繰り返されました。

    意思疎通がうまくできず、最終的には「自分たちでやります」という判断になりました。

    おたがいの「目指すもの」が正確に共有されないまま、プログラム作りがはじまってしまった。途中で理想をすり合わせようとしても、修正ができなかった。このことが、失敗の原因だったと思っています。

    ④外から外へ(越境共創型)──理想の一致によって起きた地域連携

    いま、ボクはいくつかの地域のローカルプレーヤーたちと連携しながら仕事をしています。

    たとえば、地域で活躍するプレーヤーを育てる「ローカルプレーヤーズ」。行政・金融機関・民間が連携して地域の採用や教育・定着の問題を解決する「上越妙高 地域の人事部」。地方で働く若手のロールモデルをつくる「ルーキー・オブ・ザ・イヤー in Local」。地域の起業家を地域で応援する「地域クラウド交流会」などです。

    どれも、特定の誰かが「やれ」と言って始まったものではありません。「地域を何とかしたい」「ここで生きていく人たちの力になりたい」──そういう想いを持った人たちが立ち上げ、自然と集まってきた取り組みです。

    この中には、ボクが立ち上げたもの、誘っていただいたものなどそれぞれですが、これらの取り組みには共通点があるように思っています。

    まず、関わっている人たちそれぞれの「理想」と「想い」が最初から近いこと。だから、細かい利害関係よりも先に「いっしょにやろう!」という気持ちが生まれやすいなぁと思っています。

    また、誰かが「儲けるため」ではなく、時間やお金といったリソースをみんなで「持ち寄る」感覚がある。ミーティングの場でも「これ、うちでできますよ」「それなら、こっちが動きます」という言葉が自然に出てくる。

    事業を進める上では、もちろん利益を得ることも大切です。でも、利益先行だったら、このような関係性にはなっていないのではないかと思うんですよね。

    そして、面白いのが、関わっている人たちが「別の取り組みでも顔を合わせることが多い」ことです。

    ある取り組みで出会った人が、ほかの取り組みにも関わっていたり、あるイベントに参加すると、「あれ? 〇〇さん、ここでもお会いしましたね!」のように、意外な場所で再開したり。こうして、出会いがどんどん重なっていくのが「おもしろいな~」と思っています。

    偶然の再会が、新たな連携を生むこともあります。「実はいま、こんな取り組みもしていて……」という話から、次の仕事につながることもある。活動の幅が、自然と広がっていく。

    もちろん、大変なことはたくさんあります。でも、おたがいが横でつながり合い、協力し合えるから、不思議とうまくいく。おたがいの苦労がわかるから、自然と声を掛け合える。

    ここには、地域という「境界」が確かにあるのですが、その境を感じることがほとんどないのが不思議なところです。

    ビジネスやITの分野に「エコシステム」という言葉があります。これは、複数の企業や製品、サービスが連携して共存共栄し、ひとつの大きな経済圏や仕組みをつくり出している状態のことを指しますが、こうした、ローカルプレイヤー同士の連携は、「地域間のエコシステム」と言ってもいいかもしれません。

    なぜ、エコシステムがはたらくのか。それはおそらく、最初から「目的の根っこ」が近いからだと思っています。「そもそも何のためにやっているのか」という問いへの答えが、はじめから重なっている。だから「わかる!」が生まれるまでの道のりが、比較的短い。

    越境がうまくいくかどうかは、「目的をどれだけ共有できているか」にかかっているのかもしれません。

    こうしたコミュニティに関わっていればいるほど新たな関係性が生まれる。これは、地域で活躍するローカルプレイヤーのみなさんとの関わりから学んできました。

    越境「4つの分類」

    これまでお話してきた4つの実体験を一般化し、さまざまなケースに当てはめると「越境4つの分類」は次のような形になります。

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    再度掲載:越境4つの分類

    あなたも、こうした「越境」をどこかしらで経験したことはありませんか? 何かしらの「想い」がある人ほど、さまざまな越境を重ねてきているのではないでしょうか?

    ①外から中へ(支援・コンサル型)

    • 外部コンサルタントとして、クライアント企業の変革を支援する

    • 社外から招いた専門家として、社内プロジェクトに参加する

    • 新卒・中途採用で入社し、前職とまったく違う文化の組織に入る

    • 地域おこし協力隊として、地域に飛び込む

    • 企業から行政や非営利団体に出向する

    • フリーランスとして、異業種のクライアントと仕事をする

    「外から中へ」で起こる課題:正論を言っているつもりなのに、「現場を知らないくせに」と拒絶される

    ②中から中へ(内部変革型)

