メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo by4696a4bis

星を並べて

    彼女に星をつけるとするなら『星一』だろう。
    人間を星で評価するなんて趣味が悪いなあと思いながら、私は目の前の人物を見つめる。
    見た目はしっかり着飾っていて可愛い、愛想も良い、声が小さめでやや聴き取りにくいところは難点だが、まあまあ許容範囲であるといえる。
    ただ、私にはどうしても我慢できない点があった。
    それは置いておくとして、彼女から見た私はどういう評価なのか、そこが気になり始めていた。

    お互い良くない印象なら早めに切り上げたいのだけれど、出会ってまだ三十分も経過していないのにそれはさすがに失礼というもの。
    適当に話を合わせて時間が経つのを待つ。
    これはなかなかに苦痛だった。
    こんなことをあと何回繰り返すのだろう。
    そう考えていたとき、急に得体の知れない恐怖を感じた。

    寒気がする。いや、気のせいだろう。私はそれを振り払うようにして、グラスに入った水を飲み干す。

    冷たくて美味しい。やや冷たすぎるような気もするが。

    「ここの水、美味しいですね」

    そんなふうに笑う顔を見ていると、余計に恐ろしさに襲われる。

    「おかわりどうぞ」

    そう言って、何故か彼女の水グラスを渡された。他人の水なんて飲みたくない。しかし、この喉の乾きには抗えない。

    一口だけのつもりで水を含む。

    その前に彼女に礼を言うべきなのか?
    変なことに悩んでいると、気管に入ったのか激しくむせてしまう。
    必死でゴホゴホしている自分をどこか間抜けに思う。
    その様に彼女は無反応だった。
    そのことがやけに印象に残っていた。

    結局、あれから数人と面会してみたものの、どの人もさっぱり手応えがなかった。
    星一の人が一番良かったというのも何とも不気味な話であるが、仕方ない。私は彼女にもう一度会おうと連絡を入れた。

    「こんにちは」
    再会した彼女は、とてつもなく眩しく見えた。これが先日会った人への親しみの感情から由来しているかは分からない。
    「ここの水、美味しいのでおすすめですよ」
    私は彼女の中では水好きな人になっているらしい。はあそうですか、と気の抜けた返事をしながら水を飲む。
    確かにスッキリとした爽やかさがあり、とても好みの味だった。これならいくらでも飲めそうだ。
    しかし喫茶店で水だけを飲む客というのもどうなのか。自問自答しつつ、水をおかわりしてしまう。
    そろそろ注文をしなければと考えていると、彼女がメニューを指差してきた。

    「この炭酸水にしませんか?」

    もう水はいいよと言いたかったが、口から出たのは反対の言葉だった。
    一体どういうことなのか。彼女に抗えない呪縛にかかってしまっているのか。
    炭酸水はそれなりに楽しめたものの、なんだか味気ない。この炭酸が舌の邪魔をするのだろう。
    この炭酸水は星一だな、なんてどうでもいいことを考えていた。
    「お水おかわりどうですか?」
    気の利いた店員が水のおかわりを入れてくれる。これで四杯目だというのに、よくもまあ嫌な顔をせずに飲ませてくれる。それが商売というものなのか。
    それにしても飲み過ぎてしまった。
    すこし腹の様子がおかしい。
    彼女には失礼だが、トイレに行かせてもらおう。
    「どうぞごゆっくり」
    そう言われてもゆっくりはしていられない。曖昧な返事をしながら、やや小走りでトイレに駆け込んだ。

    席に戻ると、何故か水の入ったグラスが増えていた。こんなに要らないのだが。
    よくよく見ると、水の底に星型のものが沈んでいる。
    何なのか、これは。
    彼女に聞いてみても、笑顔を浮かべるだけだった。

    あなたへのおすすめ