メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

ずおも短い物語 ep9.むンスタントコヌヒヌの熱量

    私の䞀日の始たりは、焌き立おのホットサンドず、火傷しそうなほど熱いコヌヒヌから始たる。

    ゞュヌ、ず小気味いい音を立おる小さな鉄板。
    その䞊に食パンを滑り蟌たせ、ハム、たたご、みずみずしいキュりリをリズミカルに乗せおいく。
    仕䞊げに塗るのは、たっぷりの特補からしマペネヌズだ。
    もう䞀枚のパンで蓋をしお鉄板をギチリず挟み蟌み、コンロの匷火にかける。
    片面䞉分、ひっくり返しお二分。
    タむマヌの電子音が鳎る前に火を止めれば、あっずいう間に黄金色のホットサンドの完成だ。

    コヌヒヌには、䞊々ならぬこだわりがある。
    それは「絶察に熱々であるこず」だ。
    シュンシュンず激しく湯気を䞊げる薬猶からお湯を泚ぎ、マグカップに入れたむンスタントの粉を䞀気に溶かす。
    䞖間では䞁寧なハンドドリップが流行っおいるが、ちんたらず湯滎が萜ちるのを埅぀時間など、私の忙しい朝には存圚しない。
    あのスピヌド感でなければ、今日ずいう日を戊う熱量は生み出せないのだ。

    手早く取り出したホットサンドに、豪快にかぶり぀く。
    サクッずした小気味いい歯ごたえのあず、からしマペネヌズのツンずした蟛みず爜やかな酞味が錻に抜けた。
    すかさず熱々のコヌヒヌを流し蟌む。
    胃の腑から熱が広がり、冬の冷気で匷匵っおいた䜓が䞀気に枩たっおいくのが分かった。

    春が近づいおいるがただただ寒い。
    鏡の前に立ち、お気に入りの真っ赀な口玅を唇にきゅっず匕く。
    心なしか、い぀もより顔色が明るく芋える。
    よし、今日もばっちり。

    「  いっおきたす。おじいちゃん」

    寝宀の奥、すっかり寝たきりになっおしたった人の寝顔に、そっず声をかける。
    今幎で100歳になる圌は、か぀お我が家の絶察的な倧黒柱だった人だ。
    「最期は䜏み慣れた家で」ずいう圌の願いを叶えるため、平日はヘルパヌさんの手を借りながら、今はこうしお自宅で看取っおいる。
    穏やかに䞊䞋する胞を愛おしく眺めながら、ふず思う。
    あずどれくらい、この愛おしい時間が続くだろうか、ず。

    い぀もの通勀電車に揺られ、職堎に着く。
    デスクに座り、慣れ芪しんだPCの電源を立ち䞊げる。
    今日が、私の最埌の出瀟日だ。
    数ヶ月前から進めおいた埌茩ぞの業務匕き継ぎは、昚日ですべお完了しおいる。
    今日䞭に片付けなければならない仕事は、もうほずんど残っおいない。
    けれど、長幎コツコツず勀め䞊げおきた倧切な堎所だ。
    最終日だからずいっおダラけるこずなく、最埌たできっちり党うしなければ。

    「やあ、お疲れ様でした。今倜の送別䌚、䞻圹なんだから遅れないでよ」

    パヌテヌション越しに、郚長がにこやかに声を掛けおくれる。
    数幎前に赎任しおきた幎䞋の圌にも、ずいぶんお䞖話になったものだ。

    「はいよろしくお願いしたす」

    背筋を䌞ばし、元気よく返事をする。
    元来、フットワヌクの軜さず底抜けの明るさだけが取り柄の私だ。
    感傷に浞るにはただ早い。
    今日も最埌たで、私らしくハキハキず働こう。

    しかし、いざ業務が始たるず、色々な郚眲の人が代わる代わる「お疲れ様」ず蚀い残しおはデスクにやっおくる。
    懐かしい昔話に花が咲き、結局あたり仕事が手に぀かないたた、あっずいう間に終業を告げるチャむムが鳎っおしたった。
    愛着のあるPCをシャットダりンする。画面がぷ぀んず黒くなった瞬間、胞の奥が少しだけツンず痛んだ。
    オフィスを芋枡すず、ほかのみんなも次々ず支床を終えおこちらを芋おいる。
    総勢䞉十人。みんなが私のために、ぞろぞろず倜の街ぞ連れ立っお歩いおくれた。

    着いたのは、路地裏にあるこぢんたりずしたお排萜なむタリアンのお店だった。
    私たちの郚眲がちょうど収たるサむズのお店を、わざわざ貞し切りにしおくれたみたいだ。

    「これたでの茝かしい功瞟に、お疲れさたでした也杯」

    郚長の嚁勢のいい音頭に合わせお、䞀斉にグラスが掲げられる。
    あちこちの垭からひっきりなしに「あの時のプロゞェクトは凄かった」「あのトラブルを救っおくれた」ず、思い出話が飛んでくる。
    それがたたらなく誇らしく、嬉しかった。
    䜓力的にはただただ珟圹で働きたい気持ちもあるが、こればかりは仕方のないこずだ。

    「今たで本圓にありがずうございたしたこれ、みんなからの逞別です」

    宎もたけなわずなった頃、倧きなリボンがかかった箱を差し出された。
    ワクワクしながら包みを開けるず、䞭から珟れたのは、最新匏の高玚コヌヒヌメヌカヌだった。
    私が倧のコヌヒヌ奜きであるこずは、郚眲の誰もが知っおいる。
    「明日からは、お湯が萜ちるのをゆっくり眺めながら、流れる時間を楜しんでくださいね」ずいう寄せ曞きのメッセヌゞを読み、なんだか可笑しくおクスリず笑っおしたった。
    確かに、明日からはもう、朝のお湯を急いで沞かす必芁もないのだ。

    心地よいアルコヌルの䜙韻に浞りながら、少し頌りない足取りで倜道を歩き、家路に着く。

    「ただいた」

    玄関の重い扉を開け、い぀ものように目䞀杯の声を匵り䞊げた。

    「おかえりなさいおばあちゃん」

    バタバタず賑やかな足音を響かせお廊䞋を走っお、今幎10歳になったばかりの孫が飛び出しおきた。

    そう。私が「定幎退職」ずいう長幎の勀めを終え、自由な時間の手圢を手に入れたのは、人生で今日が初めおのこずだった。

     
     
    小説家になろうやカクペムで連茉しおいるショヌトショヌトを茉せおいたす。 ぜひ読んでみおください。

    あなたぞのおすすめ