    • 情報システム部門が、製造・営業・総務など他部署のDXを推進する

    • 人事部門が、組織文化の変革を推進する

    • 新規事業担当者が、既存事業部門を巻き込もうとする

    • 若手社員が、上司や先輩を説得して新しい提案を通そうとする

    • 管理職が、現場のやり方を変えようとする

    • 資格など、社外で学んだことを、組織の中に取り入れたい

    • 社内の有志チームが、会社の慣習を変えようとする

    「中から中へ」で起こる課題:よかれと思ってやっているのに、「余計なことをするな」と周囲から煙たがられる

    ③中から外へ(受入・連携型) 

    • 自社に外部コンサルタントを迎え入れる

    • 行政機関が、民間企業との連携事業を受け持つ

    • 地域の事業者が、都市部からの移住者や協力隊を受け入れる

    • 発注側として、外部ベンダーやパートナー企業と協働する

    • 異業種との協業プロジェクトで、外部チームといっしょに仕事をする

    「中から外へ」で起こる課題:外部の人に振り回され、板挟みになり、疲弊していく。

    ④外から外へ(越境共創型)

    • 同業他社と業界団体を通じて連携する

    • 異業種の企業同士が、同じ目的のもと協働プロジェクトを立ち上げる

    • 複数の自治体が、広域連携で取り組む

    • 複数の地域が連携して、観光や産業振興に取り組む

    「外から外へ」で起こる課題:理想は共有できても、現場ではなぜかうまくいかない。

    さまざまな「越境」の中で気づいたこと──越境6つのフェーズ

    ここまで、4つの実体験と、越境4つの分類をご覧いただきました。

    「外から中へ」「中から中へ」「中から外へ」「外から外へ」──今回は4つの実体験のみのご紹介でしたが、これ以外にも、ここには書けないぐらい悔しい思いをした経験(笑)もありますし、逆に、言葉に言い表せないぐらいのうれしさと、感謝の気持ちを抱いた経験もあります。

    これらの体験を振り返ってみたとき、それぞれがまったく関係のないように見える出来事の中に「共通のパターン」があることに気が付きました。

    越境には、6つのフェーズがある。

    ボクはそう思っています。では、お話しますね。

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    Phase 1:期待

    多様な人が集い、おたがいへの期待が高まるフェーズです。

    「いいプロジェクトにしましょう!」「ワクワクしますね」──そんな言葉が自然に飛び交う、あの感じ。関わり始める前の、期待だけがある状態です。

    Phase 2:混乱

    価値観や成功体験が異なる人が集うため、混乱が生じるフェーズです。

    「イメージしていたのと違う」「何をすればいいのか分からなくなってきました」「モヤモヤしています」といった言葉が聞こえてきます。これまでの成功体験では理解できない事情に直面して、「何を言っているのかよく分からない」という状態です。ときには、まるで修羅場のようになる場合もあります。

    この状態はとてもつらいので、多くの場合、ここで関わりを終わらせてしまいます。「あの人とは分かり合えない」と言って。

    Phase 3:理解の試行

    混乱の中で、なんとか相手を理解しようとおたがいが対話を試みるフェーズです。

    対話を試みる際に必要なのは、「〇〇の場合はどうですか?」「なぜそうなっているんですか?」──といった、相手を理解するための、さまざまな角度からの質問です。

    ただし、問いが発散しがちで、ますます混乱することもあります。「聞けば聞くほど、分からなくなってきた」という感覚。これも、このフェーズでよく起きます。

    Phase 4:統合・相互理解

    本質的な問いが生まれ、おたがいが理解し合うフェーズです。

    「そもそも、何のためにこれをしているのですか?」「もっとも大切にしていることは何ですか?」──といった、相手が大切にしている目的や意味、価値が言語化されるような問いが始まります。

    その結果、抽象度が高い理想や想いに、おたがいが共感する。おたがいが思い込んでいた「自分の常識」が壊れて、相手のことが「わかる!」という瞬間が訪れる。そして、一体感が生まれる。

    これが、越境の大きな山場です。ここに辿り着いたとき、何かが変わります。めちゃくちゃうれしい瞬間です。

    Phase 5:小さな実装・行動

    「限られた中で、いまできることは何か」を考え始めます。目的が一致しているから、大変な中にも楽しさがある。「まずできることから」という意識が、一体感をさらに強めていきます。

    実装する上で大切なポイントは、「いますぐにでもできそうな、小さなこと」をとりあえずやってみて、形にすること。

    Phase 6:次のフェーズへ

    ひとつのサイクルが終わり、次のステージへ。越境のプロセスは一度で終わらず、繰り返されながら深まっていきます。うまくいったプロジェクトは、ここから自走し始めます。

    「越境4つの物語」は、6つのフェーズに当てはまっていた

    実は、先ほどご紹介した4つの物語は、この6つのフェーズに当てはめて説明できます。

    「ほんとうに?」と思いますよね。でも、4つの実体験を振り返ってみると、それぞれのフェーズが、こんな形で当てはまっていました。

    ①外から中へ(NPO法人が一体になった瞬間)

