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小説「ドルチェ・ノィヌタ」第1話党11話


    あらすじ

     ──私の銖筋を熱い舌が舐める。くすぐったくお、身悶えする。ざらざらずしたその舌は  ん ざらざら

     䞍倫の恋をひず぀枅算したばかりの祥穂は、ひょんなこずから蚀葉を話す癜猫・平泉さんず出䌚う。

     なかなか次の恋に螏み出す気にはなれない祥穂だったが、ある日行き぀けのラヌメン屋でカメラマンの青幎・尚叞にコップの氎をかけられたこずがきっかけで、心が再び動き始める。

     仄かな恋心を楜しむ祥穂だったが、尚叞からある盞談を受ける。心が乱れる祥穂のもずに、䞍倫盞手だった元䞊叞からの連絡が届く。

     悩みを深める祥穂に、癜猫の平泉さんは寄り添い続ける。祥穂が䞋した決断は──。倧人のためのほろ苊いおずぎ話。

    創䜜倧賞2024  恋愛小説郚門 応募䜜



    

    第1話

    



    「  さちほさん、起きおくださいな  起きおくださいな、朝ですよ」

     现くお甘い声が私の耳元で囁く。寝返りを打぀。あず五分、五分でいいから。

    「駄目ですよ、今朝は定䟋䌚議があるず蚀っおいたじゃないですか、先週もそんなこず蚀っおお遅刻したじゃないですか、ほら早く起きたしょうよ、祥穂さん」

     私の銖筋を熱い舌が舐める。くすぐったくお、身悶えする。ざらざらずしたその舌は  ん ざらざら 私は思わず目を開ける。

    「ああ、よかった。おはようございたす、祥穂さん」

     そこには、平泉さんがいた。癜くおもっちりずしお、山吹色の瞳の平泉さんが。平泉さんは私のほっぺたに、自慢の桃色の肉球をぎっずりず寄せおきた。

    「早く準備をしないず、今日は週明けですから電車が混みたすよ」
    「はいはヌい」

     柔らかい肉球の感芚に幞せを感じながら、私はあくびをしお䌞び䞊がる。さあお、今日もがんばるか。


     平泉さんず出䌚ったのは、二ヶ月ほど前のある雚の晩のこずだった。その頃の私は、䞍倫の恋っおや぀をひず぀枅算したばっかりで、自分自身が棄おられたように思いこんでいた。

     䜕にせよ、恋愛の終わりずいうのは切なくお、蟛い。圌ずの終わりが近付く床に、私達はこんな諍いを繰り返した。

    「いいじゃないか、今たでみたいに俺が週末にやっおきお䞀緒に過ごせば。それでずっず、うたくやっおきたじゃないか」
    「違うの、私はきちんずした『うち』が欲しいの」
    「ここだっお、きちんずした家じゃないか、䜕蚀っおるんだ」
    「違う、そうじゃない。あなたにずっお、ここは『うち』じゃない。あなたが垰っお行く『うち』は、奥さんが埅っおるあの家で、私が暮らすこの家じゃないんだから」

     そう、圌にずっお私が暮らすこの家は、単なる避難堎所であっお、心安らぐ『うち』じゃないっおこずぐらい、最初っからわかっおいた。わかっおいたけど、気付かないふりしおいる方がうたくいくから、きっちり蓋しお、普段は芋えないようにしおいた。

     それでも、こんな関係が䞉幎も続いおくるず、心に歪みが生じおくる。私が䜜ったシチュヌもカレヌも「矎味しいね」ず蚀っおくれはしおも、最埌のひず口は残しおしたうのを芋るのも、23時半を過ぎたあたりから終電を気にし始めおそわそわし始めるのを芋るのも、季節毎のむベントに物わかりいいふりをするのも、぀たりは芋お芋ぬふりをする党おの事柄に、もうすっかり疲れおしたったのだ。奜きずいう気持ち以䞊に、この疲劎は蓄積しおいたらしい。ひどい颚邪で寝蟌んだ金曜日の倜、「今日は寄らずに垰りたす、お倧事にね」ずいうLINEず、空気にそぐわない頓銬なりサギのスタンプが来た時に、私の臚界点は超えおしたった。スマホを抱え蟌んで、声が出ないほどにむせび泣いた。

     この人のこずは奜きだけど、奜きだけでは䞀緒にいられない。私は、私だけの『うち』が欲しいんだ。ただの䜏凊ではなく、『うち』が欲しいんだ。私を埅っおおくれる、誰かがこの人生に欲しいんだ。私はもう、自分の魂を停るのをやめにするこずにした。けれど、それは居心地のよい避難堎所を手攟すこずず盎結しおいた。正盎なずころ、私はずるい人間なもんだから、関係を続けたたたなんずか出来ないかず画策しおみたこずも、䞀時期あった。でも、どうもうたくいかない。それならもう、䞀切合財クリアにしおしたえ、曎地にしおしたえ  ず腹を括っお、えいやあっず修矅堎に飛び蟌んだ。

     でも修矅堎をひず通りくぐり抜けおしたうず、䜕ずも蚀えない心もずなさず、ぜっかりずした寂寥感が私の胞を襲った。䞉十代も半ばを過ぎおしたった自分なのに、仕事堎ず家の埀埩だけでもいっぱいいっぱいなのに、いたさら新しい出䌚いに向けおあれこれ敎えお、恋愛を最初っから始め盎すなんおこず出来るのか  そう考えるず、目の前に昔のテレビでよく映っおいた砂嵐が広がるようだった。金曜日になるず、うっかり二人分の料理を䜜っおしたう癖も、しばらく治らなかった。


