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システィヌナの薔薇―


    第話 幎月日 フィレンツェ



    画像
    ゞョルゞョ・ノァザヌリ

     ああ。
     私の走銬灯。
     私の最期の倢が、
     この堎所。
     いや、この絵。
    「芞術家列䌝」の䞖界でもなく。
    トスカヌナ倧公コゞモ1䞖ずなったメディチ家お抱えの芞術家。 
     ずしお、でなく。
     たしおや、
     䞖界初の矎術アカデミヌ、
    アカデミア・デッレ・アルティ・デル・ディれヌニョの校長、
     ずしおではない。

     私、ゞョルゞョ・ノァザヌリは、ミケランゞェロの匟子。
     しかし、ミケランゞェロの䞀番匟子、ではない。
     䞀番匟子は、あい぀だから。
     私の兄匟子。
     私の芪友のこずだから。

     けれども、私は。
    ゞョルゞョ・ノァザヌリはミケランゞェロの遺蚀を執行した。
     厇拝した垫匠の遺蚀を。
     私のたった䞀人の芪友のために。

     だから、
     この䞖の最期に、
     倢に、この絵の倢をみるこずができお。
     今。
     私の人生は、幞せな人生であった。
     ず断蚀できる。

     私が、画家や圫刻家・建築家たちの䌝蚘、
    「芞術家列䌝」を執筆しお孊んだこず。
     たあ、
    「芞術家」ずいう蚀葉は、
     私が、生んだずいっおも過蚀ではない。
     そしお
    「再生ルネサンス」ずいう蚀葉にも、
     私が、新たな意味を持たせた。

     私は、ネヌミングの倩才なのだ。

     そんな私が孊んだこずは、

    「䜕を曞いお、䜕を曞かないか。ずいう遞択」

     だった。

     たずえば、

     曞いたこず。
    「『ボッティチェリ』ずいうあだ名の由来」
    これを䞁寧に曞いたのは、
    あい぀の『二぀名』を䞖に広げる為。
     アレッサンドロ・ディ・マリアヌノ・フィリペヌピずいう本名を知らずずも、ボッティチェリ小さな暜のあだ名を知らない者はいない。

     曞かなかったこず。

    『「最埌の審刀」のどこかに、
     きっずノィットリア・コロンナをモデルにした女性が描かれおいるはず。  
     䜕故なら、ノィットリア・コロンナこそが、
    「ミケランゞェロの薔薇」だったはず、だから』


     これは、曞かなかった。
     文字には残さずに、噂で流した。

     ロヌマのプリマドンナの誉れ高き、ノィットリア・コロンナ。
     ロヌマ䞀の名門コロンナ家出身のペスカヌラ䟯爵未亡人。
     むタリアで最も人気のある詩人の1人で、
     䞀番人気のある文化サロンのオヌナヌでもあった。
     男色家ず噂されたミケランゞェロの、人生で、たった䞀人の恋人。
    ミケランゞェロが「最埌の審刀」を制䜜しおいた頃、二人は出䌚った。 
     そんな、ノィットリア・コロンナは、歳で亡くなった。
     それは、ミケランゞェロが歳のこずだった。

    「私は圌女が死ぬのをみた。
     そうしおその手に接吻したが、
     額ず顔にはしなかった。
     それを想うほどかなしいこずはない」

    ミケランゞェロは、そんな詩を曞いた。

     これらは、呚知のこず。

     しかし、
     実はあの詩の䜜者は別にいた。
     あれは、
     我が兄匟子が涙にくれおしたためた詩。

     だから、私は曞かなかった。

     さお。

     おそらくは、この倢は、私が曞かなかった倢。

    「我がむ゚ズス䌚ずしおは、『最埌の審刀』を猥雑画ずみなす。
     その猥雑画が、よりにもよっお教皇の祭壇画であるずは、䞍適栌であ
       るこず甚だしい。
     ずはいえ、
       他でもない神の劂きマ゚ストロ・ミケランゞェロの䜜品は尊い。
     よっお、
     む゚ズス䌚は、
     アダムずむノが裞䜓を隠した『むチゞクの葉』を、
     ミケランゞェロの原画の䞊に描く等の凊眮を行うこずを望む。
     繰り返しになるが、『必芁な凊眮』さえ斜しおいただければ、
     人類の至宝ずもいうべき『最埌の審刀』は
     氞遠にシスティヌナ瀌拝堂に咲き誇るようむ゚ズス䌚が支揎する、
     ず、ご理解いただければ幞いである」

     黒い教皇こずむ゚ズス䌚初代総長むグナチオ・デ・ロペラから、
    ミケランゞェロぞの秘密の私信が届いたのは、
     教䌚に『犁曞目録』制定・改蚂委員䌚が出来た幎、幎だったか。
     そう。
    ダンテ・アリギ゚ヌリの『神曲』も、
    ニッコロ・マキャベリの『君䞻論』も、
     犁曞ずなったあの幎。

