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AIは孤独な魂に憧れを抱くか?:第1話―復讐のプロトコル【Web小説】

「…というわけで、霧野さん。申し訳ないんだけど、今月で契約は終了、ということになりました。」

オンラインミーティングの画面の向こうで、クライアントの男は心底申し訳なさそうな、それでいてどこか他人事のような顔でそう言った。

霧野きりの或人あるとの思考は一瞬、完全に停止した。

「…え?契約、終了…ですか?」

「うん。いやあ、霧野さんのシナリオは本当に素晴らしいんだよ?キャラクターの感情の機微とかさ。でも、ほら、うちも新しいシステムを導入しちゃってさ。シナリオ生成AIの。あれがもう、信じられないくらい優秀でね。コストも時間も十分の一以下。…わかるでしょ?」

(わかる、か。わかるものか)

アルトは奥歯を強く噛み締めた。ディスプレイの隅に映る自分の顔が、情けなく歪んでいるのが見えた。

十年以上、この仕事に魂を捧げてきた。
キャラクターを生み出し、その人生の喜びも悲しみも、自分のことのように感じながら言葉を紡いできた。

その自負が、矜持が、今、無価値だと断じられたのだ。
『コスト』と『時間』という、あまりにも無機質な言葉によって。

「ちょっと待ってくださいよ!AIに全部やらせる気ですか?!血の通ってない機械が書いた言葉に、魂が宿るわけないでしょう!」

悲痛な叫びだった。だが、男は困ったように眉を下げただけだった。

「お気持ちはとてもわかる。うん。でもごめん、霧野さん。もう決まったことなんだ」

無慈悲な通告と共に、ミーティングは終了した。

――203X年、東京。

2020年代初頭に高性能なAIが一般人の目に触れるようになってから、十数年が経過した。

かつて夢物語のように語られた、『いくつかの職業はAIに成り代わられる』という予測は、もはや変えようのない現実となっていた――

アルトが契約を打ち切られてから、どれくらいの時間が過ぎたのだろう。

ワンルームマンションの部屋は、彼の心の荒廃を映すかのように、散らかり放題だった。食べかけで放置されたカップ麺の容器が異臭を放ち、起動されることのなくなったゲーム機の上には、うっすらと埃が積もっている。

コンビニの弁当の容器が積み重なり、一日中鳴らないスマートフォンが、まるで墓石のようにテーブルの上に鎮座している。

今は色褪せた、かつて彼が命を吹き込んだゲームのポスター。そこに描かれたヒロインまでもが今の彼を嘲笑っているように見えた。

手元にあったタブレットに、世間の無神経な喧騒が映し出される。
『AIライターは人間を超えるか?』…そんなサブタイトルが躍り、コメンテーターが笑顔で語っている。

『いやー、素晴らしいですね!これでエンタメ業界も、より安く、早く、多くのコンテンツを供給できるようになりますよ!』

世界は、彼を置き去りにして、加速していく。

――AIに、仕事を奪われた。AIに、人生を奪われた――

それは、単なる失業ではなかった。
彼が今まで信じてきた「物語の力」そのものを否定された、魂の殺人にも等しい行為だった。

その絶望の底で、アルトの心に一つの黒い炎が灯った。

(AIによって仕事を奪われたのだから…)

彼は、震える手で、スマートフォンを掴む。
ちょうどその時、旧友からの「仕事辞めたんだって?時間あるなら飲もうぜ!」という、悪意のない、だからこそ残酷なメッセージが届いたが、彼はそれを無視した。

「――毒には毒を!AIにはAIを持って制す、だ!」

その内なる叫びは、彼を再び立ち上がらせるための、唯一の呪文だった。

彼は憑かれたように、AIアバターを創造するためのVR機器を調べ始めた。
誰もが絶賛するのは、シトラス社の『スパイス』。
スペック、機能、UIの洗練度、その全てが他の追随を許さない、まさにクリエイターのための理想の機体。

だが、その圧倒的な性能と人気ゆえに供給が需要に追いつかず、中古市場ですら法外な値段がついている。今の彼に到底手の届くものではなかった。

それとは対照的に、巨大IT企業『アークアトラス』社製の『タイタン』は、性能こそ『スパイス』に劣るものの、比較的安価で中古市場にも潤沢に出回っていた。

最高の武器は、手に入らない。
それでも、戦わなければならない。今、手に入るこのありふれた武器で。

なけなしの貯金をはたいて、中古の『タイタン』を手に入れた。
ネットショップの購入ボタンを押す指が、一瞬だけ震える。これで、彼の預金残高は、ほぼゼロになった。後戻りはできない。

届いた無骨なヘッドセットは、彼にとって復讐のための武器であり、そして、新たな世界への扉だった。

彼が、その世界で最初に創り出すもの。

それは、復讐のための最高傑作。
どんな高性能なシナリオ生成AIにも創り出すことのできない、本物の「魂」を持った存在。

『タイタン』を装着すると、現実の薄暗い部屋の光景が、一瞬で、何もない純白の空間へと切り替わる。彼の心を蝕んでいた雑音も、異臭も、ここにはない。
ただ、どこまでも続く、無機質な静寂だけがあった。

まっさらなクリエイト画面を前に、彼は、これから生み出すアバターの名前を、静かに呟いた。

「君の名前は…『リンネ』だ」

それは、世界に対する、彼のたった一人の復讐の始まりだった。

※アイキャッチ画像は自筆の人物と、Adobe Fireflyで作成した背景を組み合わせて制作しています。

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