
ブライトンの試合後に流れた曲「Praise You」って何?
8月23日のアストン・ヴィラ戦、ブライトンは4-0で勝利しました。開始8分にオウンゴールで先制し、18分にデ・カイペル、30分と31分にヒンシェルウッドが連続ゴール。わずか31分で4点を奪う、ほぼ完璧なシーズン初戦でした。
そんな素晴らしい開幕試合の後、現地のサポーターや記者からFatboy Slimの「Praise You」を流したことに対する言及が数多く見られました。
Brighton could buy Lionel Messi in the next week and still the best decision the club have made this summer is playing Praise You at full time rather than Freed From Desire 👏 #BHAFC
— We Are Brighton (@wearebrighton) August 23, 2026
Albion ease to a 4-0 win - and it's Praise You rather than Freed From Desire at full-time, which the fans seemed to appreciate.
— Brian Owen (@Brian__Owen) August 23, 2026
Now for Tromso, part two. #bhafchttps://t.co/3vZps2T47I pic.twitter.com/gWFyJwfHXR
ここ数年のホーム勝利後の曲はサッカーファンにはお馴染みのGalaの「Freed From Desire」でした。
気になって調べてみると、この曲はブライトンにとってただの有名なダンスミュージックではありませんでした。Fatboy Slimとクラブの関係、ブライトンが苦しかった時代の歴史、そして歌詞の意味までつながっていることがわかりました。
そもそも「Praise You」って何?
「Praise You」は、イギリスのDJ・音楽プロデューサーであるFatboy Slimが1999年に発表した曲です。音楽に疎いので僕は知らなかったのですが、Fatboy Slimは世界的に有名なアーティストです。
Fatboy Slimはノーマン・クックという人物のアーティスト名。「The Rockafeller Skank」「Right Here, Right Now」などの曲でも知られ、1990年代後半のビッグ・ビートを代表するアーティストの一人です。
「Praise You」は1999年に全英シングルチャート1位を獲得しました。Fatboy Slimにとって、ソロ名義では初めての全英1位です。
曲の中心になっている女性の歌声は、カミーユ・ヤーブローが1975年に発表した「Take Yo' Praise」からサンプリングされたものです。そこにピアノやビートなど、複数の音源を組み合わせて作られています。
ただ、世界的なヒット曲だからスタジアムで流れたわけではないようです。
なぜFatboy Slimの曲なのか
ブライトンファンにとって重要なのは、Fatboy Slimが世界的なミュージシャンであることだけではありません。ノーマン・クックは長年のブライトン&ホーヴ・アルビオンファンです。クラブの試合やイベントにも姿を見せ、現在もブライトンの地域活動に関わっています。つまり、たまたまブライトンに住んでいる有名人ではなく、ずっとクラブと一緒に歩いてきたサポーターです。
ノーマンは大学進学をきっかけにブライトンへ移り住み、その約5年後、友人に誘われてアルビオンの試合を観戦しました。そこで夢中になり、その後の2シーズンはすべてのホームゲームに通ったと本人が語っています。
1997年にはゴールドストーン・グラウンド最後の試合にも立ち会い、その後は新スタジアム建設を求める約10年間の運動にも参加しました。さらに当時の会長ディック・ナイトとの会話をきっかけに、自分のお金をクラブへ出資。クラブの株式を持ち、取締役にもなりました。ただし、選手売却などの運営判断には関わらず、取締役会にも参加しない立場を選んでいます。
クラブの苦しい時代をサポーターとして経験し、資金面でも再建を支えた人物です。
その関係は昔の話だけではありません。直近では、2026年5月にアメックスで行われたBHAFC Foundationのクイズ大会にジョエル・フェルトマンらと参加し、音楽問題を担当しました。このイベントでは5,000ポンド以上が集まり、地域で行われる財団の活動に使われます。

同月のウルブズ戦では、財団を支援するため試合前のアメックスでDJも行いました。世界的なDJでありながら、現在もクラブのイベントや地域活動に参加し続けています。
クラブが苦しかった時代を支えた「Skint」
Fatboy Slimとブライトンの関係を語るうえで欠かせないのが、彼が所属していたブライトン発のレコードレーベル「Skint Records」です。
1990年代後半のブライトンは、現在のプレミアリーグクラブからは想像できないほど厳しい状況にありました。本拠地だったゴールドストーン・グラウンドを失い、1997年にはフットボールリーグからの降格、つまりプロリーグから消える寸前まで追い込まれます。
その後は約70マイル離れたジリンガムでホームゲームを開催。1999年にようやくブライトンへ戻り、ウィズディーン・スタジアムで戦い始めました。陸上トラックがあり、屋根も少なく、当初の収容人数は約6,000人。今のアメックスとは全く違います。

実際には陸上トラックがあった。
2026年1月ブライトンオフィシャルショップにて撮影。
そのクラブが街へ戻ってきた1999年、ユニフォームの胸スポンサーになったのがSkint Recordsでした。「skint」はイギリス英語で「一文無し」「お金がない」という意味です。当時のクラブにあまりにも似合いすぎているスポンサー名ですが、同時にブライトンの音楽文化とサッカークラブが一つになった象徴でもありました。

Skintは2008年まで長く胸スポンサーを務めました。クラブ公式ショップが現在も1999年のSkintユニフォームを復刻し、「再建のために戦った重要な時代を象徴する」と紹介していることからも、この時期が特別な記憶として残っていることが分かります。
プレミアリーグで戦い、ヨーロッパにも進出し、世界中から選手を獲得する現在のブライトン。そのクラブがまだお金もスタジアムもなかった頃、Fatboy SlimとSkint Recordsはすぐそばにいました。
だから彼の曲は、ブライトンという街の音楽文化を通じて、クラブの歴史とも深くつながっています。
歌詞はどんな意味?
※noteは歌詞掲載に関する著作権管理団体との包括契約の対象外であるため、この記事では歌詞を掲載していません。歌詞や対訳は上記リンクからご確認ください。
「Praise You」は、Fatboy Slimのアルバム『You've Come a Long Way, Baby』に収録されています。タイトルを直訳すると「あなたを称えたい」「あなたを褒めたたえたい」といった意味になります。
曲の中心にあるのは、長い時間を共にし、さまざまな出来事を乗り越えてきた相手への感謝だと受け取れます。歌詞全体からは、長い関係を振り返りながら、その相手の存在をたたえようとするメッセージが感じられます。
最初に聴いた時は恋人やパートナーに向けたラブソングなのかと思いましたが、サッカークラブとサポーターの関係にも驚くほど当てはまります。
長い時間と困難を共に乗り越えた相手をたたえるこの曲の歌詞を、ゴールドストーン、ジリンガム、ウィズディーンを経てアメックススタジアムへたどり着いたクラブの歴史と重ねて解釈するファンもいます。
ブライトンには「Praise You」がよく似合う
僕にとっては「Freed From Desire」のほうが聞き馴染みがあり、最初は昔の曲が復活したことをファンが喜んでいるだけだと思っていました。
しかし「Praise You」は、長年のアルビオンファンであるFatboy Slimの曲です。所属レーベルのSkintはクラブの再建期を支え、その歌詞をクラブが歩んできた長い道のりと重ねて解釈するファンもいます。
だから8月23日の試合後に流れた「Praise You」は、単なる懐かしい曲ではありません。ブライトンの過去と現在を一緒に祝える、ブライトンにしかない勝利後の曲なのです。