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枅流の門①深倜の草むらで老人が排泄物を撒いおいた理由

    【党6話・完結枈み】

    『枅流の門 』あらすじ

    「䞋氎道が死ぬ日、バケツ䞀杯の知恵が文明を救う」
    2070幎代、老朜化したむンフラが悲鳎を䞊げる地方郜垂。氎道局員の真壁は、盎す金も人もない珟実に絶望しおいた。
    そんな圌の前に珟れたのは、深倜の草むらでバケツを振る老人・奥村。圌が実践しおいたのは、家庭の汚れを極限たで薄め、土に還すずいう、システムの「倖偎」で自立する驚くべき実務だった。
    土を育お続けた二人の静かな反撃が始たる。

    第䞀話深倜の草むらで老人が排泄物を撒いおいた理由


    西暊2070幎代、某県某垂。

    氎道局員の真壁たかべは、今日も深倜たで残業に远われおいた。

    デスクのモニタヌに映る、街䞭に匵り巡らされた䞋氎管の蚈画図。圌はもう䜕時間も、その耇雑な線ず栌闘しおいる。
     
    「  どれだけ蚈算しおも、予算が足りない」
     
    高床経枈成長期に埋められた管の倚くは、敷蚭から100幎が経ずうずする今も、ただ地䞋に居座り続けおいる。
     
    囜は倧郜垂の倪い管だけを最新のものに䜜り替える䜜業を終えおいたが、真壁が担圓するような地方郜垂の现い枝管にたで、新しい管を通す予算も人手も回っおはこない。

    寿呜をずうに過ぎた管は、静かに、だが確実に壊れる時を埅っおいる。人口が枛っお予算は削られ、修理が远い぀かないたた、ボロボロの配管だけが増えおいく。
     
    どうにもならない行き止たりの珟実を、真壁は安売りの猶コヌヒヌで無理やり胃の奥ぞ流し蟌んだ。
     
    職堎から垰宅し、23時を過ぎた頃、真壁は倜食を買いにコンビニぞず向かっおいた。
     
    街灯の消えかかった道を歩いおいるず、ふず、街倖れの草むらに動く圱が芋えた。䞍審に思い足を止めるず、䞀人の老人が、ポリバケツを傍らに眮き、ひしゃくで䞁寧に䜕かを撒いおいた。
     
    真壁は䞀瞬躊躇したが、思い切っお声を掛けおみた。

    「  あの、すみたせん。こんな時間に、䜕をしおおられるんですか」

    真壁は努めお穏やかに、敬語で声をかけた。

    老人は跳ね䞊がるように驚き、ひしゃくを取り萜ずしそうになった。街灯の光に照らされたその顔は深く、申し蚳なさそうに歪んでいる。
     
    「あ、いや  これは、その  驚かせおしたっお、本圓にすみたせん」
     
    「䜕を撒いおいるんですか 薬品か䜕かだず困るのですが」
     
    「いえ、そんな、毒になるようなものでは  」
     
    「では、䜕なんですか。氎ですか」
     
    真壁がさらに䞀歩螏み蟌むず、老人は逃げ堎を倱ったように肩をすがめ、消え入りそうな声で癜状した。
     
    「  尿、なんです。私の、尿を  氎で十分に薄めたものです」
     

    「  は」
     
    真壁は耳を疑った。深倜の道端で、自分の排泄物を撒いおいる。関わっおはいけない人間、いわゆる「あぶない老人」に遭遇しおしたったのだ。
     
    「ごめんなさいね。本圓に申し蚳ない  。でも、こうしおたっぷり氎で薄めお、広い草むらに撒けば、土の埮生物がみんな消しおくれるんです。土が、綺麗にしおくれるんです  」
     
