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【Olivia Rodrigo考察 #13】expectations|彼女は成長したのか、期待が大きくなっただけなのか

    To Olivia Rodrigo fans around the world:

    She says she’s secure. She says she’s evolved. So why does she have to keep repeating it?

    In “expectations,” post-breakup freedom becomes a sharp, funny dance-floor performance.


    アルバム前半の[girl so in love]セクションでは、1曲目“drop dead”で始まった恋が、3曲目“honeybee”で親密な幸福を見せ、5曲目“u + me = <3”で性急に盛り上がりました。
    しかし7曲目“purple”では、その親密さが依存と悲しみに変わり始めます。

    アルバム後半の[you seem pretty sad]セクションに入ると、8曲目“the cure”で恋が治療法ではなかったと悟り、9曲“begged”から11曲目“less”にかけて不安と違和感を深め、ついに別れを迎えました。

    12曲目となるこの曲では、その悲痛さから一転し、彼女は新しい恋愛基準を掲げてダンスフロアへ飛び出します。
    しかし、その力強い自己宣言には、まだ失恋から回復しきれていない人の自己暗示も混じっているように聴こえます。

    この記事では、歌詞とサウンドから、その怒りの裏側にある感情を読み解きます。
    長い記事ですので、気になる章だけ拾い読みしたり、ブックマークして何回かに分けたりしながらお楽しみください。

    概要

    Oliviaによると、この曲と「my way」は、先に作られたトラックに合わせて歌詞とメロディーを書く“writing to track”という方法で制作されました。
    通常の「ギターでVerseとChorusを書いてからアレンジする」方法とは異なり、本人にとって新しい実験だったそうです。
    The Needle Dropインタビュー

    Oliviaはこの曲を、別れたあとに「解放された、バーへ遊びに行こう」と感じる瞬間として説明しています。
    ただし次曲「cigarette smoke」には怒りや未練が残っており、「expectations」が完全な回復地点ではないことも示唆しています
    。The Needle Dropインタビュー

    Oliviaがこの曲で想定していたのは、LAやニューヨークで出会った、裕福な親を持ち、自称プロデューサー、DJ、クリエイティブ・ディレクターなどを名乗りながら、ほとんど働いていない男性だそうです。
    職種そのものではなく、実際に働いているかどうかが問題だと説明しています。
    The Needle Dropインタビュー

    テーマ

    この曲のテーマは「成長と自己暗示の境界」というのが僕の解釈です。

    彼女は過去の失敗から学び、選ばれる側から選ぶ側へと変わりました。
    しかし、その基準は頭で考えた条件に偏り、今度はまだ存在しない理想の男性と、彼に溺愛される未来を思い描きます。

    彼女は理想化をやめたのではなく、その対象を「過去の恋人」から「未来の恋愛」へ移しただけなのかもしれません。

    歌詞解説

    Verse 1:完璧な彼を作ったのは私

    I met him at a party, I think he was on drugs
    パーティーで彼に出会った たぶん彼はドラッグをやっていた

    「パーティー」と「ドラッグ」の組み合わせは、この出会いが落ち着いた日常ではなく、判断力の鈍った非日常から始まったことを暗示します。

    He wasn't smart or funny, I convinced myself he was
    彼は賢くも面白くもなかったのに、私はそうだと自分に思い込ませた

    「パーティー」という非日常での高揚から、彼女は自身に「彼は賢くて面白い」と思い込ませています。
    また、"smart or funny"は、恋人を褒めるときのかなり基本的な形容です。それすら否定されるため、言葉には容赦のないユーモアもあります。ただし、その辛辣さは彼だけでなく、そんな彼を魅力的だと思った自分自身にも向けられています。

    He had a great apartment and a car his parents bought
    彼は素敵な部屋と、両親に買ってもらった車を持っていた

    ここでは、彼女が彼に惹かれた理由らしきものが提示されます。しかし挙げられるのは、知性や人柄ではなく、“apartment”と“car”という物質的なステータスです。
    ただし、車は両親から与えられたものです。したがって、このラインは、「一見すると自立した魅力的な男性/実際には親の援助でそう見えていただけの男性」という落差を作っています。

    I thought that he was perfect, and now his number's blocked
    彼は完璧だと思っていた でも今では彼の番号をブロックしている

