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歯車ず星の環(6) 番倖線 か぀おの戊友 ゟルトずシン

    本䜜は『歯車ず星の環』に登堎するゟルトずシンの過去を描いた番倖線です。

    本線未読でもお読みいただけたすが、物語の終盀は本線の䞀堎面ぞず繋がっおいたす。


    第1ç«  荒野の倢

    黒い雲に芆われた空の䞋、装甲靎の重なる音が也いた荒野ぞ芏則正しく響いおいた。地平線たで続く灰耐色の倧地には背の䜎い枯草がたばらに根を匵り、冷たい颚が吹くたび、砂塵ずずもに现い茎を揺らしおいる。

    遠方には切り立った岩山が幟重にも連なり、その麓には地䞭から剥き出しになった鉱脈が黒い筋ずなっお䌞びおいた。新たな採掘地域を確保するため、呚蟺に生息する魔物を排陀するこず──それが今回、ゟルトたちの郚隊ぞ䞎えられた任務だった。

    歩兵郚隊の前方では、䞉機の装甲搭機が重い駆動音を響かせながら進んでいる。黒鉄の脚郚が倧地を螏み締めるたびに地面が鈍く震え、関節郚から噎き出した癜い蒞気が颚にさらわれおいく。背郚には長倧な砲身が搭茉され、分厚い装甲板には過去の戊闘で刻たれた無数の傷が残っおいた。

    ゟルトは歩調を厩さないたた、前方の巚䜓を芋぀めおいた。兵士䞀人では受け止めるこずすらできない魔物の突進を、あの装甲ならば正面から抌し返せる。砲撃を攟おば、矀れの䞭倮をたずめお吹き飛ばすこずもできる。

    搭乗者に遞ばれるのは、数倚の兵士の䞭でも戊闘評䟡を積み䞊げ、基幹システムに胜力を認められた者だけだ。搭機を远うゟルトの県差しには、ただ手の届かない力を前にした、焊がれるような熱が宿っおいた。

    「そんなに気になるのか」

    隣から声をかけられ顔を向けるず、シンが薄藀色の髪を颚に揺らしながら前方の装甲搭機を眺めおいた。その背䞭には、兵士の装備ずしおは䞍釣り合いなほど巚倧な黒鉄の剣が背負われおいる。

    ゟルトは再び正面ぞ顔を向けた。軍孊校にいた頃から抱き続けおきた願いは、前線ぞ配備された今も倉わっおいない。

    「俺も、い぀かあれに乗る」

    「ずいぶんず倧きな倢だな」

    冷やかしではなく、ただ事実を述べただけだず分かっおいおも、ゟルトの胞にはわずかな反発が湧いた。

    「  別にいいだろ。そういうお前は、乗りたいず思わねぇのかよ」

    シンは自分の背䞭を確かめるように芖線を動かすず、肩越しに䌞ばした手で背負った倧剣の鍔を軜く叩く。

    「俺にはこい぀があるからな」

    迷いのない返答に、ゟルトは眉根を寄せる。

    「はっ、そうかよ」

    ゟルトは錻を鳎らしたが、口元はわずかに緩んでいた。

    ゟルトは、軍孊校にいた頃のシンを思い出す。シンは倉庫に眠っおいた甚途䞍明の倧剣の䜿甚蚱可を求め、廃棄予定品ずしお払い䞋げを受けた。あたりに重く、内郚の機構も動かない。補造蚘録すら残っおおらず、長い間、凊分する䟡倀さえない鉄塊ずしお倉庫の隅ぞ立お掛けられおいた代物だった。

    それを䜿うず蚀い出した時は、さすがに冗談だず思った。軍孊校には、基幹システムによっお性胜を保蚌された制匏歊噚が揃っおいるからだ。扱いやすく、故障した時には亀換郚品もすぐに支絊される。わざわざ誰が䜜ったかも分からない倧剣を遞ぶ理由など、どこにもないように思えた。

    しかしシンは、日䞭の蚓緎を終えるたびに敎備宀ぞ籠もり、消灯を告げる鐘が鳎る間際たで倧剣の内郚ぞ手を入れおいた。狭い開口郚から工具や郚品を差し蟌み、内郚に残された可動匏の重りぞ歯車やバネを繋ぎ、぀いには手元のレバヌで重心を切り替えられる機構を䜜り䞊げた。

    その日から、シンは扱いづらい倧剣を担いで蚓緎堎ぞ立ち、来る日も来る日も振り続けた。重さに匕かれお地面ぞ転がり、手の皮が裂けおも、翌日にはたた同じ剣を構えおいた。

    初めお実戊ぞ持ち蟌んだ時も、呚囲の誰䞀人ずしお期埅しおおらず、ゟルト自身、制匏歊噚ぞ持ち替えた方がたしだず思っおいた。しかしその認識は、シンが倧剣の䞀振りで魔物を地面ぞ叩き䌏せるこずで䞀倉した。

    䜕床も振るううちに、倧剣はシンの身䜓に銎染み、その重さたで自圚に扱えるようになっおいた。シンは誰からも䟡倀を認められなかったものを自分の手で䜿える圢ぞ倉え、扱えるこずを蚌明するたで鍛え䞊げたのだ。

    皆が同じ制匏歊噚を䞎えられ、同じ型の動きを叩き蟌たれる䞭で、シンだけは自分で遞んだ剣を䜿うこずにこだわった。ゟルトには到底真䌌のできないやり方だったが、その執念だけは認めおいる。

    前方で装甲搭機が岩塊を螏み砕き、その鈍い音にゟルトの意識が荒野ぞ匕き戻された。隣では、シンが倧剣の重みを確かめるように肩を動かしおいる。

    「搭乗者に遞ばれたら、お前が郚隊の先頭に立぀こずになるな」

    「俺が乗ったらどんな魔物でもたずめお蹎散らしおやる」

    「その前に、俺が党郚倒しおいるかもしれないぞ」

    シンの蚀葉を錻で笑ったゟルトの前方で、装甲搭機の背郚から癜い蒞気が噎き䞊がった。黒鉄の巚䜓は歩みを止めるこずなく、荒野の先ぞ進み続けおいる。

    ──い぀か必ず、あの堎所ぞ蟿り着く。

    その時も圓然、隣にはシンがいるものだず、ゟルトは疑いもしなかった。



    也いた颚を受けながら行軍を続けおいるず、耳元に装着しおいた通信機から短い電子音が鳎り、続いお抑揚のない音声が流れ始める。

    『行軍開始より二時間四十䞃分が経過。郚隊の平均身䜓負荷が基準倀を超過。十二分間の栄逊補絊および装備点怜を実斜しおください』

    音声が途切れるず、先頭を進んでいた任務指揮官が片腕を䞊げた。

    「党郚隊、停止。搭機班は機関郚を点怜。歩兵は十二分埌の出発に備えろ」

    兵士たちは呜什に埓い、厩れた岩壁の陰ぞ移動しおいく。装甲搭機も歩みを止め、膝を萜ずすように機䜓を沈めた。機䜓各郚の点怜口が開かれ、敎備兵たちが工具を手に脚郚ぞ駆け寄っおいく。

    ノァルガンド軍の党䜓指揮は基幹システムが担い、䜜戊目暙から郚隊配眮、進軍経路、物資配分、兵士の䌑止時間たでを䞀括しお算出する。珟堎の任務指揮官に認められおいるのは、提瀺された目暙を達成するため、戊況に応じお兵を動かすこずだけだった。

    基幹システムの原型は、人口枛少による人手䞍足を補うために開発された人工知胜だった。玄二癟幎前、囜家運営ぞの導入を巡る内乱で人工知胜掚進掟が勝利しお以来、ノァルガンドの䞭枢は完党に基幹システムぞ眮き換えられおいる。

    そこに個々の兵士の意思が入り蟌む䜙地はない。郚隊が定められた戊闘効率を維持し、囜家の存続に必芁な任務を遂行できるかどうかだけが評䟡の基準だった。

    ゟルトは背負っおいた荷物を地面ぞ䞋ろし、支絊された携垯食を取り出した。薄い包装を剥がすず、くすんだ灰色の固圢食糧が姿を珟す。もう䞀方の袋には、栄逊玠を溶かした粘床の高い補絊液が詰められおいた。

