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もしその窓が開いたなら 第十䞃章

    第十䞃章 届いた蚀葉、届かぬ思い。

    春野奏倚芖点


     スマヌトフォンの画面に、通知が䞊んでいた。

     朝の緎習前、ロッカヌルヌムで芋た。

     ペル・゚カテリナ、四回転サルコり成功。

     ゚リック・ボンパヌル杯、自己ベスト曎新、優勝。

     画面をスクロヌルした。

     動画のサムネむルが、いく぀も䞊んでいた。

     芳なかった。

     電源を切っお、リンクぞ向かった。


     氷の䞊に立った。

     い぀も通りの朝緎だった。

     でも、少しだけ、い぀も通りではなかった。

     越田コヌチが、い぀もより䞀蚀倚かった。

    「ペルの結果は知っおるな」

    「はい」

    「それだけだ。今日の緎習をやればいい」

     スケヌトカナダの前ず、同じ蚀葉だった。

     あの時ず違うのは、今床は自分が勝った偎だずいうこずだった。

     勝った偎の緎習が、どういうものかは、ただ分からなかった。


     スケヌトカナダが終わっおから、スケゞュヌルが倉わった。

     取材が曎に増えた。

     スポンサヌ関連の撮圱も入った。

     マネヌゞャヌが、朝の送迎に付くようになった。

     遠藀コヌチが、緎習メニュヌにフィゞカルの項目を増やした。

     シニアで勝ったこずで、たた環境が倧きく倉わった。

     勝぀前は、こんなに人が動かなかった。

     その倉化に、慣れなかった。

     慣れる前に、次が来る。


     次——NHK杯囜際フィギュアスケヌト競技倧䌚。

     倧䌚たであず日。

     ペルの結果を远いかける番だずは、誰も蚀わなかった。

     でも、みんな、倚分そう思っおいた。

     日本スケヌト連盟ず囜際スケヌト連盟ずの取り決め。

     私ずペル遞手を䞭心に、フィギュアスケヌト党䜓を盛り䞊げる。

     二人がグランプリシリヌズの各倧䌚で倧技を決め合っお、グランプリファむナルで盎接察決する。

     このこずはペル遞手陣営も了承しおいる。

     ゚リック・ボンパヌル杯で四回転サルコりずいう倧技を決めお、優勝したペル遞手。

     取り決めを忠実に守っおいる。

     次は、私の番になる。

     自囜開催。

     初めおの、シニアで日本の芳客の前での詊合になる。

     スケヌトカナダずは違う皮類の緊匵が、䜓のどこかにあった。

     負けられない、ずいう緊匵ではなかった。

     もっず、茪郭のはっきりしないものだった。


     構成の最終確認は、越田コヌチず遠藀コヌチ、䞡方が同垭した。

    「あれはただ解犁しないずいう事ですね」

     遠藀コヌチが、最初にそう蚀った。

     越田コヌチは、少し間を眮いおから頷いた。

    「グランプリファむナルたで、枩存する」

    「ペル・゚カテリナ陣営の、隠し玉察策ですね」

     その通りだず思った。

     ゚リック・ボンパヌル杯で、ペル遞手は四回転サルコりずいう倧技を決めた。

     だけど、四回転以倖の構成はスケヌト・アメリカの構成を倉えただけで、根本的には䜕も倉わらない。

     それは、ただ技術的な䜙力を残しおいるようにしか思えない。

     私自身がそうだ。

     NHK杯では、四回転トゥルヌプは倉わらず入れる。

     ショヌトもフリヌも、構成的にはカナダず違っお芋えおも、技術だけで芋ればスケヌトカナダの時ず同じになっおいる。

     同じ歊噚で、もう䞀床戊う。

     それだけのこずだった。

    「奏倚の䜓調面は」

    「䌊藀コヌチからは、今の所、特に問題はないず。

     ただ、普通のフィギュアスケヌト遞手ずは違う調敎法なので、結果はただ分からないずしか」

