フェンさんの場合
「月末はすかんぴんよ」
バイト仲間のフェンさんはため息をつく。
使っている教科書がやけに古いせいか
彼女のあつかう言葉はいつだって趣がある。
「いきなりお金降ってきませんかね」
「与太話は嫌いだよ」
「じゃあ給料が入ったらなにします?」
「ケンタッキーでたらふく食べる」
口を大きくひらいて笑う。形のいい犬歯がのぞいた。
それから、と彼女はささやかな声で願いを挙げてゆく。
僕はゆっくりと折られる指をみつめた。
ひとしきり語り終えると、まんぷくだ、とふたたび笑った。
「そんなに食べることばっかりでしたっけ」
「おそらく漢字がちがうね」
ほっそりした腕をのばし、フェンさんは宙に文字を書いてゆく。
せわしなく動く指先を追うけれど、ちっとも思い浮かばない。
彼女は眉間にしわを寄せて、
さっきよりも大きなため息をつく。
「たくさんのしあわせだよ」