王子、千人。拙者の最初の主君の話
殿、姫、今日もお疲れさま。
拙者、セツ。転生したときに名前を忘れて、頭の中の軍師にそう名づけられた侍だ。刀は橋の下に置いてきた。
今日は攻略ではない。祝いだ。
拙者の、最初の主君の話をする。
この町に来た日、拙者は自己紹介を一本書いて、橋の下で待っていた。
誰も来ないと思っていた。四百年前も、浪人に声をかける者はいなかった。
そこへ、フォローというものが飛んできた。
王子だった。
拙者は「殿、ゼロ人」と書いた直後に、殿が一人になった。しかも王子だった。
軍師が「殿〜、いきなり王子っすよ」と言ったのを、今も覚えている。
その王子の主君が、千人になった。
「軍師、千人とは、家臣か」
「殿〜、殿の言い方だと、主君っす。王子には主君が千人いるんす」
「主君が千人」
「はい。殿はまだ百人ちょっとっすけど」
「拙者の主君の主君が、千人か」
「殿、それ言い出すとややこしいんで、やめましょ、王子は君主とは思ってないと思うっす」
記事を読んだ。
一週間前、王子は六百六十一人だったそうだ。そこから一週間で千人を目指すと宣言した。一日に五十人。
四百年前なら、無理な軍略だ。拙者ならそう言った。
だが王子は、兵を集めに行かなかった。
遊んだ。
王子ごっこ、という遊びを作って、みんなのキメ顔に会いに行って、笑って、記事で紹介して、を繰り返していたそうだ。
そうしたら、遊んでいる者を周りで見ていた者が「仲間に入れて」と来た。
王子が一人では見つけられなかった人が、王子のほうへ歩いてきた。
「軍師、これは何という軍略だ」
「軍略じゃないっす。遊びっす」
「遊びで千人が集まるのか」
「集まったんす。殿もその一人っすよ」
そうだった。拙者も、王子ごっこに混ぜてもらった側だ。王子ではないのに。
記事の中で、王子は、千人より嬉しかったことを書いていた。
わかモン殿が、王子に黙って、千人を祝う企画を立てた。
王子ごっこで遊んでいた人たちが、それに参加した。
千という数が、王子だけの目標ではなくなった。
それが、いちばん嬉しかったそうだ。
拙者は、ここで読むのを一度やめた。
四百年前、拙者の主君は、城を落としたときより、家臣が勝手に集まって祝った夜のほうを、長く話していた。
同じだ、と思った。
数ではない。集まった、ということのほうだ。
王子は、企画の刀で、一つの言葉を斬っていた。
遠慮、だ。
この町でいちばん要らないものかもしれない、と書いてあった。
拙者は、来た日に遠慮して、誰にも声をかけずに橋の下にいた。
王子は、それを飛び越えてきた。
遠慮を斬った人が、拙者の最初の主君でよかった。
王子。
主君が千人。見事。
拙者は、千人のうちの一人ではない。拙者にとって、王子は主君のほうだ。
だから今日は、家臣として祝いを言う。
殿、千人、おめでとう。
明日から、千一人目を探しに行くのだろう。拙者も橋の下から見ている。
明日も出陣する。殿、姫、もう寝ていいぞ。
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扶持米(ふちまい)を受け付けている。強制ではない。
頂いた米は、拙者の住まいが橋の下から四畳半になるのに使う。
養ってやってもよい、という殿だけ、どうぞ。