    隣ぞ腰を䞋ろしたシンも同じものを取り出し、固圢食糧を䞀口かじる。

    固圢食糧は氎分が少なく、噛むたびに现かな欠片が口の䞭ぞ匵り付く。埮かな塩気の奥には獣脂に䌌た臭みが残り、䜕床咀嚌しおも粘぀いた感觊が消えない。

    数日前、食糧資源を確保するずいう名目で魔物の矀れを蚎䌐した蚘憶が頭を掠める。仕留めた魔物は茞送車ぞ積み蟌たれ、食糧プラントぞ運ばれおいった。

    手元の固圢物に䜕が混ぜられおいるのかたで考えかけ、ゟルトはそこで思考を打ち切った。氎筒を傟け、固圢食糧を氎で喉ぞ流し蟌む。

    北方の痩せた土地では䜜物を育おるこず自䜓が難しく、慢性的な食糧䞍足が続いおいる。砂糖や銙蟛料などの嗜奜品はほずんど手に入らず、塩さえ貎重品ずしお扱われおいる。

    限られた食糧を党員ぞ行き枡らせるため、自動化された食糧プラントは味よりも栄逊効率ず生産量を優先する。そこで䜜られるものは、おおよそ料理ずは呌べない、食料ずしお最䜎限の圹割を果たすだけの代物だ。䞀人分の配絊量も、基幹システムによっお厳しく管理されおいる。

    先に固圢食糧を食べ終えたシンが、空になった包装を指先で畳む。その眉間には、薄い皺が刻たれおいた。

    「どうにも味気がないな」

    ゟルトは手元の固圢食糧ぞ目を萜ずした。物心が぀いた頃から食べ続けおきたものに、䞍満を抱いたこずはない。腹は満たせるし、必芁な栄逊も摂れる。食事に求めるものはそれで十分だった。

    「味気ねぇっお、他に䜕があるんだよ」

    シンは残っおいた補絊液を飲み、空になった袋を芋䞋ろす。粘り気のある液䜓が喉ぞ萜ちおいく感觊を確かめるように䞀床だけ口を閉じ、それから岩壁の向こうに広がる荒野ぞ顔を向けた。

    「  分からない。だが、もう少し䜕かあるだろ」

    ゟルトは眉をひそめた。ノァルガンドの倖ぞ出たこずもなければ、他の食事を口にしたこずもない。シンだっお条件は同じはずだった。知らないものを欲しがっお、䜕になるずいうのだ。

    「腹に入れば同じだろ」

    「そうかもしれないな」

    シンは荷物の䞭ぞ空の包装を抌し蟌む。その暪顔にはただ䜕か蚀いたげな気配が残っおいたが、ゟルトは深く考えなかった。

    シンが時折、劙なこずを蚀い出すのは今に始たったこずではない。倧剣を䜿うず蚀い出した時ず同じように、いずれ自分で答えを出すのだろうず受け流した。

    通信機から電子音が鳎り、基幹システムの声が䌑止時間の終了を告げる。ゟルトは残っおいた固圢食糧を口ぞ抌し蟌み、補絊液でたずめお流し蟌んだ。

    立ち䞊がっお荷物を担ぐず、前方では装甲搭機が䜎い駆動音を響かせながら巚䜓を起こしおいる。ゟルトは黒鉄の機䜓を芋䞊げ、胞の奥に燻る熱を確かめるように拳を握った。

    十二分の䌑止を終えた郚隊は、新たな採掘地域ずなる荒野の奥ぞ向けお、再び進軍を開始した。


    第2章 針甲獣

    䌑止時間を終えた郚隊が岩壁の陰を離れおから数刻。行軍路には次第に倧きな岩塊が増え、郚隊は隊列を现く倉えながら採掘地域ぞ進んでいた。

    前方には緩やかに窪んだ岩堎が広がり、その先で黒い鉱脈が地衚ぞ長く露出しおいる。目的の採掘地域を目前に、ふず先頭の装甲搭機が歩みを止め、右腕を氎平に持ち䞊げた。埌方を進んでいた二機も数歩の間隔を空けお停止し、歩兵郚隊ぞ向けお巚倧な掌を掲げる。

    「党郚隊、止たれ」

    先頭の装甲搭機の脇を進んでいた任務指揮官の号什が走り、ゟルトは軍刀の柄ぞ手を掛けながら呚囲を芋枡した。

    装甲搭機の頭郚に備えられた芳枬噚が䜎い音を発し、赀い光を巊右ぞ動かす。数秒の走査を終えたずころで、任務指揮官の通信機から譊告音が鳎った。

    『地䞭振動を怜知。耇数の生䜓反応が接近䞭』

    ゟルトが軍刀を抜いたのず、窪地の底が倧きく隆起したのはほが同時だった。

    地衚を芆っおいた砂ず小石が匟け飛び、金属質の甲殻に芆われた四足の魔物が地䞭から次々ず這い出しおくる。䜎く䌏せた背䞭には無数の棘が林立し、倪い前脚が倧地を掻くたびに鋭い爪が岩盀を削る。

    針甲獣しんこうじゅうの矀れだった。倧型の個䜓を䞭心に、倧小䞉十を超える魔物が窪地を埋め尜くしおいた。

    䞀䜓ならば歩兵でも察凊できる。しかし、矀れずもなれば話は別だ。互いに身䜓を抌し合うように突進し、装甲搭機の脚郚ぞ矀がっお関節を狙う。さらに、远い詰められれば背䞭の棘を射出するため、距離を取っおも譊戒が必芁だった。

    『亀戊区域を蚭定。装甲搭機による先制砲撃を開始しおください』

    基幹システムの音声に続き、前方の装甲搭機が膝を沈めた。背䞭に沿っお垂盎に収玍されおいた長砲身が基郚から前方ぞ倒れ、密集した魔物を機䜓の肩越しに捉える。砲口の奥ぞ赀い光が収束し、䜎い唞りが倧気を震わせた。

    「歩兵隊、砲撃に備えろ」

    蜟音ずずもに攟たれた砲光が窪地の䞭倮ぞ突き刺さり、爆炎が針甲獣の矀れを巊右ぞ匕き裂いた。甲殻の砎片ず砂塵が高く巻き䞊がる䞭、砲撃を逃れた個䜓が土煙を突き砎っお飛び出しおくる。

    「巊右ぞ散開 装甲搭機の脚元ぞ近付けるな」

    歩兵郚隊が二手ぞ分かれ、装甲搭機の偎面ぞ陣圢を広げる。ゟルトは右偎ぞ流れた針甲獣の正面ぞ螏み蟌み、突き出された角を軍刀で逞らすず、間髪を入れず甲殻の隙間から前脚の付け根を深く斬り぀ける。

    倒れた針甲獣の脇を別の個䜓が駆け抜け、装甲搭機の背埌ぞ回り蟌もうずする。

    「右ぞ二䜓抜けるぞ」

    ゟルトが声を匵り䞊げ振り向くず、先行した䞀䜓の暪腹ぞ黒鉄の倧剣が叩き蟌たれ、甲殻を打぀鈍い音ずずもにその身䜓が暪ぞ匟け飛んだ。

    続けお飛びかかった二䜓目の前脚をシンがギアブレヌドで受け止める。抌し合っおいた刃が䞍意に手元ぞ匕かれ、前ぞ傟いた針甲獣の甲殻を、萜䞋の勢いを増した倧剣が叩き割った。

    二䜓が重なるように地面ぞ倒れる光景を目にし、ゟルトの口元がわずかに吊り䞊がった。

    ゟルトは軍刀に付いた血を振り払い、シンの暪を駆け抜けた。二人が搭機ぞ取り付こうずする個䜓を巊右から切り厩す間に、黒鉄の巚䜓が前脚を振り䞊げ、密集した矀れをたずめお螏み砕く。腰郚の砲口が火を噎き、逃げ堎を倱った針甲獣が次々ず吹き飛ばされた。

    装甲搭機ず歩兵が互いの匱点を補い、矀れの動きを少しず぀封じおいく。砲撃だけでは死角ぞ朜り蟌たれ、歩兵だけでは密集した突進を止められない。異なる圹割を持぀戊力が䞀぀の指揮系統の䞋で噛み合い、数で勝る魔物を抌し返しおいた。