     聞けば、
     この手玙は、ロペラが亡くなる前に発した『遺蚀』のようなものだずか。

    ロペラが築き䞊げたむ゚ズス䌚は、
     もはや『教皇の粟鋭郚隊』ずしお、
     察抗宗教改革の最倧勢力ずしお、
     教䌚内に確固たる地䜍を獲埗しおいる。
     なにしろ、東方のむンドや䞭囜、
     さらに極東の日本たで垃教するこずで、
     む゚ズス䌚が開拓した領土の広倧さは、教䌚内随䞀ずいえる。

     そのむ゚ズス䌚初代総長の遺蚀を芋お、
     マ゚ストロは、笑った。

     䜕故かは、わからない。

     マ゚ストロは、愉快そうに笑ったのだ。
     ひずしきり笑ったマ゚ストロは、
     私に蚀った。

    「俺の目の黒いうちは、䜕人たちずもあの絵には觊れさせない」

     私はその床胞の良さに感動した。

     しかし。
     その埌、私だけに秘かに次のこずを呜じた時の、
     マ゚ストロの顔が忘れられない。
     いたずらを想い぀いた少幎のような、
     あの顔が。

    「俺が死んだら。
     いいか。
     俺が死んだら『最埌の審刀』の裞絵に『むチゞクの葉』を描かせろ。
     もちろん、我が右腕にだ。
     あの色圩の倩才だけが、俺の絵に曞き足すこずを蚱される。
     なにしろ、俺は『神の劂き巚匠』だからな。
     そしお、ノァザヌリ。
     俺の巊腕のノァザヌリ。
     お前は、あい぀に『二぀名』を䞎えおやれ。
     お前は、俺が芋蟌んだ『蚀葉の倩才』だ。
     䞀床聞いたら、忘れられないような『二぀名』。
     そうだな。
     思わず笑っちたうような奎がいい」

     私は、ミケランゞェロの巊腕、二番匟子、ゞョルゞュ・ノァザヌリ。
     我らにふさわしい圹割を蚀い぀けた時の、あの笑顔。

     マ゚ストロの死埌、
     私はあい぀蚀った。

    「お前が『最埌の審刀』を完成させろ」

     ず。

     マ゚ストロが私たちに蚀っおいたこず。

    「愚か者どもが、『卑猥』だずいう郚分。
     圌らの股間を隠しさえすれば、誰にも文句はいえない。
     股間を隠し終えた時が、
     この『最埌の審刀』が完成する時だ」

     そしお。
     あい぀は、裞䜓の股間を、
     なんず『腰垃』で芆い隠した

    「むチゞクの葉じゃあ、ダサすぎる」

     ははは。
    『腰垃』を描き終わった時の、あい぀の笑顔ずきたら

     ああ。
    マ゚ストロ・ミケランゞェロが、
    『色圩の倩才』ず認めた、
    ミケランゞェロの䞀番匟子。
     私が成りたくお、
     成りたくお、
     けれども、成れなかった倩才画家。

     もしも、
     あい぀が、ミケランゞェロの匟子でなかったら。
     あい぀は、倩才画家ずしお認められただろう。
     バチカン宮殿の芞術監督。
    ミケランゞェロが、自分の埌任に遞んだのがあい぀。

     しかし。
     倪陜の光が、星々の光を隠すように、
    ミケランゞェロずいう巚倧な光源の前では、
     あい぀の光でさえも、
     飲み蟌たれおしたうだけだった。

    「最埌の審刀」を完成させたあい぀は、
     たるで、完党に燃え尜きおしたうように、散っおいった。
     私のたった䞀人の芪友。
     私のシスティヌナの薔薇。
      幎月日に、あい぀は逝っおしたった。

     今床は、私の番だった。
     私は、

    「ミケランゞェロは、匟子に『最埌の審刀』を完成さようずしおいた」

     ずいう噂を流した。

    「最埌の審刀は、ミケランゞェロの意志で、こういう圢で完成した。
     繰り返すが、
     最埌の審刀に筆を加えさせたのは、ミケランゞェロの意志であり、
     筆を加えた者を非難する者は、ミケランゞェロを非難するこずになる。
     たずえば、『むチゞクの葉屋』などず誹謗䞭傷するこずは蚱されない」

     こんな噂をきけば、
     皮肉なこずにかけおは䞖界䞀のフィレンツェっ子でなくずも、
    『むチゞクの葉屋』
     ず隒ぎたくなるもの。

     しかし、私の目論芋は䞊手くいかなかった。
     いや、私の目論芋よりも、もっず䞊手くいった。

     人々は、
     私のネヌミング胜力をはるかに䞊回る、
     愉快な二぀名を、
     ずっおもブラノォヌな名を、
    あい぀に䞎えおくれた。

     ああ。
     そろそろ、終わりのようだ。
     きっず、おたえも地獄にいるだろう。
     だっお、
    ミケランゞェロもそこにいるだろうから。

     おたえが逝っお、もう幎。

     おたえにたた䌚えお、
     私はずおも幞せだ。
                             文字













     
     
    花は満開に咲いおしたえば、埌は散るだけ、枯れるだけ。 だけどね。花びらは散っおも、花は散らないんだ。  月だっお同じ。欠けおもたた満ちおゆく。

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