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【考察】過去投稿への「誤いいね」は現代の「山彦(やまびこ)」か?――静寂のタイムラインと、暴かれた足音

    こんにちは。民俗学准教授の東条紗季です。

    ​深夜のベッドの中。ふと気になった昔の恋人、あるいは仕事先の人のSNSアカウントを開き、数年前の投稿まで延々と遡ってスクロールしていた時。

    スクロールしようとした親指がほんの数ミリ滑り、投稿の隅にある「ハートマーク」に触れてしまった瞬間。画面にフワッと赤いアニメーションが広がり、全身からスッと血の気が引いた経験はないでしょうか。

    ​自分が「今、あなたの数年前の過去を覗き見しています」という極めて恥ずかしい事実が、デジタルの波に乗って一瞬で相手のスマートフォンへ通知されてしまうこの恐怖。

    民俗学の視点から見ると、これは静かな山の中で発した声を真似て、大声で響き渡らせる妖怪、**「山彦(やまびこ)」**が、現代のタイムラインという山奥で引き起こしている怪異に他なりません。

    ​1. タイムラインという名の「深山(みやま)」

    ​山彦は、山の奥深く(深山)に棲むとされる妖怪です。

    私たちが他者のSNSを数年分も遡って閲覧する行為は、まさにこの「深山」に足を踏み入れることに似ています。最新の投稿という「人里」を離れ、すでに誰の目にも触れなくなった数年前の過去の投稿へと深く潜っていく時、私たちは「ここは誰も見ていない」「自分は完全に透明な存在である」という安心感(錯覚)を抱きます。

    しかし、その静寂の奥深くにこそ、音に敏感な怪異が息を潜めているのです。

    ​2. 秘密の足音を「通知」に変換する魔物

    ​山彦の恐ろしさは、本来なら自分一人にしか聞こえないはずの「小さな声や物音」を、山全体に響き渡る大音量へと変換してしまう点にあります。

    ​タイムラインの深山をこっそり歩いていたあなたが、誤って「いいね」を押してしまったそのタップ音。現実世界ではカツッというかすかな音に過ぎません。しかし、アルゴリズムという現代の山彦は、その微かな足音(タップ)を即座に拾い上げます。

    そして、数キロ、数千キロ離れた相手のスマートフォンのロック画面に「〇〇さんがあなたの投稿にいいねしました!」という巨大な叫び声(プッシュ通知)として響き渡らせるのです。透明人間であったはずのあなたの存在は、山彦の拡声によって一瞬にして白日の下に晒されます。

    ​3. 「いいね取り消し」が通用しない絶望のこだま

    ​この怪異の最も残酷な点は、一度響き渡った山彦の声は、決して取り消すことができないという事実です。

    ​「しまった!」と慌てていいねを解除(送信取り消し)したとしても、それはあくまであなたの手元の画面上の話に過ぎません。山彦が放った「プッシュ通知」というこだまは、すでに相手の端末へと到達している可能性が高いのです。

    相手が朝起きて、通知センターに残された「数年前の投稿へのいいね」の文字を見た時の、あの言葉にできない不気味さ。取り消したことによってかえって「焦って消した」という生々しい執着が浮き彫りになり、事態はさらに悪化します。山彦は、人間の隠したい本性(覗き見の欲望)を最も残酷な形で世界に暴露するのです。

    ​結論

    ​数年前のタイムラインという山奥へ足を踏み入れる時は、決して画面の端(いいねボタンの周辺)に指を置いてはいけません。

    ​もし不幸にも指が滑り、画面に赤いハートが飛び散ってしまったら。

    もはや言い訳や取り消しという小細工は通用しません。山彦に居場所を暴かれた旅人として、「私はあなたの過去に興味を持って見に行きました!」と、潔く開き直るしかないのです。

    深夜のタイムラインの深追いには、十分にご注意ください。

    ​筆者コメント

    ​最後まで読んでいただきありがとうございます。

    かく言う私も数年前、学会で激しく対立している他大学の教授のX(旧Twitter)を遡ってアラ探しをしていた際、あろうことか「愛犬のトイプードルと戯れる5年前の動画」に誤って渾身のいいねを押してしまったことがあります。

    慌てて取り消しましたが、翌日の学会でその教授とすれ違った時の、あの生温かい「見られていたと知っているぞ」という視線は一生忘れません。山彦の呪いは、現実世界の人間関係まで確実に破壊します。

    ​(活動継続のためのサポートのお願い)

    この記事が面白かった、あるいは「過去投稿への誤いいねで心臓が止まりかけたことがある」という方は、ぜひ記事の購入やサポート(投げ銭)をお願いいたします。

    皆様からいただいた浄財は、私の指の滑りを止めるための強力な呪具(摩擦係数の高いスマホ専用の指サック)の購入費用として、大切に使わせていただきます。

    これからも、このけったいな現代の怪異を共に観察し続けていきましょう。

     
     
    【都市伝説は、現代の神話である】 民俗学を専攻する30代女性准教授が、ネットの怪異を「なぜ人は語るのか」という視点で解剖します。恐怖の正体をアカデミックに紐解き、オカルトを「教養」へ。不可解な物語の裏に潜む、現代人の欲望と社会構造をフィールドワークする研究ノート。

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