     遠藀コヌチが、そう説明した。

     カナダでの詊合の埌、時差ボケ調敎の期間を陀いお——それすら緎習の䞀環ずしお、垰囜埌の䞀週間、培底的に運動匷床を高めた緎習を行った。

     詊合盎埌は、倚くの遞手が数日は緎習匷床を萜ずす。

     私の堎合は、匷床を高めた緎習を行った。

     ——スケヌトカナダの詊合を本番ずせずに、緎習ずしおスケゞュヌルに組み蟌み、技の完成床を䞊げる。

     カナダの倧䌚は緎習だったず蚀うず、メディアに誀解されるかもしれない。

     実際、私自身も党力で挑んだ。

     でも、それも緎習ず芋立おお組み蟌む。

     NHK杯も、コヌチ陣は高匷床緎習に芋立お、終了埌、䜓調次第ですぐに匷床の高い緎習を行う。

     その埌に䌑みを挟みながら、匷床を萜ずしお疲劎を抜く。

     匷床を萜ずした緎習で、私のもう䞀぀の歊噚の完成床を䞊げる。

     グランプリファむナルずいう本番を目指しお、そこたでの行皋を党お緎習ずしお組み蟌む。

     それが、コヌチたちが決めた、ペル遞手に勝぀ためのトレヌニングの方針だった。  


     NHK杯前のメディアデヌがあった。

     蚘者垭が、い぀もより倚かった。

     地元開催だから、ずいうのもあるだろう。

     優勝した埌だから、ずいうのも。

     いく぀かの質問には、もう慣れた答え方があった。

     調子はどうですか。

     順調です。

     目暙は。

     自分のできるこずを、粟䞀杯やるこずです。

     甚意しおいた蚀葉を、順番に出した。


     最埌の方で、䞀人の蚘者が聞いた。

    「シニアデビュヌの詊合前、緊匵しおいたず思いたすが、支えになったものはありたしたか」

     甚意しおいた答えは、なかった。

     少し、間があった。

    「シニア転向前に、あるむベントでファンの方からいただいたメッセヌゞです」

     蚀葉を遞びながら、続けた。

    「付箋に曞かれた蚀葉なんですが、『自分の力を信じお心から競技を楜しんでください』ず」

     蚘者が、少しペンを止めた。

    「その方に぀いお、䜕か知っおいるこずは」

     喉の奥に、名前になりかけたものがあった。

    「いいえ」

     迷わず答えた。

    「誰かは、分かりたせん」

     嘘では、なかった。

     心圓たりは、ある。

     でも、それが本圓に同じ人なのか、確かめる術はない。

     確かめないたたでいるこずを、もう随分前に遞んでいた。

     でも、ず続けた。

    「でも、私にずっお、ずおも倧切な蚀葉です」

     それ以䞊は、蚀わなかった。

     蚀葉にするず、䜕かが違っおしたう気がした。

     蚘者は、それ以䞊は聞かなかった。


     メディアデヌが終わっお、控宀に戻った。

     麻衣から、メッセヌゞが届いおいた。

    ※さっきの䌚芋、芋おたよ 付箋のこず話したんだね ※

     短く返した。

    ※うん ※

     なんずなく、話したい気分だった。

     理由は、自分でもよく分からなかった。


     倜、家に戻るず、母に「お颚呂は」ず聞かれた。

     食事は、䌚芋埌に橘さんが自信を持っお勧められるずいうむタリアンバルで摂るこずを母に䌝えおあった。

     メニュヌも、私の調敎に合わせた特別仕様だった。

     母に「朝に入る」ずだけ答えお、そのたた郚屋に入り、ベッドの䞊に倒れ蟌んだ。

     正盎、緎習よりも䌚芋の方が疲れる。

     今回は海倖のメディアも来おいたので、通蚳さんを介しおいるずはいえ、蚀葉に気を遣った。

     緎習の方が、䜙蚈なこずを考えずに集䞭できる。

     郚屋の倩井を芋おいた。

     付箋は、今も手垳に貌っおある。

     字を、䜕床も芋た。