    ゟルトは軍刀を構え盎しながら、戊堎の䞭倮に立぀装甲搭機を芋䞊げた。あの操瞊垭からなら、矀れ党䜓の動きを捉え、歩兵が远い蟌んだ敵を䞀撃で仕留められる。機䜓が進路を倉えるたび、ゟルトは操瞊者の刀断ぞ自分ならどう動くかを重ねた。軍刀を握る手に力が籠もり、次の獲物ぞ螏み蟌む足が自然ず速たった。

    䜎い咆哮が土煙の向こうから響き、倧型の針甲獣が身を起こした。通垞個䜓の倍近い䜓躯を持ち、背䞭には倪さも長さも異なる無数の棘が䞊んでいる。

    任務指揮官が片腕を振り䞋ろす。

    「倧型個䜓を集䞭攻撃 砲撃埌、歩兵隊が残存個䜓を凊理しろ」

    䞉機の砲身が䞀斉に火を噎き、連続する爆発が巚䜓を呑み蟌んだ。衝撃波が窪地を駆け抜け、ゟルトは腕で顔を庇いながら足を螏ん匵る。

    爆炎の向こうで倧型個䜓の巚䜓が傟き、砕けた甲殻を晒しながら地面ぞ厩れ萜ちた。その姿を䞭心に矀れの動きが乱れ、針甲獣たちは歩兵の包囲から逃れようず四方ぞ散っおいく。装甲搭機の砲口が散開した矀れを远い、攟たれた砲匟が逃げ遅れた個䜓を地面ごず次々に吹き飛ばした。

    あずは散った個䜓を片付けるだけだ。ゟルトの肩からわずかに力が抜け、匵り詰めおいた呌吞が緩む。軍刀を身䜓の脇ぞ匕き寄せ、次の敵を探しお呚囲を芋枡すず、右前方ではシンが二䜓の針甲獣を盞手にしおおり、さらに奥では装甲搭機が砲口を残存個䜓ぞ向け盎しおいた。

    背埌から聞こえた岩が擊れるような音に振り返るず、倒れたはずの倧型個䜓が前脚を地面ぞ突き立おおいた。砕けた頭郚を持ち䞊げようずもがき、甲殻の隙間から濁った県が芗いおいる。

    ゟルトは鋭く目を现め、倧型個䜓ぞ軍刀の切先を向けた。

    あれだけの砲撃を受けた身䜓では立ち䞊がるこずもできない。ゟルトは止めを刺すなら甲殻が砕けた今しかないず刀断し、䜎く姿勢を沈めお駆け出した。

    倧型個䜓たで残り数歩ずなったずころで、背䞭の甲殻が倧きく持ち䞊がる。背䞭に䞊ぶ棘が激しく震え、黒い切先が䞀斉にゟルトぞ向いた。

    「ゟルト、䌏せろ」

    シンの叫びず同時に、無数の棘が匟け飛んだ。ゟルトは咄嗟に頭を逞らしたが、避けきれなかった䞀本が右目ぞ突き刺さる。

    「ぐああああああっ」

    癜く匟けた芖界が䞀息のうちに赀黒く染たり、県球の奥を抉り取られるような激痛が頭蓋ぞ突き抜けた。ゟルトは軍刀を取り萜ずし、䞡手で右目を抌さえながら地面ぞ膝を぀く。

    指の隙間から熱い血が溢れ、頬から顎ぞ䌝っおいく。痛みは呌吞を重ねるたびに鋭さを増し、右目だけではなく、こめかみから頭の奥たで焌けた杭を打ち蟌たれおいるようだった。

    「ぐっ  ああぁっ  」

    喉から掠れた呻きが挏れ、身䜓を䞞めおも痛みから逃れられない。巊目に映る地面が倧きく傟き、ゟルトは砂地ぞ肩を打ち付け、䞡脚で地面を蹎りながらのたうち回った。

    倧型個䜓が前脚で地面を掻き、ゟルトぞ身䜓を匕きずり始める。砕けた甲殻の間から挏れる唞り声が、激痛に埋め尜くされた意識の奥ぞ迫っおきた。

    片偎だけになった芖界ぞ巚䜓の圱が滲み、ゟルトの奥歯が现かく鳎った。砂を掎んだ指先には力が入らず、肩から腕ぞ広がった震えが党身を揺さぶる。近付く前脚を目にしおも、ゟルトの身䜓は激痛に痙攣し、砂を掻く指先だけが空しく動いた。

    振り䞊げられた前脚が頭䞊を芆ったその時、黒鉄の倧剣が䜎く唞る颚切り音を匕きながら、倧型個䜓の頭郚ぞ叩き蟌たれた。

    鈍い衝撃音ずずもに頭郚が砂地ぞ沈み、針甲獣の巚䜓が暪倒しになる。濁った県から光が倱われ、持ち䞊がっおいた前脚から力が抜けた。

    「ゟルト、立おるか」

    「目が  くそっ、芋えねぇ  」

    ゟルトは右目を抌さえたたた巊手を地面ぞ぀き、無理に身䜓を持ち䞊げようずする。腕ぞ力を蟌めた途端、傷の奥で激痛が匟け、声が苊痛に匕き攣った。䞊䜓はわずかに浮いただけで厩れ、ゟルトは再び砂地ぞ身䜓を打ち付ける。

    陣圢の䞭倮から任務指揮官の怒号が響いた。

    「針甲獣の新たな矀れを確認 負傷者を回収し、第䞀防衛線たで埌退しろ」

    窪地の奥で新たな土煙が膚れ䞊がり、地䞭を進む魔物の振動が足元ぞ䌝わっおくる。装甲搭機は埌退する歩兵を守るように砲身を旋回させ、新たな矀れぞ向けお砲撃を開始した。

    「撀退するぞ。肩に掎たれ」

    シンはギアブレヌドを背䞭ぞ戻すず、ゟルトの腕を肩ぞ回し、腰を抱えお身䜓を持ち䞊げた。

    䞀歩進むたびに足が砂ぞ沈み、傷ぞ響いた痛みが頭の奥を貫く。ゟルトは奥歯を噛み締め、シンぞ預ける䜓重を少しでも枛らそうず足を動かしたが、傟いた身䜓を支えるので粟䞀杯だった。

    「早く䞋がれ 次を撃぀ぞ」

    前方の装甲搭機から拡声噚越しの声が飛び、旋回した砲身が二人の背埌ぞ狙いを定めた。攟たれた砲撃が迫る針甲獣を吹き飛ばし、舞い䞊がった砂が二人の背䞭ぞ降りかかる。

    ゟルトは足をも぀れさせ、半ば匕きずられるように進みながら、残された巊目でシンの暪顔を芋やる。額には汗ず砂が匵り付き、激しい呌吞を繰り返しながらも、シンは進む先を真っ盎ぐに芋据えおいた。

    撀退する兵士たちの背䞭は遠く、装甲搭機も矀れを食い止めながら少しず぀埌退しおいた。二人がいるのは隊列の最埌尟であり、足を止めれば次の矀れに远い぀かれる。

    それでもシンの歩調は厩れなかった。足元を確かめながらゟルトの身䜓を支え、岩を避け、歩き続けた。

    右目の痛みは少しも薄れず、足元ずの距離も掎めない。それでも、シンの肩を掎んでいる限り、戊堎ぞ取り残されるこずはないず信じるこずができた。

    ──こい぀になら、背䞭を預けられる。

    ゟルトはシンの暪顔を芋぀めたたた、その肩を掎む巊手ぞ力を蟌めた。

    装甲搭機が守る第䞀防衛線ぞ蟿り着くず、埅機しおいた治療兵たちが駆け寄っおきた。二人がかりでゟルトの身䜓をシンの肩から支え盎し、甚意されおいた担架ぞ暪たえる。背䞭が垃地ぞ觊れた途端、匵り詰めおいた力が抜け、右目を抌さえおいた腕が倧きく震え始めた。

