
【エッセイ100冊読破:2冊目】『ワイルドサイドをほっつき歩け』から考える、日本と英国の「不寛容」の正体
「物価が高騰していて、家計が苦しい」
「いろいろ節約しているけれど、もう無理だ」
なんて街の声が流れたかと思うと、
「日経平均が最高値を更新」
とアナウンサーが告げる。
今の日本のニュースである。
生活は苦しい、のに、景気はいい。
なんでや?
という摩訶不思議な2026年の日本の状況を、
10年弱前から経験していたのがどうやら英国らしい。
というのが、ブレイディみかこ氏の
『ワイルドサイドをほっつき歩け――ハマータウンのおっさんたち』
に書かれている。
2020年出版なので、本の内容自体は2010年代後半と思われる。
EU離脱の国民投票や、
その投票で離脱に決まっちまったことなんかも出てくる。
なんと夫婦のうち、
やり手の奥さんが残留派(「私の仕事はEU内移民で成り立ってるの!」)
旦那さんが離脱派(あんまりしっかり考えてないっぽい)で、
EU離脱が家庭内に波乱を巻き起こしたりしている。
エッセイ読んだら、個人の生活から世の中の動きがわかるんちゃう?
という私の目論見どおり、この企画にピッタリな本である。
著者は、1990年代に英国に渡り、
アイルランド系英国人の男性と結婚した。
結婚相手の方がダンプ運転手の、ザ・労働者。
自然と、周りに労働者階層の方が多くなり、
そういった「おっさん(おばさん)たち」に焦点を当てたのが本書。
おっさん、といえば、
保守的で、激情的で、頑固。
扱いづらい人類の代表格といったところだろうか。
かくいう私も、
「このおっさんが上にいる限り、世の中はよくならへん!!!」と
わがままな頑固じじいにむかつくことは多々ある。
が、本書は、このおっさんたちもいろいろあったんだぜ、
と語りかけてくるので、
おっさんも苦労してるんやなあ…
と少しだけ寛容になれる。
この「寛容になれる」というのが本書のキーだ。
最初に戻ろう。
なんたって、
景気はいい(株価は上向き)なのに、生活は苦しい、
の正体は、不寛容かもしれないからだ。
本書でも、欧州の景気はいいのに、著者の住む地域では路上生活者が多い、
という話が出てくる。
そして、その原因は「緊縮財政にある」と。
これが何なのかと言うと、一言でいえば「国の借金が膨れ上がってますから、返さないと我々はえらいことになります」と人民を脅して政府が様々な分野での財政支出を削減することだ。つまり、政府が末端庶民のためにカネを使わなくなるということであり、例えば、英国の地方の町ではインフラ投資が長年行われていないために「アンティークをインフラに使うな」というジョークが流行している。病院や学校も規模縮小と人員削減の一途を辿り、地元の公共の建物が続々と閉鎖になっている。
今の日本もまさに、
「末端庶民にカネを使わない」に舵を切ろうとしている
(もう切ったのかもしれない)。
生活保護が受けづらくなったり、
医療費の負担が増えたり、
年金めっちゃ納めた割にもらえる額が少なかったり。
要するに国が弱者に不寛容になるということであり、
強い(=健康で金持ちでエリートで…)ことが正義!となる。
そして、弱い人は見捨てられ、
見捨てられるから生活は苦しい。
こうなるともう、
みんな自分のことで精いっぱいになり、
自分より弱い人にヘイトが向けられ、
誰も幸せになれなくなるのでは?と思った。
おっさんは昔なら、
長老なんて呼ばれて、
世の中ででかい顔していられた存在のはずだ。
が、今はもう、長老よりもGoogle、よりもAIがいろいろ教えてくれて、
しかも高齢化で現役でいなくてはならない時期が長く、
おっさんにとっても受難の時代である。
本書にでてくるおっさんは、
時々移民やその他弱者に対してヘイトを向けるなど、
おっさんらしさを発揮しながらも
(このおっさんらしいも偏見がすごいのでよろしくないかもしれないが)、
自分の居場所を守るために抵抗したり、
パートナーを変えたり、仕事を変えたりしながら、
したたかに生きている。
昔を懐かしみながらも、
世の中の変化に一生懸命ついていこうとする。
そんなおじさんにちょっときゅんとする。