    このラインでは、“perfect”と“blocked”が強烈に対比されています。
    「彼は完璧」と自分に思い込ませておきながら、その結果としての対応は極めて事務的です。

    Verse 1

    Verse 1は、恋愛対象に求める基準が低かった過去を、彼女が辛辣なユーモアとともに振り返る場面です。

    彼女は彼の危険信号(ドラッグ、親にもらった車など)を見落としただけではありません。
    彼に足りない魅力を自分の想像で補い、物質的な条件を人物そのものの価値と取り違え、「完璧」という虚像を作り上げました。
    しかし現在、その幻想は完全に崩れ、彼は連絡先を遮断される存在になっています。

    このVerseは、「ダメな男の描写」ではなく、「私は彼に騙されたのではなく、彼を理想化することで自分自身を騙していた」ことを語っているのだと思います。

    Pre-Chorus:「私は成長した」という自己暗示

    Took a couple months (Took a couple months)
    数か月かかった(数か月かかった)

    前のVerseからの流れで言うと、「彼との関係から立ち直るまで数か月かかった」という意味だと思います。前のVerseでは彼をかなり辛辣に否定していたため、「それほど魅力のない相手だったのに、立ち直るには数か月もかかった」という皮肉も生まれています。
    またもう一つの解釈として、アルバム内での流れで言うと、前の恋から立ち直って今回の出会いに至るまでに数か月かかったという可能性もあります。

    But now I am secure (Now I am secure)
    でも今の私はもう安定している(今の私はもう安定している)
    I am so evolved (I am so evolved)
    私はこんなにも成長した(私はこんなにも成長した)

    “secure”には、単に「安定している」だけでなく、「精神的に安定している」「自分に自信がある」「恋愛で不安を感じていない」「自分の価値や望むものを理解している」といった複数のニュアンスがあります。Verse 1では、相手に実際にはない魅力を作り上げなければ、関係を正当化できませんでした。それに対して現在の彼女は、成長し、自分の判断や要求に自信を持てるようになったと宣言しています。

    Now I ask for more and more and more and more and more
    今ではもっと、もっと、もっと、もっと、もっと多くを求める

    以前は、知性もユーモアもない相手を「完璧」だと思い込んでいました。しかし成長し安定した今では、自分の望みを小さくせず、恋愛対象に「もっと」を求められるようになったのだと思います。
    また別な読み方として、Verse 1での失敗の反動によって、今度は要求が際限なく膨らんでいる、という見方もできます。

    Pre-Chorus

    このPre-Chorusは、自己成長を宣言すると同時に、その宣言を少し笑いに変えています。

    彼女はVerse 1の出会いを通じて、自分は成長し、より良い相手を求める権利があると学びました。
    しかし、繰り返し歌われる「安定している」「成長した」と、バックコーラスで5回続く“more”によって、どこか自己演出的に聴こえます。

    ここで描かれているのは単純な「成長した女性」ではなく、「低すぎた期待値を引き上げた結果、今度はどこまで高くすればよいのか分からなくなりつつある女性」のようにも見えます。

    過去には相手の欠点を埋めるために自分を説得し、現在は自分の成長を証明するために“more”を重ねる。
    その自信と危うさが同居している点が面白いと思います。

    Chorus:選ばれる側から、選ぶ側へ

    I won't settle for a guy with a fake job
    見せかけの仕事をしている男で妥協はしない

    “fake job”が具体的に何を指すのかは明言されていません。様々な解釈ができますが、Verse 1の経験を踏まえると、「社会的には自立しているように見えるけれど、実際には中身が伴っていない男性像」なのだと思います。

    They seem so desperate for loving, but, baby, I'm not
    彼らは愛を求めるのに必死みたいだけど、ベイビー、私は違う

    前のラインでは単数の“a guy”だった対象が、ここでは複数の“They”へ広がります。一人の相手の問題が、彼女の周囲にいる男性たち全体の傾向として一般化されています。
    “but, baby, I'm not”には、余裕を演出する挑発的な口調を感じます。Pre-Chorusでは、"more and more and …"と歌われていたので、本当に余裕があるのか、それとも必死ではない自分を演じているのかは曖昧です。

