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電車で赤ちゃんに「うるさい」と言った人を、私は最初、悪者だと思った

    時間は朝。
    通勤時間真っ只中。

    赤ちゃんを抱いたお母さんが座っていた。
    たぶんベトナム人。

    私が乗った時から座っていたから、
    ずいぶん長いこと電車に乗っていたんだろう。
    赤ちゃんもケープに隠されて、
    静かに
    おそらく眠っていた。
    最初は赤ちゃんがいるのもわからなかったくらいだ。

    それから30分ほど経った頃。
    赤ちゃんが泣き出した。
    それはもう、何をしても泣き止まないモード。
    私も最近出産したばかりだから、
    “いやーそれは泣き止まないな”
    “大変だね〜☺️”
    なんて心の中で思っていた。

    電車は上り線。
    先ほどより都心に近づくにつれ、
    人も多くなっていた。

    赤ちゃんが5分ほど泣き続けた頃だろうか、

    「うるさいからしずかにして」

    男の人の声が響いた。

    泣き声以外、
    何も聞こえない空間だったから、
    より一層その声は際立った。

    私も他人事に思えなくて、
    少しムカついた。

    それでも赤ちゃんは泣き止まない。
    まあ、泣き止むわけはない。
    それでも同じ母親としてほっとけない。

    “どうしよう、あやしにいこうか?”
    “でも言葉通じなかったら?”
    “怪しい人だと思われるかも”

    そんなことを考えていながら、
    結局動けないまま、
    1、2分経っただろうか。

    「うるさいからしずかにして」

    またあの男性だ。
    一言一句同じ言葉。

    カチンときた。
    同じ母親として、
    赤ちゃんがまた責められたことに。
    “お前が黙れよ”
    そんなふうに思ってしまった。

    隣に座る夫も同じように思ったようで、
    「赤ちゃんなんだから言っても仕方ないだろ」
    「あなたが降りたら?」
    と、すでに口から出ていた。

    その後男性は何も言わず、
    (時折舌打ちのような音が聞こえたが)
    次に止まった駅で降りた。

    正直少しスカッとした。
    でも、
    小骨が喉に引っかかったようなモヤモヤもあって、
    私は電車に揺られながら、
    さっきの出来事をもう一度、
    思い返していた。


    男性が言った
    「うるさいからしずかにして」

    この言葉は
    『うるせぇ』
    とか
    『だまれ』
    のような暴言ではなかった。

    怒鳴ってもいなかった。

    それから彼の話し方。
    早口でどこか切羽詰まったような話し方。
    あれは聞き覚えがある。

    もしかしたら彼は聴覚が過敏で
    本当に泣き声が
    耐えられないほどのものだったんじゃないだろうか。

    そんなふうに思えてきた。

    彼を悪者にして排除してしまったことに
    罪悪感が湧いてきた。
    彼も彼で困っていたのだ。

    だからといって
    赤ちゃんを責めても、
    どうにもならなかった。

    いや、
    今考えるとそんなに責めてもいなかったか?

    でも、もし彼が困っていたなら、
    私が声をかけられたらよかった。

    “うるさいのが嫌なら車両を移動したら?”

    そんなような言葉をかけられたらよかった。

    赤ちゃんに文句を言う姿が嫌で、
    そこまですぐに見えなかった。

    療育や発達支援に携わる者なのに
    そういった声かけをすぐにできなかった。

    彼にも、
    少し楽になる方法は
    あったのかもしれないのに。

    でもそんな彼を悪者として、
    車両から追い出してしまった形になった。

    それはそれで正しくはなかったんじゃないか、
    と、今はそう思う。

    彼は仕事に向かう途中だったんだろうか。

    ちゃんと職場まで行けているといい。

    私が支援者として関われなくなった先にある、
    “社会との共存”について
    色々と考えさせられた。

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