     誰が曞いたのかは、本圓に分からない。

     でも、あの日、䌚堎のどこかにいた人だずいうこずは、分かっおいる。

     同じ空気を吞っおいた人。

     それだけで、十分だった。

     がんやりず考えおいたら、二十分ほど時間が経っおいた。

     早く眠らないずいけない。

     早く起きおシャワヌを济びるから。

     明日も緎習があるのだから。


    䜐藀壮芖点


     十䞀月二十䞉日。朝。

     どのテレビ局のニュヌスも、スポヌツはペル・゚カテリナがトップを食った。

     どの局に倉えおも、ペル・゚カテリナの映像が流れた。

     四回転サルコり。

     着氷。

     自己ベスト。

     画面の䞭で、倧きく映し出された点数を芋た。

     奏倚さんが超えなければならない数字が、たた䞀぀増えたずいうこずだった。

     新聞も、スポヌツ欄はペル遞手が金メダルを持぀写真が䞀番目立っおいた。

     ゚リック・ボンパヌル杯の前は、どのニュヌスも四回転トゥルヌプをシニア倧䌚で成功させた奏倚さん䞀色だった。

     倚分、今日からは四回転サルコりのペル遞手ず、四回転トゥルヌプの奏倚さんの察決がメむンになるだろう。

     マスコミは、そういう構図を䜜っお煜るのが仕事のように思える。

     決しお、仲良しにはしない。

     実際、ペル遞手ずカナタさんが知り合いで、仲良しなのかどうかも分からないが。

     翌日の倜、たたたた開いたニュヌスアプリに、奏倚さんの蚘事があった。

     NHK杯前の蚘者䌚芋。

     芋出しに、「付箋の蚀葉に励たされた、春野奏倚の倧切な蚀葉ずは」ずいう蚀葉があった。

     蚘事を、読んだ。

     付箋の話が、茉っおいた。

     ——自分の力を信じお心から競技を楜しんでください

     ——誰かは、分かりたせん。

     ——私にずっお、ずおも倧切な蚀葉です。

     その郚分だけ、䜕床も読み返した。


     自分のこずだずは、思わなかった。

     思えなかった、ずいうのが近い。

     その付箋を曞いたのは、確かに自分だ。

     それは、間違いない。

     ——自分の力を信じお心から競技を楜しんでください。

     確かに、そう曞いた。

     あの日、䌚堎のロビヌで配られた付箋の束から、䞀枚だけ取った。

     ペンを借りお、䜕を曞くか迷った。

     曞いおは消し、消しおは曞き盎した。

     結局、シンプルな蚀葉に萜ち着いた。

     柄にもないこずをしおいるず、曞いおいる間ずっず思っおいた。

     曞き終えたら、逃げるように受付ぞ向かった。

     名前を曞く欄は、空欄のたたにした。

     でも、蚘事の䞭の「倧切」ずいう蚀葉ず、自分の間には、距離があった。

     あの日、䌚堎の最前列に座っおいただけの人間。

     名前も知らせず、姿も芋せず、ただ蚀葉だけを眮いおいった人間。

     そんな人間の蚀葉が、誰かにずっお『倧切』な蚀葉にたでなり埗るのか。

     分からなかった。

     もしかしたら、他にも同じようなこずをした人がいるのかもしれない。

     自分以倖の、誰かのこずを蚀っおいるのかもしれない。

     そう考える方が、自然だ。

     蚀葉の䞻は、自分ではない。きっず。

     あの䌚堎には、䜕癟人もの芳客がいた。

     付箋を曞いたのだっお、自分だけではなかった。

     同じような蚀葉を、他の誰かも曞いたかもしれない。

     偶然、自分の曞いた蚀葉ず近い蚀葉になっただけかもしれない。

     考えれば考えるほど、可胜性はいくらでも出おきた。

     その方が、郜合が良かった。

     郜合が良い、ず気づいた瞬間、それ以䞊考えるのをやめた。


     スマホを、眮いた。

     郚屋の䞭は、静かだった。

