
何もできないと思っていた夜に、指が止まらなかった
正直に言うと、
何もやってこなかったと思っている。
誇れるものもないし、
これといった取り柄もない。
気づけば歳だけを重ねて、
何も積み上げてこなかったことだけが残っていた。
何かやれることはないか、
ずっとどこかで探してはいた。
でも、ちゃんとやる気はなかった。
仕事を終えて帰る道も、
毎日ほとんど変わらない。
同じ時間に帰って、
同じようなものを食べて、
同じように夜になる。
それが当たり前になっていた。
このまま、
何も変わらないまま終わるんだろうなと、
どこかで思っていた。
その夜も、
いつもと同じように静かだった。
ポケットの中で、
通知の光が揺れた。
何気なく開いた画面に、
見慣れた言葉があった。
「AI」
前から知っていた言葉だった。
でも、それが何をできるのかは知らなかった。
自分には関係のない、
知識のある人のためのものだと思っていた。
こんなことができたら面白いな、
と思うことはあった。
でも、それを形にする方法は分からなかった。
だから、何もしていなかった。
本当は、できるかもしれないと思うのが怖かった。
いつもなら、閉じていた。
自分には関係ないと決めて、
そのまま終わっていた。
でも、そのときだけは、
なぜか閉じなかった。
理由は分からない。
ただ、少しだけ触れてみた。
気づけば、思っていたより長く触れていた。
何かができたわけじゃない。
すぐに何かが変わるわけでもない。
それでも、
ずっと動かなかったものが、
ほんの少しだけ動いた気がした。
何も持っていないと思っていた。
何もできないまま終わると思っていた。
でも、
もしかしたら、
そうでもないのかもしれないと、
ほんの少しだけ思った。
答えはまだ出ていない。
何かを成し遂げたわけでもない。
それでも、
あの夜、
閉じなかったことだけは、
確かに自分の中で起きていた。
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