SDGs×映画×ミステリー 第6話「濁った蛇口の向こうに」
「灯ちゃん、ちょっと見てくれる?」
団地の自治会長をしている三枝さん(70代・元教師)が喫茶店にやってきて、空になったペットボトルを見せた。「これ、水道の水を入れたら、この色になったんだよ」
ペットボトルの中の水は、うっすらと茶色く濁っていた。
「またですか」マスターがため息をつく。
「またって?」灯が聞くと、マスターは昔話のように語り出す。
「この団地の給水設備、もう50年近く経っててね。何年も前から赤錆や鉛の混入が問題になってる。でも、業者が入るとすぐ“再開発”って話になるんだよ。つまり、建て替えってことさ。で、追い出される住民が出る」
「それって、必要な修理なのに、それを理由に立ち退かせようとしてるってこと?」
マスターは頷いた。「そういう話を持ってくる業者は、なぜか市の議員とつながっていたりするんだよ」
その夜、灯はマスターからDVDを渡された映画『ダーク・ウォーターズ』を観る。
企業が水源を汚染し、それを隠ぺいし続けた実話を基にした法廷劇。
巨大な力に立ち向かう弁護士の姿と、マスターの言葉が重なった。

翌日、灯は三枝さんに「水道水の調査を独自にやりませんか?」と提案する。
マスターも賛成し、常連客の理系出身のおじさんに協力してもらって、数か所から採水。結果、鉛の濃度が基準をわずかに超えているという分析が出た。
団地の掲示板に、自治会がその調査結果を張り出すと、市役所が動いた。「安全性は保たれている」としながらも、給水管の一部交換を発表。
しかしその裏で、再開発を推進する議員と地元建設会社が、水道問題を口実に立ち退き交渉を始めているという噂も流れ始める。
灯は考える。
「ただの“水”じゃない。安全な水って、人間の基本的な権利なのに、それが政治やお金に利用されるなんて、おかしいよ」
静江が生前遺したノートの中に、こう書かれていた。
「水道から水が出る、トイレが流れる――それは『文明』じゃなくて『信頼』だ」
信頼を守るために、誰が何をすべきか。
灯は、次に話を聞くべき人の名前を、マスターから聞かされる。
「昔、浄水場の設計をしていた技術者が、今も近くに住んでる」
灯はその人物を訪ねる決意をする。