
神人共食|ショートショート|アカリウムお題ガチャ。
何やら面白そうなので、赤髪のあかりさんの「アカリウムお題ガチャ」企画に参加させてもらいました。
初めてのお題は、以下。
お題
ジャンル:怪談
舞台:屋上にある小さな神社
スパイス:味の描写を1回だけ入れる
しょっぱなからこれって、、いじめでしょ、、。ちがう??普通に死ぬんだけどww
結構、難航しましたね、、、本当に書く事がないジャンルなので、、、。というか怪談というか、ただの怪異譚になってそうな気もするけど、、、。というか、3000字超過してしまったし、、。
まあ、出来は保証しかねますが、行きます!
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神人共食(3755字)
ある街のとある食品系企業のビル。
そのビルの屋上には、小さな神社がある。
それは神社、と呼ぶにはあまりにも小さい。
赤い鳥居は人の腰ほどしかなく、その奥にある社も、子供なら中に入れそうなほどの大きさしかなかない。
誰が建てたものなのか、会社の人間で知る者はいない。
ただ、ビルが建つより以前から、この土地には神社があったとか、、。
昼頃、その屋上には、いつも一つの人影がある。
空木 依緒(うつぎ・いお)。
その食品メーカーで、商品の官能評価を、担当している入社三年目の社員である。
空木の業務は、新しい菓子や飲料を試食し、甘味、塩味、酸味、苦味、香り、後味などを評価するというもの。
昼休みになると、空木はきまって屋上へ行った。
空木は別に信心深いわけではなく、ただ、仕事で舌を使いすぎた日は、誰とも話さずに空を見たかっただけである。
ある日、社の前に、小さな皿が置かれており、そこには白い米が盛られていた。いつもは何もないのに、、。
その横に、「神饌」と書かれた札がある。
空木は、不思議そうにしばらく眺めた。
神社に供えられたものを、勝手に食べるのはよくないのだが、なぜか無性にその供物に心惹かれる。
空木は、その日はひどく疲れていた。
その米を食べれば、少しだけ楽になれるような気がした。
「ああ、衛生的にも、、」
空木は内心そう思いつつも、手は勝手に神饌へ伸びていき、供物をつかむ。
あたかも、誰かが自分の身体を操作するかの如く。
結局、空木は一口だけ食べた。
そして、罪悪感からか何からか、おもむろに手を合わせる。
その際、空木は心の中でふと願った。
「もう少し、仕事が楽になればいいのに、、」
その日の午後、空木は上司から呼び出された。
新商品の評価結果についてだった。
依緒は、毎回この時間が苦痛なのだ。
ただ、その時ばかりは、とっさに機転が効いたのか、特に何も考えず、ただ頭の中に浮かぶことをそのまま説明した。
説明が終わった直後、自分のうかつさに「しまった」と思いはしたものの、もう遅い。裁定やいかに。
ところが、上司は満足そうに頷いていた。
「うんうん。今回の評価、かなりいいと思うよ」
もはや、以外という他あるまい。
翌週、空木が担当していた商品は社内審査を通った。
その翌月には、予定されていた仕事がいくつか別の部署へ移った。
願いが叶ったといってよいだろう。
これもあの神社に祀られる神のおかげかと、内心思わないでもない。
それからも空木は、屋上の神社へ行くようになった。
すると、何かを願うたび、社の前に小さな神饌が置かれていた。
米。
塩。
酒。
果物。
空木は、やはり何かに導かれるように、それを少しずつ食べた。
そして、願いは本当によく叶った。
昇進し、嫌な上司が異動し、疎遠になっていた友人から連絡が来、長く付き合っていた恋人との関係も、いつの間にか良くなっていた、、。
ただ、一つだけ、おかしなことが起こった。
ある日、昼食に自分の大好きな行きつけの喫茶店のカレーを食べた際、その異変は起こった。いや、正確には異変に気が付いた、と言うべきか。
何も感じないのである。
辛い、塩味、美味しい、、味覚を表する言葉は頭に浮かぶが、実感が伴わない。
そこには経験だけが残り、内容は空になっている。
翌日、会社で官能評価をしたが、異常はなかった。
数値はいつも通りだ。
甘味4。
酸味2。
苦味1。
後味3。
むしろ評価は、以前より正確ときたものだ。実に不可解、いや不可解。
そのことを同僚に話すに、「最近、依緒、すごいよねー」と言われた。
「え??、、何が?」
「評価だよ。迷いがなくなったっていうかさ」
同僚は、笑って言うのだった。
その晩、何気なく家で昔、恋人と旅行したときの写真をみたが、何も感じない。
まるで、感性が死んだかのようだ。もはや、思い出せない事への何らのわだかまりもない。
恋人の顔を見ても、名前がすぐには出ない、、。
翌朝、何を思ったか、空木は恋人にラインで別れを告げた。
理由は、自分でも分からないが、ただそうすべきといった気がしただけだ。
「もう必要ない」
それから、いろいろなものが必要なくなっていった。
好きだった音楽、昔から読んでいた小説、母親からもらった古い時計、学生時代の友人、自分の誕生日、、、そして、、