    Gave my heart with zero stipulations
    何の条件もつけずに心を差し出していた

    “no stipulations”ではなく“zero stipulations”と数量化することで、彼女が以前は条件をまったく設けていなかったことが強調されています。同時に、恋愛を採点や契約のように扱い始めた印象を受けます。
    直接関連はないと思いますが、"u + me = <3"で "heart"を数式として扱っていたことも思い出されます。

    Now I take careful consideration
    今は慎重に考える

    前のラインの“heart”から、恋愛の主導権が「頭」へ移ったとも捉えられます。前のラインの"stipulations"とこのラインの"careful consideration"を併せると、男性との付き合いが、まるで採用審査のようにも聴こえます。

    I'm not kissing any boy that is passive
    受け身な男の子とは、誰ともキスしない
    Their indecision is painfully unattractive
    彼らの優柔不断さは、痛々しいほど魅力がない

    “passive”には、いくつかの意味が重なります。「自分から行動しない」「愛情や意思を示さない」「関係の決断を相手任せにする」「感情的な責任を引き受けない」などです。つまり、彼女が求めているのは単に積極的にキスをしてくれる男性ではなく、恋愛において明確な意志を示す人物です。
    “guy”から“boy”へ呼び方が変わっている点も興味深いです。受け身で決断できない相手を“man”ではなく“boy”と呼ぶことで、その未熟さを暗に示しているように思います。

    Past mistakes are just new information
    過去の失敗は、ただの新しい情報

    Verse 1のような過去の失敗を、後悔や傷ではなく、次の相手を選ぶための“information”へ変えたということだと思います。“stipulations”を設け、“careful consideration”によって相手を審査し、失敗を判断材料として蓄積する。彼女は恋愛を頭で管理する方法を身につけましたが、情報が増えれば理想の相手を選べるとは限りません。

    These days, I've got expectations
    今の私には、相手への期待がある

    “I’ve got expectations”という表現には、“expectations”を新たに所有したという感覚もあります。となると、“expectations”はただの「期待」だけではなく、恋愛相手に求める明確な基準や条件を獲得した、という意味も重なって聴こえます。ここまで歌われてきた、「実態のある仕事をしている」「愛に飢えて必死になっていない」「自分から行動する」「意思を明確に示す」「恋愛の責任を引き受ける」などです。

    Chorus

    Chorusでは、Pre-Chorusで語られた「成長」の具体的な中身が示されます。
    相手にない魅力を自分で補っていたVerse 1とは違い、今度は彼女が条件を設け、男性を選ぶ側へ回ります。
    この主導権の逆転も、彼女の言う成長なのでしょう。

    ただし、そこに並ぶのは仕事、積極性、決断力といった相手を選別する条件です。
    「その人と何を分かち合いたいのか」「自分は相手をどう愛したいのか」という相互的な条件は、まだほとんど見えません。
    だからこそ「私は安定した」「成長した」という宣言も、自分自身を納得させようとする言葉に聴こえます。

    Verse 2:開いた心と、期待できないバー

    So I hit the new year like a single girl at a Vegas bar
    だから私は、ラスベガスのバーにいる独身女性のような勢いで新年を迎えた

    “like a single girl at a Vegas bar”は、自由、開放感、派手な夜遊びを凝縮した比喩だと思われます。あとのラインで出てくるように、実際にいるのはシルバーレイクのバーです。
    “new year”は暦の変化であると同時に、過去の恋愛を終えた「新しい自分」の始まりを示していると思います。

    Rocking my mini dress with a vodka cran' and an open heart
    ミニドレスを着こなし、ウォッカ・クランベリーを手に、心を開いて

    “rocking”は自信を持って着こなしているという意味です。ミニドレスとカクテルが外見的な開放感を、“open heart”が内面的な開放を表しているように思います。
    また、前のラインの"bar"とこのラインの"heart"が韻踏み、華やかな夜の情景の開放感が感じられます。

    Yeah, I've got hope, yeah, I've got drive, I will not lose my faith
    そう、私には希望も意欲もある 信じる心は失わない

    「希望」「意欲」「信じる」と、前向きな抽象語が三つ並びます。また、“Yeah, I’ve got”の反復には、力強い自己肯定と同時に、自分に言い聞かせているようにも聴こえます。

    Don't think my future husband's at this bar in Silver Lake
    私の未来の夫が、このシルバーレイクのバーにいるとは思わないけど