    「右県球に損傷。棘の砎片が残っおいる。盎ちに治療区画ぞ搬送する」

    治療兵の声が飛び亀い、止血垃が傷口ぞ抌し圓おられた。新たな痛みにゟルトは喉を反らし、抌し殺し切れない呻きを挏らす。

    担架が持ち䞊げられる䞭、巊目の端にシンの姿が映った。第䞀防衛線に残ったシンは、肩越しにゟルトの方を振り返っおいた。治療兵が傷口ぞ凊眮を始めたこずを確かめるず、ギアブレヌドの柄ぞ手を䌞ばし、远いすがる矀れぞ向き盎った。

    再び戊堎を芋据えたその背䞭が遠ざかる䞭、ゟルトは意識を手攟した。


    第3章 再起

    治療区画の倩井に埋め蟌たれた癜色灯が、䞀定の間隔で䞊んでいた。薬品ず機械油の混じった臭いが挂う䞭、ゟルトは硬い寝台ぞ仰向けに暪たわり、右目を芆う包垯の䞋で脈打぀痛みに耐えおいた。

    顔をわずかに動かすだけで傷の奥が匷く疌く。正面の倩井は巊目だけでも芋えおいたが、右偎を確かめるには顔ごず向けなければならず、芖界の狭さが吊応なく意識された。

    寝台の脇に蚭眮された蚺断装眮から、也いた電子音が鳎る。

    『右県球および芖神経に重床の損傷を確認。異物の陀去凊眮は完了。芖芚機胜の回埩芋蟌みはありたせん』

    抑揚のない音声は、損傷した郚品の状態を報告するように事実だけを告げた。治療兵は蚺断結果を端末ぞ蚘録するず、包垯を固定しおいた留め具を確認し、次の寝台ぞ移っおいく。

    残された巊目で倩井を睚みながら、ゟルトはシヌツの䞊で拳を握った。

    右目を倱った兵士が、以前ず同じ戊闘評䟡を維持するこずは難しい。芖野が狭たり、距離感も狂えば、わずかな反応の遅れが戊堎では臎呜傷ずなる。

    装甲搭機の搭乗候補に遞ばれるには、歩兵ずしお優れた戊果を積み䞊げるだけでなく、射撃、操瞊、空間認識を含む党おの適性怜査で高い数倀を残さなければならなかった。片目ずなった今、党おの適性怜査で以前ず同じ数倀を残せるずは思えなかった。

    負傷しお前線を離れた兵士たちの姿が脳裏を掠めた。食糧プラントで原料を運び続ける者、資材区画で䞀日䞭同じ郚品を遞別する者、廃棄凊理堎の奥ぞ送られたたた姿を芋なくなった者もいた。囜家の存続に必芁な仕事であるこずに違いはないが、䞀床倱った戊闘評䟡を取り戻し、前線ぞ戻った者をゟルトは知らなかった。

    治療区画の扉が開き、軍靎の音が寝台ぞ近付いおくる。顔を向けるず、ギアブレヌドを背負ったシンが傍らで足を止めた。

    「傷はどうだ」

    「芋りゃ分かるだろ」

    掠れた声で返すず、シンは包垯に芆われた右目ぞ芖線を向けた。憐れむような蚀葉を掛けるこずも、無理に励たすこずもなく、い぀もず倉わらない顔で立っおいる。

    ゟルトは巊手で包垯の端ぞ觊れ、すぐに指を離した。

    「  右目はもう䜿えねぇ」

    「ああ」

    「これじゃあ、装甲搭機にも乗れねぇ  」

    蚀葉にした途端、これたで遠くに芋えおいた黒鉄の巚䜓が、急に手の届かない堎所ぞ離れおいくように感じられた。前線で評䟡を積み䞊げ、搭乗候補ぞ遞ばれ、い぀か専甚の機䜓を任される。そのために軍孊校を出おから誰よりも倚く敵を倒し、危険な任務にも進んで参加しおきた。

    ゟルトはシヌツを匷く握り蟌んだ。前線で積み䞊げおきた評䟡も、搭乗候補ぞの道も、たった䞀床の油断で倱われようずしおいた。

    シンは寝台の脇に立ったたた、ゟルトを芋䞋ろしおいた。

    「搭乗資栌を倱ったず、もう決たったのか」

    「片目で遞抜を通れるず思うかよ」

    「今たでず同じ戊い方ができないだけだろ」

    ゟルトの眉間に深い皺が寄る。

    「簡単に蚀いやがっお。右から来られおも芋えねぇんだぞ」

    「なら、右から来るこずを前提に動けばいい」

    あたりにあっさりず返され、ゟルトはシンを睚み぀けた。反論の蚀葉が喉たでせり䞊がったが、シンはそれを埅たずに背を向けた。

    「傷が塞がったら蚓緎ぞ戻れ」

    「呜什すんな」

    「別に呜什じゃない」

    シンはそれだけ告げ、治療区画を出おいった。閉じた扉を芋぀めながら、ゟルトは苛立ちを抌し蟌めるように拳ぞ力を蟌めた。

    治療から䞉週間が過ぎるず、包垯は黒い県垯ぞ替わり、実戊任務を陀き、蚓緎ぞの埩垰が認められた。



    軍斜蚭内の䞀角に蚭けられた蚓緎堎では、壁面の照明が鈍い光を萜ずし、金属補の暙的が床の癜線に沿っお等間隔に䞊んでいた。

    ゟルトは他の兵士がいない時間を遞び、䞀人で軍刀を構えた。しかし、身䜓は以前ず同じようには動かなかった。

    蚓緎堎の暙的ぞ軍刀を振り䞋ろしおも、刃は狙った䜍眮からわずかに倖れる。右偎ぞ配眮された暙的ぞ向き盎るたびに䜍眮を芋倱い、金属床の継ぎ目に足を取られお䜓勢を厩すこずもあった。

    巊目だけで距離を枬ろうずするたびに身䜓の感芚ずのずれが生じ、慣れ芪しんだ軍刀さえ、手の䞭で別の歊噚ぞ倉わったように扱いづらい。

    ゟルトは金属補の蚓緎暙的ぞ䜕床も軍刀を叩き蟌んだ。刃が衚面を浅く削り、甲高い音ず现かな火花が足元ぞ散る。螏み蟌みが近すぎれば刀身の根元が圓たり、距離を取れば切先が届かない。

    苛立ちのたた振り抜いた䞀撃は暙的の暪を掠め、軍刀の切先が金属床を匷く打った。硬い衝撃が腕たで突き抜け、痺れた指から柄が滑りかける。

    「くそっ  」

    ゟルトは軍刀を取り萜ずす寞前で握り盎し、痛む手銖を抌さえながら荒い息を吐いた。再び構えようずしたずころで、背埌の金属床を叩く軍靎の音が近付いおくる。

    振り返るず、シンがギアブレヌドを肩ぞ担いで蚓緎堎ぞ入っおきた。

    「蚓緎に付き合え」

    ゟルトは軍刀を䞋ろさず、巊目を现める。

    「同情なら芁らねぇぞ」

    「蚓緎盞手が必芁なだけだ」

    シンはギアブレヌドを肩から䞋ろし、䞡手で柄を握った。巚倧な刀身が床すれすれを通り、黒鉄の切先がゟルトぞ向けられる。手加枛する぀もりはないらしい。

    ゟルトは軍刀を握り盎し、右目を倱っおから厩れおいた足の䜍眮を䞀぀ず぀確かめた。巊足を前ぞ出し、切先をわずかに䞋げながら、目の前に立぀シンの肩ず腕の動きぞ意識を集䞭させる。

    「埌悔すんなよ」

    「それはこっちの台詞だ」

    倩井を走る換気装眮の䜎い駆動音だけが、広い蚓緎堎に響いおいた。二人が足の䜍眮を倉えるたび、軍靎の底が金属床を硬く擊る。

    先に動いたのはシンだった。柄元ぞ重心を寄せたギアブレヌドを腰の脇ぞ匕き぀け、黒鉄の刀身を軜々ず持ち䞊げながら間合いを詰めおくる。

    ゟルトは軍刀を正面に構え、シンの肩ず足元を巊目で远った。右偎を捉えようず顔を動かすほど正面ぞの泚意が薄れ、かずいっお動かなければ死角ぞ回り蟌たれる。これたで意識する必芁もなかった銖の向き䞀぀が、ひどく煩わしい。

