
<ショートショート>ミツバチ(仮)と転生チート
地球ではない惑星のどこか。
オレには生まれたときから、前世の記憶があった。
残念ながら、今のオレは人間じゃない。
ミツバチに似た姿形をしているが、正式名称はわからないので、自分のことは「ミツバチ(仮)」と呼んでいる。
オレには、いわゆる特殊スキルは、備わっていない。
だが、特に問題はない。
「前世の知識」という転生チートで、ミツバチ(仮)界の頂点をめざすんだ。
初めて巣から外に出る日。
オレはふんすと息巻いていた。
前世の社蓄時代に培った「チームプレー」のノウハウを仲間に伝えて、群れのQOLを爆上げ。
異例の速さで、ミツバチ(仮)係長に昇進してやるんだ。
しかし、外に出たオレは、驚くべき光景を目にする。
仲間たちは「花を探す役割」「蜜を集める役割」「集めた蜜を巣に運ぶ役割」・・・など、すでに見事な連携プレーを確立していた。
なんてこった。
オレの転生チートが、「昆虫の本能」に敗北した瞬間だった。
それならば、と気を取り直したオレは、巣の最奥に目を向ける。
巣の最奥には、女王蜂がドーンと鎮座していた。
よし。
前世のラノベから得た知識を駆使して、「王女様」ならぬ女王蜂の婚約者候補として成り上がり、ミツバチ(仮)令息として華麗な昆虫ライフを満喫してやるんだ。
しかし、巣の奥に足を踏み入れたオレは、驚くべき光景を目にする。
女王蜂の周りには、オレの一回りも二回りも大きい、屈強なオスのミツバチ(仮)たちが、大きな羽音を響かせながら、無数にうごめいているのだった。
なんてこった。
オレの転生チートが、「弱肉強食の理(ことわり)」に敗北した瞬間だった。
業を煮やしたオレは、ついに群れを飛び出した。
オレの活躍の場は、きっと、ここにはないんだ。
そうだ、人間のところへ行こう。
もしかしたら、転生チートで、人間の言葉が話せる特殊スキルとかが発動して、ミツバチ(仮)アイドルとして成功できるかもしれない。
アイドルグループ「MTB (ミツバチ)48」を結成するのも、悪くないな・・・
妄想による興奮で、ぶんぶんと羽をはためかせながら、人間の家の窓に近寄った、その時。
突然窓が開き、見覚えのあるスプレー缶が突き出された。
おぉ、オレはこいつを知っているぜ!
前世でよく見かけた、害虫を駆除する「殺虫スプレー」ってやつだ!
ついに、転生チート「前世の知識」が生かされる場面に遭遇し、喜びに打ち震えるオレ。
缶から吹き出した白い煙は、まるでゲームの主人公の登場を演出する、舞台装置のようだ。
・・・
・・・
ポトリ。
その日、名もなき小さな昆虫が、0年5ヶ月の短い生涯を閉じた。
転生チートの喜びを胸に抱えたまま。
【完】
もう書かないかもと言っていたのに、2日連続のショートショートです笑
昨日の勢いのままに、もう1本書いてみました。
異世界転生もののラノベを読みすぎて、変な妄想が膨らみました。
こんな異世界転生はいやだ~!