    直前の“faith”を、すぐに現実的な疑いが打ち消します。
    前には「ラスベガスのバーにいるような」とありましたが、現実はシルバーレイクです。同じように「信じる心は失わない」と歌いながら、現実にはこのバーにいる男性たちには期待していません。

    Verse 2

    彼女は、このバーに未来の夫はいないと思いながら、心を開いてバーにいます。
    その矛盾からは、彼女が「高い期待を持つこと」と「実際に誰かを愛すること」の間で、まだ新しい距離感を探している様子が感じられます。

    Pre-Chorus:調達される理想の恋人

    But in a couple months (In a couple months)
    でも数か月もすれば(数か月もすれば)

    1回目のPre-Chorusの、「数か月かかった」が反転しています。
    彼女は失恋だけでなく、次の出会いまで数か月単位で管理できるかのように語っています。実際には恋人がいつ現れるか分からないため、その確信には自己暗示とコミカルな誇張が含まれています。

    A man will be procured (This man will be procured)
    男がひとり調達される(その男が調達される)

    恋愛対象が、まるで商品や資材のように表現されています。
    Chorusでは恋愛が契約や審査として語られていましたが、ここではさらに「条件を満たす男性を調達する」という採用・購買のような発想へ進んでいます。
    また、“will be procured”は受動態です。誰が彼を調達するのかは示されず、条件に合った男性が自動的に彼女の前へ用意されるように響きます。彼女は選ぶ側になったはずですが、実際の出会いに必要な過程はすべて省かれています。
    そして、バックボーカルでは“A man”が“This man”に変わります。反復するうちに、想像上の恋人が現実味を帯びていく仕掛けです。自分に言い聞かせることで、まだ見ぬ男性を言葉の中に出現させているようにも聴こえます。
    なお、歌詞は“a man will be procured”ですが、歌唱では“a man will be the cure”にも近く聴こえます。もしそこに意図的な響きの重なりがあるなら、8曲目“the cure”で否定された「恋愛が自分を治してくれる」という幻想が、ここで再び顔を出しているとも考えられます。ただし、これは歌詞そのものではなく、あくまで音から生まれる連想です。

    He will be evolved (He will be evolved)
    彼は進化した男性になっている(彼は進化した男性になっている)

    1回目の「私は進化した」が、「彼は進化した男性」へ変化しています。自分が進化したのだから、次の恋人にも同じ成熟度を求めるということでしょう。受け身で優柔不断だった男性たちとは違い、精神的に成熟し、自立した男性を想定しています。
    ただし、“will be evolved”という受動的な言い方には、人為的に設計・改良された存在のような奇妙さもあります。“procured”と並ぶことで、理想の男性が条件に合わせて製造され、納品される商品のように聞こえます。
    ここでも彼女は、具体的な性格や心のつながりではなく、“evolved”という抽象的な評価語で相手を規定しています。

    And I will be adored, adored, adored, adored, adored
    そして私は溺愛される、溺愛される、溺愛される、溺愛される、溺愛される

    1回目の“more”の5回反復に、“adored”の5回反復が対応しています。彼女が求めていた“more”の正体は、相手から徹底的に愛されることだったと分かります。欲求の反復が、そのまま愛情の反復へ置き換えられているのです。
    ただし、彼女は、理想の関係を「自分が愛されること」からのみ描いています。ここにも、彼女が得た基準には「私は相手をどう愛したいのか」という心の条件が欠けていることが表れています。
    また、通常なら“adored”を一度言えば意味は十分です。それを5回繰り返すことで、満たされたい欲求の大きさが露出します。「私は必死ではない」というChorusの宣言とは裏腹に、彼女自身も強く愛を求めているのかもしれません。

    Pre-Chorus

    彼女は、数か月以内に成熟した男性が現れ、自分を溺愛してくれると宣言します。
    しかし“procured”という事務的な言葉や、“adored”の過剰な反復によって、その未来像は意図的に不自然でコミカルに描かれています。

    彼女は期待を持つことで、ダメな相手を選ばない方法を学びました。
    一方で、条件を満たす男性が自動的に現れ、自分を一方的に愛してくれるという期待には、現実の相互関係が欠けています。