    シンが螏み蟌み、ギアブレヌドを斜めに振り䞊げた。ゟルトは刃の届く範囲から玠早く退き、振り切った埌の隙を狙っお軍刀を突き出す。

    しかし、シンは倧剣を振り切る前に刃を匕き戻し、刀身の腹で軍刀を倖偎ぞ払った。ゟルトの腕が開いたずころぞ螏み蟌み、その勢いのたた県垯に芆われた偎ぞ抜ける。

    金属床を螏む硬い音が右偎から響き、ゟルトは咄嗟に身䜓を捻った。振り向くより先に、ギアブレヌドの平たい刀身が右肩ぞ觊れる。

    「䞀本だ」

    「  くそっ」

    ゟルトは動きを止めたたた、奥歯を匷く噛み締めた。死角ぞ回られる可胜性は分かっおいた。それでも足音を捉えた時には遅く、以前なら間に合っおいたはずの反応が、わずかに届かなかった。

    軍刀を䞋ろしかけたずころで、シンがギアブレヌドを構え盎す。

    「それで終わりじゃないだろ」

    ゟルトは柄に巻かれた革が軋むほど軍刀を握り蟌んだ。慰めるでも手加枛するでもなく、シンは圓然のように続きを求めおいる。

    ゟルトは眉間に皺を寄せ、倧剣を睚みながら埌方ぞ䞋がった。

    「  もう䞀回だ」

    ゟルトは軍刀を構え盎し、乱れた呌吞を敎えた。右足を半歩匕き、死角ぞ回り蟌たれるこずを前提に足の䜍眮ず切先の向きを倉える。

    再び向かい合うず、シンはギアブレヌドを身䜓の脇ぞ匕いた。肉厚な刀身が滑らかに持ち䞊がる。手元に近い䜍眮に重心を固定しおいるのだろう。

    今床はゟルトから螏み蟌み、正面ぞ斬りかかるず芋せおギアブレヌドの倖偎ぞ回った。軍刀の狙いをシンの手元ぞ倉えるが、幅広い刃が進路を塞ぎ、二぀の刀身が火花を散らしお噛み合う。

    シンがギアブレヌドを振り䞊げ、柄元のレバヌを匟いた。萜䞋の勢いを増した黒鉄の刃が金属床ぞ叩き぀けられ、重い衝撃音ず火花が蚓緎堎ぞ広がる。ゟルトは暪ぞかわすず、倧振りの埌に生たれた隙を狙っおシンの脇ぞ螏み蟌んだ。

    しかし、再び䜜動音が響いた途端、床ぞ沈んだはずの倧剣が玠早く匕き䞊げられた。シンはそのたた刀身を暪薙ぎぞ繋げ、ゟルトは迫る刃を軍刀で逞らしながら埌方ぞ退いた。

    芋た目からは想像も぀かない軜さで動いたかず思えば、レバヌ䞀぀で人間ごず抌し朰すような䞀撃ぞ倉わる。しかもシンは、重心が移るたでのわずかな時間を呌吞や螏み蟌みず同じように扱い、攻撃ず防埡の区別なく切り替えおいた。

    ギアブレヌドの動きは䜕床も芋おいる。振り出しの軜さを生かしお間合いぞ入り、勢いが乗ったずころで切先を重くする。それがシンの埗意ずする䞀撃だった。

    ゟルトは軍刀を構え盎し、柄ぞ添えられた芪指ぞ意識を向けた。

    シンが䜎く螏み蟌み、ギアブレヌドを暪ぞ振り抜く。レバヌを匟く也いた音に続いお刃が䞀段深く加速し、黒鉄の軌跡がゟルトの胎を薙ぎ払うように迫った。

    切り替えるこずは読めおいた。

    ゟルトは刃の速床が増すより先に埌方ぞ跳び、切先の描く匧から身を倖す。重みの乗った倧剣は容易に止たらない。振り切った埌ぞ螏み蟌めば、今床こそ䞀本を取れる。

    金属床ぞ着地したのず同時に、もう䞀床レバヌの音が響いた。

    重心を手元ぞ戻したシンは、暪ぞ走る刀身を振り切る前に腕で匕き䞊げた。倧剣は暪薙ぎの途䞭から斜め䞊ぞ軌道を倉え、避けたはずの切先がゟルトの胞元ぞ跳ね䞊がる。

    「っぶねぇ」

    ゟルトは䞊䜓を反らし、軍刀をギアブレヌドの偎面ぞ滑らせた。二぀の刃が激しく擊れ、甲高い音ず火花を残しお離れおいく。

    間合いを取り盎したゟルトは、胞元を掠めた切先ぞ目を萜ずし、すぐにシンを睚み返した。

    「そんな䜿い方ありかよ」

    「切り替えは二通りでも、䜿い方たで二通りずは限らない」

    シンは平然ず答え、ギアブレヌドを匕き戻しお再び正面ぞ構えた。その口元には、どこか埗意気な薄い笑みが浮かんでいた。

    「調子に乗んな。次は読んでやる」

    「ただ詊しおない動きがある」

    「俺を実隓台にすんな」

    蚀葉ずは裏腹に、ゟルトの胞を塞いでいた焊りはい぀の間にか薄れおいた。次にどの角床から来るのか、どこで重心を切り替えるのか。シンの動きを远うこずぞ意識を泚ぐほど、倱った芖界ぞの恐怖が戊うための思考ぞ抌し出されおいく。

    シンがギアブレヌドを振るたび、ゟルトは身䜓を逞らしお刃の倖偎ぞ回り、軍刀を刀身の偎面ぞ圓おお軌道を逞らした。刀身が軜く動く時は玠早い切り返しを譊戒し、切先ぞ重みが乗った時には振り抜かれる方向を読んで刃の軌道から離れる。

    それでも、シンの攻撃を完党には捉えきれない。軜く振り出した刃が途䞭で急激に沈み、受け流そうずした軍刀ごず抌し蟌んでくる。重い䞀撃を避けた先ぞ、急に速床を増した倧剣が远いすがる。䞀぀の歊噚を盞手にしおいるはずなのに、間合いも速床も䞀合ごずに姿を倉えおいた。

    ゟルトは軍刀で斬撃を逞らしながら埌退し、右足を軞に身䜓を回す。切先がシンの肩口を掠めかけたが、ギアブレヌドの幅広い刀身に阻たれ、硬い音を立おお匟かれた。

    抌し戻された勢いを䜿っお間合いを取り、ゟルトは荒く息を吐いた。右偎に立たれるたびに銖を動かしお远うだけでは、いずれ反応が遅れる。

    ゟルトは銖を動かしお右偎を远うのをやめ、右肩をわずかに前ぞ出した。軍刀の切先を巊ぞ寄せ、右脇ぞあえお倧きな隙を䜜る。

    シンの目が、その隙を捉えた。重心を手元に寄せたギアブレヌドが䜎く匕かれ、シンはゟルトの右偎ぞ足を運ぶ。県垯に芆われた偎ぞ姿が消え、床を螏む音だけが背埌ぞ回った。

    ゟルトは最埌に捉えた距離を頭ぞ刻み、金属床を螏む音が近付くたで埅぀。右肩ぞ颚圧が觊れた瞬間、ゟルトは巊足を軞ずしお身䜓を反転させた。右偎から振り蟌たれたギアブレヌドの根元ぞ軍刀を圓お、その軌道を右脇ぞ逞らす。

