
ベランダ 第六話
風雨がベランダに吹き込みサッシを濡らす程の、そういう嵐の夜、二人は俊也の部屋にいた。珍しく、二人してソファで半ばぼんやりと、テレビの天候に関するニュースを観ていた。
「なぁ、一回部屋に戻って、サッシ、カギ閉めて、カーテン閉めてきた方が良くないか?」
「言わないでよぉ。気にしてたけど、行きたくないな~、って思ってたのにぃ~」
無理もない。外の風雨は何年に一度の酷さだ。普段外に置いてある、キャンピングチェアやテーブルは、中に仕舞ってある。
「なんなら、オレやってこようか?」
「う~。いや、いい。私ちょっと行ってくる!」
意を決してひとみは立ち上がる。
スタスタ、サッシ際まで歩いて行って、すうっと深呼吸をする。俊也はその後を歩み寄る。
「行くぞ!」の気合で、ひとみはサッシを開け外に出る。
「気をつけろよ。転倒(こけ)んなよ。」
俊也の部屋に雨が吹き込み、ひとみは自分の部屋へ小走りで。サッシを開け、閉める音。勿論俊也も自分の部屋のサッシは閉めてある。
フェイスタオルを何枚かと、バスタオルを一枚用意する。
ベランダ際を軽く拭いているところで、玄関のチャイムが鳴った。
「こっちから入るのって、どれだけぶりだろ?」
俊也から受け取ったバスタオルで頭を拭きながらひとみが言う。
テレビでは相変わらずこの嵐の事をやっている。どこぞの川では夜だというのに氾濫したとかしないとか。大変だ。
二人が住む地域は、幸い洪水ハザードマップの危険地域外ではある。ただ、明日以降、一時的に生鮮食料品の供給が滞ることはあるかもしれない。
別に停電しているわけではない。現にテレビはついているが、部屋の照明は消して、二人してそれぞれ頭から毛布をかぶってソファの上で胡坐をかいていた。
「食べ物のストックとかあるの?」
「二、三日は大丈夫だろ。食べ物より、何かあってないと困るのは水だろうな。」
定石通りの備えは、まぁ、それなりにはしているのだが。
「大地震とかあったらどうなるんだろうね。」
「うん。この建物が無事かどうかで、先ず話が変わるな。無事だったとして、でも、ガスとか水道とか、電気もか。そういうのが停まると考えて・・・。最初に水のこと考えないとな。ある程度、めどがたつようなら、後は寝て過ごす。」
「そんなんでいいの?}
「じたばたしたって仕方ないだろ?」
「そうかなぁ・・・・・?」
「じゃぁさ、戦争か何かがあって、物流が止まる。2,3日は戦火の心配はないにしても、1週間後1か月後は分からない、では?」
「仕事が続けられるのかどうかの心配しなきゃな。地震の時より速く気にしなきゃいけないかも。あとは、寝て過ごす。」
「ええ? またぁ?」
「じゃぁじゃぁ、町中にゾンビがあふれかえったら?」
「この部屋、出来ればマンション全体の要塞化を考えないと」
「どうするの?」
「知らん! わかりませんっ!」
二人して笑いあった。
「じゃ、怪獣が街に現れたら?」