    • Phase 1:「いいプロジェクトにしましょう!」という期待に満ちた顔合わせ

    • Phase 2:「自分の会社では起き得ないような事情」に戸惑い、「モヤモヤする」という言葉が増えた

    • Phase 3:「この場をどうすればいいか?」という対話を重ねた

    • Phase 4:「そもそも、この法人は何のために存在しているのか?」という問いが生まれ、理事長が想いを語り「わかる!」が生まれた

    • Phase 5:「法人のビジョンを決めよう」という小さな実装へ

    • Phase 6:「あの取り組みのおかげで、わたしたちは一体になれました」という自走へ

    ②中から中へ(物流企業が取り組んだDX)

    • Phase 1:「ノーコードを使えば自分たちで作れるかもしれない」という期待

    • Phase 2:「以前のままでいいんじゃないか?」という停滞と混乱

    • Phase 3:現場に入り込み、業務プロセスを一つひとつ確認する対話。月1回の社内会議で困りごとを共有

    • Phase 4:「こうしてあげると、あの部署も楽だよね」という部署を超えた視点が生まれた瞬間

    • Phase 5:各部署で小さな成功体験を積み重ねる

    • Phase 6:「自走するDX」へ。物流業界全体の支援を目指す新事業へ

    ③中から外へ(方向感が一致しなかったワーケーション)

    • Phase 1:国の支援策を活用した、「企業研修型ワーケーション」への期待

    • Phase 2:「温泉に入れますよ」「観光スポットも回りたいですよね」──旅行会社とのすれ違いが繰り返された

    • Phase 3:「研修として企業に来てもらうなら……」と説明を試みるが、かみ合わない

    • Phase 4:到達できなかった。 おたがいの「目指すもの」が最後まで共有されなかった

    • Phase 5ポ6:自分たちだけでやることになり、連携は終了した

    ④外から外へ(理想の一致によって起きた地域連携)

    • Phase 1:「地域を何とかしたい」という想いを持った人たちが自然と集まった

    • Phase 2:混乱の度合いが小さい。なぜなら、最初から「目的の根っこ」が近いから

    • Phase 3:「これ、うちでできますよ」「それなら、こっちが動きます」という対話が自然に生まれた

    • Phase 4:「わかる!」が比較的早く生まれた。エコシステムが機能している

    • Phase 5ポ6:偶然の再会が連携を生み、活動の幅が自然と広がっていく

    どうでしょうか?

    4つの物語が、それぞれ6つのフェーズに当てはまっていることが分かるかと思います。

    そして、うまくいかなかった③のワーケーション事業では、Phase 4に到達できていなかった。

    越境がうまくいくかどうかの分岐点は、Phase 4に到達できるかどうかにある。

    ボクはそう思っています。

    越境を進めるために──対話とスキル

    6つのフェーズを見てみると、次のようなことが言えそうです。

    • Phase 2「混乱」は、失敗ではなく、おたがいが理解しあうための必要なプロセスであること。

    • 越境がうまくいくかどうかは、Phase 4「統合・相互理解」に到達できるかどうかにかかっていること。

    言い換えると、関係者間の境界(違い)が高ければ高いほど、Phase 2「混乱」は必ず起きます。そのため、「これは、変化のために必要なプロセスなのだ」とポジティブにとらえてよいこと。言い換えると、すれ違いや混乱が起こることを前提としておき、仮に、すぐに解決しなくても「前に進んでよい」ということです。

    「混乱」を乗り越えるためには、おたがいが相手を理解しようとする「ていねいな対話」と、相手の真意を引き出せるような「問い」が欠かせません。

    ただ、一言で「対話をしよう」「質問をしよう」といっても、なかなか難しいですよね。「どう聞けばいいのか分からない」「質問したらしたで、話が広がりすぎて収拾がつかなくなった」──そういった経験をしている人も多いのではないでしょうか。

    そこで、各フェーズを乗り越えるための、ポイントについて、簡単にお話します。

    「Phase 2:混乱」で大切なポイント

    「Phase 2:混乱」で大切なポイントは、「自分の成功体験や思いついた解決策を一旦脇に置く」こと。そして、「とにかく相手の話に耳を傾ける」ことです。

    さまざまな「モヤモヤ」は、関係者がこれまでそれぞれが経験してきた「価値観のギャップ」によって生じています。そこで、自分の成功体験や当たり前、思いついた解決策を一旦脇に置いて、事実を具体的に確認するような質問をしながら、とにかく相手の話に耳を傾けます。

