メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

䞀生分のフゞダマ

    「きむさん、ハンドルじゃなくお、富士山みお、富士山」

    これで䞉回目だ。なんでフロントガラスの向こうじゃなくお、ハンドルを芋おしたうんだ。運転、진짜チンチャムズカシむ。

    内定をもらった䌚瀟から、入瀟前には運転免蚱を取っおおくようにず念抌しされた。

    「珟堎出るのに、先茩たちに運転させるこずはないように」

    韓囜でも運転免蚱を持っおいなかった。日本で取れば身分蚌にもなっお、色々楜かもず呑気に考えおいた。ネットで「合宿免蚱」「安いランキング」をひたすら打ち蟌み、やっずたどり着いたホヌムペヌゞ。

    ――亀通費支絊 最安倀 昌食、倕食代蟌み 

    人生初の新幹線が、免蚱を取るためだなんお気が進たなかったけれど、心のなかでは、「そうだ。静岡、行こう」が流れおいた。

    いざ駅に぀いお送迎バスを埅っおいるず、これから二週間を䞀緒に過ごすであろうみなさんは、幎霢も性別も囜籍たぶんわたしだけもバラバラで、宣䌝やポスタヌにいた「友達ず䞀緒に、合宿免蚱」ノリの若者は、誰䞀人いなかった。

    教習所ぞ向かう道すがら、唯䞀おしゃべりをしおいた若者二人の䌚話はこうだった。

    「マゞ、こんなずころに教習所いんのかよ」
    「やべぇ、」

    うん よくわからない䌚話が車内党䜓に響きわたった。わたし、ただ日本語力が足りないのか 䌚話がほずんど聞き取れなかった。よくも日本語胜力詊隓䞀玚が取れたなず思っおいるず、こんな声が聞こえた。

    「ねえ、マゞでい぀たで埅たせんの 教習所のバスだからっお、チンタラ走っおんじゃねえよ」

    眉の痕跡が芋圓たらない、぀るんずした顔。ピンクのゞャヌゞをたずった小柄な女の子は、走っおいるバスの真ん䞭をずんずん歩いおきお、倧声を出した。

    「危ないから座っおください」

    運転手さんはどうっおこずなさそうに、聞き取りやすい日本語で察応しおいた。そう、これなら安心しおリスニングできるわ、ず思っおいるず、バスは教習所の駐車堎に入っおいった。

    オリ゚ンテヌションでもらったスケゞュヌル衚を芋お、驚きを犁じ埗なかったこの日本語をこういうずきに䜿うんだず、圓時、ひそかに調べた。

    朝から晩たでぎっしりず詰め蟌たれた孊科教習、技胜教習、仮免孊科詊隓等々。

    ここたで来たからには、これくらいしないず ずいう意思が蟌められたスケゞュヌルを芋぀めおいるず、教官の蚀葉が耳元から離れない。

    「卒業怜定で萜ちるず、そのあずの宿泊費及び食事代はすべおご自身で負担するこずになりたすので、くれぐれもこの期間内に卒業できるように頑匵っおください」

    最安倀ず曞かれおいおも、そんなたずたったお金はなかったから、党額、芪から借りた。就職できたし、初任絊で返したす、ず玄束しおきたのに、卒業できず、ごめんなさいはしたくなかった。

    「卒業できねぇっお、あんただ、あんた」

    たたもや聞こえるこの声を、二週間くらいリスニングすれば、日本の若者ず自然に䌚話できるのでは、ず期埅しながら教材を広げた。

    日が萜ちおいく時間。ホテルたで送るバスが教習所の前にノロノロず来る。同じ宿になった人は、長い黒髪を腰くらいたで䌞ばした、䞭幎女性だった。ホテルのロビヌでカギを受け取る圌女の埌ろに、わたしも぀いお行った。圌女の手元には、ロビヌで枡されたセブンむレブンの匁圓があった。

    「え」

    ――「倕食代぀き」は、セブンむレブンの匁圓だったんだ。

    「チンするよね お先にどうぞ」

    ハスキヌな声の圌女の蚀葉に甘えお、先に電子レンゞに向かう。圌女は、補氷機の埌ろにある喫煙所ぞず消えおいった。

    優しいのか怖いのか、よくわからない空気から逃げるように郚屋に入った。チンで熱くなったセブンむレブンのドリアは、異様なチヌズの匂いがしお、窓を開けようずした。するず、手を䌞ばした小さな四角い窓枠のなかに、富士山があった。

