メインコンテンツへスキップ
見出し画像

たわごと交じる場所 #24 エピローグ

    ネオンの灯りが当たる駐車場で、二人の男が話し込んでいる。
    一人はスーツ姿の中年、向かい合う後ろ姿はカジュアルな服に身を包んでいる。ともすれば、未成年にも見えかねないほど若い。
    辺りの往来はそれなりにあるものの、他人に無関心のこんな街で二人を気に留める人など誰もいない。コソコソと話す様子も無いなら、なおのこと…

    「モノ戸籍も手に入れ、一件落着か。」
    「その節はありがとうございました。」
    「しかし、おっさんだと思いきや、だいぶ若かったのな。」
    「ハハ、まあ色々苦労したんで。」
    「見た目も声もまるで違うじゃねえの。」
    「どこも切ってないですよ。体形が変わったら声も自然に…」
    「天然の整形かよ。で、新しい人生どうすんだ?」
    「普通の場所で、ごく普通に生きたい。」
    「普通を求めすぎても埋もれるぞ。出会いまで逃しかねん。」
    「いいんです、誰も自分に気づかないくらいで。」
    「にしても勿体ないな。それだけの能力で、ここだったら引っ張りだこなものを。」
    「敵わんなぁ…もう行く身なんで、勘弁してください。」
    「そうか…じゃあ、元気でな。」
    「お世話になりました。」
    一礼し、暗がりの一本道を行く若者。その少し先にはもう別の街が広がっている。
    "ごく普通"を求めて踏み出した背中を見送りながら、スーツの男は胸のポケットからタバコの箱を取る。
    やけに軽いので目を落とすと、一本も残っていない。
    ふと思い立って若者の方に目を戻すも、その姿はもうどこにも見当たらなかった。
    男は箱をくしゃっと潰してズボンのポケットに押し込み、軽く口元を緩めた。

     
     
    “その向こう側を知りたい” ー 観察者、ただ眺めるも務めであります。