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とある介護士の記録|第四話 休憩室

    休憩室

    「お疲れ様でーす」

    せっかく一人、静かにお昼を楽しんでたのに。よりによって、坂田と岡村だ。さすが私、ツイていない。

    坂田は、一つに束ねていた白髪まじりの髪をほどいた。
    「あーあ、本当、疲れるわよね」とお弁当をレンジに入れ、その横で岡村は「うんうん」と言いながら、レンジの順番待ちをしている。さあくるぞと身構える。

    「ねえ、ゴミ捨て、忘れていたわよ。私、手が離せなかったの、見てわからなかった?」
    「テーブルは拭き残しがあったし。結局私が拭いたのよ?」
    「ちゃんと、仕事をしてくれる?」
    「そうよ、みんな忙しいんだから。」

    あんたらがぺちゃくちゃと喋ってばっかだから、仕事が終わらないんだろうが!とは言わない。飲み込んだ言葉で笑顔を作る。少し口元がひきつった。

    「すみません。気を付けます」

    「人手が足りないんだし、少しの意識が大切なんだから。よろしくね」

    もう一度「すみません」と言いながら、一気に味のしなくなった唐揚げを口に放り込んだ。
    彼女らは満足したのか、もう私のことなど見ていなかったが、張り付いた笑顔は取れなくなってしまった。

    「504の佐々木さん、今日もお風呂拒否だったわ。あんな臭いのにさ、よく平気よね。まあでも、汗かかずに済んでラッキーだけどね。」と坂田はケラケラと笑っている。

    岡村は、その体型からは想像できないほど小さなお弁当箱をあけながら、
    「うんうん、そうよね」
    と同調している。

    坂田がいなければ、率先して悪口を言うくせに。女の嫌なとこを煮詰めたような..と思いかけてやめる。私だって似たようなものだ。

    その小さなお弁当に、何が入っているのかと横目で見る。

    「ねぇ」
    急に話しかけられて、慌てて目線を戻した。
    「そういえばこの前、大変そうだったわね。ほら、108の洗面台事件」
    岡村は、ニヤニヤと私に問いかける。

    「なに?なに?」
    坂田は、身を乗り出し、ことの顛末を聞き終えると、またスイッチをオンにしたようだ。鬼婆め。

    「服部さんの認知症、だいぶ進んでるわねぇ。片付けも大変だったでしょう。でもね、手伝っちゃだめよ。担当があるんだから。自分の仕事が優先よ?」

    なるほど、私が手伝ったことが気に食わないらしい。
    「すみません。私の方は少し余裕があったので」

    「だめよ!」
    坂田は少し声を荒げる。

    「あの子、真壁さん。全然仕事できないでしょ。やらせなきゃ。」
    「そうそう!私も、それで手を出さなかったのに」

    ニヤニヤしやがって。なにもしなかっただけでなく、こんなめんどくさい状況を作った岡村は、坂田よりもタチが悪い。

    「すみません」

    「あなたねぇ」
    坂田がこれみよがしに目を細める。
    「すみません、すみませんってね、いつもヘラヘラ、そればっかり。本当にわかってるの?あなたが手を貸したことで!結局迷惑がかかるのは私たちなの!いい人ぶって、大した仕事もしないで、他人の仕事に手出して。」
    どんどん早口になる坂田の唾が、私のお弁当にかからないかとヒヤヒヤして、話が入ってこない。

    どうでもいい。

    「すみません」

    どうでもいい。
    この後の仕事はなんだっけ。そうだ、302だ。大山の意地悪な顔を思い出す。

    あ、辞めよう。

    ———

    休憩がおわり、午後の分の記録用紙を取りに行く。

     
     
    洗濯が終わっても、回り続けてる気がする。 誰にも見られないこの場所で、ぐるぐるしてる思考や言葉を、すこしだけ外に出してみる。 たぶん、乾く前の方が、おもしろい。

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