    初めお芋る倕焌けの富士山。

    「うわあ」

    二週間、セブンむレブンの匁圓ず富士山は毎日芋られるんだな、ず少しりキりキした初日の倜だった。 

    来る日も来る日も、隙間なく詰め蟌たれたスケゞュヌル。慣れない運転甚語、九十点以䞊取らないずいけない孊科テスト、どうやっおもうたくいかない瞊列駐車。ハンドルばかり芋おしたう自分の䞋手さにも、もう疲れ切っおいた。

    けれど、唯䞀の楜しみがあった。それは、ホテルの朝食だった。

    セブンむレブンの匁圓にも、教習所の仕出し匁圓にも、あたり手が぀けられなかった。朝の富士山を堪胜するず、軜い足で朝食䌚堎に向かった。どうせビゞネスホテルの朝食だから、ずいうむメヌゞを芆しおくれた、ゞャパニヌズモヌニング

    ふわふわのスクランブル゚ッグ、銙ばしい焌きたおのパン、新鮮なサラダ、ふわっず湯気の立぀味噌汁。

    日本に来おあたり食べたこずのない肉じゃがや煮物、玍豆にも手を䌞ばした。党郚がおいしくお、きょうは絶察バックで駐車できるぞ、ず気合たで入った。

    朝食を楜しむ数日が経ち、ふず同じホテルに泊たる䞭幎女性がいないこずに気づいた。送迎バスにはい぀も乗るし、朝ごはんは食べない掟なのかな ず思いながらバスを埅っおいた。けれど、送迎時間から十分を過ぎおもバスが来る気配がなく、゜ワ゜ワしおいた。そのずき、䞀緒にバスを埅っおいた䞭幎女性が、タバコを抌し消しお、電話をかけた。

    「すみたせん。○○ホテルに送迎来おないんですが」

    わたしは瀌を蚀った。

    「ありがずうございたす。もうそろそろ始たっおしたいたすもんね。早くきおくれるかな」

    「......」

    「あの、朝ごはんは召し䞊がらないんですか ずおもおいしかったんです」

    「その時間に起きれないから」

    冷たいんだか優しいんだか、よくわからないこの女性に投げられたボヌルを、どう返せばいいの、ず悩んでいるず、この堎所だけが時間が止たっおいるようだった。

    「わたし、バックで駐車するのがいちばん苊手なんです。泣きそうになりたす」

    「あたし、メントリだから」

    ――メントリ 

    なにそれ なにかを取るや぀かな メントリが䜕なのか蚊こうずした矢先、教習所の送迎の車がわたしたちの前で止たった。

    遅れお到着するず、倖に出る技胜教習が埅っおいた。毎回違う教官に指導を受けたけれど、きょうは䞀床指導を受けたこずのある教官だった。

    「きむさん、急ごう」

    最埌に残った車に乗り蟌んで、シヌトベルトよし ルヌムミラヌよし 䜕床かのよしを終え、車を出した。

    教習所の近くはのどかな田舎道で、孊科で孊んだ「危険予枬」の芁玠はほずんど芋圓たらず、わたしはフロントガラスだけを芋぀め、䞀定のスピヌドで車を走らせた。

    「きむさん、きむさん、埌ろの車確認、埌ろ」

    そうだった。ミラヌも芋るんだった。真冬なのに、手も背䞭も汗がじわじわず滲んでいた。

    「きむさん、ここっおさ、いちご有名だよ、いちご」

    倧事なキヌワヌドを二床蚀う癖があるこの教官は、地域の名物や近くのおいしい店たで玹介しおくれる。

    「いちご、いちご食べたこずある」

    ――いやいや、アリマスアリマス。韓囜にもいちごくらいありたすから。

    心の声をぐっず堪えお、運転に集䞭した。そしお、赀信号で止たるず、やっず口を開けられた。

    「いちご、奜きです。日本のおいしいですよね」

    「そうそう、きむさん、この店、焌肉うたいよ。焌肉。やっぱり本堎は違う」

    そこから、教官が奜きな韓囜料理の名前が次々ず挙がっお、わたしは運転に集䞭するあたりあやふやな答えを連発し、トッポギは蟛いのかず蚊かれたけど、そこたでじゃないです、ず適圓に答えたようやく教習所に戻った。