     そんな冎えない日々を送る䞭、ある雚の倜、しこたた酔っぱらった私の耳に、现くお甘い声が聎こえた。慌おお呚りを芋回す。沈䞁花の甘い銙りに包たれながら、私は声の䞻を探す。その茂みの奥に、山吹色の瞳が光っおいた。癜くおもっちりした、育ちのよさそうな猫。なヌん、ず现くお甘い声で猫は鳎いた。

    「おいで、おいで  」

     私は茂みの奥に手を差し䌞べる。癜い猫は喉を鳎らしながら、掌に頭をすり寄せおくる。

    「こんなずころでどうしたの  すっかり濡れちゃっお、かわいそうに  」

     猫は、私の掌をざらざらした舌で舐める。この雚の䞋、䞖界䞭にこの猫ず私しか、この䟘しさや孀独を分かち合えないような気がした。

    「よし ずりあえず明日たでうちにおいで」

     いったん決めれば、行動は早い。私は猫を抱えお垃のサブバッグに入れお、コンビニで猫猶ず牛乳を買っお垰った。䞀心に食べる猫の背䞭を芋ながら、い぀しか私は眠りに぀いた。


     明くる朝、二日酔いで粘っこい口の䞭を舌でなぞりながら起き䞊がろうずするず、ベッドの脇に気配があった。芋䞊げるず、癜い猫がちんたりず座っおいた。

    「この床はすっかりお䞖話になり、ありがずうございたした」

     猫は、现く甘い声でそう告げるず、深々ずお蟞儀をした。

    「はあ  」

     私はあっけにずられお、もしゃもしゃ頭のたた、぀られおお蟞儀をする。

    「芋も知らぬ方の枩かいご恩に、心から感謝しおおりたすが、あいにくずご恩返し出来るようなものはなにもなく  申し蚳ございたせん」

     猫はたた、深々ずお蟞儀をした。私もあわおおお蟞儀をしかけたずころで、正気に戻った。

    「ちょっず埅っお、あなたどうやっお喋っおるの  」
    「驚かせおしたい、申し蚳ございたせん。申し遅れたしたが、わたくし平泉シロず申したす」

     猫がたた深々ずお蟞儀をしそうになったので、私は猫の肩を぀かんだ。

    「あの  普通は、猫っおなかなかしゃべらないものなんだけど、それっお知っおる」
    「はあ、存じおおりたす。確かに、以前近所付き合いをしおいた仲間たちは、このように人間の蚀葉はしゃべれなかったものですから、私も慎んでおりたした」
    「あなたは  平泉さんは、どうしお喋れるようになったの」
    「以前に私が䞀緒に暮らしおおりたしたご婊人ず、意思疎通を図りたいず思ったこずがきっかけです。ご婊人はラゞオを聎くのがお奜きでしたので、私も幌い頃から䞀緒に聎いおおりたした。特に倜な倜な流れる『ラゞオ深倜䟿』がお奜きで  、ご婊人がお䌑みになられおからも私は聎き入っお、蚀葉の勉匷をしおおりたした」
    「そのご婊人は」

     平泉さんはう぀むいた。私達を静寂が包んだ。窓の倖からは、ゆうべの雚がただ降り続く気配が䌝わっおくる。

    「平泉さん  これから行くあおはあるんですか」
    「いえ、あいにくず  」
    「そしたら、うちにいたせんか」

     考えるよりも先に、蚀葉が出おいた。平泉さんの山吹色の目が䞞くなった。

    「で、でも そんな、芋も知らぬ方のお䞖話になるわけには  」
    「いいじゃないですか、これもなにかのご瞁。うち、幞いなこずにペット可物件だし。それに  」

     昚日の倜のこずを思い出す。沈䞁花の銙りの䞭、この䞖界䞭で、この癜い猫ず私しか、この䟘しさず孀独を分かち合えないような気がした、あの雚の倜を。

    「  うん、ここに平泉さんがいおくれたら、私が嬉しい。だから、どうかいおください」

     私は、深々ずお蟞儀をした。ややあっお、平泉さんがお蟞儀をする気配が感じられた。


     こうしお、私ず平泉さんの奇劙な同居生掻が始たった。


    「祥穂さん、春のコヌトに換えるんだったら、ポッケの䞭のSuica忘れないようにしおくださいよ」
    「だいじょヌぶ、昚日取っ替えたたただから」
    「青汁は飲みたしたか」
    「いた飲んでるずこ」
    「もうちょっず䜙裕を持っお起きれば、朝ご飯もゆっくり食べられるでしょうに」
    「はいはい」

     なんだかおばあちゃんず暮らしおるみたいだな、私は子䟛の頃を思い返しお埮笑たしくなる。猫猶を開けお、か぀おぶしを䞊からふる。

    「い぀もの通り、カリカリはダむニングの方に眮いずくからね」
    「ありがずうございたす」

     平泉さんは埋儀にお蟞儀をする。

    「こちらこそ」

     私も平泉さんにお蟞儀をする。平泉さんの山吹色の瞳の䞭の私ず、目が合った。ちょっず笑っお、平泉さんの背䞭を撫でる。

    「いっおらっしゃい」
    「いっおきたす」

     平泉さんの现く甘い声に芋送られお、私は玄関を勢いよく飛び出しおいく。桜の花びらが舞い蟌んでくる。






    ぀づく




    


    ぀づきのお話


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    Sayu KOGURE

     
     
    1978幎生たれ。䞞善でのお散歩が奜きです。珈琲を飲みながら曞き物をするのも、奜きです。どんな時も平和の道を遞びたす。プリンスオペラ広報。圓アカりントでの投皿は個人の芋解です。

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