    このパートは、彼女の成長を肯定するだけでなく、その「期待」が理想化された新しい幻想になり始めていることも示しているのだと思います。

    Chorus:新しい基準、新しい幻想

    I won't settle for a guy with a fake job
    見せかけの仕事をしている男で妥協はしない
    They seem so desperate for loving, but, baby, I'm not
    彼らは愛を求めるのに必死みたいだけど、ベイビー、私は違う

    Gave my heart with zero stipulations
    何の条件もつけずに心を差し出していた
    Now I take careful consideration
    今は慎重に考える

    I'm not kissing any boy that is passive
    受け身な男の子とは、誰ともキスしない
    Their indecision is painfully unattractive
    彼らの優柔不断さは、痛々しいほど魅力がない

    Past mistakes are just new information
    過去の失敗は、ただの新しい情報
    These days, I've got expectations
    今の私には、相手への期待がある

    Chorus

    1回目のChorusでは、これらの条件は過去から学んだ「成長」として響きました。
    しかし、成熟した男性に溺愛される未来を思い描いたあとでは、同じ言葉が少し違って聴こえます。
    彼女は目の前の男性を理想化することをやめた一方、今度は条件を満たす未来の恋愛を理想化し始めているのかもしれません。

    Bridge:膨張する“big expectations”

    I've got big expectations
    私には大きな期待がある

    以前の彼女には恋愛対象を選ぶ基準がありませんでしたが、今では“expectations”を獲得しています。ただし、“big”はその基準が単に明確になったのではなく、大きく膨らんでいることを示します。健全な自己尊重と、過剰な理想の境界が曖昧になり始めています。

    I've got real big expectations
    私には本当に大きな期待がある

    ここでは“real big”という単純で稚拙なほど率直な表現が使われています。慎重な判断や自己成長という理屈を取り除けば、彼女の中に残るのは、「とにかく、とても大きな愛が欲しい」という素朴な欲求なのかもしれません。
    “big”に“real”を付け、さらにその一節自体を繰り返すことで、期待は言葉の上でも際限なく増幅していきます。

    I've got big expectations
    私には大きな期待がある
    I've got real big expectations
    私には本当に大きな期待がある

    She's got big expectations
    彼女には大きな期待がある
    She's got real big expectations
    彼女には本当に大きな期待がある

    後半では、主語が“I”から“She”へ変わり、男性バック・コーラスにより歌われます。この変化には、いくつかの読み方ができます。「周囲の人々が彼女の高すぎる基準を噂している」「彼女自身が自分を第三者のように眺めている」「『期待を持つ女性』というキャラクターが独り歩きしている」などです。
    ここでは男性が歌うことから、「周囲の人々が彼女の高すぎる基準を噂している」という印象が強いように感じます。

    She's got big expectations
    彼女には大きな期待がある
    She's got real big expectations
    彼女には本当に大きな期待がある

    Bridge

    このBridgeでは、期待の具体的な「内容」が消え、その「大きさ」と「見られ方」だけが強調されていきます。

    “big”に“real”を足し、同じ言葉を繰り返すたびに、彼女の期待は言葉の上でも膨張します。
    この反復は、二つのPre-Chorusとも対応しています。

    Pre-Chorus 1:more ×5
    Pre-Chorus 2:adored ×5
    Bridge:big expectations ×8

    最初に求めていた“more”は、やがて“adored”という「溺愛されたい」という願いになり、最後には“big expectations”へ膨らみます。
    「安定した」「成長した」と宣言しながら、曲が進むほど欲求が大きくなっていく構造です。

    また、後半では主語が“I”から“She”へ変わります。
    しかし男性バックコーラスによる“She’s got expectations”には、「あの子は期待が大きい」と、彼女を外側から評するような距離が生まれます。
    自分では成長の証だと思っている基準が、周囲からは過剰な理想主義に見えているのかもしれません。

    Chorus:「私は違う」と繰り返す彼女

    I won't settle for a guy with a fake job
    見せかけの仕事をしている男で妥協はしない
    They seem so desperate for loving, but, baby, I'm not (Baby, I'm not)
    彼らは愛を求めるのに必死みたいだけど、ベイビー、私は違う(ベイビー、私は違う)

    Gave my heart with zero stipulations
    何の条件もつけずに心を差し出していた
    Now I take careful consideration (I take, I take)
    今は慎重に考える(考える、考える)