    教官は、助手垭から片手だけでハンドルを動かしお駐車する、䜕床芋おもかっこいい技をお披露目した。

    「あ、先生、メントリっおなんですか」

    爆笑する教官。そこから車を降りずに説明しおくれた。ここに来る人は免蚱取り消しのほうが倚いし、特にいたは孊生が来る時期じゃなかったからず。ようやく、宣䌝に出た若者たちの写真ず実物の違いに、玍埗できた。

    仮免孊科詊隓の前日。暗くなるたで運転を続けお、グタグタになっおいたころ、目を芚たすような倧声が教習所のロビヌに響き枡った。

    「じじぃ 詊隓になにだすか、おしえろよ」
    「  」
    「ったく、぀かえねえな」

    この䞀週間ちょっずではっきりず聞き取れるようになった。ピンクのゞャヌゞの女の子は、教官が座っおいる机に身を乗り出し、怒鳎り぀けおいた。
    数秒埌、その声を䞊曞きするように、もっず倧きな声が背埌から響いた。

    「うるせえぇぇんだよ ガキ」

    静たり返ったロビヌ。わたしは振り返るこずもできず、ピンクのゞャヌゞの女の子だけを芋぀づけた。わたしのそばを、ドスドスず歩いおいく男性。

    ――これは、『ごくせん』ずか、『ドラゎン桜』ずかで芋た、そういうシヌンなのか

    ドキドキしながら埅っおいたドラマチックな堎面はなかった。わたしは、無事に゜ツギョりしたいんです。残りの数日が、平和であるこずを心から願った。

    きょうの倖に出る技胜教習は、二人䞀組だった。蚀葉繰り返し教官ず䞊んで立っおいるず、わたしのペアが歩いおきた。

    ――きょうは眉がある

    ピンクのゞャヌゞの圌女が先に教習所から出お、途䞭わたしず亀代するずいうこずだった。

    埌ろの座垭におそるおそる乗ったわたしは、手に汗が滲み、頭皮から熱い汗が流れおきた。

    ブヌン

    ――え 運転、めっちゃうたくない いた、ブレヌキ螏んだ ぜんぜん気づかなかったよ

    そう思っおいる最䞭、さっそく自分の番になった。

    「あそこ、ヒシガタ、ヒシガタのずころの手前で停めお」

    ――え ヒシガタ

    「ヒシガタ なんだよそれ どれのこず蚀っおんの」

    ナむス。わたしの心の声ず䞀臎した圌女の蚀葉に、教官は蟛抱匷く説明しおくれた。道路に癜い線で描かれた、四角圢のや぀。

    そのあずの自分の運転は芚えおいない。けれど、圌女の運転は、たるで静岡の田舎道をドラむブでもしおいるかのような、劙な浮遊感を感じさせる、玠敵な運転だった

    郚屋に戻っお、セブンむレブンの匁圓を前に、倕焌けの富士山を芋た。二週間ちょっずのあいだ、雚どころか曇る日さえなかったから、い぀もそこには富士山があった。


    無事に卒業でき、ごくせんのような戊いはなかったものの、それなりのドキドキをくれたみなさんずお別れした。新幹線の窓から、たたい぀䌚えるかわからない富士山ずサペりナラの挚拶をした。

    自宅に戻っお数日埌、免蚱詊隓堎ぞ向かった。呚りはお墓ず朚々が鬱蒌ずしおいお、受かるかどうか䞍安にさいなたれたけれど、合栌できた。

    合宿でや぀れお卒業したわたしは、自分にご耒矎をあげた。詊隓堎の近くのデニヌズに入り、出来立おほやほやの免蚱蚌を眺めながら、倧きないちごパフェず、いちごパンケヌキを泚文した。教官にお䌝えしたい。

    むチゎ、タベマシタペ 

     


     
     
    韓囜文孊翻蚳を勉匷䞭 未邊蚳䜜品のレゞュメ・詊蚳 K-BOOK振興䌚レゞュメメンバヌ 第9回「日本語で読みたい韓囜の本 翻蚳コンクヌル」二次遞考通過

    あなたぞのおすすめ