メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bynodakaori

あいたい菜 ①

    shibakaoruko

     雪が降るなかをおやめくださいと止められてもかまわずに野にでてゆけば、確かにはらはらと春の雪が舞っていた。幾つもの山を越えて川を渡り平地に着くとはたけのあちら側にメゾン若菜が姿をあらわす。二階のベランダには干したままのガウンの袖が風に揺れている。塗装がはげた手すりにつかまり階段をのぼる。
    「どうしたのミツタカさん」女が出てくる。「うん、これをね」とみずから種を蒔いてそだてた菜っ葉を差し出すと
    「助かるわあ。野菜も値上がりしてるのよ!」と嬉しそうに受け取る。
    「すぐにお茶を淹れるからね。今日はちょうど仕事が休みで良かったよ」
    取り入れた衣類を乾燥機に投げ込み蓋をする音がした。
    「構わないでくれ。ちょっと寄っただけだから」

     あのとき若菜を摘みながら、見慣れぬ葉っぱも一緒に抜いていた。あいたい菜? 脳裏にすうっと映像が浮かび、衣手の雪とともに消えた。女の部屋ではテレビが、ミカドの行方不明で混乱する御所のニュースを報じていた。


    410字


    こちらに参加しています。

     
     
     
    短編小説、エッセイなど。一日一更新を目標にショートショート、54字、などを書きます。 #毎週ショートショートnote #シロクマ文芸部 #54字の物語に参加中です。

    あなたへのおすすめ