    I'm not kissing any boy that is passive
    受け身な男の子とは、誰ともキスしない
    Their indecision is painfully unattractive
    彼らの優柔不断さは、痛々しいほど魅力がない

    Past mistakes are just new information
    過去の失敗は、ただの新しい情報
    These days, I've got expectations
    今の私には、相手への期待がある

    Chorus

    3回目のChorusでは、“Baby, I’m not”と“I take”がバックコーラスによって反復されます。
    しかし繰り返されるほど、その自信は宣言というより自己暗示のように響きます。

    思えば“u + me = <3”でも、彼女は「人も関係も変わる」と理解しながら、自分たちだけは違うと信じていました。
    ここでも、男性たちは愛に必死だが「私は違う」と、自分だけを例外にしています。
    しかし“adored”を何度も繰り返した彼女もまた、強く愛を求めているはずです。

    また“less”では、自分を「考えすぎる人間」かもしれないと疑いました。
    ところがここでの“careful consideration”は、相手の肩書や態度を条件として審査するだけで、恋愛そのものを深く考えているようには見えません。

    彼女は一曲を通して「成長した」と主張しますが、その言葉を重ねるほど、変わりきれていない姿がコミカルかつシニカルに浮かび上がります。

    サウンドとプロダクション

    クレジット

    《プロデュース》

    • ダン・ニグロ マイク・ワイズ

    《作詞作曲》

    • オリヴィア・ロドリゴ

    • ダン・ニグロ

    • エイミー・アレン

    《演奏》

    • ダン・ニグロ:ギター、ベース、ドラム・プログラミング、プログラミング、バッキング・ボーカル

    • スターリング・ロウズ:ドラム

    • マイク・ワイズ:ギター、プログラミング

    解説

    ニューウェーブ調のシンセポップを軸に、ダンスパンクの粗い推進力を加えた、エネルギッシュなダンスナンバーです。
    前曲“less”の悲痛な別れから一転し、恋愛から自由になった開放感が爆発します。

    跳ねるドラム、太いベースライン、ざらついたシンセが一体となり、粗削りな推進力を生み出しています。
    ギターの歪みで出してもおかしくない攻撃的な質感を、シンセとベースが担うことで、バンドサウンドでありながらエレクトロ/ダンス寄りの響きになっています。
    一方、鐘のようにきらめく高音は、歌詞に登場する夜のバーやクラブの照明を思わせます。

    ボーカルの変化も鮮やかです。
    メロディアスなVerse 1から、声が柔らかく重なるPre-Chorusを経て、Chorusでは抑えていたエネルギーが一気に弾けます。
    Verse 2ではリズミカルなスピーク・シングが用いられ、シルバーレイクのバーで繰り広げられる彼女のモノローグに、芝居がかった勢いを与えています。

    Bridgeでは、ダン・ニグロによると思われるバックコーラスが、僕には「彼女を外側から眺める男性たち」の声のように聞こえます。
    それは成長した彼女を称賛しているようでもあり、「自分は成長した」と信じる彼女をからかっているようでもあります。
    この声によって、彼女の自己肯定は次第にコミカルでシニカルな響きへ変わっていきます。

    切ない曲が続いたアルバム後半の“you seem pretty sad”セクションに、このワイルドなダンスナンバーが置かれることで、鮮烈な開放感が生まれます。
    ただし、サウンドが楽しげであるほど、僕には、彼女が過去とは違う形で、再び理想と現実の落差に直面しそうな危うさも感じられます。

    ほっとさせられるのに、少し心配にもなる。その二重性が、この曲のコミカルな魅力だと思います。

    最後に

    最後まで読んでいただいてありがとうございます。

    皆さんはこの曲をどう感じましたか?
    音楽は開かれたナラティブです。
    リスナーの数だけ解釈や感想があって良いと思います。
    是非皆さんの感想をコメントや「スキ」で教えてください。

    この記事の解釈をお楽しみいただけたなら、ぜひシリーズの他の記事もご覧ください。

    僕の視点が、Oliviaファンに『you seem pretty sad for a girl so in love』への新たな入り口を提供できれば幸いです。


    Thanks for staying with her contradictions through the final chorus.
    Next, those big expectations blur into “cigarette smoke.”

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