
心の破片(There is no.../1998)#15
何でそんなこというの?私の心をザクっとさらって
その欠片は遠く遠く飛んでいってしまった。とって
きてよ 元に戻して あなたが悪い いじわるだ。
夜中の3時半、寝静まった頃に響く社宅の鉄扉の閉まる音。
彼が帰って来た。ズズズ・・という靴を脱ぐ音。狭い社宅は
部屋と玄関がこんなにも近い。ガシャーン ガチャ コッ
私の夢の中に容赦なく食い込んでくる怪物みたいな大轟音。
そのたびに心臓がグッとなって起きる。心臓が止まりそう
になる。 それが毎晩続く毎晩続く毎晩続く毎晩続く毎晩
社宅の外壁工事が始まった。ご迷惑かけます~と職人さん。
愛想よく笑う私。朝8時からドリルの音がゴゴゴゴゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴゴゴゴ バリバリバリバリ ゴゴゴゴゴゴゴゴ
バリバリバリバリ ゴゴゴゴゴゴゴゴ バリバリバリバリ
ゴゴゴゴゴゴゴゴ バリバリバリバリ ゴゴゴゴゴゴゴゴ
昨日寝たのは朝方。容赦ない。この世は色々と容赦ない。
その一週間後、私は突発性難聴になった----------
-----------「人間らしい生活がしたい」彼はポツリと言った。
「ちゃんと寝れてちゃんと食べれてちゃんと休みがほしい」彼は当たり前のことをやっと、やっと、つぶやいた。会社を辞めて二人でペンション経営をしようか?と、千葉や伊豆に出掛けた。不動産屋さんと一緒に。
今思い起こすと、とても怖い。後先考えているようで考えてない、ただの現実逃避じゃないかと。でもその時は本気だ、人間って怖い。一通り見て、とりあえず土地だけでも買っておこうかと・・・怖い、怖い、怖い。
私はこれで解決するとは思ってなかったが、何かの転機になるとは期待をしていた。変わらなければならない、私たちは、変らなければ。
そう、私たちは愛憎ごっこをしてきた。もちろん本気の。でも、まだ新婚半年でお互いのことが分かってはいない。決断を下すには早すぎて、恥ずかしすぎる。
その後も私は週2の講師アルバイトを続けながら、彼は18時間帰ってこない生活はそのまま続いた。
その秋、私は突発性難聴になった。----------色々と遅かったのだ。
《人間なんて、寝なければすぐに病む》
心の破片(There is no.../1998)@よめちゃん