     公園で子䟛たちに型を教えた時のこずを、思い出した。

     あの子たちの目に、自分がどう映っおいるのかも、分からない。

     月䞀床の安川先生の倪極拳教宀で、耒められるこずがある。

     ——䞋半身がずおも安定しおいる。

     ——身䜓の力がほどよく抜けおいお、理想に近い。

     ——これだけ䞋地が出来おいれば、今の幎霢から始められおも、本家公認レベルにたで達するこずが出来る。

     ——指導者ずしお孊ぶべき事はあっおも、求道者ずしおの姿勢は既に熟達の域に達し぀぀ある。

     その床に、玠盎に受け取れない自分がいる。

     これは、昔からそうだった。

     詩織のこずも、そうだった。

     自分の運呜を倉えられるのは自分だけ。

     あの日蚘の䞀行を、詩織が本圓はどんな気持ちで曞いたのか、今も分からない。

     分からないこずは、分からないたたにしおおくしかない。

     そう思っおきた。

     今回も、倚分そうなる。

     薬の入った袋が、机の䞊にあった。

     毎朝、決たった時間に飲む。

     房宀ブロックに効く薬はない。

     埐脈に䌎う「めたい」「立ちくらみ」を緩和する挢方薬でしかない。

     䞀人で遠出をするなら、䜙分に持っおいく必芁がある。

     医者には、無理をしなければ問題ないず蚀われおいる。

     無理、ずいう蚀葉の範囲が、自分でもよく分からなかった。

     新幹線に乗っお、知らない街の、知らない垭で、二時間近く詊合を芳る。

     それが無理に含たれるのかどうか、考えおも答えは出なかった。

     それでも——ず思い、NHK杯の日皋を、もう䞀床調べた。

     十䞀月二十八日から䞉十日。

     倧阪。

     女子シングルは、二十八日がショヌトプログラム、二十九日がフリヌスケヌティングになる。

     䌚堎たでの行き方、ホテルの空き状況、チケットの発売情報。

     䞀぀ず぀、調べおいった。

     NHK杯——行きたいずは思っおいた。

     でも、本圓に行くかどうかたで、決めおいたわけではなかった。

     ただ、調べおいたら、指が止たらなかった。

     チケットのペヌゞを、開いたり閉じたりした。

     カヌトに入れお、そのたた䜕もせずに、時間だけが過ぎた。

     フリヌの郚だけにするか、ショヌトも含めるか。

     垭の䜍眮を、䜕床も芋比べた。

     倀段は、気にならなかった。

     迷っおいたのは、そこではなかった。


     チケットを取った。

     新幹線の予玄もした。

     倧阪は、行ったこずがなかった。

     土地勘は、たるでない。

     それでも、進めた。

     自分のこずだず確信しおいたわけではない。

     今も、確信はない。

     ただ、行かなければ、ずいう感芚だけがあった。

     理由を、うたく蚀葉にできなかった。

     蚀葉にできないたた、予玄は確定した。

     確認メヌルが、画面に衚瀺された。

     乗車日、座垭番号、発着時刻。

     文字の矅列を、意味もなく目で远った。

     画面に衚瀺された日付を、もう䞀床芋た。

     十䞀月二十九日。

     フリヌの日。

     宿泊ではない。日垰りになる。

     その日たで、あず䞀週間もなかった。

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    yasu.

     
     
    これは私が実際に経隓した出来事を基にした小説です。名前や蚭定は倉えおいたすが、男性䞻人公は私自身がモデルです。文才はありたせんが、AIの力を借りながら、どうしおも曞かずにはいられなかった、私の蚘憶の蚘録です。

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