「名前」
ある朝、空木は会社で書類に名前を書こうとして、手を止めた。
名前が分からない。いや、もちろん、読めるし書けもする。
「空木 依緒」
見れば、自分の名前だと分かる。
だが、それが自分を指しているという感覚がない。
またその日も、吸い寄せられるかのように、空木は屋上へ向かった。
小さな神社は、以前と変わらずそこにある。そう、何も変わらない。
ただ、社の前に紙が一枚貼られており、そこには、こう書かれていた。
「神饌を食す者、神とつながる」
空木はしばらく、その文字を見つめたのち、下に続く言葉に気づく。
「されど、人には我がある」
さらに、それを下って。
「我あるもの、神の座に入ること能わず」
意味が分からない。
だが、分からないことを、不思議だとも思わず、空木はただ、社の扉を開けた。
中には何もないが、その代わり、暗がりの奥から声がする。
「もう、十分でしょうか」
女性の声である。年のころ、十数といくばくか。
空木は、淡々と尋ねた。
「一体、、、何が、、?」
しばらくの沈黙ののち、幼い声はいう。
「あなたは、もうほとんど空ですからね、、。」
空木は、ふいに自分の胸に手を当て、自分の心臓の鼓動を確かめる。確かに、生きている。
ただ、怖くもなければ悲しくもなく、心には何もない、そんな気がした。
「あなたは、、、あなたはもしやここに祀られている神様?私は、何かを失ったんですか、、?」
「神、、そうですね、あなたたちは私をそう呼びますから、そうなのでしょうね。ええ、私は神です。そして、、あなたが失ったものは、味覚です。」
神は答える。
空木は首を傾げ聞き返す。
「味覚?」
「ええ、私はあなたの願いを聞くたびに、味覚を対価としていただいていたのです。」
「どうして、味覚を、、?」
「さあ、なぜでしょう。、、そうですねえ、物の好悪とでも申しましょうか。深くその理由の深淵を探求した果てに見る光景は、虚無。ええ、そうです。理由などありゃあしませんよ。」
声は、淡々とただ淡々と語る。
「味覚は神聖な感覚です。それは、我々とあなたたちの世界とをつなぐ細い線。そして、境界。」
声が、少し近くなった。
空木は、黙って聞いている。
「あなたは、甘いと思うでしょう。では、なぜ甘いのです?」
「は、、、はい?」
答えられなかった。
「それは、、甘いと感じるあなたがいるからです。」
神は続ける。
「味覚は、様々な記憶とつながっている。そして、それらの記憶が、あなたというものを作っている。」
しばらくして、神はまた続けた。
「だから、味覚をいただけば、少しずつ空になる。味覚は生命と存在の始原。」
空木は、自分の名前を思い出そうとしたが、もう思い出せなかった。
「名前も、、味覚ですか?」
「いいえ、違いますね。」
神は、明らかに満足げに答える。
「名前は、もっと最後のもの。名は世界と自我を隔てる境界。」
空木は、少しだけ眉を動かし尋ねる。
「では、、、あなたの名は、、。」
「ありません。必要ありませんから。」
神は、あまりにも自然に答える。
「私は、世界と存在を一にするもの。境界はありませんから。」
幼い声が、淡々と続ける。
「名は、世界を分かつ境界。私に名はなく、世界と一つ。たまには分かれてみたくなるのですよ、、ふふ、、。」
さらに神は、続ける。
「名があるものには、我がある。水で満たされた器に、それ以上水は注げない、、であれば、、、もうお判りでしょう。」
声が段々と不穏な雰囲気を帯びてくる。
「もう、あなたには我がない。だから、あなたは神の座に入れる。そして、私もあなたを座とできる。あなたと私は味覚を介し通じた。」
暗闇の奥で、神が笑う。
「、、では、私は、、、?」
問いかけたが、神は答えない。
代わりに、空木の身体の奥から、声がする。
「もう、私です。」
空木の声だ。
数週間後、屋上には、一人の男性社員が立っていた。
久世 朔(くぜ・さく)。
先月、入社したばかりの新人だ。
「こんなところに神社があるの、なんか新鮮だな。」
久世は小さな鳥居をくぐり、社に手を合わせた。
その横には、一人の女性が立っている。
「何か、お願い事でも?」
「ああ、いや、、ちょっと珍しいなと思って。」
久世は、笑う。
「ここ、何の神様なんですか?」
女性は、少し考えて、答える。
「んー、五味を司る神様だそうですよ。」
「へえ。名前は?」
女性は、微笑んでやや陽気に答える。
「名前は、ありません。必要ありませんから。」
久世は、不思議そうな顔をした。
社の前の小さな皿には、白い米が盛られている。
女性はそれを手に取り、久世へ差し出す。
「ところで、久世さん、よかったら、召し上がってみます?」
久世は戸惑いを隠せない。
「、、これ、お供え物じゃないんですか?」
「ええ、そうですよ。」
女性は笑って、続ける。
「だ、か、ら、いいんですよ。神人共食。縁起ものです。」
女性の胸元には、社員証が掛かっていたが、そこには、何も書かれていない。
いや、書かれていないと、思われるだけかもしれない。
「空木 依緒。、、さようなら。いえ、、ようこそ、、。」