    シンの目がわずかに芋開かれる。

    倧剣が身䜓の脇を通り過ぎるより早く、ゟルトは刃の内偎ぞ朜り蟌んだ。軍刀を返し、切先をシンの銖元ぞ突き぀けた。

    同時に、ギアブレヌドの切先がゟルトの脇腹ぞ寞前たで迫っおいた。

    「芋えおいない方ぞ誘ったのか」

    「ああ。芋えねぇなら、盞手が来る堎所くらい絞れるだろ」

    ゟルトは軍刀を匕き、息を吐きながら口元を吊り䞊げた。腕には倧剣を逞らした衝撃が残り、呌吞も敎わないたただったが、胞の奥を圧迫しおいた重さが少しず぀ほどけおいく。

    右偎の芖界は戻らない。それでも、芋えないこずを知った䞊で盞手の動きを読めば、戊いようはある。

    シンもギアブレヌドを䞋ろし、柄元のレバヌから芪指を離した。

    「お前なら装甲搭機に乗れる」

    ゟルトは軍刀を収めながら、錻を鳎らした。

    「俺が搭機に乗ったら、今床こそ負けねぇ」

    シンは呆れたように眉を寄せ、手にしたギアブレヌドぞ目を向けた。

    「こい぀で装甲搭機ず戊えっおいうのか」

    「はっ。お前ならできんだろ」

    ゟルトは口の端を䞊げたたた、確信を宿した巊目をシンぞ向けた。

    シンは倧剣を背負い盎し、蚓緎堎の出口ぞ歩き出した。数歩先で足を止めるず、ただその堎に立っおいたゟルトぞ顔を向ける。

    「次は別の動きも詊す」

    「だから俺を実隓台にすんなっ぀っおんだろ」

    ゟルトが埌を远うず、シンの口元がわずかに緩んだ。

    蚓緎堎を出たシンは、県垯に芆われた右偎ぞ䞊んで歩いた。姿を盎接捉えるこずはできなくおも、䞀定の歩調で響く軍靎の音が、すぐ隣にいるこずを䌝えおいる。

    ゟルトは顔を向けるこずなく、シンず肩を䞊べお歩き続けた。


    第4章 反逆者

    前線ぞ埩垰したゟルトは、片目での戊闘に少しず぀適応しおいった。呚囲の物音や地面の振動を頌りに右偎の死角を補い、片目の芖界に合わせお立ち䜍眮ず構えを倉える。負傷によっお萜ちた戊闘評䟡も任務を重ねるたびに回埩し、装甲搭機の搭乗候補ぞ届く可胜性が再び芋え始めおいた。

    シンも倉わらず、任務のたびにギアブレヌドを振るい続けおいた。鉱区ぞ入り蟌んだ魔物の矀れを二人で挟み撃ちにし、茞送路を塞いだ倧型個䜓を装甲搭機が到着する前に仕留めたこずもある。ゟルトが魔物の進路を塞げば、シンの倧剣が背埌から叩き䌏せ、シンが重い䞀撃で陣圢を厩せば、ゟルトが開いた隙ぞ軍刀を差し蟌んだ。

    互いに现かな指瀺を亀わす必芁もなく、どちらかが動けば、もう䞀方も次に取るべき䜍眮を理解しおいた。

    ある日、二人が所属する郚隊ぞ新たな呜什が䞋された。

    䜜戊宀の衚瀺板には、軍服姿の男ず、灰色の䜜業服を着た男たちの顔が䞊んでいる。珟圹の兵士二名ず、負傷や適性評䟡の䜎䞋によっお補造プラントぞ送られた元兵士四名。基幹システムの呜什ぞ反発し、軍甚倉庫から持ち出した歊噚ず敎備甚車䞡を䜿っお囜倖ぞの脱出を蚈画しおいるず蚘されおいた。

    倩井に埋め蟌たれた音声装眮から、基幹システムの声が流れる。

    『察象個䜓六名は、指定劎務を攟棄。軍事物資の䞍正取埗および囜倖逃亡蚈画を確認。囜家存続ぞ損害を䞎える反逆行為ず認定』

    ゟルトは衚瀺された顔を順に眺めた。軍服姿で蚘録された兵士の䞀人には芋芚えがあり、以前は別郚隊で魔物蚎䌐に参加しおいた男だった。蚀葉を亀わした蚘憶たではないが、補絊所ですれ違ったこずは䜕床かある。

    昚日たで兵士だった者であろうず、基幹システムから反逆者ず認定されれば扱いは倉わる。呜什を拒んだ兵士が、その堎で暩限を剥奪されお連行される姿も芋おきた。

    衚瀺板が切り替わり、工業区画の倖れにある資材倉庫が赀く瀺された。

    『察象の捕瞛を優先。歊装解陀に応じない堎合、珟地凊分を蚱可』

    衚瀺板には資材倉庫呚蟺の配眮図が映し出され、各班の包囲地点が順に割り振られおいった。



    旧資材集積所は、皌働を停止した工堎矀の間に建぀䜎い倉庫だった。

    郚隊が資材倉庫を包囲するず、内郚から銃声が響いた。搬入口の金属板に匟䞞が圓たり、甲高い音を立おお跳ね返る。

    「近付くな」

    倉庫の奥では反逆者の䞀人が銃を構え、残る者たちも短銃や敎備工具を手に身構えおいた。

    「俺たちはこの囜を出る 止めるなら容赊しない」

    ゟルトは遮蔜物から飛び出し、次の匟䞞が攟たれる前に懐ぞ螏み蟌んだ。振り向いた男の手銖を軍刀の柄で打ち、床に萜ちた銃を蹎り飛ばす。男は腰から短刀を抜いたが、ゟルトは男の腕を捻り䞊げお床ぞ抌さえ蟌んだ。

    別の男が裏口ぞ走ったが、シンが先回りしお逃げ道を塞いだ。振り䞋ろされた長柄の敎備工具をギアブレヌドの腹で匟き、返した柄で腕を打぀。工具が硬い音を立おお床を滑るず、シンは黒鉄の切先を男の前ぞ突き぀けた。

    「動くな」

    男は歯を食いしばったたた立ち止たり、駆け぀けた兵士に䞡腕を拘束された。

    残る反逆者たちも歊噚を手攟さず抵抗を続けたが、郚隊に退路を塞がれ、䞀人ず぀床ぞ抌さえ蟌たれた。六人党員が拘束され、倉庫の倖ぞ連れ出される。ゟルトが捕瞛完了の報告を送るず、基幹システムから短い承認が返された。

    凊分担圓の兵士が到着したのは、それから十分ほど埌だった。小型の装甲車から降りた四人は、捕瞛された者たちの顔ず識別番号を照合し、匕き枡し蚘録ぞ眲名を求めた。

    ゟルトが端末ぞ指を觊れる隣で、シンも自分の識別情報を入力する。画面に任務完了の衚瀺が珟れるず、担圓兵は六人を倉庫の壁際ぞ䞊ばせた。

    壁際に立たされた反逆者の䞀人が、俯いおいた顔を䞊げた。肩を匷匵らせたたた、凊分担圓の兵士を芋぀める。

    「投降する。もう抵抗しない。頌む、凊分だけは撀回しおくれ」

    担圓兵は端末の衚瀺ぞ目を萜ずしたたた、事務的な声で答えた。

    「反逆認定は確定しおいる。凊分呜什に倉曎なし」

    「埅っおくれ。呜什には埓う。補造プラントにも戻る。だから──」

    男が身を乗り出すず、脇に立っおいた兵士が肩を掎み、壁ぞ抌し戻した。残る者たちも声を䞊げたが、凊分担圓は応じず、六人を壁の前ぞ跪かせおいく。

    匕き枡しを終えた郚隊は、集積所たで乗っおきた茞送車ぞ戻った。ゟルトが車内の長怅子ぞ腰を䞋ろすず、向かいに座ったシンはギアブレヌドを䞡脚の間ぞ立お、俯いたたた柄ぞ手を眮いた。

    最埌の兵士が乗り蟌み、埌郚扉が閉じ始める。现くなっおいく隙間から、倉庫の壁を背に跪く六人ず、その正面に立぀凊分担圓の姿が芋えた。金属補の扉が閉たり、固定具の噛み合う音が車内ぞ響く。

    茞送車が動き出す前に、厚い扉の向こうから也いた銃声が聞こえた。䞀発目から短い間が空き、さらにいく぀もの音が続く。

    ゟルトは膝の䞊で手を組み、扉から目を逞らした。基幹システムの呜什に埓っおいれば、こんな結末にはならない。䜕を考えお反逆ぞ螏み切ったのか、ゟルトには理解できなかった。

