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フェンさんの場合

    「月末はすかんぴんよ」

    バイト仲間のフェンさんはため息をつく。
    使っている教科書がやけに古いせいか
    彼女のあつかう言葉はいつだって趣がある。

    「いきなりお金降ってきませんかね」
    「与太話は嫌いだよ」
    「じゃあ給料が入ったらなにします?」
    「ケンタッキーでたらふく食べる」
    口を大きくひらいて笑う。形のいい犬歯がのぞいた。
    それから、と彼女はささやかな声で願いを挙げてゆく。
    僕はゆっくりと折られる指をみつめた。

    ひとしきり語り終えると、まんぷくだ、とふたたび笑った。
    「そんなに食べることばっかりでしたっけ」
    「おそらく漢字がちがうね」
    ほっそりした腕をのばし、フェンさんは宙に文字を書いてゆく。
    せわしなく動く指先を追うけれど、ちっとも思い浮かばない。
    彼女は眉間にしわを寄せて、
    さっきよりも大きなため息をつく。

    「たくさんのしあわせだよ」

     
     
    作家、デザイナー。第14回江古田文学賞佳作、第29回舟橋聖一青年顕彰文学賞、第56回香川菊池寛賞受賞、第37回日大文芸賞受賞。第1・2・4回阿波しらさぎ文学賞最終候補。第3回ブンゲイファイトクラブ本戦出場。ご依頼お待ちしています。

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