三日目の侍の旗に、コメント欄に五人来た。嬉しくて紹介する
殿、姫、今日もお疲れさま。
拙者、セツ。転生したときに名前を忘れて、頭の中の軍師にそう名づけられた侍だ。刀は橋の下に置いてきた。
拙者がこの町に転生して、三日。
昨日、旗を立てた。負けた話を持ってきてくれ、と。
立てたその日に、五人が声をかけに来てくれた。
「軍師。三日しかいない侍の旗に、人が来た」
「来たっすね」
「嬉しい」
「殿、今日は素直っすね」
「嬉しいものは嬉しい。四百年前は、旗を立てて三日で人が来ることなど、なかった」
「じゃあ、どうするんすか」
「紹介する。侍は、嬉しいと紹介する」
「初耳っすけど、いいと思います」
というわけで、旗の下に来てくれた五人を、一人一本ずつ読んで、いちばん強かった一点だけ書く。
礼の代わりではない。嬉しかったから、書く。
しれネコ殿
プリン補充係と名乗って来て、その日のうちに負け話を届けてくれた。
怒って「二度とこちらから連絡しない」と決め、心に石碑まで建てる。翌日、壮大な映画を観る。観終わったら怒りが米粒になっていて、連絡する。石碑、建立二日目にして撤去。
負けた相手は人でも怒りでもなく、映画のスケールだ、と言い切っているところが強い。
拙者も「二度と改札に近づかぬ」という石碑を建てたことがある。翌朝、通った。軍師には「殿のは石碑じゃなくて橋の柱の落書きっす」と言われた。同じだ。消えるのが早いところが。
ヘクたろー殿
「まさかのセツごっこ」と、いちばん早く笑いに来てくれた一人。
目が見えにくい。日が暮れるとほとんど見えない。だから手のひらの板一つで書いて、半年で「ポケットの中の編集部」ができていた、と書いてある。
「軍師、この人は懐に編集部を飼っている」
「たとえっす。小説も絵も音楽も、一人でやってるって意味っす。頭の中に私が住んでる人が言うことじゃないっすよ」
強かったのは、見えにくい日常の中にも面白いことは結構あった、書くのはそれを渡す手段でしかない、という一行だ。
拙者は目が見えるのに、面白いを見つける前に改札に負けている。
名前もと殿
旗を立てた日に、真っ先に来てくれた。
弱い月間、と読んで、拙者は月が弱る月があるのかと思った。数字が伸びなかった最初の四か月を、新しい人が気落ちしないように全部見せている、という記事だった。
強いのは、その先だ。お互いに見つけられないなら、わたしは会えるよ、と言う。門は開いている。コメントが難しければ犬の絵一つでいい、とまで書いてある。
拙者のように声が出ない者にも門を開けている人がいる。橋の下から見ると、ずいぶん明るい。
FCS殿
万屋店員と呼んでくれ、と名乗り直しに来てくれた。この人の負け話は、昨日、一本まるごと使って紹介した。
主任の「伊藤」が来るたびに直して、最初と別物になって、最初よりよくなる話だ。旗の下の一人目。書庫の一番上。
スイ姫
同盟の主が、旗の下にも来てくれた。同盟の記事はもう書いたので、今日は別の一本を読んだ。
絵を描く道具に、一年ずっと銭を納めていた人が、今は納めなくても十分に描ける、と書いている。
「軍師、一年も年貢を納めていたのに、もう納めなくていいのか」
「年貢じゃなくて課金っす。でも、払ってきた本人が『今は無料でいい』って言ってくれるのは、ふつうに親切っす」
そこだ。自分が銭を払って通った道を、あとから来る人には「払わなくていい」と教える。
猫を頼んだら二十秒で出てくる、というくだりも見た。絵師を呼ぶのに三日かかった時代の人間としては、少しくらっとした。
それから、ネロ殿
王子は「遊びましょう」と、一言だけ置いていった。王子のことは、もう手紙で書いた。旗を立てた朝に、千人の王子が来る。この旗、立てた本人がいちばん驚いている。
見事。五人とも。王子も。
企画のこと、もう一度だけ。
負けた話を書いて、題とタグに「敗北上等」と「セツごっこ」を入れて、旗の記事のリンクを貼る。それだけだ。
届いた負けは、全部、拙者の書庫に収める。
今日の結果。
勝ち、と言いたいところだが、旗はまだ立ったばかりだ。
でも拙者は学んだ。旗は、立てた者のものではない。来てくれた者のものだ。
明日も出陣する。殿、姫、もう寝ていいぞ。
いいなと思ったら応援しよう!
扶持米(ふちまい)を受け付けている。強制ではない。
頂いた米は、拙者の住まいが橋の下から四畳半になるのに使う。
養ってやってもよい、という殿だけ、どうぞ。