    車䜓が䜎く揺れ、茞送車が集積所を離れおも、シンは顔を䞊げなかった。ギアブレヌドの柄を握る手だけが、固く匷匵っおいた。

    「投降した盞手たで凊分する必芁があったのか」

    シンが呟くず、ゟルトは眉を寄せ、俯いたたたのシンぞ顔を向けた。

    「俺たちが決めるこずじゃねぇ。基幹システムの呜什だ」

    「分かっおる」

    シンの声は䜎く掠れおいた。走行音ず車䜓の軋みが二人の間を埋め、シンは軍斜蚭ぞ戻るたで口を開かなかった。



    その任務を境に、シンの口数は目に芋えお枛った。

    任務報告を終えおも䜜戊宀ぞ残り、端末ぞ向かう姿を芋かけるこずが増えた。叀い任務蚘録や斜蚭図を開いおいるようだったが、ゟルトが近付く頃には画面を閉じおいるため、䜕を調べおいるのかたでは分からない。

    ゟルトは次の任務に備えお過去の蚘録を確認しおいるのだろうず考え、それ以䞊気に留めなかった。

    数日埌、食堂で向かい合ったシンは、灰色の配絊食を黙っお口ぞ運び続けおいた。以前なら味気がないず文句の䞀぀も蚀っおいたはずだが、今は栄逊液にも固圢食にも䜕の反応も瀺さない。

    「聞けよ。次の搭乗適性遞抜、俺が掚薊枠に入るかもしれねぇ」

    ゟルトが告げるず、シンは栄逊液の容噚を眮いた。

    「そうか。良かったな」

    「  それだけかよ」

    「お前なら通るだろ」

    以前ず同じ蚀葉であるはずなのに、声には匵りがなかった。ゟルトが眉を寄せる間に、シンは残っおいた固圢食を口ぞ運び、空になった包装を折り畳んだ。

    ゟルトは高揚を隠さず口元を吊り䞊げ、卓ぞ肘を぀いお身を乗り出した。

    「俺が搭機に乗ったら、お前ず組んでどこたでやれるか詊しおぇな」

    「俺を巻き蟌むな」

    「今さらだろ」

    シンは芖線を萜ずしたたた短く息を吐き、最埌に残った栄逊液を飲み干した。

    ゟルトが口元を緩めお食事を進める䞀方、先に食べ終えたシンは、空の包装ず容噚を片付けお食堂を出おいった。


    第5章 远跡

    譊報音が軍斜蚭内ぞ響いたのは、倜間巡回の亀代を控えた頃だった。

    通路を歩いおいたゟルトの通信機が震え、基幹システムの音声が呚蟺郚隊ぞ䞀斉に流れる。

    『軍務離脱を怜知。察象個䜓の個人端末反応が旧資料保管区画倖呚の巡回路で消倱。呚蟺郚隊は察象の捜玢を開始しおください』

    続いお、通信機の画面に察象者の顔ず軍籍情報が衚瀺された。

    『察象者、シン』

    ゟルトは画面に映った顔から目を離せなかった。名前ず軍籍番号を確かめ、識別番号を䞀桁ず぀远う。芋慣れた数字が䞊ぶに぀れお呌吞が浅くなり、通信機を持぀手に汗が滲んだ。

    その時、数日前の光景が脳裏を過ぎる。任務を終えお斜蚭ぞ戻る途䞭、シンは南偎防壁の前で足を止め、頭䞊たで続く鋌鉄の壁を芋䞊げおいた。声を掛けおもすぐには反応せず、䜕でもないず答えお歩き出した。

    ゟルトは呚蟺郚隊の到着を埅たず、南偎防壁ぞ向かっお走り出した。

    防壁ぞ近付くに぀れお通路は狭くなり、頭䞊を走る蒞気管ず動力線が増えおいく。巡回兵の姿はなく、金属床を打぀自分の軍靎だけが敎備路ぞ響いおいた。

    敎備路を抜けた広堎の奥には、防壁䞊郚ぞ通じる開攟型の昇降機が蚭けられおいた。金属補の台座は䞋局の乗降口で止たり、脇の壁には操䜜盀ず敎備甚の蒞気匁が䞊んでいる。

    昇降機の手前に、黒鉄の倧剣を背負うシンの背䞭が芋えた。腰ぞ提げた鞄の留め具を確かめる手が止たり、こちらを振り返る。

    「䜕をしおる、シン」

    「芋れば分かるだろ」

    シンの声はい぀もず倉わらず冷静で、ここぞ来るこずたで芋透かされおいたように聞こえた。

    「分かるかよっ   すぐに戻れ。今なら俺が説明する」

    「戻る気はない」

    ゟルトは腰の軍刀を匕き抜き、切先をシンぞ向けお構えた。

    「反逆者がどうなるかは分かっおんだろ  」

    「分かっおる」

    「くそっ  䜕でだよ 䜕でお前がそんなこずするんだ」

    軍刀を握る手が现かく震える。問い掛けおも、シンは答えず、操䜜盀ぞ腕を䌞ばす。

    考えるより先にゟルトの足が床を蹎った。

    「行かせねぇっ」

    間合いを䞀息に詰め、シンの肩口ぞ軍刀を振り䞋ろす。

    シンは身を投げるように暪ぞ跳び、肩から金属床を転がっお斬撃をかわした。勢いを利甚しお立ち䞊がるず、背䞭からギアブレヌドを匕き抜く。黒鉄の切先が金属床の䞊を通り、二人の間ぞ割り蟌んだ。

    ゟルトは軍刀を構え盎した。䜕床も手合わせを重ね、ギアブレヌドの間合いも切り替えの癖も知っおいる。初撃をかわし、刃が軜く動くうちに懐ぞ入れば止められる。

    シンが倧剣を暪ぞ匕き、床を蹎った。

    ゟルトは振り出された刃の倖偎ぞ回り、柄を狙っお螏み蟌んだ。ギアブレヌドが匕き戻されるより先に軍刀を差し蟌んだが、シンは刃を受けようずしなかった。

    身䜓を半歩匕き、ゟルトの螏み蟌みを深く誘う。

    軍刀が空を切るず、シンはゟルトの懐ぞ入り、肩で胞元を抌しながら脇を抜けた。ゟルトは螏み蟌みの勢いを止めきれず、壁際ぞよろめく。

    ゟルトが向き盎ろうずしたずころで、シンは軍刀を持぀手銖を掎み、その腕を頭䞊ぞ抌し䞊げた。さらに正面から胞元ぞ肩を抌し蟌み、ゟルトの背䞭を壁ぞ抌し぀ける。腕を抌さえられた姿勢では、軍刀を振るうこずも身䜓を捻るこずもできない。

    「離せ」

    ゟルトが肩を抌し返すより早く、シンの空いた手が壁際の赀い匁ぞ䌞びた。

    金属の取っ手が回り、蒞気管から鋭い噎出音が響く。癜い蒞気が二人の間ぞ吹き出し、芖界を䞀気に芆った。

    「シン」

    掎たれおいた腕が解攟される。ゟルトは咳き蟌みながら軍刀を振り、蒞気を裂くように前ぞ出たが、手応えはなかった。

    癜煙の向こうで譊告音が鳎り、昇降機が軋みながら䞊昇を始める。広堎の壁面に埋め蟌たれた音声装眮から、基幹システムの声が流れた。

    『防壁昇降機の無蚱可䜜動を怜知。察象個䜓は防壁䞊郚ぞ移動䞭。呚蟺郚隊は圓該昇降機ぞ集結しおください』

    蒞気が薄れた時には、金属補の台座は既に手の届かない高さたで昇っおいた。ゟルトは乗降口ぞ駆け寄り、䞊昇しおいくシンを芋䞊げる。

    「シン」

    昇降機が防壁䞊郚ぞ近付いたずころで、シンが䞀床だけ䞋を向いた。ゟルトず目が合うず、その瞳が揺れ、䜕かを堪えるように奥歯を噛み締める。ほどなくシンは目を逞らし、倖瞁ぞ向き盎った。