    「消しおくれる そんなのは、しかるべき斜蚭で凊理すべきものです。汚いからやめおくださいよ」
     
    真壁の正論に、老人は震える手で空のバケツを握りしめ、地面を芋぀めたたた、ただ小さく呟いた。
     
    「  すみたせん。本圓に、すみたせん  。もう、すぐに垰りたすから  」
     
    老人は、深々ず頭を䞋げた。真壁は呆れ、冷ややかに蚀い攟った。
     
    「もうしないでください。汚いですから。次に芋かけたら、しかるべき堎所に報告させおいただきたすよ」
     
    「  はい、すみたせん  」
     
    老人は、逃げるように空のバケツを持っお闇の䞭ぞ消えおいった。
     
    䜕なんだ、あの爺さんは  
     
    関わっおはいけない人間に遭遇しおしたった。真壁は忌々しげに足早に立ち去ろうず深く息を吞い蟌んだ。
     
    だが、そこで圌は䞍意に眉を寄せた。
     
    錻を突くはずの異臭が䞀切しない。それどころか、そこには倜露に濡れた草の銙りず、すべおを受け入れた土の、どこか枅涌な匂いだけが挂っおいた。
     
    垰り道、真壁の頭から奥村の蚀葉が離れなかった。

    「埮生物が消しおくれる、か」
     
    真壁は、今日圹所で芋぀めおいた䞋氎道の仕組みを思い返した。
     
    䜕兆円ずいう皎金を泚ぎ蟌み、巚倧な斜蚭ぞ汚氎を運ぶ巚倧なシステム。それが今、ボロボロになり、倧雚が降るたびに凊理しきれない氎が川ぞ溢れ出すリスクに怯えおいる。
     
    䞀方で、あの老人が口にしたのは、バケツ䞀杯の氎を土ずいう倩然のろ過装眮に蚗すずいう、驚くほど単玔な方法だった。電気も、巚倧なコンクリヌトも必芁ずしない仕組みだ。
     
    もし、土の力が、あの巚倧な斜蚭を超えおいるずしたら
     
    広倧な草むらぞ分散しお返せば、それは汚れではなく、自然な埪環に戻るだけなんじゃないのか。真壁は自分の手のひらを芋぀めた。
     
    氎道局員ずしお、管を盎すこずだけが正矩だず思い蟌んでいた。そんな圌にずっお、老人の蚀葉は、行き止たりの珟実に突き刺さる鋭いトゲのようだった。
     
    䞉日埌の深倜、真壁はたたあの堎所にいた。
     
    買い物袋を提げ、買い出しの぀いでを装っおはいるが、その目は鋭く闇を凝芖しおいる。あの日以来、職堎のモニタヌで芋る「耐甚幎数を超過した配管図」が、老人の「埮生物が消しおくれる」ずいう蚀葉ず重なっお離れなかったのだ。
     
      もし、あれが本圓なら
     
    䞉十分ほど経った頃だろうか。暗闇の向こうから、カチャリ、ず埮かなプラスチックの音が響いた。
     
    圱が動く。あの老人だ。圌は前回よりもさらに呚囲を気にするように、䜕床も蟺りを芋回しながら、コ゜コ゜ずバケツを草むらの圱に運び蟌んだ。
     
    真壁は意を決しお、闇の䞭から声をかけた。
     
    「  たた、やっおおられるんですね」
     
    老人は飛び䞊がらんばかりに驚き、ひしゃくをバケツの䞭に萜ずした。「あ  」ず声を挏らし、前回以䞊に肩をすくめお固たっおいる。
     
    「あ、ああ、すみたせん。すぐ、すぐに終わりたすから  どうか  」
     
    「  いや、いいんです。怒りに来たわけじゃありたせん」
     
    真壁は䞀歩近づき、自分の足元の土を芋぀めた。
     
    「  本圓に、臭わないんですね。職堎のトむレの方が、よっぜど錻にくるくらいだ」
     
    真壁の独り蚀のような蚀葉に、老人は困ったように目を䌏せた。
     
    「  あの䞭は、空気がありたせんから」
     
    老人は消え入りそうな声で、だが諭すように蚀った。
     
    「閉じ蟌められた菌たちは、うたく働けないんです。でも、お日様の䞋の土なら、みんなが喜んで食べおくれたすから」
     
    真壁は、自分のポケットから職員蚌を取り出し、老人の前に差し出した。
     
    「実は、私はこの街の氎道局員なんです」
     
    老人は目を芋開き、ひしゃくを拟い䞊げようずした手を震わせた。

    「ほ、報告されるんですか  」
     
    「いえ。逆です。  教えおほしいんです」
     
    真壁は、深倜の静寂の䞭で本音を吐き出した。
     
    「私たちの䜜っおいる巚倧なシステムは、もう、ボロボロなんです。盎す金も、人もいない。倧雚が降れば、ただ溢れるのを芋おいるこずしかできない。  でも、あなたはバケツ䞀぀で、その倖偎で答えを出しおいる」
     
    真壁は、老人の前で深く頭を䞋げた。
     
    「汚いなんお蚀っお、すみたせんでした。  その、埮生物が消しおくれるやり方、私に教えおくれたせんか」
     
    老人は、困ったように眉を䞋げお笑った。
     
    「  教えるなんお、そんな倧局なものじゃありたせんよ。ただの、バケツ䞀杯の知恵ですから」
     
    老人は蟺りの闇を芋回し、少し申し蚳なさそうに続けた。
     
    「実は、この先の草むらは私の持ち物の生産緑地でしおね。䞋氎にはできるだけ流したくないず思っお、自分勝手にやっおいるこずなんです。もし本気で知りたいずおっしゃるなら  い぀でも、私の家ぞいらっしゃい。ここからすぐ、あの坂を䞊がったずころにある叀い平屋です」
     
    「  あの、梅の朚があるお宅ですか」
     
    真壁の問いに、老人は意倖そうに目を现めお頷いた。
     
    「おや、ご存知でしたか。ええ、奥村䌝蔵ず申したす。同じ町内に、話の通じる方がいおくださるずは心匷い」
     
    「ありがずうございたす。ぜひ、䌺わせおください」
     
    奥村䌝蔵ず名乗った老人は、空のバケツを提げるず、「では、おやすみなさい」ず小さく䌚釈をしお、闇の䞭ぞ消えおいった。
     

    垰り道、真壁の目には、叀びたアスファルトの隙間から芜吹く雑草が、今たでずは党く違う「垌望」のように芋え始めおいた。


    第二話はこちら
    https://note.com/seiryu_no_mon/n/nb60c522b93be

    #創䜜倧賞2026
    #オヌルカテゎリ郚門

     
     
    【䞋氎むンフラが砎綻する日。土を持぀我々の逆転劇が始たる】 私たちが䟝存しおいる䞋氎システムが動かなくなったら この物語が描くのは、草むらを掻かす、新しい生き方のシミュレヌションです。 バケツを手に、土壌の分解力を味方に぀ける。 土に未来を蚗す者たちの、静かなる反撃の物語。

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