    「Phase 3:理解の試行」で大切なポイント

    相手の状況を理解するために、多面的な質問も重要です。しかし、「Phase 3:理解の試行」で大切なポイントは、「そもそも、何のためにこれをしているのですか?」「もっとも大切にしていることは何ですか?」──といった、相手が大切にしている目的や意味、価値が言語化されるような、「抽象度が高い問い」をしながら対話をすることです。

    場の混乱は、目的や意味があいまいな場合や、課題がたくさんあり過ぎて「何をすればいいのか分からない」といった場合に起きがちです。そこで、チームの意識を一体にするためにも、「そもそも、何のために」といった、目的や意味が明確になるような問いが有効です。

    こうした対話が、Phase 4への扉を開きます。

    コミュニケーションは「スキル」

    今回のお話は、多様な価値観を持つ関係者が仲間になり、チームを創って仕事をしていく「作法」のお話でした。

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    この作法を、具体的に実装していくためには、コミュニケーションの「技法」が必要になります。

    コミュニケーション技法には、傾聴、質問、リフレーミング(意味づけを変える)、分かりやすい伝え方、そして、物事を具体的にする具象化と本質に迫る抽象化、問題を正しく理解するための事実と解釈の分離、意見を発散・収束させるファシリテーション方など、さまざまなものがあります。

    本来なら、ここで一つひとつご紹介できればいいのですが、文字数の関係で、今回はここまでとします。機会があれば、越境するコミュニケーションの具体的な技法についても、あらためてお伝えしたいと思っています。

    なお、ここで、これだけはお伝えしておきたいと思います。

    それは、これらのコミュニケーション技法は「スキル」だということ。

    ここでいう「スキル」とは、先天的な才能ではなく、学ぶことで、後から身に着けられる能力であるということです。

    というのも、ボクはもともとコミュニケーションが得意ではありませんでした。人見知りですし、積極的に話しかけるのも苦手です。人と仲良くなるコミュニケーション能力はそれほどありません。

    ですが、異なる価値観の人たちとプロジェクトを進めていく「仕事に必要なスキル」は、学ぶにつれて、少しずつですができるようになってきました。

    「学ぶことで、後から身に着けることができる」──これは救いだと思っています。

    それでも、歩み続ける

    何かを変えようとする人ほど、さまざまな「境界」にぶち当たりますよね。

    外から中へ、中から中へ、中から外へ、外から外へ──どの立場であっても、「境界」を越えようとする人ほど、周囲から理解されず、批判され、うまくいかないことに悩む。

    「そんなことやったって無駄だよ」 「前例がないから無理だ」 「余計なことをするな」

    そんな言葉に、悔しい思いをしたことは、きっとあなたにもあるでしょう。ボクにも何度もありました。

    それは、本当に悔しいし、苦しい。

    混乱の中にいるなら、それはPhase 2です。いままでなら、ここで諦めてしまっていたけれど、ここまでお読みいただいたいまなら「それは、必要なプロセスである」ということが分かります。自分の状況を客観的に見て、「これは、必要なプロセスなんだ」と分かれば、もう少しがんばることができるかもしれませんよね。

    「話が通じない」と感じているなら、Phase 3の入口に立っているのかもしれません。もう少し、対話を続けてみてほしい。

    「わかる!」は、その先にあります。

    なぜ、そう言い切れるのか?

    それは──繰り返しになりますが──さまざまなビジネスの現場や越境学習の現場、DXの現場、地域での現場を経験してきて、「結局、みんなコレなんだよな」と実感しているからです。

    境界の間で、それを乗り越えるのは本当に大変ですよね。ボクもそうです。何度もくじけそうになりました。なんなら、この瞬間も、くじけそうになっていることがあります。

    それでも、「これは課題だ!」と気づいてしまったから。「これは実現したい!」と理想を描いてしまったから。そう思ってしまった火を、途中で消すわけにはいかない。

    いや、「火を消したい」と思ったことは何度もあります。「やっぱり、やめておけばよかった」と、何度も思った。だけど、それを消すことはできなかった。なぜなら、それは、理想を描いてしまったボクたちにとって、仕事をする意味、生きる意味に他ならないからです。

    最後に、越境の現場で悩み、もがき、それでも理想を手放せずにいるあなたへ。

    一人ひとりのチカラは限られます。でも、誰かといっしょなら、いままでとは違う景色を見ることができるかもしれません。いままで「関係者」だった人たちが、同じ理想を描いた「仲間」になる。そして「チーム」になる。一人では叶えられないことを実現するのが、チームなのだと思います。

    とはいえ、目の前にはさまざまな境界がたくさんありますよね。その境界を乗り越える、楽しく仕事をするためにも、これからももがき続けましょう! ボクももがき続けます。

     
     
    NPO法人しごとのみらい×サイボウズ。組織づくりの企業研修や講演、マーケティング、地域活性化の仕事をしています。

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