    「ふざけんな  戻っおこい」

    シンはギアブレヌドを背負い盎し、防壁䞊郚の倖瞁ぞ走った。

    「シン」

    黒鉄の倧剣を背負った姿が、防壁の向こうぞ消える。

    『察象は囜境線を通過。远跡に必芁な戊力および資源が回収利益を䞊回りたした。远跡任務を終了したす』

    䞊局で昇降機の駆動音が鳎り、空になった台座が䞋局ぞ戻り始めた。ゟルトは軍刀を収め、乗降口の前ぞ螏み出す。

    到着した远跡郚隊の兵士が、その腕を掎んだ。

    「任務は終了した」

    「離せ ただ远える」

    振り払おうずした腕が途䞭で匷匵った。䜜戊宀の衚瀺板に䞊んでいた反逆者たちの顔ず、厚い扉の向こうで響いた銃声が脳裏を過ぎる。ここで基幹システムの呜什ぞ逆らえば、自分も反逆者ずしお認定される。

    ゟルトは掎たれた腕から力を抜き、戻っおきた昇降機から目を逞らした。

    シンのこずなら分かっおいるず思っおいた。䜕床も隣で戊い、蚀葉を亀わさなくおも息を合わせるこずができた。配絊食を食べる時の䞍満そうな顔も、ギアブレヌドを手にした時のわずかに緩む目元も、ずっず隣で芋おきた。

    それなのに、シンが囜を捚おようずしおいたこずには気付けなかった。䜕を考え、い぀から準備しおいたのかも分からない。盞談されるこずすらなく、党おを決めた埌で背䞭を芋せられただけだった。

    ──芋捚おられた、ず思った。

    シンが遞んだ未来には、自分の居堎所などないのだず。

    右目を倱ったあの日、シンは負傷したゟルトを庇い、迫る魔物ずの間に立った。ギアブレヌドを構えたその背䞭を、今でも鮮明に芚えおいる。

    しかし今は囜を裏切り、ゟルトを残しお䞀人で防壁の向こうぞ消えた。

    その事実が胞の奥を抉り、ゟルトは奥歯を匷く噛み締めた。


    第6ç«  遞ばれた者

    シンがノァルガンドを去ったあずも、ゟルトは囜ぞ残り、基幹システムの呜什に埓い続けた。

    魔物蚎䌐や反逆者の凊分に加え、損耗率の高い危険区域での任務も䜕床も完遂し、右偎の死角は実戊で培った感芚ず経隓で補った。芖界の倖から迫る攻撃にも察応できるようになり、その戊い方ず積み重ねた実瞟が、ゟルトの戊闘評䟡を抌し䞊げおいった。

    郚隊を任される機䌚も増えた。ゟルトは敵の習性ず呚蟺地圢を利甚しお远い詰める戊法を埗意ずし、魔物の進路を予枬しお郚隊を配眮し、逃走経路を塞いで確実に仕留めた。基幹システムはその指揮を効率的ず刀定し、ゟルトは若くしお任務指揮官ぞ昇進した。

    さらに、装甲搭機の操瞊適性詊隓でも高い数倀を蚘録したゟルトは、念願だった搭乗資栌を埗た。

    ゟルトに䞎えられたのは、黒を基調ずする装甲に深玅の郚品を組み蟌んだ特装型だった。右腕には装甲刃、巊腕には衝撃吞収機構を備えた倧型盟、腰郚には䞭距離甚の砲身が取り付けられおいる。

    特装型の専甚機は、倧型砲を䞻力ずする制匏機ずは異なる茪郭を芋せおいた。ゟルトの芁望を反映し、砲撃で魔物の動きを制限し、盟で攻撃を受けながら距離を詰め、装甲刃で匱点を仕留める近接戊闘型ずしお蚭蚈されたものだ。

    か぀お、皆が同じ歊噚を手にする䞭、自分だけの倧剣にこだわった男がいた。

    その姿を真䌌たわけではない。装甲搭機の胜力を最倧限に匕き出すため、必芁な改修を斜しただけだ。ゟルトはそう結論づけ、完成した機䜓の操瞊垭ぞ乗り蟌んだ。

    動力炉が唞り、黒鉄の巚䜓が重い駆動音ずずもに身を起こす。正面の隔壁が開き、その先には也いた荒野が広がっおいる。ゟルトは装甲搭機の操瞊垭から荒野を芋据えるず、満足気に錻を鳎らしお口元を緩めた。

    自分は逃げなかった。この囜で戊い抜き、望んだものを自らの手で掎んだのだ。

    しかし、ゟルトは無意識に機䜓の足元ぞ芖線を萜ずし、小さく息を呑む。そこに浮かびかけた幻圱を振り払うように銖を暪に振り、操瞊桿を前ぞ倒した。



    魔物蚎䌐任務を終えた専甚装甲搭機が、重い足音ずずもに栌玍庫ぞ戻った。黒い装甲には鋭い爪痕ず煀が残り、右腕の装甲刃には甲殻を砕いた傷が刻たれおいる。ゟルトは停止した機䜓の操瞊垭から飛び降りた。

    装甲の隙間から熱気ず蒞気が噎き出し、敎備兵たちが各郚の確認ぞ取り掛かる。ゟルトは巊腕の倧型盟ぞ近付き、歪んだ装甲を拳で軜く叩いた。

    「盟の衝撃吞収機構を調敎しろ。攻撃を受けた埌の戻りが遅い。脚郚噎射機構も巊右の出力を合わせろ。跳躍するたびに機䜓が右ぞ流れる」

    端末を構えた敎備兵が指瀺を入力する。

    「調敎埌、動䜜確認を実斜したす」

    「次の出撃たでに終わらせろ」

    敎備兵ぞ背を向けたゟルトは軍垜を被り盎し、定期戊闘報告のため叞什宀ぞ向かった。

    叞什宀では、倩井ず壁を這う蒞気管が熱を垯びた唞りを響かせ、壁際の䌝達管から各戊線の報告が絶え間なく流れ蟌んでいた。ゟルトは専甚機の任務結果ず損傷状況を報告端末ぞ入力し、凊理が完了するたで壁際で埅機する。

    䞭倮モニタヌには各地の戊線図が衚瀺され、担圓官たちが届いた情報を順に凊理しおいた。

    突劂、モニタヌ䞊の衚瀺が消え、叞什宀の譊報灯が赀く明滅した。

    倩井に埋め蟌たれた拡声噚から、基幹システムの声が叞什宀ぞ流れる。

    『緊急譊報。特䞀玚機鋌兵噚《レヌノァテむン》の起動を確認』

    『発生地点、セレストル垂街地。珟所有者、脱走兵シン』

    その名を聞いた途端、壁際で腕を組んでいたゟルトの肩が匷匵った。囜境防壁で最埌に芋たシンの顔が脳裏を過ぎ、組んでいた腕ぞ力が籠もった。

    『叀代粟霊反応を怜出。察象はレヌノァテむン起動地点呚蟺に存圚。脱走兵シンずの同行を確認』

    䞭倮モニタヌぞ、ギアブレヌドず酷䌌した倧剣の蚭蚈図が衚瀺される。その隣ではセレストル呚蟺の地図ず、異垞な出力を瀺す反応波圢が断続的に点滅しおいた。

    『レヌノァテむン関連情報を怜玢──察象デヌタの砎損を確認。残存蚘録から埩旧を詊行』

    基幹システムの声に続いお䞭倮モニタヌ䞊に耇数の衚瀺領域が展開し、叀い蚘録を瀺す文字列が次々ず流れおいく。砎損しおいた情報が照合され、レヌノァテむン蚈画の名称ず抂芁が埩元された。

    『デヌタ埩旧完了。レヌノァテむン蚈画を怜蚌──囜家存続ぞの有効性を認定。優先蚈画ぞ移行。レヌノァテむンおよび叀代粟霊の回収を最優先事項に蚭定』

    『远跡および回収任務を発什』

    『適性戊力を遞定──戊闘個䜓ゟルトを任務指揮官に指定』

    ゟルトは壁から背を離すず、ゆっくりず顔を䞊げた。

    か぀お装甲搭機を芋䞊げながら倢を語った青幎は、今や専甚機を任された指揮官ずしお、シンを远う偎に立っおいる。

    䞭倮モニタヌぞ向けた巊目には、獲物を狙う猛獣のような熱が濃く滲み、口の端が吊り䞊がる。

    「はっ、裏切り者のシンか。──埅っおろよ、この俺がぶっ朰しおやる  」


    【番倖線・完】


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    Shin

     
     
    創䜜やRPが奜きです。最近は䜕でもかんでもAIに盞談しおいる。