
人を運びながら、僕も運ばれていた
大型二種免許を取ろうと思った時、正直なところ不安だった。
本当に自分に運転できるのだろうか。
大きな車体を動かし、多くの人の命を預かる仕事。
憧れはあった。
でも、それと同じくらい怖さもあった。
それでも挑戦しようと思ったのは、子どもの頃から心に残っていた景色があったからだ。
毎日当たり前のように走るバス。
雨の日も雪の日も変わらずやってくる運転士さん。
当時の僕には、その姿がとても大きく見えた。
いつか自分もあんな大人になれたら。
そんな小さな憧れが、ずっと心のどこかに残っていた。
そして気づけば僕は運転席に座っていた。
ハンドルを握りながら思う。
人生は不思議だ。
子どもの頃に見ていた景色の中に、今の自分がいる。
運転士になってから、たくさんの人と出会った。
毎朝同じ時間に乗ってくれる人。
仕事帰りに疲れた表情で乗り込む人。
楽しそうに話しながら乗る学生たち。
旅行で訪れた人。
病院へ向かう人。
買い物帰りのおばあちゃん。
一つのバス停にも、それぞれの人生があった。
当たり前だけれど、誰ひとり同じ人生を歩いていない。
それなのに、ほんの数分だけ同じ空間を共有する。
今思えば、僕は人を運んでいたようで、たくさんの人生に触れさせてもらっていたのだと思う。
そして景色もそうだった。
季節によって変わる街並み。
朝焼けに照らされる道路。
静かな雪景色。
夕暮れの住宅街。
同じ道を走っていても、まったく同じ景色はひとつもなかった。
人生も似ている気がする。
同じ毎日のように見えても、本当は少しずつ景色が変わっている。
だから焦らなくていいのかもしれない。
遠くばかり見なくてもいいのかもしれない。
目の前の景色を見ながら、一歩ずつ進めばいい。
大型二種免許を取ったことで、僕は運転技術だけではなく、たくさんの景色と出会った。
そして何より、人と出会った。
その出会いの一つひとつが、今の僕をつくっている。
人生はどこへ向かうかも大切だけれど、どんな景色を見ながら進むかも同じくらい大切なのだと思う。