【60代のひとコマ┃朝LOG】2人がくれた温もりとネスカフェ編。
僕はいま、目の前に解放的なカフェがある公共空間の通路の木製ベンチに腰掛けている。
9月が終わろうとしているこの週末の都心も、相変わらずはっきりしない空が街をすっぽりと包んでいる。
店内とこちら側を仕切る透明で大きなガラス越しに、それぞれの時間を過ごす様々な人たちが見える。
コーヒーを口に運びながら文庫本に目を落とす老紳士。顔を見合わせ互いに笑顔で語り合う仲の良さそうな男女。ラップトップに向かって難しそうな顔をしている企業戦士。
店の常連さんらしいボブカットの若い女性が、黒いエプロンをしたイケメン男性店員さんと談笑している。
大きいカウンターテーブルを挟んだエントランス脇の席に、ターコイズブルーのカーディガンを羽織った女性が赤ちゃんを抱いて座っている。
お母さんの腕の中で、とても薄くて淡い桃色のおくるみに包まれてその赤ちゃんは静かに眠っている。
脇にお姉ちゃんらしき小さな女のコが立っている。
かわいらしい腕を精一杯伸ばして、手に持っているハンカチーフをお母さんの前に差し出して何かを言っている。
赤ちゃんは女のコの妹だろうか、弟だろうか。どちらにせよ生まれたばかりでよほど嬉しいのだろう。女のコはずっと笑顔でお母さんのお手伝いをしている。
*
あの赤ちゃんが大人になって自分の世代の家族を持つ頃、僕はこの地球にまだ存在しているだろうか。
何の前触れもなく、唐突になぜだかそんな自問が頭に湧いてでた。
どうだろうね。
してるかもしれない。してないかもしれない。
どうだろう。
ちょっと微妙なラインかな。
お姉ちゃんの方で比べるんだったら、たぶん大丈夫かな。
うん、たぶん。
少なくても還暦を過ぎるまで、こんな問いは浮かばなかったな。
僕があの赤ちゃんと女のコの歳の頃は昭和だった。
赤ちゃんと女のコは間違いなく令和生まれだろう。
昭和の僕が令和の2人にバトンを渡し、そして僕はいつか去っていく。
普段は西暦でしか年数を追わない僕が、こんな時だけは昭和だとか令和だとかの和暦を持ち出すことに少しばかり苦笑する。
*
いまが自由で前向きで毎日が楽しい。
それは外から感情を動かされ浮かれる楽しさではなく、平穏で余白の多い、揺るぎない自分らしい時間を自分らしく生きられる芯のある楽しさだ。
僕はこのままでいい。
こうやってここまで来たし、こうやってこれからも行く。
店の中で流れている懐かしい音楽がこちらの通路まで漏れている。
「Killing Me Softly with His Song」
ネスカフェだね。
僕は嬉しくなって、しばし昭和の良き情景を思い出しながら、赤ちゃんと女のコを温かい気持ちで見ていた。
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今回の「僕を包んでくれた楽曲」♪
オリジナル(原曲)のシンガーは、Lori Lieberman
と来ればコレも聴きたくなる♪
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