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Photo bykanro055

SS#017_向こう側の部屋 / The Room Beyond the Mirror

    その少女は鏡を見るのが大好きだった。

    鏡の中では、右と左が入れ替わる。
    自分の部屋なのに少しだけ知らない場所になるのが面白いらしい。

    ある日、いつものように鏡を眺めているとき、少女は鏡に小さな綻びがあることを見つけた。

    そこだけ、鏡面がわずかに波打っている。指で押すと、ふにゃ、と弛んだ。


    少女は面白くなって、机の上にあったものを掴んでつつき始めた。それはハサミだった。危ないとは思ったけれど、鏡がどうなっているのか知りたかった。

    先端でそっと突く。

    ふに、ふに、ふに。

    数回つついたところで、ハサミの先が不意に鏡へ沈み込んだ。

    「あっ」

    引き抜こうとした時には遅かった。
    ハサミはするりと向こう側へ吸い込まれていった。

    鏡の向こうにも、こちらと同じ部屋がある。

    そして、こちらと同じように驚いた顔をした少女がいた。

    あちらの少女は、少し困っているように見えた。

    光学異性体とは、鏡に映したような関係にありながら、完全には重ならない分子のことです。生物の体では、アミノ酸は主にL型、糖はD型が使われています。



    あとがき的なもの:

    この話は、細菌の代謝物に含まれるDアミノ酸から発想を始めました。生物は左右非対称な分子でできています。もしそれが鏡写しになった世界があれば、と思ったところから、この鏡の国の話になりました。

    利き手が反対の人には、便利なハサミになったはずです。

     
     
    少し先の、ちょっと歪んだ未来の記録。 科学と日常の重なる場所から生まれるSF小咄。AIと共作。 更新:月水金(たぶん) Unsettling near-future flash fiction where science meets everyday life with AI

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